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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第9話―1 掌握、そして告白

一木弘和の最大の功績はなんだろうか?


グーシュリャリャポスティをワーヒド星系から連れ出した事だろうか?


いや、違う。

”覇王”を殺した事だ。

彼が生きていれば、歴史は変わっていたはずだ。


――とある政治学者の言葉より

 その場で対処を決めた後のグーシュの動きは素早かった。


 まず最初に半ば切断されかけた怪我の治療もそこそこに、緊急招集された皇族会議に出席。

 サールティ三世亡き後の臨時体制を皇族と帝国の主要官吏達に承認させた。


「……という訳で、慣例及び帝国法四十二条に則り……皇帝及び宰相の死亡により私ガズルが臨時皇帝及び宰相代理として次期皇帝決定までの間帝国統治を行う。異論はないな?」


 ガズルの問いかけに対する反対は無かった。

 ここまでは皇帝と宰相が死んだ場合における規定通りの対応だからだ。

 とはいえ、流石に皇帝と宰相が同時に死亡すると言うのはほぼ想定外の事だった。

 結果、規定通りはいえガズルは皇帝と宰相を兼ねると言う絶大な権限を有することとなった。


 通常であれば(半ば建前とはいえ)宰相が取りまとめた内容を皇帝が決済すると言う統治体系を執るルーリアト帝国においては、完全な独裁権を得たに等しい。


「……異論無し。よし、以後私が帝国を統治する……。では最初の議題だ。最も、決定事項の承認に過ぎないがな。グーシュリャリャポスティの筆頭皇族及び皇太子への認定だ。異論はあるか?」


 これに対しても異論は出なかった。


 これは異様な光景だった。

 ここにいる面々は皇位継承権を持つ皇族たちと主要な官吏や騎士達だ。

 常日頃から権力闘争を繰り広げ、あわよくばと日々力を求める野心家達だ。


 そんな彼らが一様に黙りこくり、ガズルとグーシュが権力を得る様子を傍観していた。


 それは、参加していた彼らが一様に恐れていたからだ。

 これから巻き起こる帝国初の大規模な内戦と、海向こうという強大な未知の勢力との交渉を。


 サールティ三世が死んだと聞き、あまつさえそれがシュシュリャリャヨイティによる暗殺であり、グーシュはそれを阻止できずみすみす逃げられたと聞いた時、彼らの野心は一時燃え上がったのだ。


 姉が大罪を犯したというのはそれだけで糾弾に値する。

 しかもそれを逃したというのだから、誰もが納得する大いなる失態だ。


 イツシズが死に近衛騎士団が壊滅し、ルイガリャリャカスティが死にセミックと共に旅立った今、グーシュまでもが失脚すればそれは権力の巨大な空白を意味した。


 皇位継承権とは名ばかりの飼い殺し皇族からの脱却。


 イツシズとセミックに頭の上がらない末端騎士や小役人からの栄転。


 そんな夢がまじかに迫っていると彼らは感じたのだ。



 しかし、会議の初めにグーシュが涙ながらに語った内容がそれらをすべて吹き飛ばしてしまった。


 曰く。

 シュシュリャリャヨイティはダスティ公爵家と属国会議と共に反帝国組織を立ち上げ、その布告と皇帝暗殺のために訪れていた。


 その上、居合わせた地球連邦の面々にまで危害を負わせ、そして逃走した。


 そう述べた上でグーシュは泣きながら膝を付き、両手首を差し出した。


「皆、すまない……わらわのせいだ。わらわが至らぬせいで……父は、皇帝陛下は死んだ。その上、一木将軍と部下たちまでもが傷つけられた。全て、我が身内のせいだ……皆、すまない……うぅぅ……」


 そうして涙を流し続けるグーシュを見て、その上現場の状況を報告した帝城の衛兵たちの証言を聞いた会議の出席者達の野心は縮こまった。


 これは夢でも好機でもない。

 

 血と汚物に塗れた”汚れた剣(よごれたつるぎ)”だ。


 参加者たちはそう認識した。


 ルーリアトの(ことわざ)に曰く。

 ”汚れた剣は清めなくば騎士の剣に非ず。清めた者騎士に非ず”


 騎士になりたいからと言って汚れた剣を持てば身も名誉も穢れてしまう。清めてからでなければ剣は価値を持たない。しかし、清めた者もまた穢れてしまい騎士にはなれない。


 今の場合、剣とは帝国の権力だった。

 だがその剣は、これからの反帝国組織との内戦とそのとばっちりで被害を受けた強大な海向こうへの謝罪という汚れで穢されてしまったのだ。


 誰かが、清めなければならない。


 その認識を胸中に抱いた出席者達は、泣くグーシュを立たせ、励まし、皆でシュシュリャリャヨイティとダスティ公爵家を糾弾した。


 グーシュは悪くない。

 殿下は悪くございませぬ。


 にっくきシュシュリャリャヨイティ。

 恐ろしいシュシュリャリャヨイティ。

 恥知らずの公爵家。

 恩知らずの属国共。

 

 彼の者を討とう。

 我らも、我々も協力しよう。

 やろう、殺ろう、そうしよう。


 そしてその上で海向こうの国、地球連邦への謝罪を行わなければならない。

 それに関しても協力は惜しまない。

 グーシュは彼らとも親しいから、上手く取りまとめられるはずだ。

 サールティ三世の意思を次ぎ、無念を晴らすためにも頼むぞ、グーシュ。


 励ましの言葉はいつしかグーシュを盛り立てる声に変っていた。

 

 さもグーシュが無念を晴らすのを手伝うかの様な口調で、参加者たちはうまく責任を押し付けたと、思っていた。

 だから、この後のガズルの問いに対して誰も異論を口にしなかった。


 剣をグーシュに清めさせれたと思っていたからだ。

 剣を拾うべき時は、次期皇帝決定の入れ札の時だと思っていたからだ。


 こうして、ガズルとグーシュの想定通り、彼らは帝国を手に入れた。







「民よ、民よ、民よ!!! 我が父を愛してくれた全ての民よ!!! わらわは謝罪しよう。我が姉が皆から愛する皇帝を奪った事を。わらわが姉の凶行を阻止できず、皆の皇帝を死なせてしまった事を!!!」


 こうして実権を手にしたグーシュはその足で皇帝の執務室にガズルと共に向かうと、再び軽巡洋艦マンダレーによる帝都全体への映像投影による演説を行った。


 内容は無論、ガズルによる状況説明と、グーシュによる今後に関する演説だ。


「我が姉は逃走し、ダスティ公爵領に向かったと思われる……無論状況を確認してからになるが、もしも姉の言葉が真実ならば……」


 帝都の人々は先ごろの熱狂とは違い、今回は沈黙と涙で空を見上げていた。


 サールティ三世の治世には様々な意見があるものの、帝国臣民にとって”皇帝”とは心の拠り所であった。

 サールティ三世やルイガといった”個”という概念では計れない、皇帝という巨大な拠り所であった。

 それが無残に殺された事実に、皆が一様に悲しみを抱いていた。グーシュは自身も泣きながら、その悲しみを刺激し、そしてある感情へと移行させ、集約させていった。


「わらわが反逆者を討とう! 皆の愛する皇帝陛下を殺した反逆者シュシュを、わらわが責任を以って討ち果たそう!! 民よ、わらわの愛する民よ! わらわは民の剣である! 我切っ先としてにっくき敵に最初に突き刺さらん! だからどうか民よ、わらわという剣を、どうか……どうか振るって欲しい! さすれば、わらわは民の勝利のために全身全霊を尽くすであろう」


 そこまで一息に叫ぶと、グーシュは一瞬の沈黙の後腕を……痛々しい治療後が残り、血のにじんだ腕を勢いよく振り上げた。


 そして、雄叫びのように叫んだ。


「民に勝利を!」


 次の瞬間、あらかじめ仕込まれた諜報課のサクラが叫ぶ必要もなく帝都全体が熱狂した。



「「「「「「民に勝利を!!!!!!」」」」」」



「「「「「「民に勝利を!!!!!!」」」」」」



「「「「「「民に勝利を!!!!!!」」」」」」



「「「「「「民に勝利を!!!!!!」」」」」」



「「「「「「民に勝利を!!!!!!」」」」」」


 こうして、グーシュは煽りに煽った上で民衆の怒りを手に入れた。

 戦時においてはある種の燃料になるものだ。


 だがもちろん、これで終わりではない。


「さて、一木。これで帝国の仕込みは出来たぞ」


 演説が終了すると、グーシュは執務室でグーシュの演説を見ていた一木に声を掛けた。

 体中がべこべこに凹んだ一木は、見るからにどんよりとした様子でゆっくりとモノアイを回転させた。

次回更新予定は15日の予定です。

次回更新もお楽しみに。

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