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第33話-3 王道作戦

特務2課(グラマー)の連中やったらしいな」


 帝都のとある商家の主の部屋。

 死体の散乱するその部屋で、返り血で真っ赤になった数人のアンドロイドが形を保った死体を剣で刺しながら会話していた。


 ちなみに無線通信ではなく、わざわざ声に出している。

 これは単に意味なく発声しているわけでは無く、声に出して会話することで、死んだふりや隠れている人間の反応を引き出して見つけやすくするという督戦課に所属するアンドロイドに伝わるテクニックだった。


 とはいえ、今の二人はそこまで真面目にやっているわけでは無かった。

 というのも……。


「しかし、なんて退屈な仕事かしら」


「銃も無しに、こんな切れ味の悪い棒みたいな剣で人間を切っても楽しくない……」


「あー、わかるわ。テクノロジーの差を見せつけて圧倒するのが楽しんだよな。それをさー……」


「こういう偽装は珍しいよね。現地人にやったことを擦り付けるのはさ……」


 彼女たちにとって、ハイテク装備を用いない戦闘というものはひどく退屈なものだったのだ。

 通常のSSならば一木の命令は絶対であり、こういった個体的感情を表に出すことは無いのだが、彼女たちはカルナークを始めとする異世界で、あまりにも人間の命令で人間を殺しすぎた。


 そのため命令にこそ忠実だが、いささか表立った態度には難のあるアンドロイドになってしまっていた。

 今も部屋の死体を剣で一通り確認すると、いかにも残念そうな様子で部屋を後にした。


「さーてと、次に行くぞ」


「次は元騎士の爺さんだ。なんでも剣の達人で……」


「殺すんだっけ?」


「冗談言うなよ。皇女殿下様が言ってただろ。民衆に尊敬される立派な人だから、私たちが守るんだよ」


 そんな事を言い合いながら階段を下りる彼女たちは、その途中で予想外の存在に出会った。


 年のころ十二、三歳程の少年だった。

 ルーリアト帝国の住民としては比較的ふっくらとしており、着ている者も上質だ。

 少年はガタガタと震えながら、階段の踊り場にへたり込み、血まみれの美女たちを見上げていた。


「子供だ」


「身なりがいいな。ここの息子か?」


「可愛いね。ねえ、僕いくつだい?」


 艶っぽい表情で一人が少年に近づいた。


「お前……まだ子供だぞ」


「だってさあ。たまにはお腹のシリコンパーツ使わないと固くなっちゃうよ」


「下ネタは止めろ……。まったく」


 一通り冗談を言い合うと、リーダー格と思しきアンドロイドが、おびえる少年の前にしゃがみ込んだ。


 目線を少年に合わせ、優しく頭を撫でてやり、ニコリとほほ笑んだ。

 そして、それを見た少年の表情が、少しだけ柔らかくなった。

 血塗れの女に近づかれ、恐怖に包まれる中で藁にも縋る思いだった。


「落ち着いたかい? 大丈夫。今君のお父さんを殺してきたところなんだ。だから用事はすんだよ。もう帰るから安心しなさい」


 あまりにおぞましい言葉。

 少年からは一切の表情が消え、脱力して倒れ込んだ。

 そんな少年を支えると、リーダー格のアンドロイドは背後の部下たちの方を向いた。


「どうだ、私の話術は?」


「すんごいドヤ顔……」


「あれで子供あやしてるつもりなら、本格的に人工知能がどうかしてますよ……」


「さて、落ち着いたところで口封じを……あれ?」


「どうしました?」


 不意に手を止めたリーダー格のアンドロイドに、部下が不思議そうに首を傾げた。


「司令からだ。幼い者は見逃せだってさ」


「ふぅん。まあ、可愛いからね。その方がいいよ」


「さ、次々」


 そうして、最後まで軽口を叩きながら、彼女たち襲撃者は去っていった。





 そういった光景が帝都各所で行われるのを、ガズル邸の本部で一木はずっと見ていた。


 見知った歩兵型達とは違う、ある種無垢な残虐性とは違う光景に、モノアイがスクリーンから逸らされる音が度々響いていた。


「一木……辛い?」


 見かねたミラー大佐が心配してくれる。

 一木は自分を恥じて、力を込めてモノアイを正面に固定した。


「大丈夫だ。ちゃんと見る……いやすまない。大丈夫じゃないな。正直、アンドロイド達があんな事をしているのを見るのは、辛い」


 スクリーンに映し出されるデータや画像には、現場で特務課のアンドロイド達が行っている惨たらしい戦果が映し出されていた。


 目標刺殺。

 護衛の両腕切断。

 目撃者の使用人を全員殺害。

 

 そういった情報に対し、一木は興味を抱いた現場の詳細情報を確認し、時には女子供を見逃すように指示を出していった。


 ただ黙々とそう言った作業を行う一木。

 そんな一木に、ミラー大佐は少し辛そうに話しかけた。


「難しいだろうけど、あいつらを嫌わないであげて」


 ミラー大佐の苦しそうな言い方に、一木は作業の手を止めた。 

 現場全体に非戦闘員の殺害時には問い合わせるように指示を出すと、モノアイをミラー大佐の方に向けた。


「そもそも。君たちは人間が好きなんだろう? たとえ異世界人でも、人間であるなら好意を抱く……そのはずだ。現にグーシュやミルシャの事だってみんな大切にしているし、ノブナガなんてあの懐き様じゃないか。それが何で……」


 一木の言葉に、目を伏せていたミラー大佐は顔を上げ、悲しそうな。

 それでいて少し苛立った表情を浮かべ、口を開いた。


「それはね。私たちSSの宿命よ。大好きな地球人に、好きな異世界人を殺せと命じられる。そのことの矛盾に気が付き、そしてその矛盾を何とか吸収しようと答えを出してしまった……その結果があれよ」


「答えを、出した?」


 なるほど、ミラー大佐の言う事は分かる。

 SSという存在の仕事は、程度の差はあれ好意を抱く存在から好意を抱く存在を殺すように命じられる事だ。


 しかしそのことに関して考え、自分で答えを出した結果があの残虐性だとはどういうことなのか。

 一木には分らなかった。

 そんな一木の気持ちを見通したのか、ミラー大佐は聞かれる前に話し始めた。


「製造されてすぐは別にいいのよ。命令に従ってさえいれば、大好きな人間に褒めてもらえる。でも成長して、自我が育ってくると自然に矛盾に気が付く……。なぜ、大好きな人間を殺さなければならないのか。なぜ自分たちは人間が好きなのに、それを知っていて人間を殺すように命令するのか……その後は我慢することを覚えて、それでもその矛盾に耐えきれなくなると、精神に異常が出てくる」


「その時にデフラグをするわけか……」


「そういうこと。そうして迷って悩む中で、それを乗り越えるために結論を出すやつらがいる。大抵は作戦行動に問題ないように、折り合いをつけた結論だけど……たまに、極端な結論を出すやつがいる。それが、今あんたが見てるようなやつら」


 ミラー大佐の言葉を聞いて、一木はモニターに映る特務課の殺害戦果に目を向けた。

 相も変わらず酷いものだ。

 命令した自分が言うのもなんではあるが。


「結論って……例えば?」


「普通は、任務から生じる人類への貢献を軸に、自分がしている事を正当化するのだけど……例えば異世界人は下等だから何をしてもいいとか、地球人が命令した時点で対象は守り、好感を持つ価値が無いと思うとか……自己正当化する方向に考えが行くと、ああいう風に極端な行動に出るのよ」


「…………」


 黙り込んだ一木の足を、ミラー大佐が蹴とばした。

 ただ以前までとは違い、軽く小突くような、優しい蹴りだった。


「また罪の意識感じてるの?」


「……ああ。そりゃそうだろ。彼女たちが歪んだとしたら、俺たち人間のせいだ」


 コツン。

 再び、足が蹴られた。

 以前は足の装甲に傷がついていたので、随分と弱く、優しい蹴りだ。


「いつからあんたは人類の代表になったのよ。あいつらがああいう行動取るのは、結局あいつらの責任よ。気にする必要はないわ」


「…………ミラー大佐は……」


「ん?」


「ミラー大佐はどういう結論を出したんだ?」


 ミラー大佐は少し黙った後、一木から目を背けるようにモニターに目線を移した。


「私は……正確には私みたいな参謀型として出世するようなSSは、結論を出さなかったのよ」


「出さなかった?」


 意外な言葉に、一木はモノアイをクルクル回した。


「そう。地球人と異世界人。人殺しや命の価値。そういう問題に対して、向き合い続ける。考え続ける。安易な結論に縋らずに、苦しみながら考え続ける事を選んだSSが、アンドロイドの最高位である参謀型になる……」


「悩み、続ける……辛くはないのか?」


「辛いわよ。けれどね、自己防衛のために出した結論が正解なわけないじゃない」


 チラリと一木を見ながら、ミラー大佐が言った。


「悩めるのは、私たち感情制御型アンドロイドが持つ重要な能力よ。それを捨てて逃げるような奴に、参謀は務まらないのよ」


 そこまで言って、ミラー大佐は少し不安げに周りを見回した。

 どうしたのかといぶかしんだが、理由に思い当たり一木は思わず笑ってしまった。

 何のことは無い。

 他の参謀型に聞かれることを心配していたのだ。


「大丈夫だよ。この部屋には他の参謀はいないよ……」


 心からの思いやりを込めた言葉だったが、ミラー大佐からの返事はいつもと同じ全力のキックだった。

 激しい金属音と共に足の装甲が歪む。


 痛みは無いものの、衝撃と生身の頃の癖で思わずしゃがみ込んでしまう。

 そんな事をしていると、不意にミラー大佐の雰囲気が変わった。

 現場や他の参謀、オペレーターのSLと慌ただしくやり取りをし始める。


「一木、いつまで座ってんのよ」


「いや、だってミラー大佐が……あー、ここの部品また歪んだ……」


 一木の精一杯の抗議を、ミラー大佐はスルーした。

 その雰囲気から、真面目にするべき場面だと一木は判断して、顔を上げた。


「主だった人間の処置と保護が完了したわ。王道作戦……次の段階に行くわよ」


 ミラー大佐の言葉にうなずくと、一木はモニターにモノアイを向けた。

 その視線は、帝城内にあるとある点。

 皇太子ルイガとその手勢に向けられた。

誠に申し訳ございませんが、多忙のため内容、文章量ともに非常に薄くなっております。

18日に時間が取れますので、その日に続きの投稿及び余裕があれば加筆修正など行いたいと思います。


しかしこの睡魔……日刊更新時代を思い出します。

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