第8話―1 証明
「よく、よくぞ無事だった……」
ジーク大佐のコアユニットを受け取ったグーシュは、泣きながら頬ずりしていた。
そんな様子を苦笑しながら眺めていたクラレッタ大佐は、先ほどから彫像の様に身動きしない皇帝と宰相、そして帝弟ガズルの方に頭を下げた。
「突然押し掛けてしまい申し訳ありませんでした。我ら地球連邦軍一同、不穏な様子を察知したためこちらに伺いましたが、よもやいきなり攻撃を受けるとは……。陛下を始めとする帝国のご一同にお怪我がなく幸いであります……」
クラレッタ大佐は少しだけ顔を上げると、青い顔をしているガズルの方に視線を向けた。
彼が気にしている事を察していたからだ。
「帝弟殿下にお貸ししていた使用人も無事ですので、ご安心ください」
瞬間、ガズルの顔色が明るくなった。
短期間の付き合いとは言え、それなりに愛着も沸いていたのだろう。
だが、それに反して険しい表情の宰相は、一息ついた場の空気を逃さなかった。
彼は呆けたように虚空を見つめる皇帝の前に一歩出ると、大きく息を吸い込んだ。
「幸い! 無事!! そんな事は当然であり、そしてどうでもよい!!! あなた方海向こうの国々はなぜこんなにも無礼なのか!」
謁見室を震わせるほどの大音声だった。
一木は思わず圧倒されそうになったが、クラレッタ大佐を始めとするアンドロイド達は涼しい顔だ。
いや、もう一人だけ、表情が変わった人物がいる。
グーシュだ。
彼女は苦々しい表情で、宰相の声を背中で受けていた。
まるで縋るようにジーク大佐のコアユニットをギュッと抱き締める姿には、いつもの威厳が感じられない。
一瞬疑問に感じたものの、まずはその苦々しい表情のグーシュに事情を聴かなければクラレッタ大佐達も答えようがない。
彼女達からすれば、情報が断絶したのでやってきたらいきなり七惑星連合の一味と鉢合わせしたのだ。シュシュリャリャヨイティというおまけ付きで……。
「宰相殿、そして皇帝陛下……。我らの行動に非がありましたら当然謝罪致しますが……何分我々にも詳しい状況が分からないものでして……グーシュリャリャポスティ殿下、どうか我々に何が起こったのかご説明頂きますでしょうか?」
クラレッタ大佐の言葉に、グーシュは露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
すると、宰相もグーシュの方に顔を向けた。
「グーシュ殿下!!! 我々もあなたに確認したいことがございますぞ! 七惑星連合……地球の敵対者について、ご説明頂けますか?」
宰相に問われると、いよいよグーシュの表情は凄まじいものになった……。
※
「と、いうわけだ……」
グーシュが一通り……シュシュが突然サイボーグと一緒に押し掛けてきたこときて、ニュウ神官長とかいう七惑星連合の盟主を名乗る魔法使いが突然現れた事。
そして七惑星連合という組織がダスティ公爵家及び属国会議全会派によって結成されたルーリアト統合体という反帝国組織を含む多惑星による巨大な組織である事。
さらに他の構成勢力の中にはベルフやンヒュギと言ったかつてナンバーズが育成し、そして滅ぼした組織の残党が含まれることなどを話した。
さらにこれら地球向けの説明の最中に、宰相に問われた火人連という組織と七惑星連合に関する説明も行った。
これらの説明の最中、地球連邦側の顔はみるみる青くなっていき、反対に宰相と皇帝の顔はグーシュに対する怒りと困惑でか、赤みを増していった。
(最悪だ……)
シュシュたちを追い返すことに成功したのは大きな成果だったが、今の状況はグーシュにとって最悪と言っていい。
なにせ、皇帝と宰相に地球連邦に関して都合のいい情報しか伝えていなかったことが知られてしまった上に、地球側に対してもルーリアト政策の一時停止を促すような内容だったからだ。
というのもこれまでのグーシュを筆頭皇族にして権限を得て、その上で素早く改革を行う事で世論の支持を得て……という一連の計画は、ルーリアトが他の異世界と同様の極々普通の異世界である事が前提だったのだ。
それがここに来て七惑星連合などという異常で未知の組織の一員だと言う事になれば、事は一木達現地部隊の権限を越えてしまう。
そうなれば、日和見気味の地球連邦本国の官僚たちの介入は避けられない。
となれば、グーシュにはやりたくもないシュシュ相手の和平や話し合いを余儀なくされ、その間にルーリアトの改革は遅れ、当然ルーリアトの地球連邦参加も遠のいていく……。
(その上最悪なのは宰相と父上だ……)
グーシュは無線通信でしきりに何かを相談し合っている一木達から、背後でグーシュを睨みつける宰相と頭を抱えている皇帝の方へ目線を移した。
ガズルもグーシュ側につこうとして何かを小声で皇帝たちに話しかけているが、ほとんど無視されていた。
(宰相はそもそもわらわに疑念を抱いていた……恐らく、わらわと連邦が情報を隠していた事実を最大限に利用するつもりだ……そう、連邦の加入という外交カードを最大価格で売りつける気だ……)
それ自体は、好ましくは無いがまだいい。
だが、父親である皇帝の言うであろう内容が問題だった。
(父上……頼むから現実的な考えを……帝国のことを第一に考えるなら……)
グーシュは必死に祈った。
このような場面で祈るような事は通常彼女は行わないのだが、この時ばかりは祈った。
祈ったの、だが……。
「なあ、グーシュ。シュシュと……いや、シュシュたちと和平を結んではくれないか?」
皇帝はグーシュの考える最悪の考えを口にした。
次回更新予定は27日の予定です。
感想、いいね、ブックマーク等よろしくお願いします。




