表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
234/535

第40話―2 帰還

 父親である皇帝が心労でやつれているという報告は、グーシュも一木達から聞いてはいた。

 しかし、実際に目にするとその様子は想像を超えていた。


 そこまで自分の事を心配していたのか。

 それとも、帝都で繰り返されるイツシズとセミックの抗争に心を痛めていたのか。


 グーシュとしては、父親には憔悴するのならば、為政者として政治の事でしていて欲しかった。

 たかだか娘が行方知れずになったくらいであの様な様子になったのでは……。


(父上……兄上ばかりかあなたも……)


 『父と兄のために……』

 『父上と兄上だけは、あなたの見ているものよりはるか大きいものを見ています』


(母上の嘘つき……二人が見ていたのは、随分と小さなものでしたよ)


 ミルシャ達を引き連れてゆっくりと歩いていくグーシュは、堂々とした態度と裏腹に沈んだ気持ちになっていた。

 それは失望であり、自覚していなかったが寂しさでもあった。


 セミックは兄の事だけを見ていた。

 兄はセミックと自分の事を見ていた。

 お付き騎士達は仕える主と、自分たちの事しか考えていなかった。

 父親は自身の家族の事しか見ていなかった。


 結局、この帝国にはグーシュと同様に未知に心を躍らせ、遥か先を見据える事の出来る人間は、グーシュしかいなかったのだ。


 ミルシャは共に歩んでくれる者だが、違う。

 姉はそうかもしれないが、唾棄する程嫌いだ。

 グーシュだけが、遠くを見ていた。


「止まれ、侵略者!」


 そんな、他の者にとっては理不尽な感情にグーシュが包まれていると、唐突に悲鳴の様な怒声が響いた。


 イツシズだった。


 真っ青を通り越して死体の様に白い顔色で、グーシュの前に立ちふさがるように踏み出して叫んでいた。

 その様子は、侵略者から皇帝を守る近衛騎士そのものだった。


「侵略者だと……言うに事欠いて皇太子殿下に向かって侵略者とは……恥を知れ国賊!」


 意外なイツシズの姿に一瞬考え込んだグーシュよりも、ミルシャが先に怒声を上げた。

 横目で見ると、出血のせいでイツシズに負けず劣らず真っ白な顔色に青筋を立てている。


 怒った顔も可愛いな、などとグーシュは場違いな事を考えた。


(おかげで心の中がスッキリしたな……)


 ざわついた心が静かになるのを感じながら、グーシュは足を止めた。

 左手を軽く上げて、後ろのミルシャ達を制する。

 そう、この場は人間関係に悩む場所ではない。

 目の前にいる男を糾弾する場だ。


 グーシュはできうる限り凶悪な笑みを浮かべ、立ちふさがったイツシズの目を見た。

 怯えと困惑に染まった、老人の目だ。


「侵略者とは……自分で殺そうとした皇族に対する言葉とは思えないな、イツシズ?」


「何の証拠があってそのような嘘を! そちらこそ、海向こうの軍勢を帝都に入れるなど……皇族にあるまじき行為だ!」


 目に映る感情とは違い、思ったより気迫と怒りのこもった言葉に、グーシュは楽しい気持ちになった。

 やはり勝手に落ち込まれるよりは、思い切り歯向かってくる方が楽しいものだ。

 演技抜きで凶悪な笑みを浮かべ、グーシュは右手に持ったルイガ前皇太子の首を掲げた。


「証拠……言ったなイツシズ! 証拠はこれだ、この我が兄にして偉大なるルーリアト帝国の皇太子……いや、前皇太子ルイガリャリャの首と、この首を獲るに至った経緯こそが証拠だ!」


 ガタッ!


 グーシュの言葉に反応したのは、イツシズではなく今まで呆然と座るばかりの皇帝だった。

 椅子を蹴倒すように勢いよく立ち上がると、ボロボロと涙を流しながらか細い声を上げた。


「グーシュ……その喋り方……お前なのだな……だが、ああ、ああ……。やはり、その首は……ルイガの……」


 再び心が乱れるのを感じながら、グーシュは答えた。

 

「皇帝陛下、その通りです。グーシュリャリャポスティ……決闘により我が兄ルイガリャリャの首を獲り、皇太子の座を得て帰還いたしました」


 グーシュの言葉を聞き、皇帝の膝から力が抜けた。

 駆け寄ったガズルが支え、一木達が派遣した従者と共に椅子に座らせたので大事は無かったが、想像を超える父の様子は、意外な程ショックだった。


(……まあ、いいさ。皇帝への即位が早まると思えば、な)


「陛下の前で堂々と皇太子殿下殺害を認めるとはな!」


 皇帝と入れ替わるように、再びイツシズが口を開く。

 落ち着く時間を得たためか、幾分か冷静だった。


 だが、その方が好都合だった。

 グーシュは待っていた。

 イツシズとの会話が見栄えよく、映える瞬間を。


 グーシュは凶悪な笑みを止めると、一転して真面目な表情を浮かべる。

 そして、一木達とあらかじめ決めていた通りにつま先で石畳を三回叩いた。


 そして、口を開く。

 目の前の男を糾弾するために。


『ああ、そうだ。わらわは我が兄を殺した。そう、貴様たち近衛騎士団と手を組み、帝都の要人達を暗殺した首謀者、ルイガリャリャをな!』


「な、なんだ!? あの大音声は!」


 グーシュが発した声は生身の声では無かった。

 若干反響しながら、帝都全域に響くような凄まじい大声だ。


 そして次の瞬間、空が淡く光り出した。

 何事かと皇帝やイツシズ、ミルシャ以外のお付き騎士達や、広場を囲んでいたう群衆が見上げると、そこには驚くべき光景が広がっていた。


「そ、空にグーシュが!? い、いや違う……私まで……!?」


「殿下だ! 殿下や陛下たちのお姿が空に映ってるぞ!」


 驚愕して声を上げるイツシズや群衆が目にしたのは、軽巡洋艦マンダレーによって空に空中投影された、リアルタイムのグーシュの映像だった。


 群衆が騒めきながら空を見上げると、さらにタイミングを計ったかのように映像がズームアウトして、狼狽したイツシズの姿を映し出した。


『さあ帝都の全臣民、帝都の全家臣! 空を見上げよ、わらわを見よ、帝国に害をなした国賊を見よ!』


 グーシュはルイガの生首をイツシズに向けて勢いよく突き付けた。

 想像を超えた事態に、圧倒されたイツシズが一歩後ずさった。


『我、ルーリアト帝国新皇太子、グーシュリャリャポスティなり! さあ語ろう。わらわが一度死に、偉大なる帝都に帰還し、我が兄を討つに至った道程を!』


 帝都がマンダレーを震わせるほどの歓声に包まれた。





「システムエラー。タイムスケジュールに2.1秒の遅延を確認……送れ」


 超巨大空中投影スクリーンの表示。


 大掛かりではあるものの、軽巡洋艦のSAにとっては造作もない作業。

 それに異常が生じたのは、まさにグーシュが足を三回鳴らした直後だった。


 原因不明の通信障害により、地上でグーシュを撮影していたドローンとの通信が途絶して、映像開始が二秒程遅れたのだ。


 幸いに通信障害はすぐに回復したものの、軽巡洋艦マンダレーのSAは想定外の事態に、慌てて地上と宇宙の両司令部に連絡を入れた。


 遅延と言っても僅か二秒足らず。

 グーシュが気がつきもしない程度のものだ。


 それでも、精密に調整された航宙軽巡洋艦のシステムにエラーが出るなど看過できない事態である。

 真面目な性格のマンダレーは律義に、一木に加えて艦隊司令部にも連絡を入れた。


 しかし、その返答は予想外のものだった。


『艦務参謀部より通達。先の通信障害は未知の空間湾曲ゲートの発現によるものと思われる。ゲートは生成後、0.98秒で消失。現在原因や艦隊システムのチェック中。艦隊所属の全アンドロイドは、現在の作戦行動を継続しつつシステムチェック及び警戒態勢に入れ、送れ』


「??? 空間湾曲ゲートが発生? そんな……通信障害が出るような場所にゲートが開くなんて……一体何が……いやそれよりも、惑星上で通信障害が出るような場所にゲートが開いて、艦隊は大丈夫なのか?」


 マンダレーは宇宙空間にいる家族同然の航宙艦SA達の事を思った。


 空間湾曲ゲートは、恒星系の近くに生じる時空間の歪んだ箇所。通称空間湾曲点に、強力な磁場を放射することで開く、空間に空いた穴だ。


 空間湾曲点自体はワーヒド星系や他の異世界、勿論太陽系でも大量に見つかるありふれた存在だが、都合のいい箇所に繋がっているかどうかは別の話だ。


 恒星の無い死んだ星系や、何も無い無の空域。

 太陽に異常に近い場所や、偵察機が一切帰還しない謎の空間。

 いきなり巨大な触手が飛び出して近くにいた艦を引きずり込んだ場所など、おおよそ危険な個所や価値の無い箇所に繋がった場所にはそもそも開かないのが鉄則だ。


 そしてマンダレーの知る限り、ワーヒド星系では現状、最低限の空間湾曲点調査しか行われておらず、自軍がこんなタイミングでゲートを開通することはどう考えてもあり得ない事だった。


「つまり今のは……未知の現象……それか、空間湾曲ゲートを用いる事の出来る未知の……」


 マンダレーが癖である独り言をつぶやいた瞬間、驚くべき通達が艦務参謀部よりもたらされた。


『緊急連絡。先の空間湾曲ゲートは、惑星ワーヒドのルーリアト帝国帝都内にて発生した、極小ゲートだと判明した。惑星上でのゲート発生は未知の現象であり、自然現象及び敵対勢力による活動の双方を想定して調査を行う、送れ』


『こちら軽巡洋艦マンダレー。本艦は現在帝都上空にてグーシュリャリャポスティオブザーバーの演説投影任務に従事中。本艦も調査活動に参加するべきだろうか、送れ』


 想像を超えた事態に、マンダレーはすぐさま艦務参謀部に連絡を入れた。

 確認された極小ゲートはまさにマンダレーの足元だ。

 調査には自分が最適だと考えたのだ。


『不要。マンダレーは現在の作戦行動を続行せよ。帝都内の調査は事前配備された部隊が対応する、送れ』


『了解。軽巡マンダレー、任務続行します』


 返答しつつ、マンダレーは不安そうに足元の帝都を眺めた。

 情報を確認すると、現在帝都にはクラレッタ大佐を隊長とする参謀型SSによる7特務隊が臨時編成され活動中との事だ。


 艦務参謀の言う通り、門外漢の航宙艦よりはるかに役に立つに違いない。


 ただ、それでも。


「……そんな特別な部隊が必要なほど、この帝都には危険な奴がいるのか?」


 自分が投影するグーシュの勇ましい映像とは裏腹に、マンダレーの心は不安に包まれていった。

次回更新予定は28日ないし29日の予定です。


ちょっと予定が流動的ですが、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ