グラップラーポンポンー1
※エピローグ 状況その3年後「火星」 読了後にお読みください。
アイオイ人の偉大なる戦士、ガーネス部族が長であるポンポンには承服しがたい事があった。
ポンポンという名を聞くと、どうしてか火星人やカルナーク人は可愛らしいという印象を持つらしいのだ。
それは侮辱だ。
アイアオ人ならば……少なくともチビのラーナスや日和見のココンのような連中ではなく、栄光あるガーネス部族ならば侮辱と感じる。
だからこそ、得物の首が落ちる音を現した勇気示す伝統あるこの名を次ぐポンポンは、この名を可愛いなどと呼ぶ者には、たとえカルナーク人だろうと容赦してこなかった。
とはいえそれも大抵は手を出さずに済む。
目と身体に力を込めて威圧してやれば、ほとんどの者がすぐに言葉を翻した。
それでも屈しない愚か者には無論手が出る。
大昔は自らの命を賭けて、たとえ上位カルナークだろうが相手の命が散るような暴力を振るい侮辱の代償を払わせた。
無論払わせた後は、カルナーク人に逆らった罰を一族にまで着せぬために、自ら目をくりぬいて自害したのだ。
侮辱が度を越したと判断した場合死ぬまで暴れ続けたが。
だが、今のポンポンは違う。
カルナークが近代化し、人権などというものに意識を払う様になり。
さらにそのカルナーク人すら地球などという侵略者に敗北し、アイアオ人もそれに伴い火星などという不毛の地に落ちのびてからは……。
どんなに酷くとも命は奪わない程度の分別が付いていた。
だから、せいぜいがビンタで頬骨を砕くか、鼻を吹き飛ばす程度で済ませていたのだが……。
『ポンポン……あら可愛い名前』
ある日、ルーリアト統合体とかいう新しい勢力の代表との顔合わせがあった。
その際ハストゥール級の重力ブロックにある通信室で、映像越しに投げかけられたシュシュなんとかという蛮族の女の一言がポンポンの怒りに火をつけた。
「貴様……今の言葉、撤回しろ蛮族の女!」
メインモニターの前まで駆け寄ったポンポンが発した怒号に、艦橋にいた当時六惑星だった同盟幹部の視線が一斉に集中した。
だが、ポンポンは構わない。
祖先には侮辱に対して純カルナークを殴り、さらに討伐に来た一個大隊を返り討ちにした者もいるのだ。
例えゴッジ将軍が相手になろうと侮辱を晴らす覚悟がポンポンにはあった。
そんな怒声に対して、モニター越しに蛮族の女は困惑した表情を浮かべた。
『えっ……何か失礼な事』
「お前こそ撤回しろアイアオ人! シュシュに……一国の皇女にそんな侮辱許されないぞ!!」
そうして発せられかけた蛮族の女の言葉を遮って怒声を浴びせてきたのは、火星陸軍特殊部隊の副長で、ルーリアト統合体との各種交渉を受け持っていたジンライ・ハナコ少佐だった。
少佐はポンポンに対峙する位置まで進むと、鬼の様な形相で迫ってきた。
そこからはもはや、売り言葉に買い言葉……。
仲介しようと間に入る火星陸軍の将軍やクク大佐の言葉も、謝罪するから止めてと懇願するモニター向こうからの言葉も意味を成さない。
「この一つ目の化け物……前から気に入らなかったんだ……お前たち原住民がサイボーグに敵うと思ってるのか!?」
「機械頼りの貧相な火星人め……地球人に隊長が返り討ちにあった分際で偉そうに!」
「…………」
「…………」
一瞬の沈黙の後……。
「ふた」
もう一度止めようとしたクク大佐の声がゴングとなった。
ポンポン大佐の巨大な眼球には、ジンライ少佐の動作が全て見えていた。
(サイボーグめ! アンドロイド同様鉄くずにしてやる……反応も出来ない内にな)
ジンライ少佐の全身には、動きだしたポンポンに対する一切の動きが感じられなかった。
アイアオ人の眼球は機械の発する作動音はもちろん、電子頭脳が命令を下す際の微細な電磁波までもが感知できる。
その一切が無いのだから、ポンポンが先制できるのは確実だった。
「ジャッ!」
床がひしゃげる程の勢いの踏み込みと同時に、ジンライ少佐の首元に手刀を放つ。
ポンポンは自分が文明人だという自負があった。
だから、サイボーグを殺さずに無力化する一番の方法である脳のある部位をメインバッテリーのある胴体を切り離す事にした。
ポンポンは勝利を確信し……そして、唖然とした。
「ぐっ」
思わず小さなうめき声を上げてしまう。
そして、成り行きを見ていた周囲からも驚きの声が小さく上がる。
無理もない。
ポンポンの放った手刀……それをジンライ少佐が噛みつく事で止めていたからだ。
『……困ったな。喧嘩のつもりだったが、アイアオ人の肉をご馳走してくれるのか?』
喋れないジンライ少佐が、スピーカーから音声を発してくる。
その勝ち誇ったような笑みがポンポンの怒りにさらに火を付けた。
った。
次回更新は2月8日の予定です。