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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第7話―3 決別

 ニュウ神官長がジンライ少佐に自身の人格の複製データを送信する直前。

 珍しい人物がニュウ神官長の部屋を訪ねてきた。


 ダダ軍師長。

 カルナーク軍を束ねる軍師集をまとめ、リーダーである代表(ヤー)のククを補佐する立場の男だ。


 優秀な人物ではあるが、ニュウ神官長はあまりこの男の事が好きでは無かった。


 もともとカルナーク軍の軍師達にいい印象が無いことに加え、このダダという男は口うるさいことで有名で、よくククに対して小言を言っているのを知っていたからだ。


 彼自体は確かに他の軍師とは違い、カルナークの面子だけではなく七惑星連合全体の戦略を見据えた行動や考えが出来る逸材ではある。


 だが、どうにも問題が多い人物だった。


 最たるものが態度だ。

 常に半眼の目は周囲の人間を睨みつけるようで、むっつりとした表情と頬のこけた顔は異様な緊張感を周囲に強いる。それでいて周囲にボソボソと正論を呟くのだから、たまったものでは無かった。


 そういった事もあって、ニュウ神官長はこの唐突な訪問者に身構えた。


「ダダ軍師長……お疲れ様でございます……七惑星連合の盟主として……」


 多少慌てつつ、神官長らしい対応をと口を開いたニュウ神官長に対して、しかしこのむっつり顔の軍師長は意外な反応を見せた。


「神官長殿。堅苦しい挨拶は不要です。今日は、個人的な助言をするために来たのです……どうですか、飲物でもご一緒に?」


 そんな、いつもの堅物らしからぬ言葉をコーラの缶を手に言うので、ニュウ神官長は一層困惑した。

 

 というよりも、実のところカルナークやエドゥディアの常識から言っても女性の部屋を男が単身で尋ねると言うのは常識のある行為とは言えない。

 ましてや持参した手土産が艦内の自販機で勝ったコーラ缶というのは常識外れだった。


 つまるところ、この二人は双方ともにどこか抜けていたのだった……。

 とはいえそんな事には互いに気が付かず、話は進んでいく。


「いや、その……ご遠慮しておきます……それよりも、お話というのは? 私、仮想人格の構築と送信で忙しいのですが……」


 ニュウ神官長がやんわりと断ると、驚いた事に軍師長は悲しそうな表情を浮かべ、コーラの缶を懐にしまった。


「実はですね、仮想人格の送信前にお伝えしておきたいことがありまして……」


 そう言うと軍師長は一枚のメモ用紙を渡してきた。

 火人連では電子化とが進んでいるのだが、こういう所で他の勢力は未だに紙とペンから脱却できていなかった。

 字の汚い、雑な英語で殴り書きされたその紙には、ビッシリと何かが書き連ねられている。


「これは……」


「ミッドウェープラン。地球との会戦が不可避になった場合の作戦案です。独自に考案したものですが、艦隊の要所には根回し済みです」


 軍師長の言葉にニュウは驚きを隠せなかった。

 地球との開戦は回避する。


 それが艦隊司令部の(軍師長以外の軍師達には機密だったが)決定であるからだ。

 それにも関わらず、協力者だと考えていた軍師長が開戦後の案を用意している。

 

 その事実に、ニュウ神官長は身構えた。


「あまり身構えないでください。無論、私も早期の開戦には反対です」


「でしたらなぜ……」


 ニュウが問いかけると、ダダ軍師長はいつものようにむっつりとした顔で説明し始めた。


「……会議の場ではあえて言いませんでしたが、どうも騎士長殿やクク様はこちらが開戦を拒めば地球側もそう望む。そう決めつけている節がありました」


 軍師長の言葉に、ニュウ神官長は思わず頬を膨らませた。

 この男は何を言っているのだろうか、という憤りが思わず表情に出てしまった。


 地球側は七惑星連合の存在を知りながらも放置しており、公式見解では存在すら否定している。

 地球側の反応を見るための観測気球的作戦であったギニラス襲撃後の対応でも実証された、純然たる事実だ。


 もっとも、あの作戦では痛すぎる代償を払う羽目になったのだが……。


「決めつけるも何も、そうでは無いですか。地球側は親火星派が多数を占める官僚達の統制に手を焼いていて動きが鈍い。だから、我々が公の場に出て交渉継続をすれば」


「少なくとも交渉を拒否することは無く、そして交渉が続く限りは少なくとも本格的な交戦は回避する……ええ、その通りです。私も異論はありません」


「ならばなぜ、こんな物が必要なのですか!?」


 思わず声を荒げ、ニュウはダダ軍師長に顔を近づけた。

 すると怯えたように軍師長は顔を背けた。

 

「顔が! 近い、ですよ……それに胸元が……乳が揺れて……乳首が、その……」


「……失礼しました」


 軍師長の予想外の反応に面食らいつつ、ニュウ神官長は元の位置に戻った。

 一瞬の気まずさの後、話題を戻す。

 どこか赤い顔のまま、軍師長が説明を続けた。


「あの場で細かいことを言うと、日頃の軍師集の態度もあり余計な気を使わせると思い黙っていましたが、こういうものは必ず用意するべきなのです。物事常に”よりによって”、”最悪”が起きる物なのです」


「……ですが……」


 相手もこちらも開戦を望んでいないのに、争いなど生じる物だろうか?

 ニュウ神官長は納得できないでいた。


「納得できないのでしたら構いません。ですが、カルナークではこう言います。誰も歩かない道でも、そこが通行可能ならば草を刈れ、と。私の信条でもあります」


「むー……」


「いいではないですか。この紙が無駄になれば良し。ですが、どうか……ルーリアトに行く前に、あなたの脳裏にこのことをお伝えしておきたかったのです。そうすれば、仮想人格にもこれが残る」





(ええ、ええ! 軍師長!! あなたの言う通りでしたよ。まさに世の中は”よりによって”、”最悪”が起きるんですねえ!!!)


 呆然としていたニュウ神官長は、軍師長との会話を思い出すと同時にようやく正気に戻った。


 突然のジンライ少佐の突撃の瞬間から、なぜかここに送信する前のダダ軍師長との会話が頭の中でぐるぐると回っていたのだが、まさに今彼の言葉を実感している所だ。


(正直あの時は「この陰気な男何言ってるんだ?」とか思ってましたが……よもや、よもや!!)


 今、ニュウ神官長の目の前には細切れになったアンドロイドと、立ちすくむジンライ少佐。

 その奥には四人のアンドロイドに囲まれた地球連邦の指揮官サイボーグがいる。


 さらに背後にはシュシュリャリャヨイティとグーシュリャリャポスティ、さらにその向こうには謁見中だった皇帝と宰相、帝弟がいる。


 先ほどまではまだよかった。

 唐突に乱入したとはいえ、こちらには第二皇女であるシュシュリャリャヨイティがいたし、彼女に紹介された上で自分自身皇帝と会話が出来ていた。


 地球側の内通者だった帝弟の護衛アンドロイドを先に無力化して、監視用ドローンをハッキングした事に関しては攻撃と取られても仕方がない自称ではあるが、それとて謁見の間で監視を行っていたことを指摘すればそこまで酷いことをしたとも言えないはずだ。


 状況は非常によかった。

 理想を言えばあのままルーリアトに地球連邦の悪行を吹き込んで、その後で地球との接触を持ちたかったところだが、それが失敗したとてなんら問題は無かったはず、だったのだ。


 だが、最悪の偶然が全てを台無しにしてしまった。


(ジンライ少佐の恋人を殺したサイボーグが、よりによってこんな所に……おかげでジンライ少佐が暴走して連邦のアンドロイド……それも参謀型を一体壊してしまった……)


 ニュウ神官長は神に祈りだしたい欲求に駆られた。

 だが、それをするのはここを乗り切ってからだ。


 先ほど思い出したダダ軍師長との記憶の通り、ここでの会談が不首尾に終わった場合のプランも確かにありはする。

 だが、あくまでもあれは最悪の事態に備えたものだ。


 飾り物の盟主とは言え。

 本物のニュウ神官長からコピーされた仮想人格に過ぎないとはいえ、諦めるにはまだ早すぎる。


(騎士長……私に力をください)


 ニュウ神官長は強く願うと、気持ちを切り替えた。

 同時に、ゆっくりと口角を上げ、出来るだけ自然に見えるような笑みを浮かべる。


 今の惨劇ですら、想定内だと受け取ってもらえるように、必死に笑みを作る。


(ダダ軍師長……交渉の際は、余裕。本心を気取られない。狼狽えない……)


 まさかあの陰険軍師長の助言がことごとく役に立つとは。

 感謝していいのか頭を抱えればいいのかも分からず、ニュウ神官長は声が震えていない事を祈りながら口を開いた。


「素晴らしい攻防でしたね……ですが、ジンライ少佐。手出しは無用です、少し下がりなさい」


 狼狽えるようにニュウの顔を見るジンライ少佐に、シュシュリャリャヨイティが駆け寄ったのを見ながら、ニュウは慎重に言葉を選び始めた。


(さあ、ここからだ。ルーリアトに地球や我々の情報を流すのには失敗したけど、まずは地球との交渉を………)


「いきなり斬りかかっておいて随分な態度だなあ、オイコラ!」


「ヒィ……」


 必死に自信を奮い立たせるニュウ神官長の思いに反して、サイボーグの護衛として前衛に立っていた金髪にクルクルとした髪型のアンドロイドが怒声を発した。

 あまりの剣幕に、ニュウ神官長の口から小さな悲鳴が漏れる。


 だが、気取られる訳にはいかない。


「……ヒーヒッヒッヒッヒ……随分な態度ですねえ」


(((なんだあの笑い?)))


 無理やりにでも誤魔化し、決裂を回避しなければならない。

 ニュウ神官長は必死に言葉を紡ぎ続ける。


「あまり無礼な事はしないで頂きたいですね。ああ、あなた方にも名乗っておきましょう。私はニュウ・ヴィクトール神官長。偉大なるハストゥール、暴の覇王ベルフ、統率されし者ンヒュギ、魔法帝国エドゥディア、カルナーク代表者集中共和国軍、火星民主主義人類救世連合、そしてルーリアト統合体。これらからなる、反地球連邦組織七惑星連合が盟主!」


 今の精神状態で噛まず、言い淀まずに口上を述べる事が出来たのは奇跡に近かった。

 

 ニュウ神官長は、横目でシュシュの方をチラリと見た。

 ジンライ少佐の肩を抱きながら、彼女の方も視線からニュウの言いたいことを察してくれる。


「そして、あなた方ならばご存じかしら? ルーリアト帝国第二皇女シュシュリャリャヨイティと申します。今はもう一つ、七惑星連合加盟国が一つ、ルーリアト統合体議長の肩書も持っております」


 ニュウ神官長による七惑星連合の名乗りと、シュシュによる自己紹介の効果は抜群だった。


 クルクル金髪とピンク髪と二刀流と盾を持ったアンドロイドは驚き、その後ろにいる大きな甲冑型サイボーグと顔を見合わせている。


 相手の様子を見て、ようやくニュウ神官長は小さくではあるが安堵の吐息を漏らした。

 どうやら、怒りに任せた交戦という恐れていた事態は回避したようだ。


 後はじっくりと状況を説明し、会話を重ねていく。

 そうすれば……。


「一木! クラレッタ参謀! 気を許すな! そいつは一木を殺そうとして、ジークを殺したサイボーグだ!!」


 すっかり気を抜いた所に、場に殺気と緊張感を取り戻す声が聞こえ、ニュウ神官長は思わずむき出しの怒りを乗せて声の主の方を見てしまった。


 そこには、グーシュリャリャポスティが皇帝とニュウ神官長との間に立ちはだかるように仁王立ちしていた。その表情は、先ほどまでの態度とは違い、怒りの感情に満ちていた。


 シュシュの話からいつも余裕ぶってニコニコしているイメージがあったので、ニュウ神官長は思わず気圧されてしまった。


「七惑星連合の幹部と護衛のサイボーグ……そちらから先に手を出したのだ! 話は戦闘力を奪い、拘束してからだ!」


 グーシュは鬼気迫る勢いで事実を叫ぶ。

 それが堪らなくまずい。

 ニュウ神官長は焦りを感じた。


 余裕を以って、七惑星連合という政治的な組織名を誇示し、それにルーリアトの内情を混ぜ込んで先制攻撃の事実を有耶無耶にしたいのに、グーシュリャリャポスティだけがそれを許さないのだ。


(いや、わざとだ。交渉事や人心掌握に長けると聞いていた……私の拙い考えを読んでいるんだ)


 実際の所、この場でニュウ神官長の有耶無耶にする策がうまくいきかけていたのは、一木が未だに放心状態だった事が大きかった。


 彼はジンライ少佐を認識した直後から前後不覚状態にあり、今現在もクラレッタ大佐達の無線通信による呼びかけにも答えられない状態にあったのだ。


 とはいえ、そんな事はアンドロイド達以外には分からない。


 うまくいきかけていた空気をぶち壊しにされた怒りからか、グーシュに対してシュシュが声を荒げた。


「グーシュ! ふざけた事を言わないでちょうだい!! そもそも先に手を出したと言うなら、それは地球連邦側からよ!」


 ゾクリ。


 シュシュが叫んだ瞬間の、グーシュリャリャポスティの表情を見ていたニュウ神官長は、全身の肌が泡立つのを感じた。


 怒りに満ちた表情も、絶望に満ちた表情も今まで見た事があった。


 それも魔王オルドロの軍勢による、こちらの人類では想像もつかないような状況下の人々の怒りと絶望をだ。


 そんなニュウ神官長をして、今のグーシュリャリャポスティの表情には圧倒された。

 あまりに大きすぎる怒りと、深すぎる絶望が満ちると、人間はああいう顔をするのだ。


 だが、そんなグーシュリャリャポスティの感情はシュシュには伝わらなかったようだ。

 シュシュ自身も怒りに満ちた表情で、なおも叫び続ける。


「兄さまを殺した日、私とジンライ少佐が街を歩いている最中、アンドロイドが私たちを殺そうとしたのよ! 先制攻撃と言うなら……」


「お前が……」


「えっ……」


 その時のグーシュリャリャポスティの声を聞いた人間は、ニュウ達七惑星連合の人間はおろか皇帝や一木達をも驚かせるものだった。


 常に喜怒哀楽の感情を込めて相手の印象を操作していたグーシュリャリャポスティが無感情に声を発したのだから、無理も無かった。


「お前がミラー大佐を殺したのか!」


 叫び声と同時に、グーシュリャリャポスティが拳銃をシュシュに向けた。

次回更新予定は16日の予定です。

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