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地球連邦軍様、異世界へようこそ 〜破天荒皇女は殺そうとしてきた兄への復讐のため、来訪者である地球連邦軍と手を結び、さらに帝国を手に入れるべく暗躍する! 〜  作者: ライラック豪砲
第五章 ワーヒド星域会戦

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第1話―2 残骸

 小さなモノアイの回転音は、悲しみに包まれていたグーシュの心にそれとは別種の不安をもたらした。

 軋むようなその音には、どこか自分のものとは違う感情が込められている気がしたからだ。


「い、一木……?」


 顔を上げ、一木の方を向いてグーシュが呟いた瞬間だった。


「来て、いましたか……司令、殿下、ミルシャさん……ミラーのために泣いてくれてありがとうございます……」


 硬い声と共に入室してきたのはクラレッタ大佐だった。

 いつもは余裕のある表情か、少し怒った表情を浮かべているクラレッタ大佐だが、今の顔は君が悪い程優しい顔だった。


「クラレッタ大佐……ミラーは大切な友だったからな……当然だ」


 グーシュは多少無理をしてクラレッタ大佐に応えたが、一木とミルシャは無理な様だった。

 一木は立ち尽くしたままで、ミルシャは泣いたまま身動きすら出来ない。


 マナ大尉も同じように立ちすくんでいたが、彼女の場合悲しみと言うよりも、一木の態度に困惑しているための様だった。


(……一木……どうした? ミラー大佐の事が衝撃だったのは分かるが……それにしては)


 グーシュが一木の異常について考えていると、近づいてきたクラレッタ大佐がグーシュの頭を優しく撫でた。

 随分と硬い手の平にも関わらず、酷く気持ちのいい、優しい撫で方だった。

 グーシュがあっけに取られていると、そのままクラレッタ大佐はミルシャの背後に近づき、泣きじゃくるミルシャを背中から覆いかぶさるようにギュッと抱き締めた。


 驚いて、ミルシャの泣き声が止まる。

 鼻水をすする音だけが、時折聞こえた。


「ミラー。あなたのために泣いてくれる人間がこんなにいるぞ……お前は駄目なアンドロイドなんかじゃなかった……立派に、人間に貢献できた、いいアンドロイドだったよ……だからミルシャさんも、そんなに悲しまないでやってください……この子は、立派に務めを果たしたのですから……」


 いつものお嬢様風の口調が変わり、男の様な口調でクラレッタ大佐が囁くと、ミルシャはホッとしたのか眠るように意識を失った。

 それを見たグーシュが慌てて駆け寄る。

 少し荒いが、寝息を立てている。どうやら、疲労が限界に達したため半ば気絶するように眠ってしまったようだ。


「……いや、無理もないか。戦いと緊張の連続の上、手や指を失う重傷だ……クラレッタ大佐、ミルシャを……ミルシャの治療を頼む」


 グーシュが眠るミルシャの頬をつつきながら頼むと、クラレッタ大佐はいつもの自信ありげな表情を浮かべ、軽く頷いた。


「司令、殿下。少々お待ちください。いまミルシャさんを救護所に送ってきます」


 ミルシャを抱きかかえたクラレッタ大佐が部屋を出て行くのを見送ると、グーシュは先ほどから気になっていた事を一木に聞いた。


「一木……大丈夫か? 様子がおかしいぞ……」


「そうですよ弘和君! どこか具合でも悪いんですか?」


 グーシュの問いに、マナ大尉も同調する。

 二人の問いに、一木は先ほどからずっと回り続けていたモノアイの回転をそっと停止させた。

 目元から聞こえていた小さなモーター音が止み、部屋に沈黙が訪れる。


「……いや、違う……そんなはずはない。悪かった、大丈夫だ。俺の気のせいだから」


 しばらく黙っていた一木は、どう聞いても大丈夫ではない様子で答えた。

 あまりの様子に、グーシュとマナ大尉も黙ってしまい、しばらく部屋は沈黙したままだった。


 そんな沈黙が破られたのは、クラレッタ大佐がジーク大佐を連れて戻ってきた数分後だった。


「遅くなってすみません……ミルシャさんなら大丈夫ですわ」


 いつもの口調でクラレッタ大佐が言った。

 グーシュはホッと胸を撫で下ろした。


「よかった……義手にするか再生するかはおいおい決めるとしてだ……そろそろ確認しなければな……一体、何があったのだ?」


 そして、落ち着くと同時にグーシュは開口一番斬り込んだ。

 すでに、グーシュの心から深い悲しみは概ね取り除かれていた。

 

 ただ、その胸にあるのは怒りだった。

 自分からミラー大佐という存在を奪った者への怒り。

 そして、ルーリアト帝国帝都という自分の足場を土足で踏みにじられたことへの怒りだった。


(だが、恐らくこの怒りの落としどころは、難しい……もしくは……)


 参謀型アンドロイドのミラー大佐と、隣に寝ている二人のアンドロイドをこのような状態にする存在というのが、グーシュの力で復讐可能かと言うと、非常に難しいとグーシュは考えていた。


 強大な地球連邦軍を出し抜き、その最高戦力を難なく倒すことが可能だとすれば、それはたった一つしかない。


「……まだ、未確認情報であり、あくまで状況から推察した結果という事を踏まえてお聞きください」


 クラレッタ大佐は硬い口調で言った。

 空気が重くなる。

 グーシュはまたもや、自分の予測が外れている事を祈った。


「単刀直入にいいましょう。ミラー及びマリオスとアイナの三人は、火人連のサイボーグにやられたと思われます」


「かじんれん……火星民主主義人類救世連合! そいつらが、わらわのルーリアト帝国に入りこんでいるのか!?」


 グーシュの最悪の予測は当たった。

 だが、そんなグーシュよりも衝撃を受けている人間がその場にはいた。

 一木だ。


「火人連……どうして、そう判断を……したんですか?」


 擦れるような声で一木は呟いた。

 それに対して、クラレッタ大佐は淡々と告げた。


「……シグナルの消えたミラーを探していた私たちは、行方をくらましていた警護課の問題児二人とミラーを発見しました……そしてその場で行動を停止していた三人の損傷個所を調べたのです。そしてそれは、とある事件の際に犠牲になったアンドロイドのものと一致、しました」


 そこまで聞いたグーシュはハッとした。

 そして、思わずグーシュも一木の方を見てしまった。


「なっ!? い、一木……」


 一木の纏う空気は、凄まじいものがあった。

 機械の体からよくぞと言うほど、身にまとうその空気は暗く、重い。


「ええ……お察しの通り。惑星ギニラスでのアンドロイドの襲撃事件……その際の傷と、ミラーたちの傷は全く同じ……コアユニットを鋭利な刃物で一突き。これは間違いなく、火星陸軍特殊部隊”RONINN”の手口……ですわ」


「RONINN……ろーにん……浪人……か」


 ”敵”の名を認識したグーシュは、好奇心と怒りの入り混じった言葉を口から吐き出した。


 しかし、グーシュの言葉とほぼ同じタイミングで、その場にいた誰もが予想外の言葉が一木から漏れた。


「俺の……せいだ」


「一木司令?」


「一木?」


 重なり合ったクラレッタ大佐とグーシュの言葉。

 困惑の中一木は再び、今度ははっきりと言った。


「俺のせいだ。ミラー大佐が死んだのは、俺のせいだ」


 絶望に満ちた言葉だった。

次回更新予定は25日の予定です。

ただし、25日にワクチンの二回目接種の予定ですので、副反応の具合によっては延期等あり得ますので、どうかご了承ください。


さた、その上ちょっと本業の忙しさがエライことになっており、色々な面で読者の方々に申し訳ない限りです。

それでも何とか、頑張って書いていきますので、どうかうよろしくお願いします。


追伸 4000ポイント、100万PV達成ありがとうございます。



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