表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

283/535

第10話―1 火星宇宙軍

地球連邦宇宙軍と火星宇宙軍の戦法の違いを説明しますと……。

まあ分かりやすく言いますと、地球連邦宇宙軍は近づいてドックファイトを艦船で挑む戦法です。


対して火星宇宙軍は有人艦ですからね。

ドックファイトなんかしたらGで乗員が死んじゃうので、戦列を組んで遠距離統制砲撃で近づかれる前に仕留める戦法を取ります。


ええ、これでも分からない?

えーと、えーと……地球は星界で火星は銀英伝って言ったら分かります?

分からない、そうか、まいったな。


――とある軍事ジャーナリストのMYTUBEにおける生放送より

 惑星ワーヒドと月の間の距離は太陽系における地球と月とほぼ同等だ。

 そして、現在042艦隊の主力は月の表側にある基地上空におり、それ以外の艦隊は月の裏側。


 有名なロボットアニメで言う所のサイド3に相当する場所にある空間湾曲ゲート周辺と、ワーヒド星系の軌道上の合計三か所に分散していた。


 今回火星宇宙軍が現れたのは042艦隊主力のワーヒドを挟んだちょうど反対側。

 アニメで言うサイド7に相当する場所だ。


「……アミ中佐、わらわはこれから帝城に向かう。護衛をつけてくれ。中佐は至急、ここの指揮設備を帝城に移動。ここは市街警備の拠点にするのだ。現在行っている市中警備は規模を縮小しドローンによる監視に移行。部隊はここと帝城、帝都郊外の三か所に集中させろ」


「で、殿下。急に何を……」


「いいから早くしろ! 一木の許可がいるならわらわの献策だと言って早く許可を取れ! だが準備は進めろ、時間は無いぞ!」


 グーシュの矢継ぎ早の指示に狼狽えたように硬直したアミ中佐だったが、一括すると慌てて敬礼して部屋を飛び出していった。

 指揮権の無い半部外者とはいえ、オブザーバーの肩書と少なくない交流が利いたらしい。


(……いや、それにしては部外者のわらわの言う事を聞き過ぎでは? 考えたくは無いが、わらわにアイムコがまだ何か仕込んで……いや、今はそれはいい)


 疑問ではあるが、話がスムーズに進むのであるならばそれに越したことは無い。


 グーシュは考え込むのを止めると、寝台で伸びているミルシャを起こした。

 目を覚ましたミルシャは、ヨタヨタとだるそうに身をもたげた。


「で、殿下……おはようございま……うみゅ」


 ここから目覚めるのを待つのもまだるっこしいので、グーシュは死にそうな顔のミルシャに目覚めの口づけをくれてやる。


「………! ………う、うぅぅぅぅぅ……ぷはぁ!!! し、死んじゃいますよ殿下!」


 鼻を摘まみながらの口づけは効果抜群だった。

 酸欠で真っ赤になり顔色の戻ったミルシャは概ねいつもの調子に戻っていた。


「すまないが、話は後だ。服を着ろミルシャ。帝城に移動するぞ」


 そう言うとグーシュは床に散らばっていた服を投げてやった。

 未だに事情が分からずキョトンとしているミルシャだが、それに構わずグーシュも急いで服を着こんだ。


 下着くらいは変えたいところだが、その時間も惜しい。


(ぬかった……シュシュがそんなに甘いはずは無かった……)


 グーシュは頭の中で、今このタイミングで火星宇宙軍がやってきた意味を考える。

 謁見中の奇妙な怒りに支配された状態を脱して思い返せば、あの時のシュシュとその仲間たちの態度は妙だったのだ。


 武力でその場を制していながら、グーシュや皇帝に対して自分たちの存在を誇示し、あり方をやたら丁寧に説明した。

 その上で、地球連邦の実態についてルーリアト側に漏らそうとしていた。


(あの言動から、連中は帝国を反連邦……そこまでいかなくても関係性に楔を打ちたかったのだろう。だが一木達の乱入でそれは叶わなかった)


 だが、それでも七惑星連合の態度は穏便だった。

 表面上は挑発気味だったが、ジーク大佐を細切れに出来る存在がいたにも関わらず、終始対話を志向していた。


(あのサイボーグの女の行動はシュシュ達の反応から見て奴らにとっても想定外だった……つまりあいつらはけんか腰に見えてその実交渉に来ていたのだ)


 その目論見はサイボーグの暴走とグーシュの発砲により頓挫させたのだが、問題は今いる艦隊のやってきたタイミングである。

 向こうの真意が対話にあるとするならば、今いる艦隊の目的は交渉を有利に進めるための圧力、もしくは交渉団を乗せた使節団一行あたりだろう。


 だが、もし仮にシュシュ達が異世界派遣軍の防諜網を突破して七惑星連合中枢と連絡を取る手段があるとすると、途端にあの艦隊の存在が深刻なものとなる。


(つまりあいつらは、地球連邦と交渉するという目的が頓挫して暴力沙汰になったも関わらず現れた事になる。そうなるとあの艦隊は異世界派遣軍に勝てる、と向こう側が判断するだけの戦力を備えているはずだ)


 火星の軍事力に関しては、グーシュは無知だった。

 しかし、いくら何でも何の勝算も無しに千隻以上の艦隊を派遣するとも考え辛かった。


(最悪、艦隊戦と同時にルーリアト統合体とやらが動き出す可能性がある……向こう側が勝ち目も無いのに艦隊を派遣する馬鹿だとか、シュシュと連絡が取れずに交渉が継続できると思いノコノコ予定通りやってきた間抜けの可能性もあるにはあるが、こういう時は最悪の状況に備える方がいい)


 そのために、グーシュとしては帝都の防衛を完璧なものにしなければならないのだ。

 ガズル邸は確かに堅牢だが、帝国の実権を握ったグーシュやガズルが滞在するわけにはいかない。

 そうなるとグーシュ達の警備も考え、司令部機能を帝城に移して戦力の集中を図るべきなのだ。


(そうだ。戦力を集中させねば。あのサイボーグ級の敵が来ることを想定し、なるべくアンドロイド部隊を集結させるのだ)


 そのためにも、市中の警備活動で散らばるのは不味い。


 特務課の精鋭と司令部要員を帝城に。

 帝都にいる歩兵部隊の主力をガズル亭とその周辺に。

 そして歩兵戦闘車等の車両部隊を帝都郊外へ。


 三か所に分散させた部隊をドローンによる偵察情報を基に、発生した異常に火消の様に集中投入する体制を構築できれば、シュシュが何かを起こしても対処可能。それがグーシュの考えだった。


「殿下、服を着ましたが……」


 思考に手を止めていると、おっかなびっくりと言った様子でミルシャが声を掛けてきた。

 見ると、先ほどまでの死にそうにだらけていた姿は何処にもない。


 いつものキリっとした女騎士の姿がそこにあった。


「……いや臭いな」


 匂いを除いては。


「いや、しょうがないじゃないですか! 汗とそれ以外のいろいろなモノ出してたわけで……ていうか、人を急かしたのに殿下こそまだ裸じゃないですか!」


 ミルシャに言われ、グーシュはいそいそと異世界派遣軍の制服に身を包んだ。

 皺だらけで汗くさいが、まずは後だ。


「説明は道中でする。ミルシャは荷物をまとめて表に来い、わらわは司令部の連中を手伝ってくる」


 テキパキと指示を出すと、グーシュは部屋を出て司令部機能の撤去に慌ただしいガズル邸内を指示を出しながら歩いた。


(移動後は一木と協議……お付き騎士と衛兵連中にも連絡して、防衛体制の確認を……)


 そこまで考えて、ふとグーシュは思った。

 ここまで慌ただしく準備しても、十中八九無駄に終わるだろうと。


 異世界派遣軍は強大だ。

 火星の断片的な情報しかグーシュは持たないものの、どう考えても異世界派遣軍に対抗可能な戦力があるとは思えない。


 未知の圧倒的な戦力があれば話は別だろうが、そんなものがあればこんな回りくどいことをせずにエデン星系や地球本国を奇襲するべきなのだ。


(よしんば戦端が開かれても、艦隊戦で決着がつく……はずだ。こんな事は無意味だ……そのはずなのだが……)


「不安が、消えん。くそ、頼むぞノブナガ。厄介な連中など追い返してくれよ」


 胸中に積もる不安。

 どうしても消えないそれに追い立てられたグーシュは、宇宙にいる自分を慕ってくれる重巡洋艦に願いを託した。






 グーシュ起床の三時間前。

 地球連邦標準時0600。


「なんでワシがこんなことしないといかんのだ!!!」


 惑星ワーヒドの月周回軌道をパトロールしながら、重巡洋艦オダ・ノブナガはパトロール開始以来23回目の癇癪を起した。


 重巡洋艦のさして広くないブリッジにはオダ・ノブナガの艦内整備要端末が数体転がっており、それらが美少女ににかわしくない幼児の様な有様で床の上でジタバタと暴れていた。


『おい、ノブナガ。いい加減にしてくれないか? だいたい何度も言っただろうが。現地人への無許可での協力に対する罰がパトロール業務なんて、寛大どころの話じゃない』


 暴れるノブナガに、通信で声が掛けられる。

 三十代辺りと思しき渋い男性の声だ。

 その主は重巡洋艦クリス・カイル。

 重巡洋艦オダ・ノブナガの罰に付き合わされる羽目になった、不幸な強襲戦隊の旗艦だ。


 きっかけはオダ・ノブナガが本来駆逐艦の仕事であるパトロール業務を罰として命じられたことだった。


 そのこと自体はいいのだが、重巡洋艦というのは単独行動には向かない艦種だ。


 運用コストが高く、集団行動が基本の高級艦である重巡洋艦。

 しかも最新鋭の項羽級を一隻でパトロールさせるわけにはいかない。


 かと言って、他の艦種では燃料消費などの観点からオダ・ノブナガの僚艦を勤めるには厳しい(重巡洋艦は船体の剛性も高く、単純な速度に加えて機動性が高いため、駆逐艦や護衛艦、軽巡洋艦では追随が難しい)。


 そこで白羽の矢が立ったのが、クリス・カイルの強襲戦隊だった。

 彼らは項羽級より一世代前の現行主力艦であるボリバル級重巡洋艦で構成された戦隊だが、経験豊富なベテランSAで構成されている上に、我儘な新米であるオダ・ノブナガが懐いているローザ・シャーニナがいる事から選ばれたのだ。


 とはいえ、クリス・カイルとしては不満を抱かざるを得なかった。

 なにせ、これでは自分たち第3強襲戦隊も罰則を受けているのと同様だからだ。


 データリンクしたオダ・ノブナガのブリッジ映像を見ながら、クリス・カイルは僚艦のローザ・シャーニナとクレイグ・ハリソンに通信を繋いだ。

次回更新予定は4月1日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ