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第33話-1 王道作戦

 国葬会場でガズルがイツシズを拘束しているその時、ガズルの屋敷内はルーリアトらしからぬ光景になっていた。


 というのも、ルーリアト帝国実権掌握のための”王道作戦”の司令部が設置されているからだ。


 数日前から馬車を用いて機材や人員が運び込まれ、結果として屋敷内には液化バッテリー方式の電源機と、それを用いる様々な機材が設置され、宿営地から現地入りしたSSとSL達がせわしなく動き回っていた。


 そしてそんなガズル邸の客間の一つに、一木を始めとする指揮官が集っていた。

 ベットに腰かけた一木はマナ大尉の持つ端末と、壁に投影されたモニターの情報に目をやり、現場要員とデータリンクしたミラー大佐を通じて指示を行う。


 客間以外にいる要員は各種補充物資の管理と現場への補給業務、緊急時に備えての待機、作戦終了後に帝国や地球本国へ提出する資料映像の撮影や書類作成などに追われていた。


 そんな慌ただしい現場で、ある意味この作戦の主役とも言えるグーシュとミルシャはと言うと、先ほどから別室でオダ・ノブナガ撮影のもと、マイチューブの動画撮影に勤しんでいた。


 ミラー大佐が文句を言うのにも構わず、今も隣室で視聴者から薦められていたゲームをプレイしている。


「あんの皇女様……」


「ミラー大佐、もういいよ。それよりも状況はどうだ?」


 不機嫌そうにするミラー大佐をたしなめると、一木は先ほどから一向に変わらぬ状況を尋ねた。

 イツシズ達のドブさらい計画はすでに第二段階へと移行しており、危険を感じて家屋敷に立てこもった者達への強襲が行われている。


 各現場付近には特務課のSS達が待機しており、逐一情報がミラー大佐に伝えられている。

 ミラー大佐がその情報を別室にいる戦務課のオペレーター達に伝えて、そのオペレーターが一木にもすぐにわかるような画像や動画を作成して端末に映し出してくれる。


 一見回りくどいシステムだが、情報を管理する端末へのデータ出力の過程に、参謀型とオペレーターを噛ませる事でハッキングを予防できる(と考えられている)システムだ。


 モニターのマップにはイツシズ派の騎士と民兵。

 死んでもいい標的、死んではいけない標的。

 異世界派遣軍の部隊。

 そして、皇太子とお付き騎士達が見やすく色分けされていた。


 その上、部隊を表す点をタップすると人数や装備、想定戦闘力が表示されるという至れり尽くせりの状況だ。


「すでに第二段階の強襲で標的六人が死亡か……今のところは死んでもいい標的しか襲われていないんだな?」


 一木が尋ねると、ミラー大佐は頷いた。


「保護対象への強襲はまだよ。あとは、イツシズの手勢の戦況に注視しないと……少しでも強襲が失敗しそうになったら、即座に介入させるわよ」


 今度は一木が相槌を打った。

 少し緊張しているのか、顎の部品が胸のパーツに触れて部品に傷がついた。

 それを見てミラー大佐がため息をついた。


「落ち着きなさい。あんたが緊張しても、何もいい事なんかないわよ」


「わかっているさ……」


 一木は小声で反論するが、その声自体がやはり緊張感を含んでいた。

 ミラー大佐は再びため息をつくと、懐からいつもしゃぶっている煙草を取り出した。

 そして箱から一本取り出すと、一木の嗅覚センサーのある首元の隙間にそっと差し込んだ。


「これは……」


 困惑する一木に、ミラー大佐はいつも以上にぶっきらぼうな様子で答えた。


「ハンス大佐が愛用してた煙草……と同じ銘柄よ。私もよく知らないけど、人間がリラックスする香りがするらしいわ。それでも吸って落ち着きなさい」


 目を背けた、ぶっきらぼうなミラー大佐の口調が、たまらなく一木の心に沁みた。

 火をつけていない煙草の香りにリラックス効果があるかどうかと言うと、それは怪しい事も分かっていた。


 それでも、暴走するほどに好きなハンス大佐由来の煙草を自分にくれた事が、一木は嬉しかった。

 センサーが煙草の匂いを感知する。

 生身のころ吸ったことは無かったが、悪い香りではない。

 作戦が終わったら、火をつけて匂いを嗅いでもいいかもしれない。

 どのみち、今の体にニコチンは害を及ぼさない。


「ありがとう。ミラー大佐」


 思わずマナ大尉が嫉妬するような、優しい声だった。


「べ、別にあんたのためじゃないわ! 私が現場指揮を執る作戦が失敗したら困るから……それだけよ!」


「テンプレだなあ」


 少し気持ち悪い口調で一木は言った。

 モノアイに写るマナ大尉とミラー大佐の表情を見て、一木が深い後悔に苛まれる。

 

 そんな事をしていると、ゆっくりと部屋の扉が開いた。

 グーシュとミルシャが戻ってきたようだ。


「どうだ一木? 順調か?」


 少し汗ばんだグーシュが状況を聞いてくる。

 そんな様子と、オダ・ノブナガがいないことに疑問を抱き、質問に頷きつつ一木は訊ねた。


「いったい何をしてたんだ? それにノブナガは?」


「いや、すまんな。地球の偉人を召喚して戦うDGOというゲームをやっていたんだが……ガチャでヒートアップしてはしゃぎすぎた」


 カラカラと笑うグーシュを見て、一木は違和感を覚えた。

 それが何なのか、自分でも分からなかったが……。


 だが、どこかいつものグーシュとは違う雰囲気を感じたのだ。


「グーシュ、どうかしたか?」


「いや別に。ああ、ノブナガだな。あ奴には、うっかりわらわが壊した花瓶の破片を片付けさせているのだ。なあ、ミルシャ」


 グーシュが話を振ると、ミルシャは目に見えて慌てて、ぎこちなく首を縦に振った。

 やはり、どう見てもおかしい。


「……なあグーシュ。何か隠して……」


「緊急連絡よ!」


 しかし、一木の言葉は最後まで口にされなかった。

 ミラー大佐が現場からの報告を慌てて知らせてくれたからだ。


 やむを得ず、一木は投影されたモニターにモノアイをやった。


「何があった?」


「イツシズ派の部隊が苦戦してる……ミース・ギャナって女の邸宅よ!」


 すぐさま帝都の一画にある屋敷のマップが表示される。

 そこには、みるみる数を減らすイツシズ派を表す点が映っていた。


「一木!」


 ミラー大佐の言葉に、一木は決心した。

 緊張出来る贅沢な時間は、すでに終わったのだ。


「ミラー大佐。近くにいる特務課を向かわせてくれ。……全員……殺すんだ」


 悲壮な決意を秘めて、そのせいで擦れた声が部屋に響いた。


「ああ、さようならミース……お前の茶はうまかったぞ」


 しばし沈黙した部屋に、グーシュの楽しそうな声が聞こえた。





 一木達のいる部屋とは離れた客室。

 そこで、重巡洋艦オダ・ノブナガは床板を引っぺがして、その下にある石材をさらに手で砕いていた。

 本来の使用人が見れば悲鳴を上げるような光景だが、オダ・ノブナガにためらいの空気は無い。


 実に楽しそうに、部屋の床を破壊していく。

 そんな光景がしばらく続いた後、何かが崩れるような音とともに、床の石材が崩れていった。

 そこには、空洞があった。


「おお! グーシュ姉の言う通りだ! よーし、急いで用意しなくては……」


 いたずらでもするかのように楽し気に、オダ・ノブナガは何かの作業を続けていった。

ちょっとショックを受ける出来事があり、作業が捗りませんでした。

楽しみにしてくださっていた皆さんには、内容が薄く申し訳ございません。


次回から何とか当初の想定通りの派手めな内容にしたいと思いますので、よろしくお願いします。


次回更新は10日の予定です。

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