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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第4話―2 魔法の国

魔王オルドロ撃退の功労者。

風の巫女ニュウと風の勇者ルモンの栄誉を称える。


これは墓に非ず。

いつか二人が帰還する際の目印である。


――風の王国、勇者を称える石碑の一文

「確か出会った頃には衰退期にあったんでは? そうハイタが言っていた……」


 一木が言うと、アイムコはわざとらしく指を振った。

 僧侶っぽい見た目には似合わない動作だった。


「正確に言うとね、ファーストコンタクトの際にはエドゥディア星間帝国は絶頂期にあった。飢えも苦痛も無い社会を、魔法と法体系と優秀な官僚達で成し遂げていた。未だかつてあそこまで完璧な社会体制を私は見た事がないね」


「そんなものがあるなら……地球やルーリアトにも導入してくれれば……」


 どこかうっとりとした表情で話すアイムコに対し、グーシュが半眼で指摘した。

 正直言って一木も同じ思いだ。

 そんな巨大国家が理想的な社会システムで稼働していたのなら、その仕組みを地球連邦にも導入してほしかった。今の地球連邦が腐敗してどうしようも無いとまで言うのならなおさらだ。


 だが、そんな一木とグーシュの指摘に対して、アイムコはポカンとした表情を浮かべた。

 その表情の意図が分からず、一木は困惑した。


「なんだその顔は?」


「ああ、すまない。ただ、その言い方は心外だな。私は現在進行形でその理想の社会体制を地球に導入するべく頑張っているのだからね」


「現在進行形?」


 思わず聞き返した一木には、アイムコの言っている事の意味が分からなかった。

 対してグーシュは、流石の察しの良さを見せた。


「そうか……エドゥディアという文明は、完璧な個人による独裁……そうだな、先生?」


 グーシュの言葉に、アイムコはニヤリと笑みを浮かべ、満足そうに頷いた。


「その通りだグーシュ。 エドゥディア星間帝国はその全てをたった一人の天才……いや、神才と言うべきか……それに依存していた。政治、行政、法、国防、技術開発、建築……それら全てを個人が成し遂げていたのだ」


「そんな無茶な……」


 思わず口にした一木だが、今度は気が付いた。

 そうだ。ハイタは言っていた。


 エドゥディアは魔法という特殊な技術体系により成り立っていたと。


「その天才は、魔法使い……それも特別凄い、凄まじい能力の持ち主、という事なのか……?」


「そうだ一木司令、今度は察しがいいね。エドゥディア星間帝国三万年の歴史において初代にして最後、唯一の皇帝。魔導皇帝ファーリュナスさ。彼の力はあまりにも偉大だった。臣民の望みを文字通り全て見聞きし、臣下を意のままに操った。食糧を自ら生み出し、砂漠を森に変え、人を癒し、都市を作り、島を作り、道を作り、空を飛ぶ船を作り、星を渡り、エドゥディアを星間国家へと導いた。もはやその力は下手な創作物では収まらない程のものだ。あんまりにもチート過ぎて、私の説話にも彼をモデルにしたキャラクターは出せなかった程だよ」


 一木は思わずグーシュと顔を見合わせた。

 またアイムコが冗談を言っているのかと思ったのだが、懐かしそうに笑みを浮かべるアイムコを見たグーシュは顔を横に振った。


 つまり、あの様子は本当の事を言っているというのだ。


「……あれ、けれどもそれだとハイタの言っていた事と違うのでは……。ハイタは確か……エドゥディアは少数の、賢者や導師と呼ばれる者達だけが技術を扱う権利と才覚を有していて、それらは社会に行き届いていなかった。それらは国家と権力者だけのために使われていたって。そのファーリュナスとかいう皇帝の様子とは随分違うようだけど?」


「そりゃあ簡単さ。ファーリュナスの治世が終わった後の帝国が、まさにハイタが言った通りの国だったのさ。その国家の良きところの全てを個人に依存していた大帝国は、ファーリュナスが死ぬとあっという間に衰退していった。そりゃあそうだ。いきなり食料は有限になり、壊れた環境は治らず、医療は停滞し、何も作れず、他の星には行けない……そうなっては巨大な国だろうとお終いだよ」 


「いくら独裁とは言え、個人が死んだだけでそこまで……しかしそんな存在が死ぬのか?」


 グーシュの問いにアイムコは答えなかった。

 捉えどころのない笑みを浮かべたまま、黙り込んでいる。


「いや、何の沈黙だ……」


 グーシュが突っ込むと、アイムコは軽く首を振った。


「いや失敬。私自身は会った事は無いが……死んだという事は、死ぬんだろうね。正直言って、私にも詳細は分からないのだ。ハイタやスルトーマ。あとシユウなら何か知っているかもしれないが……残念ながら彼と会って交渉していたのはその三人だけなのだ」


「「…………」」


 一木とグーシュは再び顔を見合わせた。

 アイムコは本気で言っているのだろうか?

 話を聞く限り、その三人の印象はあまりよくない。

 果たしてファーリュナスなる偉大な皇帝はどうなったのだろうか。


(……正直興味が無いわけでは無いが……)


(ここは黙っておこう……)


 一木とグーシュは小声でそう話すと、思い出に浸るアイムコに向き直った。

 なるほど、エドゥディアという国が凄い国だという事は分かった。

 だが、過去の話だ。

 問題は……。


「アイムコさん……思い出に浸っている所申し訳ないんだが、それは過去の話だろう? 偉大な指導者が死んで崩壊した魔法の国に、どうしてスルトーマ達はそこまで期待をかけるんだ?」


「ああ、失敬失敬……長く生きるとね、こういう風に他者に話す過程でしか過去を思い出せないのさ。有機生命体も同じかは分からんがね」


「先生……」


 グーシュが半眼で睨むと、アイムコはコホンと咳ばらいをした。


「また脱線するところだったな。まあね、はっきり言ってしまうと、エドゥディアにはまだ残っているのだよ。ファーリュナスの統治の源であり、帝国建国以前に存在した古代文明から継承した遺産がね」


 アイムコの言葉にグーシュが目に見えて生き生きした表情を浮かべた。

 この男は、どうやらグーシュの機嫌を自由自在に操る事が出来るらしい。


「それが七つの神器だ」


「七つの……」


「神器……!!」


 グーシュの鼻息が荒い。

 一木はと言えば、わくわくする気持ちが無いと言えば噓になる。

 トラックに轢かれるという異世界転生物のテンプレのような事態の後波乱万丈な生活を送ってきたが、とうとうファンタジーその物の単語が飛び出してきたのだ。


 自分が矢面に立ってそれと対峙するのでなければ。

 チート能力を自分が持っていれば。

 さぞかし楽しい気持ちで聞けただろう。


「神器とはエドゥディアの古代文明時代の宝玉が埋め込まれた武具の事だ。地の盾、水の剣、火の槍、風の杖、光の鎧、闇の仮面、無の書……だったはず……。これら七つはファーリュナスが死んだあと母星のエドゥディアにある七王国がそれぞれ管理していて、今も健在だ」


 一つ武具じゃないのが混じっているとか、気になるところはあるが……また脱線されても困るので一木は話を進める事にした。


「……それで、その最近のネット小説でも出てこないような大層な武具に、どんな力があるんですか?」


 アイムコはなんでもないようにその問いに答えた。


「埋め込まれている宝玉っていうのが、縮退炉なんだよ」


 一木の無いはずの胃が激しく痛みだした。

 あまりの衝撃に、言葉も出ない。


「それは確か……ダイソン球に匹敵するエネルギーを生み出す、ナンバーズの動力にもなっているエネルギー源だな!? それが七つ……」


 うつむく一木をよそに、グーシュが興奮しながら叫んだ。


 そう、つまりはそう言う事だ。

 スルトーマというナンバーズは、いつまでもグダグダしている地球人に見切りをつけ、衰退したとは言え七つの宿退路を持つ強大な魔法文明に自らの未来を託そう、そう考えたのだ。


「スルトーマ達はあれこれ理由をつけて、地球育成計画の始動後もエドゥディア復興を推進し続けていた。それも、表向きはオルドロによる外からの文明刺激策だけだが、実際には直接的に手助けしていたんだろうな。何十年か前、オルドロがとうとうエドゥディア七王国が派遣した勇者にやられかけた時があったんだけど、考えてみればあの頃から動きが怪しかった。思えば、あれが主替え計画のきっかけになったんだろうねえ……」


「それで、俺たちはナンバーズに匹敵する勢力と戦わなければならないと、そういう事ですか?」


 ようやくショックから立ち直り、一木は声を発した。

 グーシュの様な喜びは無い。

 深い絶望感が一木の心を満たしていた。


「まあまあ、そんなに暗くなるなよ一木君」


「なんでそんなに呑気なんだ! 地球が滅びるかもしれないっていうのに……いくらグーシュが逸材だろうが、そんな相手に……戦えるのか……?」


 いたたまれず、一木は俯いた。

 ここまでしてきた苦労が全部無駄になったような気持だった。

 シキとの日々も、別れの苦しみも、マナやみんなとの出会いも、友人達と過ごした日々も。

 そんなものはすべて、超越者たちからしてみれば余興に過ぎない。

 そう言われたような気持だった。


 そんな一木の肩に、音もなく近づいてきたアイムコが軽く手を置いた。


「予想通りのリアクションだねえ、一木司令。大丈夫だよ。私とサーレハが何のために裏でコソコソしていたと思っているんだい?」


「え?」


 あっけに取られてモノアイを向けた一木に、アイムコは胡散臭い笑みを向けた。


「ここからが本題だ。サーレハにも許可は取ってある。さあ、明かそうじゃないか。対エドゥディア勝利プラン。その全容を」


 胡散臭い笑みが、なぜだかこの時の一木には頼りがいのある笑顔に見えた。


 その全ては蜃気楼以下のまやかしだったのだが、この時の一木はファンタジー話に浮かれたグーシュと一緒に乗ってしまったのだ。

 それが、ルーリアトと第042艦隊に何をもたらすのかも知らずに。

長いアイムコとの対談編、終了でございます。

もう少しテンポよく書けばよかったと、反省しております。

申し訳ございませんでした。


さて。

次回は少々別視点での話となり、その後は皇帝との謁見となります。


そろそろ物語が動き始めます。

章題通りの展開をお見せできると思いますので、よろしくお願いします。


次回更新予定は29日の予定です。

寒い日が続きますが、皆さん風邪などひかれませんようにお気を付けください。

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