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第40話―4 帰還

「どうにか、うまくいったな」


 (一木にとっては)狭苦しい ガガーリン装甲車の中で、一木は呟いた。

 車内のモニターにはイツシズを射殺した後、帝都の民衆に向かって演説するグーシュが映し出されていた。


 イツシズの唐突な特攻とグーシュの発砲により騒めいた人々も、演説が始まると再び熱気に包まれていく。


(相変わらず凄い才能だ……この様子なら、いけそうだな)


 視界の隅に表示された帝都内の情報を一瞥した一木は肩を撫で下ろした。

 グーシュによって国葬会場と皇帝を確保して、演説とイツシズの排除により民衆をうまくのせる事にも成功した。


 懸念されていた民衆の暴徒化もほとんど起こらず、一部の先走ったグループもマンダレーから降下したキア少佐の憲兵隊によって制圧に成功している。


 このまま憲兵隊により近衛騎士団とイツシズの私兵の拘束が終われば、作戦は成功裏のうちに終了することになる。


(そして、これからが本番だ。帰還したグーシュと一緒に、この国を変えていかなければならない。だってのに……)


 一木は意識を再び視界の隅に向けた。

 そこには一木の視界に表示されるデータリンクシステムのアイコンがあるのだが、現在はデータリンクの一部……具体的に言うと、艦隊や市内の一部部隊とが不通になっていた。


「マナ、まだ艦隊やクラレッタ大佐達と連絡はつかないのか?」


 一木は先ほどから数度目になる問いを、隣でネットワークのチェックを行っていたマナ大尉に行う。

 しかし、残念ながら今回も答えは同じだった。


「やはりだめです……現在通信障害が発生していて、艦隊と連絡が取れません」


「量子通信は?」


「それを装備した参謀型や艦艇と連絡が取れません……」


 量子通信が如何に妨害に強く、距離の影響を受けない理想の通信手段とは言え、それを使える個体と連絡できなければ何の意味も無かった。


 しかも非常事態時には、状況把握まで通信封鎖が行われる場合もある。

 ただ待っていても、量子通信を使用可能な参謀型や艦艇が向こうから通信してくる可能性は低かった。


「いよいよとなれば、ガズル邸のノブナガに頼むか……」


 一木がそう考えた瞬間、演説するグーシュが叫んだ。


「という訳で皆に紹介しよう! わらわを救い、そして今日、帝国を救う手助けをしてくれた海向こうの国……地球連邦の将軍、一木弘和殿だ!!」


「しまった! もうそんな時間か!?」


 考え込んでいる間に、グーシュの演説は随分と進んでいた。

 一木は慌てながら ガガーリン装甲車から降りる羽目になった。


「マナ、身だしなみは大丈夫かな?」


「大丈夫です弘和くん! 別にかわり……問題ありません!」


「…………」


 副官の意外な毒舌に傷つきながら、一木は後部ハッチから身を乗り出し、ルーリアトの群衆の前に初めてその身を晒した。


 身長二メートルの、甲冑を着込んだように……見えなくもない大男の登場に、群衆が大きく騒めいた。


「うっわ……帰りたい……」


 ざわめきの圧に負けそうになりながら、一木はゆっくりとグーシュが立つ貴賓席の方へと歩き出した。

 ガガーリン装甲車から国葬会場までの間は、立ち並ぶSS達によってしっかりと警備されている。

 小銃を手に通路を作る小柄な少女を押しながら、群衆は様々な感情を口にした。


「デ、デカい!」


「すげえ、なんつー立派な鎧だ」


「中身はどんな顔だ? あの将軍も嬢ちゃんなんかのう……」


 一木のセンサーが人々の様々な声を拾い上げる。

 老若男女入り混り、様々な服装の人々が興奮して声を上げている。


 一木は右手を握り、みぞおちにあて、直立不動の姿勢を取った。

 すると、群衆から「おお!」っというどよめきが聞こえてきた。


(ルーリアトの所作を知っている事を示せば、民も安心する……本当に細かい事によく気が利くな)


 グーシュのアドバイスに感心しながら、そのままの姿勢でゆっくりと一木は歩いていく。

 警戒されていた、物を投げたり、制止を振り切って近づこうとする者もいない。


 皇帝やグーシュの威光と、そういった事をするような人間は略奪のために他の場所に行っている事が幸いしているようだ。


 そのまま一木はグーシュの隣まで歩いていき、そこからグーシュに案内される形で少し奥にいる皇帝の元まで歩いて行く。


 グーシュが立って演説している場所は群衆から見えるが、皇帝のいる貴賓席は群衆からは見えにくい位置になるため、上空の映像に皇帝と一木の周囲を大きく映し出す。


「皇帝陛下……そして、ルーリアトの皆さま。私の名は一木弘和。皆さまが言う所の海向こうの国、地球連邦の軍人にして、ルーリアト帝国派遣艦隊に所属する者です。地球連邦代表者及び、艦隊司令に代わりご挨拶を申し上げます」


 映像に自分が映し出されるのに合わせて、一木は繰り返し練習したルーリアトの宮廷所作通りに膝を突き、両方の腕を差し出した。

 自分の両腕を切り落とされても構わないという、騎士が取る最上級の礼だ。


 当初は皇帝相手にここまでへりくだった態度をとることに参謀達から異論もあった。

 民衆や貴族、官吏達になめられるという危惧があったためだ。


 だが一木の意向と、ルーリアトの改革をスムーズに行うために、ルーリアト帝国世論の方を優先したのだ。


 現に群衆や近くにいる衛兵、そして当の皇帝が安堵するように息を吐き出すのが一木には聞こえた。


「陛下、ご覧の通り彼ら地球連邦は礼節を重んじ、正義を尊ぶ者達です。イツシズが言っていたような帝国に害を成す者達ではありません」


 グーシュが補足するように言うと、皇帝は小さく深呼吸をした。

 先ほどまで息子の死や激動的に動いた状況に圧倒されていた精神を、何とか取り繕っているようだ。


「イチギ将軍。我が娘の命……さらには帝国そのものを救うのに力を貸してくれた事、感謝の念に堪えん」


 皇帝が感謝を告げる。

 あらかじめグーシュとシャルル大佐、クラレッタ大佐が詰めた返答を視界の下部に表示して、声として発する。


「きょうてい陛下」


 一木は思い切り噛んだ。

 舌も唇も無いにも関わらず、一国の皇帝を前にして、数十万の人間が見ている圧に負けてしまった。

 いつものようにモノアイが回りだしそうになる。


 このような無様を晒して、ルーリアトの民衆はどう思うだろうかと青くなっていると、素早くグーシュが一木のそばに寄って来て、背中を軽く叩いた。


「一木殿、大丈夫か? ラト語に不慣れなのに、ご自分で喋られようとするから緊張されたのだろう」


 グーシュを見上げると、小さくウインクされた、

 背中に当てられた手の小さな圧力がセンサーに感知され、それが頼もしさとなって一木に安心感をもたらす。


「いや、グーシュ殿下……大丈夫だ。自分の言葉で、陛下に申し上げよう」


 一木は気を取り直し、モノアイを真っすぐに皇帝へと向けた。


「皇帝陛下、そのような感謝などご不要です。そもそも我々はルーリアト帝国と友好的な関係を築くべく……」


 まずは表面的な友好関係を表明する。

 この場はそれで十分だ。

 地球連邦政府の本当の意向を知らせるのは後程、帝城となる。


 一木は何とかなったと安堵した。

 

 だが、それゆえに気が付かなかった。


 異国の大きな将軍の背に手を当て、失敗を繕うグーシュの姿を見て、帝都臣民がどのような印象を抱くのかを。


 安堵したようにグーシュを見つめ、落ち着きを取り戻した一木を見て、帝国臣民がどのような印象を抱くのかを。


 臣民と、皇帝は察した。

 

 なぜこの異国の将軍が、死にかけた皇女を助けたばかりか、失脚しかけていた皇女にここまで肩入れしたのかを。


 そして異国の空飛ぶ城、動く小屋、連射出来る鉄弓を持った強大な国が、友好国となる事を半ば確信した。

 一木のまだまだ拙い言葉を聞きながら、皇帝と臣民はいずれ皇配となるかもしれない男をじっと見つめた。





 対人刀(たいじんとう)(火星陸軍の制式装備。対アンドロイド用の刃物)を抜刀した後、一秒も立たずに納刀した。


 シュシュの目にはそうとした映らなかった。


 路地裏で二体のアンドロイドに挟まれ、その二体が目にもとまらぬ速さでジンライ少佐に駆け寄り肉薄した瞬間の出来事だった。

 シュシュは瞬きもせずにその様子を見ていたが、納刀した後、アンドロイドもジンライ少佐も身動き一つしない。


「……ハナコ?」


 そのまま数秒程経った頃、待ちかねたシュシュが声を掛けたその時。


「終わりました、シュシュ」


 ジンライ少佐がポツリと呟き、構えを解いた。

 二体のアンドロイドは、駆け寄る姿勢のまま身動き一つしない。

 先ほどまであれほど人間の様に生気が感じられた二体は、まるで人形か置物になったようだ。


 美しいと感じられた顔も、歪で不気味な無機物の塊の様にしか感じられなかった。


「え? え?? え??? 凄い! ハナコ、あの一瞬で倒したの?」


 シュシュがその場でぴょんぴょん飛び跳ねながらはしゃぐ。

 ジンライ少佐はその様子を見て、少し口角を上げた。


「シュシュには一瞬でしょうが……数合斬り合いました。ちょっと()()()を使いましたから、上手い事勝てましたね。ああ……けど後で軍師長に怒られるなあ……」


「切り札? え、今何かしました? 教えて教えて♪」


 年甲斐もなく少女の様にはしゃぐシュシュに、ジンライ少佐は珍しく笑みを向けた。

 強敵を倒した高揚感がそうさせていた。

 少し自慢げに息を吐くと、ジンライ少佐はシュシュの方に歩み出した。


「それはですね、対アンドロイド戦の切り札……特殊人工筋肉の出力を上げるため、体内に超小型の空間湾曲ゲートですね……」


 ジンライ少佐が説明を始め、シュシュが楽しそうにそれに聞き入る。

 しかし……。


「あなた……ジンライさん……よね?」


 何の前触れもなく響いた声に、ジンライ少佐の表情は強張った。

 普段能天気なシュシュすらも驚愕している。


 焦ったジンライ少佐は背中のセンサーをフル稼働させる。

 すると、自身の背後五メートル程の場所に、一体のアンドロイドの反応があった。


「シュシュ! 逃げ……」


 再び相手のコアユニットを貫くため、対人刀に手を当てて振り向く。

 しかし、それよりも早く正体不明のアンドロイドが素早く肉薄し、反応困難な速度で飛びついてきた。

告知する間もない投稿、申し訳ありませんでした。

いよいよ今章もクライマックス。

次回もお楽しみに。


次回更新予定は7日の予定です。

よろしくお願いします。

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