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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第3話―7 師匠

耳短じたんは理を拒み、狂を好み、利を好み、今日のみを見る


――ルーリアト大陸南方蛮地、耳長族のことわざ

 シユウ……こちらで言う所の川の騎士シュー様は随分とここがお気に入りでね。

 

 きっかけは伝承通りさ。

 ここを人類の居住地として整備していた千年ほど前。


 ある時あいつは、川に落ちた少女を助けた。

 それが伝承における初代王の母親グーリャリャだった。


 ああ、名前は失伝しているんだったか。

 ……無理もない。あんな破天荒な女の記録など残しても、子孫の迷惑にしかならないからねえ。


 まあいいさ。


 そうして助けたグーリャリャに、シユウは随分と懐かれた。

 当時私たちは製造時の姿で過ごしていたからね。

 当時のルーリアト人からは化け物扱いされていて嫌われていたんだが、グーリャリャは好奇心旺盛で、そういった態度とは無縁だった。


 始めは有機生命体の戯言と相手にしていなかったシユウも段々と愛着がわいたらしくてね。

 とうとうある日、お礼に子供を産んでやると言われたのを真に受けて、グーリャリャを孕ませた。


 一木司令、そんなに驚くなよ。

 そうは言っても、本当にシユウの子供というわけじゃあない。

 なんでも、当時の地球で一番優れた遺伝情報の持ち主の精子を用いて妊娠させたらしい……。


 その後はグーシュも伝承で知っているだろう?

 グーリャリャは初代王ポーナレスを生み、シユウの奴は政情が落ち着いたからと他のナンバーズが引き上げた後も六百年もここを世話し続けた。


 おまけにあいつはその後人間の女がいたく気に入ってしまってね。

 シュウと名乗り始めて地球暮らしを始めてからはいつも妻を作るようになった……。


 それでも、いつも話す女はグーリャリャの事ばかりだったがね。

 ああ。

 あいつの惚気話には、ここ千年本当にうんざり……すまない、また話が逸れたね。


 そんな訳で、シユウは君の教育係に私がなったと聞いたらすっ飛んできた。

 それでさっき言った発言という訳だ。


 いやいや、私も迂闊だったよ。

 だがね、仕方ないだろう。

 地球の仕事を奴はほっぽってまで来るとは思わなかったし、千年もあとの子孫にまで執着するなんて……おまけにあの時はちょうど別の女を地球で口説いていたんだぞ?


 だがすべては遅かった……。

 結局、私は脳内に奴の意識を同居させたまま君の教育係を務める事になった。


 その後、グーシュに殴られて血塗れのダビダ教授を一旦治療のため医官の所に送ると、私は興奮する君を床に押さえ付けた。


 あんまり暴れるからそうしたんだが、それを見ても官吏や女官が見てみ見ぬふりをするあたり、余程五歳の頃の君の所業は酷かったようだね。


 もしくは、外様の説話作家が皇族虐待で咎められても関係なかったからかもしれないが……。

 それはともかく、私は奇声を上げながら暴れる君の腕をねじりながらシユウに訊ねた。


「育てると言うが、君はこの子をどう教育するんだ?」


 当然の質問だ。

 ダビダ教授と私が用意した教育というのは、一言で言ってしまえば”言う事を聞かない人間”を大人しくさせるためのものだった。


 話を聞き、暴力を受け流し、理性をゆっくりと備えさせるための教育だ。

 ところが君はそれ以前の問題だった。

 我々に突き付けられたのは、獣を人間にする事だったのだからね。


 そんな問いに対する答えはシンプルなものだった。

 シユウはこう言ったんだ。


「この子はダメだから違う子に作り変えよう」


 あの言葉を聞いて、私はとうとうシユウがおかしくなったと思った。

 だがそもそも元からおかしい奴だったので、その場は抑えて理由と意味を聞いた。


「……どういう意味なんだ? 何か、こう、高度で抽象的なスラングか何かか?」


「? いや、違うが。見て分からないか? この子はダメだ。衝動の抑制が全く出来ていない。本能だけで動いている。それでいて人間だからな。獣の様に生まれついての習性が希薄だから、社会性を発揮することも出来ない」


 淡々と言うものだから、私はあっけに取られた。

 おおよそ、いつも人間の女は柔らかくて優しくていいな、とか言っている奴の言葉とは思えなかった。

 そんな私の沈黙を肯定と捉えたのか、奴は楽しそうに続けたよ。


「だが、元の能力は優秀なはずだ。グーリャリャと私が持ってきた遺伝子の血筋ならば大丈夫だ。それにこういうタイプの子孫は過去にもいた」


「過去……お前が原住民の耳長族を虐殺していた頃の話か?」


 大東征時代と言われるルーリアトの時代があるが、シユウはその頃神気取りでこの世界で暴れまわっていた。

 傍から見ると育成シミュレーションで縛りプレイしているような光景だったな。

 まあ、そう訊ねると奴は肯定した。


「そうだ。どうも、グーリャリャの家系は優秀だが、精神的には妙な偏りを持つ者が多くてな。その偏りが極端だと、このように手の付けようがなくなる。逆に言うと生まれつき偏りが許容範囲だと、時代を作るような逸材になるんだ。ああ、グーリャリャは本当にいい子だった」


 本当に嫌な笑みを浮かべる奴だった。

 私はイライラしながら奴に尋ねた。


「グーリャリャ嬢の素晴らしさは何度も聞いた! それで、作り変えると言ったが、それはどういうことだ?」


「簡単な事だ。この子が嫌がる様な事をたらふくしてやるんだ。現実逃避するほどのな。そうした上で、その苦痛を肩代わりしてくれる存在を示唆し、作るように仕向ける」


「……多重人格を狙って作らせるのか?」


 一木司令は知っているかな?


 そうだ。

 人間は辛いことがあると、それを代わりに受ける存在として自身の中に別の人格を作り出すことがある。

 ああ、グーシュも漫画で読んだから知っているな?

 こんな事なら遊白も説話にしておけばよかった。

 そんな事で、シユウの奴はあんなに可愛い可愛いと言っていた子供を虐待する算段を立て始めた。


「……お前、正気か?」


「何がだ? だって、このままじゃこの子は生きていけないだろう。それなら、よりいい人格に矯正してやるのがこの子のためだ。痛み……じゃないな。この子は物事を強制される事……いわば皇族としての生き方自体を嫌っているから、そういった方面から精神的重圧を掛けていこう。お前は人格の種を作るために、肩代わりしてくれる存在を示唆しつつ、さっきの現地人と一緒に予定通りの教育を行ってくれ。大丈夫だ。何人もこうして名君を作ってやったからな」


 その時、シユウの言葉を聞いて閃いた。

 シユウは言った。

 この一族には、時代を作るような才能があると。

 意図的に多重人格を作り、名君を作ってきたと。


 そんな特異な性質を持つ存在があるのならば、作れるのではないかと思ったのだ。


 そう。

 異世界に地球の文化を定着させるなどという迂遠な存在などでは無い。


 停滞しつつある地球の状態を打破する、地球文明を変える逸材を作れるのではないかとね。


 私は押さえ付ける両手に一層力を込めた。る

 床に顔を歪められたグーシュが、獣の様に悲鳴を上げのを聞きながら、私はシユウに尋ねた。


「この子を、地球の現状を打破する存在にしたい……出来ると思うか?」


 シユウは少し黙った後、答えた。


「出来る。私とグーリャリャの子供だ。お前の協力があれば、絶対に出来る」


「……ただ、そのためにはこの子は個としての幸せを捨てなければならない……それでもいいか?」


 シユウはこの時、即答した。


「いいに決まっているだろう。所詮幸せなど、一個体がその生涯のほんの僅かな間、脳内物質によって感じる精神作用に過ぎない。それよりも社会に対して影響を及ぼし、記憶と記録として歴史に刻まれる方がいいに決まっている」


 その時、グーシュリャリャポスティを作る作業が始まった。


「よしやろう。自己目的を社会目的と一体化させることが出来、その目的に向かって真っすぐ進み続ける事が出来る。全ての選択、全ての判断を社会発展のためだけにつぎ込める、そんな存在を……」


「それはいいな。今の地球の様な極端な民主主義社会には向いているんじゃないか? だが、それには人格形成と幼少教育だけでは足りないぞ。ここに常駐して継続的な教育……後は地球においても通用する知識が……だが俺には内務省職員の仕事があるしな……」


「私が残る。ちょうどいいことに、私は説話作家だからな。作品を通じて先進的な技術や概念を伝える事も出来るから丁度いい」


 私とシユウによる、グーシュリャリャポスティ作成作業が、始まった。


「さて、では始めるか。幸いな事に、地球には子供に対する非道な扱いに関する資料が数えきれないほどあるんだ」


「楽しそうだな、シユウ」


「ああ、楽しいよコミュニス。愛娘を弟のお前と育てるのは、本当に楽しい」


 私たちの会話を聞いているグーシュの顔が、ようやく歪んだのを覚えている。

グーシュ誕生秘話ももうすぐ終わり……予定より(主に執筆量減少のせい)随分と長くなりましたが、今月中には何とか皇帝との謁見……想定した星の海向こうの国に入りたいと思います。


それでは次回更新予定は8日。

今回の更新までは普段と同じ執筆状況だったため、次回から勝手が変わります。

影響を良い方に持っていけるよう、頑張りますね。


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