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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第3話―8 師匠

「と、いう訳だ」


 自慢げな顔でアイムコは締めくくった。

 ……とはいえ、どう考えても締めくくるような場面では無かったが。


 一木がモノアイをグーシュの方に向けると、やはり不満げな表情を浮かべていた。


「いやいや。という訳だ、じゃあないだろう。そこから先をわらわは聞きたいのだが?」


 グーシュの言葉に、アイムコは肩をすくめた。

 僧侶姿にはあまりにも似合わない仕草だった。


「ここから先と言ってもな。私とシユウが延々と幼女を虐待する話などした所で面白い訳で無し……。まあ、そうだね。もう少し話しておこうか。君の元の人格には社会性だとかそういった観念が無く、我欲が全ての人格だった。だから我々は徹底的に我欲の否定と、形式や決まりの順守を強いた。そりゃあもう口も手も足も脳神経への介入もありとあらゆる事をやった」


 そこまで言うと、アイムコはゆっくりと人差し指をグーシュに突き付けた。


「そうして、出来たのが君だ。グーシュでは無い。グーシュリャリャポスティ。皇族としての義務や人間関係をこなしながら、それによって自らの我欲を満たすという元の人格が出来なかった理想を行える、そういう器用な存在だ。普通なら単に嫌な事を肩代わりするだけの人格を構築するんだけどね……そこはそれ、シユウは器用だったよ。見事君という理想的な人格を作り上げてくれた」


 それを聞いたグーシュは、むっつりとした不機嫌な表情のままアイムコの指を払いのけた。


「わざわざ呼び出した割にはオッサンが幼女を虐待した話とはな……人気説話作家の名が廃る……いや、それも盗作だったか……ああ、クソ! あんたの事を多少なりとも尊敬していたわらわがアホみたいじゃないか!!!」


 グーシュは頭を掻きむしりながら叫んだ。

 怒りのままに足を勢いよく伸ばすと、床に散らばったゴミや書物が埃を立てながら崩れた。


「内容としてはくだらないがね。今日の話は君にとって重要なものだよ。私から君に送る事が出来る最後の講義でもある……」


「講義?」


「ああ。先ほど、私は君という人格が生まれたと言った。君の事を理想の人格だとも言った。それは真実だ。だが、その一方でそれはあくまで私やシユウの感覚での生誕であり理想に過ぎない。シユウによって人工的に構築された多重人格の君は、本来人間が自己で作り上げる人格とは異なり、一個の人間としては非常に薄い、ある種の機械のような存在だった」


「そんな馬鹿な!」


 アイムコの言葉にグーシュは黙り込んだが、一木の方は思わず声を上げた。

 一木の知るグーシュは、断じて機械ではない。

 笑い、泣き、怒り。

 人やアンドロイドの事を愛することの出来る、きちんとした人間だ。


 だが、一木の叫びを聞いてもアイムコの様子は揺るがない。


「一木司令、君はグーシュを大事に思ってくれているんだね。だがね、真実だよ。いや、真実だったというべきか。確かに出来たばかりのグーシュは機械のような存在だった。しかし、君には人間らしさを伝えてくれるかけがえのない存在がいたんだ。その存在は、つい先ごろまで無意識化に君に影響を与え、そして君もそれに影響を与えていた……分かるかい?」


 一木はもう、声を発する事が出来なかった。

 グーシュも同様だ。


 グーシュという少女は、元来は社会性の無い獣の様な我欲のみの少女だった。


 その少女に虐待じみた精神的肉体的圧力をかける事で、アイムコ達は表面的に社会性を保ちながら、自身の欲を満たすことの出来る人格を作った。

 

 だが、それで終わりでは無かったのだ。

 一つの肉体の中に生まれた二つの人格。

 獣の少女と装うだけの少女は、生まれてからの十数年間ずっと影響を与え合って来たのだ。


 獣の少女は装うだけの少女から社会性や理性を。

 装うだけの少女は獣の少女から我欲や人としての本質を。


 そうしながら、影響を受けて変質した互いが、再び互いに影響を与え、そうして成長してきた。

 それがグーシュリャリャポスティという少女なのだ。


 だが、その一方をグーシュは殺してしまった。


「シユウは元の人格を消した方が安定すると言っていたが、私の考えは違っていた。シユウはルーリアト帝国の歴史に残る程度の名君が作れればいいと思っていた。だが、私は違った。私が求めていたのは、地球連邦という巨大な星間国家を導く事の出来る人類史上最大の英雄だった。そのためには、人としての本質を兼ね備えた存在でなければならなかった……だから、あえて元の人格を内面に残したまま君を育成してきたのだ」


 一木と同様にアイムコの言葉の意図を悟ったグーシュは何も言う事が出来ない。

 自分のしたことの意味を、自分が殺した相手が何だったのかを悟ったグーシュは、何も言い返すことが出来なかった。


「結果は大成功だった。君は多少近視眼的な所はあるが、十分な社会性と集団としての人間を深く理解する優れた精神性を身に着ける事が出来た。人類を導くために必要な、強烈な我欲である”遠くへ行く”という強い自己目的の構築にも成功した。そして……これから先に進むためには不要だった、個人としての存在性の塊だった元の人格の処分にも成功した」


「あいつを殺したのはわらわの意思だ」


 グーシュがアイムコに対し反論するが、アイムコは小さく首を振った。


「君と彼女を対面させればああいう結果になる事はずっと前から分かっていた。飢えた獣と小鳥を対面させるようなものだ。ようはね、いつ会わせるか。それだけだったのだよ。そして、それはあの時がいいと、私が判断したのだ」


「グーシュは……」


「んん?」


「元の人格を失ったグーシュはどうなるんだ?」


 一木は言いたくなかった質問を口にした。

 ある種、答えは分かり切った質問だったが。


「そりゃあ当然、理想的な指導者……民主主義社会において失われた遺物。大衆を、社会を巨大な機械に変える必要悪。アジテーターとして完成されていく。そして、その人間性や感情はだんだんと失われていくはずだ。いつか君は、最も大切な存在すら政治のために切り捨てることが出来るようになる」


「……くっ……しょう………」


 うつむいたままグーシュが呟く。

 いたたまれず、一木は思わず再び声を上げた。


「待ってくれ。元の人格と合わせると言うが、本当にそんな事が出来るのか? そもそも、決闘の最中にあなたはグーシュの精神に介入したと言うが、俺の様にコンピューターに脳を接続したわけでも無いグーシュに、そんな事が出来るのか?」


 一木としては、無駄と思いながらも言わざるを得ない言葉だった。

 心の中のどこかで「その通り、嘘だよ」という言葉を期待していたのだ。

 親しい少女が、自己の生誕から今までの大半を”人工的に作られた”と断言され、これから人間性を失っていくなどと言われるのは辛かった。


 体が機械である一木には、それでも両親や友人達。シキや親しいアンドロイド達との記憶が、確固たる自己と共にあった。だからこそ、辛い機械の体にも耐えられた。


(だが、それが全て作り物だと言われ、あまつさえこれから失われると言われるのは……たとえグーシュくらいの強い人間でも……)


「出来るさ」


 だが、そんな一木の思いは、当然の様に叶わなかった。


「グーシュは……いや、ルーリアト人はエドゥディア人の直系の子孫だからね。地球人の様に遺伝子を改良した存在じゃあない。彼らには、君たち地球連邦がMAGIC粒子と呼ぶ粒子を感知する脳の機関がある。それを利用すれば、我々のような存在はサイボーグやアンドロイドと同じように介入できるのさ」


「エドゥディア……ハイタが見つけた最後の星間文明。ナンバー7と関係のある文明だったか?」


 興味を持ったのか、グーシュが口を開いた。

 こんな時でも、彼女の好奇心は健在のようだ。


「そうだ。最後に見つけた存在にして、我々の生誕にも関わる巨大な文明だ。ちょうどいい。一木君にも、これからのグーシュにも関係ある事だ。少し話しておこうか」


 好奇心が動いたせいか、グーシュの表情が少し明るくなるのを見て、一木は少し安堵した。

次回更新予定は15日の予定です。

アイムコ対談編、終盤へ。


次回もお楽しみに。

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