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上田拓は愛がほしい―2

※この短編は第二章読了後にお読みください。

 そうして一念発起した上田拓少年は、動画投稿サイトマイチューブや国営Wikiサイト、主要なSNSの情報を片っ端から漁った。


 来訪前 社会 家族 愛


 そういったワードで検索すると、現代とは違う様々な情報が見えてきた。


 小さな子供から老人までもが生きるために労働に明け暮れる。


「全員働けるとかやべーな……エリートだらけじゃん」


 一族や企業、出世のために望まぬ結婚を強いられる男女や別離する恋人たち。

 結婚をするために金を払い、見合いやマッチングアプリを用いて伴侶を探す男女。


「そうか……パートナーアンドロイドが無いとこうなるんだなー。国が家族を支給してくれないって怖いんだな……ていうか全員反ドロ(反アンドロイド主義者の略)みたいな事しててやべー」


 そして、愛。

 無数のラブコメ。

 幼馴染。

 三角関係。

 すれ違い。

 年の差。

 ツンデレ。

 NTR……etc。


 明らかに当初上田拓少年が求めたものとは別種の情報……というか創作物に関する情報が混じり、結果上田拓少年は打ちのめされた。

 

「やべーな……今の温い創作物とは大違いだ!」


 打ちのめされた彼は、検索ワードを変えて、そしてのめり込んでいった。


 来訪前 漫画 アニメ 映画 ファンタジー SF……。


 完全に当初の真面目な趣旨……自身の特異な境遇に関する認識を見つめなおすために来訪前の情報を知るという目的から離れていた。


 離れていたが、もはやどうしようもない。

 モヤモヤとした悩みを吹き飛ばす圧倒的な娯楽に触れた彼は、週明けに友人たちの前に姿を現した、その時には……。


「よおみんな! 昭和や平成時代を知ってる? あの頃の日本人って飲まず食わずで十倍以上の軍勢と戦ったり24時間働きながらアメリカの資産や土地を全部買い取ったりしためっちゃすげー人達らしいぜ! あとさ、放課後うちに来ねえ? 見せたい映画があるんだよ。 おとこはつれえよシリーズとDestiny/stay nightシリーズって言うんだけどさ」


「…………お前何見たんや?」


 王が呆れる様な立派な来訪前オタクになっていた。


 だが、最大の変化はこれでは無かった。

 それは、大半の人間が「無職」と記入する進路希望調査に現れた。


「ツー訳で俺、大学卒業したら異世界派遣軍に入るわ」


 ちなみにこの時代、大学には希望すればだれでも進学する事が出来た。

 地球連邦政府が国民の学力向上を掲げている事や、行って以上の成績を上げればベーシックインカム制度の生活ポイントが増額されることもあり、来訪前よりそれなりに真面目に通う人間が多かった。


 上田拓少年とその友人達も多分に漏れず大学進学を目指したのだが、その先が非常に珍しいものだった。


「何あんた……あんたもロリコンかショタコンなの?」


 前潟美羽が微妙な笑顔で上田拓少年に聞いた。

 彼女はかねてより異世界派遣軍入りを友人達に公言していた。

 

 というのも、現状日本では少年型のパートナーアンドロイドの支給を受ける事が出来ないからだ。

 パートナーアンドロイドは老後の介護を担う要素もあるため、体格の小さいデザインの個体は禁止されている。


 つまり前潟美羽の様な少年少女趣味の人間は自前で金を稼いで好みのアンドロイドを購入する必要があった。


 そして、この時代特権階級の様な公務員等を除けば一般人が付ける仕事は一つしかない。


「お前と一緒にすんな。俺はさ……気が付いたんだ。自分の求める愛ってやつに……」


 上田拓少年の言葉に全員が顔を歪めた。

 このような時、大抵がろくでもない事なのは分かり切っていたからだ。


「愛? 何言ってるのこいつ……」


 津志田南が半眼で呆れたように指さす。

 だが、上田拓少年はそんな冷たい視線も何のその。


 スッと携帯端末の画面を友人達に見せた。


 そこには、ファンタジー物と思しき美少女キャラクターのイラストが映し出されていた。


「なんやこれ……」


「ファンタジー作品……めっちゃ男性向けの……ていうかエッチなゲームじゃん」


「そういう事だ」


 自信ありげに胸を張る上田拓少年だが、当然友人たちは何がそういう事なのか分からない。


「いやだからさ。俺、自分の家族がみんなと違うって事が気になってたんだよ。この歴史上一番人間が幸せで平等な時代に、どうして俺だけこんなに恵まれてるのか……」


「……」「……」「……続けて」

 

 王と津志田南と顔を見合わせ、前潟美羽が促す。


「ああ。それでさ、ナンバーズが来る前の社会の事調べて、それは貧しさが存在しない今の社会で、来訪前と同じような家庭を築いた両親のお陰だって気が付いたんだ。まあ、当たり前の話なんだけどな。働かないでいい環境で、アンドロイドのサポートがある状況で両親が子供を育てればそりゃあそうなんだよ」


「なんや、娯楽漁ってただけやなかったんか」


「当たり前だろ。それでさ、俺は思った。父さんたちと同じような家庭を築きたいって……けれども、それは難しい。分かるよな? 俺には相手がいない……幼馴染のお前らは……無理だろ?」


 上田拓少年の問いに前潟美羽と津志田南は顔を激しく横に振った。

 二人の好みと上田拓少年はあまりにもかけ離れていたし、人間同士の結婚にはためらいを覚えるのがこの時代一般的だったからだ。


「だからって今から探しても、そんなもの好きはそうそういないし……おれは姉ちゃん達が大好きだから、反ドロと結婚なんて考えたくもない……そこでさ」


「お前……まさか、異世界人相手に嫁探しする気なんか!?」


「おうよ! 18になったら母さんからミカン姉ちゃんを譲渡してもらってパートナーアンドロイドにしてさ。異世界派遣軍に入って異世界で俺も自分の愛を探すのさ!!」


 上田拓少年の叫びにいよいよ呆れたような視線が突き刺さった。


 ちなみに、一応彼の叫びは法的に実現可能ではあるのだが……。

 

 身内からのパートナーアンドロイドの譲渡は、彼の両親のように夫婦関係にあり、かつ同居する者がパートナーアンドロイドを所有している場合は可能ではあるし、異世界人との結婚も前例がない訳では無い……。


 無いのだが……。


「お前異世界派遣軍の仕事をナメてんのやろ……」


「やっぱ馬鹿じゃないですか……」


「あんたが同期になると経歴にキズが尽きそうだから一年ズラして入隊してくんない?」


 おおよそ、褒められ動機とは言い難かった。

 

 何はともあれ、こうして……愛を探す異世界派遣軍師団長、上田拓代将とその副官ミカン大尉は誕生した。


 余談だが。

 前潟美羽が悲劇に見舞われ、仲間たちが全員異世界派遣軍入りを目指し始めるのはもう少し先の事となる……。

という訳で22世紀の家族事情と上田拓の設定周りでした。


次回更新は1月26日の予定です。


内容は「津志田南は最強です」を予定しています。 

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