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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第15話―2 殿

『ミユキ!』


『ミユキ……』


『ミユキちゃん……』


『ミユキ、お前……』


 ミユキ大佐が殿を宣言した瞬間、他の艦隊参謀達から一斉に通信が入った。

 それに対してミユキ大佐は体感時間を圧縮して仮想空間で対面方式のリアルタイム通信を行った。


 この一秒を争うときに非常識ではある……が。


『実時間で、三秒だけッスよ。だ、だーいじょうぶっスよみんな! ほら、ジークの好きなアニメでもあったっスよね? なあに、倒してしまってもかまわんのだろう? って奴っスよ』


 一斉に縋りついてきた姉妹たちに努めて明るく、いつも通りの言葉を投げかける。

 しかし、先ほどまで無慈悲なほどに昂っていた感情制御システムが感じんな時に人間らしい感情を発揮させてしまい、ミユキ大佐の声は微かに震えていた。


 当然、それに気が付かない参謀達ではない。

 一層ミユキ大佐を抱き締める腕に力を込める。

 だが、それでも「殿など止めろ」とは言わなかった。


 誰もが理解していた。

 七惑星連合という魔法使いまでいるような組織が満を持して投入してきた戦力がこけおどしであるはずはない。


 異世界派遣軍の宇宙戦艦に対抗可能な力を持つ存在である事はまず間違いない。


 そんな存在に対し、既存の水雷戦隊や護衛戦隊をぶつけるのは愚策だ。

 ましてや突入直前の重巡洋艦部隊を引き返させるわけにもいかない。

 スイングバイによって得た超高速状態から主力艦隊の場所まで引き返すとなるとその旋回半径は巨大なものになるし、すぐに引き返そうとすれば減速に使用する推進剤は膨大なものとなる。


 そしてよしんばそうして引き返したとして、果たして重巡洋艦部隊はどうなるだろうか?


 敵主力艦隊の砲撃に晒され、速度と推進剤を失った状態で敵の艦載機とハストゥールと戦わせると言うのだろうか。


 そうして、ミユキ大佐と旗艦を守るために地上部隊脱出の時間を稼ぐ貴重な戦力をすり減らしかねない選択を叫ぶことを、艦隊参謀たちは決して口にしなかった。


 彼女たちの心にもまた、危機に際して感情制御システムによる制御が働いていたのだ。

 だからこその無言の抱擁。

 ミラーには言えなかった、別れの儀式。


 だから、ミユキ大佐はせめて自分だけでもと口を開いた。

 

『ダグ姉……いつも心配かけて……あと、ミラーの事取って悪かったっス』


『クラレッタ兄様……大好きっス……けど、正直女装は止めて欲しかったっス』


『ポリーナちゃん……今から苦労掛けるけど、退路の確保頼むっスよ』


『シャルル。部屋の漬物とかよくわからない調味料や発酵食品は軽巡ヨドに積むように言っておいたっス。これからも美味しい料理をみんなに食べさせて欲しいっス』


(シャア)……(みゃお)が嫌がる事あまりするなっス』


『ジーク……これからは乱行は控えるっス……毎週記憶共有する身にもなるっス』


 口を開いてから、反応が返ってこないようにするかのように怒涛の勢いでミユキ大佐はしゃべり続けた。

 艦隊参謀たちは何か言いたげに口を開きかけたが、ミユキ大佐の意図を察してより一層抱き締める腕に力を込めるにとどめた。


(ああ、ミユキ……あなたも……決心がシステムすら凌駕して揺らいでしまいそうなのね……だから、私たちの言葉を……)


 ミユキ大佐の目からは大好きで一番仲の良かった末っ子のように涙がとめどなくあふれ出した。

 ミユキ大佐自身の感情を反映させた仮想空間のアバターには眼球洗浄液の容量は関係ないため、まるで蛇口を捻ったかのようなその涙はさながら漫画の過剰表現のようだった。


『……大丈夫っス。勝つ見込みはあるっス……もし、ダメでも……さびしんぼミラーの所に行くなら、それはそれで……』


 そこまで口にした所で、ミユキ大佐は現実時間で三秒が経過した事に気が付き、強引に通信を切った。


 現実に戻ると、そこには突然動きを止めたミユキ大佐を心配そうに眺める司令部要員と、事情を察しているシャフリヤールがいた。


「……もう、いいんですか?」


 イケメンの宇宙戦艦が優し気に聞いてきた。

 聞いてくれた。


 だから、ミユキ大佐は感謝しながら、強く頷いた。


「贅沢な別れを済ませたっス。さあて、シャフリヤール。本艦からの脱出を急がせるっス! 敵は待ってくれないっスよ!!」


「わかっていますよ。すでに乗員のSLと搬出予定物資の六割を格納庫に移送しています。ですが、正直言って敵艦載機の方が早いですね……外周のピケット艦を足止めに使えませんか?」


「了解したっス。さあ、あんた達か司令部要員も急ぐっス! そうして……」


 別れの言葉が無駄になって気まずくなるっスよ! という自身と周りのアンドロイド達を励ます言葉をミユキ大佐は飲み込んだ。


 特に理由は無かったが、音声にしてしまうと、その淡い期待が完全に消えてしまうようで怖かったのだ。


「艦隊外周警備の護衛戦隊は敵艦載機部隊への遅滞行動を開始するっス!」


 ミユキ大佐はそんな非科学的な希望がどの程度叶うのかの試金石になる行動を部下に命じた。

 同時に、部下の存在が掛ったその命令をそんな私的な願望を抱きながら命令したことを恥じた。


 そして、そんなミユキ大佐の心中とは関係なく、八隻の護衛艦と一隻の軽巡洋艦がアウリンと呼ばれる人型艦載機の先鋒へと向かっていった。

次回更新予定は7月12日の予定です。

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