第5話―2 訪問理由
あけましておめでとうございますm(__)m
本年も本作をよろしくお願いします。
あと、本作のいい感じの略を思いついた方はご一報お願いします。
対地球戦争プラン”バダ・グリ”というのは、七惑星連合という組織の存在理由その物と言ってもいい存在だった。
そう言うとどんな凄まじい物かと思うだろうが、実のところプラン自体は単純なものだ。
まず七惑星連合の保有する宇宙戦力を二つに分ける。
一方は異世界のある外惑星宙域のどこか。
もう一方は火星本国。
そしてまず最初に外惑星宙域で地球連邦軍の駐留艦隊を攻撃する。
この際、攻撃の成否はあまり問題にはならない。
なんなら、敗北しても構わないとされた。
ただ、地球連邦軍側に三つの事実を確信させる事がカギとなる。
一つ、七惑星連合側の戦力は侮れないものであると認識させる事。
一つ、七惑星連合の戦力は外惑星宙域ならばどこにでも進出可能であること。
一つ、この艦隊は陽動である事。
この確信を得る事で、地球連邦軍の戦力は最低でも二か所に分散を余儀なくされると考えられた。
一つはエデン星系。
この星系のダイソン球は地球の唯一のエネルギー源であり、さらにすべての異世界への起点となる場所であり、この星系の喪失は即ち地球連邦という体制そのものの喪失と同義である。
もう一つは当然であるが、地球である。
当たり前ではあるが、地球さえ占領下においてしまえば地球連邦政府は存続することが出来ない。
バダ・グリプラン。
カルナークの伝説的名軍師の名を冠したこの作戦は、この分散状況に地球連邦軍及び異世界派遣軍を追い込んだ上で、火星本国の主力艦隊を用いて一気に地球を制圧、解放するという単純な作戦だった。
さて、プラン自体の概要はこのように単純なものだったが、実のところこのプランには作成時重大な欠点があった。
地球連邦軍及び異世界派遣軍に対抗可能な戦力も、外惑星宙域に自由に進出する技術も手段も存在しなかったのだ。
七惑星連合の原型組織が結成された2110年代以来。
この対地球反抗組織は、この大雑把な作戦を実行可能にするためだけに存在し続けてきた。
「そうして近年になり、我々はようやくこのプランを実行可能な力を手に入れました」
ニュウが語った事はジンライ少佐にも当然だが分かっている。
ニュウが手にしている風の杖と呼ばれる異世界のアーティファクトを動力源にした火星宇宙軍初の大型戦艦”ハストゥール級”。
七惑星連合を構成する異星の友との協力により誕生した、対地球決戦兵器”アウリン”。
同じく異星の友との協力により開発された、空間湾曲ゲート任意開放システム”バイアクヘー”。
そして、地上戦での不利を解消するべく実用化された火星陸軍のサイボーグ部隊と、カルナーク軍残党により組織されたアイアオ人を中核とした対アンドロイド戦闘団。
これらの実用化に伴い、火人連評議会とカルナーク軍軍師集は地球との戦争を決意した。
だからこそ、ジンライ少佐がもともといた火星宇宙軍の艦隊はハストゥール級一番艦ハストゥールを旗艦としてわざわざルーリアト近くの星系に赴いていたのだが……。
「その全ての前提である作戦に勝算が無い、と……おかしくないですか? だって今も言ったじゃないですか。プランを実行可能な力を手に入れましたって……」
ジンライ少佐の不満げな言葉に、ニュウ神官長はすまなそうに俯いた。
「それに関しては……正直火星生まれのジンライ少佐に言うには心苦しい内容も含むのですが、事ここに至ってはきちんとお伝えします……」
そういってペコリと頭を下げるニュウ神官長。
本来なら雲の上のような存在に頭を下げられ、その上気が付くと寄り添ってきていたシュシュがそっと肩を抱くのに気が付いて、ジンライ少佐はどんな事を言われるのか不安になった。
そんな様子を見ていたニュウ神官長は、意を決したように口を開いた。
「順を追って説明しますね。まず最初に私たちがこの作戦に違和感を覚えたのは、作戦実行を火人連評議会とカルナーク軍軍師集があまりに強硬に主張した事です」
「……それは噂で聞いたことがある。たしか、ニュウ神官長達他の連合参加勢力は作戦実行にはまだ慎重だったけど、評議会と軍師集が押し切ったって……」
「それは事実です。というか、実のところ未だに我々は作戦実行を正式には許可していません。あくまで、宇宙軍と地上軍の実権がその両者にあるために押し切られただけなのです」
噂話が真実であり、その上実情はそれ以上だったことにジンライ少佐は驚きを隠せなかった。
「正直話半分と思っていたのに……」
「事実です。まあ、保守的で日和見主義の評議会と選民思想の権化で強硬派の軍師集が意見を一致させて動いたというのは、どうにも胡散臭いですからね。そう受け取られても仕方ありません」
カルナーク軍における軍師集というのは、地球で言えば参謀本部と近衛師団と官僚と政治家の合わさったような組織だ。
そして現在七惑星連合に属する彼らは、カルナーク本来の民族主義的な思想を拗らせて悪化させた、一言で言うとろくでもない連中だった。
他ならぬジンライ少佐も、会うたびに非カルナークはダメだのと言う罵倒や嫌味を言われた事があり、いい印象は皆無だ。
その上彼らは、本来なら従うべき相手である七惑星連合唯一の代表の権利を持つカルナーク勢力のトップ、クク・リュ8956・純カルナークにまで小言や嫌味を言うのだ。
「でもなんでククを苛めるようなクソ軍師野郎とスーパー昼行灯の評議会が結託して作戦を強行しようとしてるの?」
「そこが私たちも気になりまして……私たちに協力的な軍師長さんや火人連の方々と調査したんです。そうしたらですね、黒幕に行きついたんですよ」
「黒幕?」
ジンライ少佐が聞き返すと、なぜかシュシュが少佐の肩といつの間にか手を回していた腰にギュッと力を入れた。少佐はいよいよ不安が強くなった。
「ええ。黒幕と言うか……もっと正確に言うと、七惑星連合の影の支配者ですね」
「もったいぶらずにに、教えてくださいよ……」
「…………コリンズ・ケイン。聞いたことは?」
「? コリンズ……誰だっけ? 評議会……いやコロニーの自治組織だっけ……いや、分からない……」
影の支配者などと言うので誰かと思い身構えていたジンライ少佐は、聞き覚えの無い名前に困惑していた。
だが、続いて飛び出したその人物の役職にはさすがに面食らった。
「彼は地球連邦議会の最大野党連邦民主党の幹部です。分かりますか? 七惑星連合とは、実のところ地球の一政治勢力の下部組織だったんですよ」
ここに来てジンライ少佐は先ほどからのシュシュの行動の意味を知った。
なぜなら、彼女は眩暈を起こして思わず倒れ込みそうになってしまったからだ。
無理も無かった。
幼いころから敵、機械に支配された哀れで愚かな同胞、堕落した者達と教わり、そんな彼らを救う事を目的に生身の体を捨ててきたのが彼女だ。
その前提をひっくり返す事実に、心が無事で済むはずがなかったのだ。
結局、神官長の話は少佐が立ち直るまで五分ほど中断を余儀なくされた。
新年最初の本編投稿です。
みなさま、楽しいお正月をお過ごしでしょうか?
私は一日だけの正月休みを終えました(苦笑)
さて、神官長が語る衝撃の事実。
その続きは6日更新の予定です。
次回もお楽しみに。




