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第35話―4 決闘

投稿予定に遅れてしまい、申し訳ありません。

 ミルシャとセミックの二人は、互いに一言も発さずに淡々と距離を詰めていった。

 その歩みに迷いはなく、まるで目の前に相手がいないかの様だった。


・決闘って……グーシュ様は?

・まずはミルシャちゃんとあの女騎士の決闘じゃろ?

・連続で決闘すんのかな……。ルール分かんね。

・スマホ持ってるお姉さん解説よろー。


「……あ? すまほ? ってなんだ?」


「たぶん……そ、その板の事じゃないかな?」


 近づいていくミルシャ達を見ながらも、携帯端末の画面上に表示される文字を横目で追っていたエザージュは唐突なコメントに困惑した。

 困った顔でカナバとルライの方を見ると、二人も少し困惑した表情を浮かべていた。

 

 いきなり科学文明と無縁の女騎士に動画配信中の携帯端末を持たせたのだから、無理もない。

 三人は互いにチラチラと視線を合わせた後、観念してエザージュの手元にある魔法の板に対して、出来る限りの説明を行うことにした。


 そもそもの大前提として、この板に浮かぶ文字は一体誰のものなのかという疑問が、通常ならば浮かぶのだろう。

 だがあまりの急展開の連続に、そういったまっとうな感性は三人からはすっかり抜け落ちていた。


 そのため、グーシュの「映っている文字に返事してもいいが」という言葉に大人しく従った方がいいという結論に達したのだ。


「板さん。皇族の決闘……主従双方が戦う形式の場合は、まず互いのお付き騎士同士が戦うことになるのです」


 そうして、携帯端末を持ったエザージュは撮影に集中し、口のうまいカナバが解説を担当することになった。

 コメント欄では密かに『板さん』という呼び方に対して壮大なリアクションが巻き起こったが、マイチューブのAIによって無意味なコメントが非表示にされたため、三人の目には入らなかった。


・なるほど。

・決着がついたらグーシュ様とお兄さんの決闘?


「兄……い、いえ。違います。お付き騎士同士の決闘は……」


 ルイガ皇太子への敬称に怒りだしたい思いに駆られたものの、カナバはそれを飲み込み、生真面目に解説を始めた。


 そしてその解説の最中、ついに互いの剣の間合いに入ったミルシャとセミックの双方が足を止めた。


「……! 決闘は、まず互いに数合……斬り合います」


 カナバがそう言うが、二人は歩みを止めたまま動きをすっかりと止めてしまった。

 構えも、腰の剣に手を当てる事すらしない。

 ただただ、まるで歩く途中に一瞬立ち止まった様な自然な姿勢で、静止する。


・動かないぞ?

・あー、マジで女騎士美人だわ。

・ハァハァ(;´Д`)


 そのまま十秒弱。

 コメント欄がダレ始めた瞬間。


 お付き騎士とルイガ皇太子の眼だけがかろうじで捉えられる速度で、二人が抜刀した。


 キ! シャッ! カチ!


 生放送を視聴していた地球人とグーシュには、ミルシャとセミックが何かの動作をした瞬間、まるで雑音の様な微かな音が聞こえたようにしか感じられなかった。


 だが、その微かな音が止んだあとの二人はすでに抜刀を終え、互いに剣を構えた状態で向き合っていた。


・え? いつの間に……。

・誰か動画をスローで!!!

・やべえ! スロー再生しても動き見えねえwwww


「す、すごい……今の一瞬で、三合斬り合ってた」


 ルライが興奮した様子で呟く。

 カナバも同様に高揚していた。


「ミルシャ……腕を上げたな。以前のあいつなら、今ので決着がついてた筈だ」


 カナバの言葉に、エザージュも頷いた。


「ああ。セミックの動きに追いついて一撃を防いだだけでなく、即座に逆襲して見せた。悔しいが、あいつはセミックに匹敵する腕前になった……この短期間でよくも……」


・スゲー……。

・ミルシャちゃんガンバ!

・セミックお姉さんガンバレー!

・グーシュ様を裏切ったな? ギルティ!

・俺もセミック様しゅき……。(ギルティ!)

・コメントが逆逆wwww


 この段階においてもコメント欄は浮ついていた。

 むしろ、ミルシャとセミックによる神業を見て、スポーツの試合を見ているような高揚感に包まれていた。


「……なんかこの板さん……浮ついてないか?」


 多少ムッとした様子でエザージュが呟くが、カナバはそれを諫めた。


「言うな! ともかくポスティ殿下に任されたのだ。細かい事は今は聞くな」


「むぅ……」


・馬鹿なコメント申し訳ありません。どうか解説の続きをお願いします。

・自重しろオマエラ!

・この後どうなるの? っと。


「あ、ああ……。お付き騎士二人が切り結び、決着がついた場合はそのまま勝ったお付き騎士と、負けた方の皇族との決闘となる……だが、今回の様に初手の斬り合いで決着がつかなかった場合は、お付き騎士は一旦手を止めて睨み合い、このままの状態で皇族同士も決闘を開始することになる。これが、ルーリアト帝国の皇族における決闘の作法だ」


 このある種面倒な決闘の作法は、ルーリアト王国時代からの伝統あるものだった。


 まずお付き騎士の決闘が開始される。

 そして、これに決着がついた場合は勝ったお付き騎士と負けたお付き騎士の主との決闘となる。

 今回の様に膠着して初めて、皇族同士の決闘が開始される。


 一見すると回りくどい作法だが、これによって非力な皇族でもお付き騎士さえ腕利きならば決闘に勝利する可能性が生まれる。

 皇族同士の決闘が開始された後でも、お付き騎士同士の決闘が中断された訳では無い事も勝負の行方を不透明にさせた。


 睨み合い、身じろぎすら出来ない状況で、自身の主が追い込まれればどうなるだろうか?

 当然お付き騎士には隙が出来るため、主の戦況によって瞬時に戦況が覆る事態が起こることになる。


 これによって、皇族の決闘においては単純な技量だけではなく、如何に膠着したお付き騎士の戦況を自分が打破するかという事も重要になった。

 

 記録上最後に決闘により王になったガズル帝の先々代のノルス王は、こう言い残している。


『我は、腕っぷしで王になったのではない。我の騎士の腕でなったのではない。ほんの一瞬。兄が不利な様に見せる演技力で王になったのだ』


「だから、セミック達の決闘がこうして膠着した今……ルイガ皇太子殿下とポスティ殿下の決闘も、始まる……」


 カナバが解説すると、コメント欄が盛り上がる。

 だが、三人はそれには反応せず、ハッとした表情で何かに気が付いたように顔を見合わせた。


「ぽ、ポスティ殿下はこれが狙い?」


「セミックと膠着状態に持ち込める程ミルシャの腕前が上がった事で、ノルス王の再現を狙っているのか?」


 だが、それは難しいだろう。

 グーシュがこのような決闘に打って出た以上、何らかの勝機があるはずだというのが三人の考えだった。

 しかし、仮にノルス王の再現が狙いだとすれば、それは甘いと言わざるを得ない。


 なぜなら、セミックのルイガ皇太子への信頼はノルス王の兄の比ではない。

 演技で気を逸らせるなど、出来ようもない程に。


「むしろ、ミルシャの方が……」


 エザージュが言いかけた瞬間、先ほどのミルシャ達とは打って変わって、グーシュが素早く動いた。

 驚くお付き騎士達と配信視聴者たちをよそに、グーシュは金属甲冑とは思えない俊敏な動きで駆けだすと、剣を腰だめに構え突進した。


「早い!」


 刃物による攻撃において、最も厄介だと言われる腰だめに構えての突進。

 体重と勢いの乗ったこの攻撃は、逃げ出すことが出来ず、横に避ける事の出来ない狭い地下室での決闘というこの状況下においては、有効な攻撃だ。


 本来ならば剣で先制攻撃を受けて負傷しかねない捨て身の攻撃である点も、全身金属甲冑という防御上の利点があるため、技量に劣るグーシュが取る手段としては悪くはない。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ルイガ皇太子は上策であるところの剣で頭や胴を攻撃することも、グーシュの剣を上から体重をかけて抑え込むこともしなかった。


 ただ、真っすぐに立ったまま、待ち受けるように仁王立ちし続ける。

 このルイガ皇太子の行動に、お付き騎士達三人の目にははっきりと、グーシュが困惑して勢いに陰りが出るのが見て取れた。


 コメント欄は相変わらずスポーツ観戦の様なのんきな雰囲気だが、幾人かがグーシュの動きに迷いが生じた事に気が付いていた。


 だが、それも刹那だ。

 迷いを振り切ったグーシュは勢いを増すと、全体重を乗せた一撃をルイガ皇太子の腰に打ち付けた。


「甲冑の継ぎ目だ!」


 エザージュの言葉通り、グーシュの一撃は見事にルイガ皇太子の上半身と下半身の継ぎ目めがけて繰り出された。

 如何な金属甲冑と言えども関節が存在し、人間が動くように作られている限りは隙間と無縁ではない。

 無防備な姿勢。

 厄介な攻撃と、命中した必殺の攻撃。

 勝負は決まったと見られた、瞬間。


 ギパン!!!


 奇妙な金属音と共に、グーシュが構えていた剣が床に落ちた。

 同時に、グーシュが右の手首を苦しそうに抑えたまま、床に膝をついた。

 対するルイガ皇太子は、変わらず仁王立ちしたままだ。


・え? 何? 何が起きた?

・グーシュ様どした?

・解説! 騎士のお姉さん解説!


 コメント欄が困惑一色になるが、三人のお付き騎士にも何が起きたのか分からなかった。

 三人にも地球の視聴者にも、グーシュが一人で勝手に剣を取り落としたようにしか見えなかったのだ。


「……グーシュ」


 そんな疑問に答えたのは、ルイガ皇太子だった。

 感情を感じさせない声で、静かに、グーシュに対して語り掛ける。


「ぐぅ……がぁ……て、手首が……」


「鎧の継ぎ目を狙われたならば、そこに突きこまれた瞬間に身をわずかによじって相手の武器を挟み込み、そして相手の手から捻り取る……甲冑戦闘術の基礎だ」


「くそ……あにう」


「そんな事も忘れたか!! 私を舐めるのも大概にしろ!!!」


 大音声と共に、ルイガ皇太子はグーシュの顎を勢いよく蹴り上げた。

 凄まじい威力をまともに受けたグーシュは、そのままの勢いでミルシャの脇を抜けて壁に激突した。

 石の壁に金属甲冑がぶつかった音が部屋に響き渡る。

 

 グーシュは倒れたまま、身じろぎもしない。


「殿下!」


「よそ見か?」


 ヒュッ。


 その光景に一瞬気を取られたミルシャが声を上げた瞬間、セミックの声が土埃舞う地下室に響いた。

 その後に聞こえた空気を切り裂く、微かな音。

 そして、その音の後ミルシャの顔が苦痛に歪み、ポトリと柔らかい物が床に落ちる音が聞こえた。


・あああああああああああああああああああああああああああああああ

・嘘。マジで? 演出? 

・ミルシャちゃんの指? え、指取れてんじゃん!

・もしかして、これってマジ?

・ちょ、警察……


 コメント欄が悲鳴に包まれる。

 右手の人差し指の先を失ったミルシャは、必死に隙を見せまいと痛みに耐えて構えを継続した。

 セミックの方も、ミルシャの隙が浅いことを見て取って軽い攻撃にとどめたのだが、その影響は甚大だった。


 出血。痛み。喪失感。主の危機。


 決闘の天秤は、急速にセミックに傾きだす。

 そしてルイガ皇太子もまた、決着をつけるべく壁際のグーシュに向かって歩みだした。

何を言っても言い訳にしかなりません。

誠に申し訳ございませんでした。


お詫びに出来る事と言えば、ただただ物語を書く事しかできません。

どうか、お許しください。


そして謝罪の上塗りになるのですが、実は来月本業の方で面倒なイベントが予定されております。

そのため、休日ごとに執筆、投稿する現状のスタイルの維持が難しくなっております。

なので六月中の更新は完全な不定期とさせていただきます。


重ね重ね読者の皆さんにご迷惑をおかけして申し訳ございません。


六月下旬には今のペースに戻せると思いますので、どうかよろしくお願いします。


次回の更新は最も遅くて六月下旬となります。

感想やご意見など頂けると、モチベーションアップにつながりますので、ぜひお気軽にどうぞ。


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