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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第6話―5 星の海向こうの国

※お知らせ

イラストギャラリーに不健康さんから頂いたファンアートを追加しました。

ぜひご覧ください。

「うぅむ……まさかこれほどまでとはな」


「陛下……わたくしにはもはや想像も出来ませぬ……」


 一通りの説明を終えた後、案の定皇帝と宰相は疲弊しきっていた。

 とはいえ老齢の、しかも科学技術とは無縁の二人がネットワークやSNSの概念までをも(ごく一部を抽象的にではあるが)理解できただけも大したものではあった。


「兄上、宰相殿。無理はなされるな。私も”ねっと”やら”えすえぬえす”に関しては到底理解が及んでおりません。単純に、遥か彼方とやり取りが出来る仕組み、遥か彼方の多くの人間と交流できる仕組みとだけ理解知ればよいのです。具体的な事はグーシュに任せましょう」


 その多少なりともの理解を手助けしたのが同席していたガズルだった。

 彼はグーシュと皇帝たちの間にある知識や感覚のギャップを埋める役割を果たし、今回の謁見をスムーズに進める一助となった。


「してグーシュ。彼らは……地球連邦は、一体何が目的なのだ? そこまで強大な国家が、このようなみすぼらしい場所に何を求める?」


 皇帝の問いに、グーシュは身を引き締めた。

 ここからが本番だ。


「彼らの目的はただ一つ。ルーリアトを地球連邦の傘下に収める事です」


 グーシュの言葉を聞いて、皇帝と宰相は顔を見合わせた。

 しばらく沈黙した後、宰相が口を開く。


「殿下。その傘下というのは具体的にどのような状況下に置くことを指すのでしょうか? 先ほどの他の異世界には駐留軍がいるとおっしゃっていましたが、地球から将軍や官吏が来て、その統治下におかれると、そのような理解でよろしいのでしょうか?」


「いや、確かに駐留軍は置かれるが、その軍はあくまで警備目的の部隊に過ぎない。また、政治を監督する組織として連邦加入条約サポート部会という組織が置かれますが、彼らはあくまで意見する立場にしかありません。各異世界の政体は余程悪質で無い限り維持され、部会の設定した改革目標に沿った政治をする限りは自由に政を行ってよい……事になっています」


 グーシュの言った事は概ね事実ではあるが、実情は違う。

 サポート部会は内務省と国務省と異世界派遣軍が派遣した専用アンドロイドと、大統領直轄の異世界局局長のスタッフがオンラインで参加する組織だ。

 

 彼らは駐留軍とは独立しており、異世界の政権の動きに逐一目を光らせ、隙あらば駐留軍に圧力をかけて異世界の政権に半ば強制となる”意見”を述べるのだ。


(まあ、その辺りは……二人とも察しているな)

 

 グーシュの聞こえのいい言葉の裏事情くらいは、流石に老練な二人は察しているようだ。

 二人とも、分かり切ったことまではグーシュに聞くような野暮はしないようだった。


「……たとえ表向きでの事であっても、それでも随分と軽いな。ましてや、ルニ子爵領でのふるまいを聞くに、地球連邦はわざわざ傘下に置いた場所に対して支援を惜しまぬ。そこまでして彼らに、一体何の得があるのだ?」


 来た。核心にして、一番重要な点だ。

 ここをうまく伝えられるかどうかで、今後が変わる。

 グーシュは小さく、しかし深く息を吸い込んだ。


「彼らは表向きは”自由と平等を広める”とか”星間国家という大いなる人類の希望の創設”などと美辞麗句を並べていますが、実際のところは単純です。安全保障です」


 グーシュの言葉を聞いて、すかさず宰相が口を開いた。


「金と手間をかけて、彼らから見て辺境の蛮族を豊かにすることが、ですかの?」


 グーシュもまた、その問いにはすかさず答えた。

 沈黙には価値がある。

 しかし、今は違う。

 急ぎ過ぎず、それでいて間の無い自然な答えが必要だ。


「そこが我々と彼らの価値観の違い、ですよ。いいですか? 先ほどお二人も言ったではありませんか。地球連邦という国は強大であると。彼らにとって数百隻の艦隊、数万の歯車騎士。辺境を豊かにする技術と物資。そんなものに価値など無いのですよ」


「ならば、何に彼らは価値を見出す!」


 皇帝がひと際大きな問いを発した。

 これが聞きたかった。

 グーシュの表情が喜びに歪む。

 皇帝に父性など不要。この為政者としての凛とした声が、グーシュは好きだった。


 だが、今は喜びに浸る場ではない。

 グーシュは浮かんだ笑みを意味深に見えるように維持して、ジッと問いかけた皇帝の顔を見た。


 今の問いに対する沈黙こそ、価値がある。


 時間にしてほんの数秒。


 だがそのわずかな沈黙は、皇帝と宰相にわずかな自問自答の時をもたらす。


 グーシュが言い淀んでいる、という疑念ではない。

 的外れな事を聞いたのかという自身への疑念。


 この沈黙の意味。


 地球連邦が価値を見出すものの正体。


 それらについて思考する。


 そして皇帝と宰相が仮定に至る直前、グーシュは口を開いた。


「彼らが価値を見出すのはただ一つ。太陽です。この宇宙にある地球ですら概要を掴めない先史文明の遺産。先ほど説明した地球文明の要。ダイソン球ですよ」


 グーシュの言葉に二人は驚いた。

 ダイソン球については先ほどグーシュとガズルが説明したので、二人も知ってはいた(もっとも、太陽から資源を得ている、というぼんやりとした知識に過ぎなかった)。


 だがグーシュは、意図的にダイソン球が異世界にもあると言う事実を説明しなかったのだ。


「グーシュ……少々意地が悪いのではないか?」


「全くですな。最初から言ってくだされば、このような問答自体必要なかった……」


 皇帝と宰相が不満を口にする。

 ひっかけのような事をされたのだから無理もない。

 実際、ダイソン球が各異世界にある事を明確に伝えていれば、地球の意図など容易に想像がつく筈なのだ。


「申し訳ありません。ですが、一木将軍から苦労して聞き出した情報です。少しくらいもったいぶってもいいではないですか」


 ここでグーシュは、この情報が機密であると告げた。さらに、一木とグーシュとの間でのやり取りで聞き出した、”貴重な”情報である事を匂わせる。


 無論、真実ではない。

 

 実際の地球連邦のスタンスでは、これらの情報に関しては「聞かれたら答える」という曖昧な態度に終始している。機密指定などはされていない。


 対応は各駐留軍に一任され、だいたいの異世界ではその政権の改革進行度によって報酬の様に情報が開示されているのが実情だ。


 だがグーシュは、そういった通常の情報開示を行わないことにした。

 

「一木将軍は、そこまで我らに?」


 皇帝の問いにグーシュは力強く頷いた。


「彼は我々に非常に同情的で、地球本国よりはルーリアトに近いのは間違いありません。ですからこれは好機なのです。我々ルーリアト帝国は、他の異世界……我々よりもはるかに進んだ文明よりも、地球の情報を多く知る立場にあるのです」


 グーシュの言葉に、宰相の顔が険しくなった。

 グーシュが今明確に、地球の傘下に入る事を肯定したからだ。


「殿下……やはり殿下は、地球の傘下に入る事に賛成なのですか?」


「宰相、それは……」


 グーシュを咎めるような口調を皇帝が制止するが、宰相はそれを強い意思であえて無視した。


「殿下……彼らに逆らえないのは分かります。彼らとは、あまりに力の差がありすぎる。ですが、それでは我らの誇りはどうなるのです? 始まりのシューの妻が開き、ボスロ帝が統一した偉大なる帝国の栄光は……すんなりと傘下に入るなど、私は反対です!」


(本音半分。議事録に必要だからという演技半分、かな)


 グーシュは宰相の気持ちをそのように解釈した。

 どのみち、この後官吏や貴族から散々出る意見だ。

 ならば、ここでうまくさばけなくては先には進めない。


「すんなりと傘下に? 違うぞ宰相。先ほども言ったが、これは好機なのだ」


 グーシュの力強い言葉に、宰相が訝し気な表情を浮かべた。


「好機……地球から援助を受けると言う……」


「違う。いいか、宰相。地球は民主主義国家だ。国民が力を持つ。いいか、”連邦市民”ならば国家元首の大統領にだってなれるのだ。この意味が分かるか?」


 グーシュの言葉に、皇帝が思わず腰を上げ、宰相が後ずさり、ガズルが笑いを堪えた。

 うまく場の空気を呑んだ事を実感し、グーシュは笑みを浮かべる。


「そうだ。傘下になる事を拒まず、改革を迅速に進める事で、我らルーリアト帝国は早期の地球連邦参加を果たす。そうして、晴れて連邦市民となった我らは、地球の主権者となるのだ。つまり……」


 ここでグーシュは、最大限のドヤ顔を皇帝と宰相に向けた。


「わらわが、大統領になることも」


 可能なのだ。


 そう凄んだ瞬間、この場の主導権を完全に握る自信がグーシュにはあった。

 事実、言っていればそうなったはずだ。


 しかし……。


「ざーんねん、グーシュちゃんは地球連邦大統領にはなれません♪」


 その機会はこの時、訪れなかった。


「……!!!」


 聞き覚えのある声に、グーシュは勢いよく背後を振り返った。

 そして、そこにいた人間の顔を見て驚愕する。


「馬鹿な……そんな……」


 思わず絶句する。

 普段相手に吞まれないように意識して態度をコントロールしているグーシュとしては、致命的な驚きだった。


 そしてそれは皇帝たちも同様だった。

 驚きのあまり、何も出来ないでいる。


 唯一、ガズルだけが冷静に自身の護衛に付けられていたアンドロイド達を呼び出していた。


 だが……。


「ンデイちゃん! マリアちゃん! 非常事態だ、早く……」


 珍しく焦るガズルの声に反応して謁見室の柱の陰から現れたのは、メイド服を着込んだ美女では無かった。

 フードを目深に被った細身の人間だ。

 

「すまないが、お前のアンドロ……いや、歯車騎士だったか? あれは来ないよ」


 男とも女ともつかない声が響く。

 ガズルの口から呻きが漏れた。


「さあさ、無粋な方たちも片付いた所で、お話ししましょう♪」


「何の用だ……シュシュ!!!」


 実の姉であるシュシュリャリャヨイティの名を、憎悪を込めてグーシュは叫んだ。


 そんなグーシュを、シュシュは愛おしそうに見つめ返した。

三日連続更新(二回目は遅れましたが……)いかがでしたでしょうか?


いよいよシュシュリャリャヨイティの本領発揮。

次回もお楽しみに。


次回更新予定は26日の予定です。

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