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第29話-1 対話

 一木の言葉を聞いた賽野目博士は、目を見開いた。

 

「……正直、有無を言わさず殴られると思っていたよ」


「そのつもりでしたけど……昔から、どうも怒りが長続きしないと言うか……土壇場になると頭が冷えるというか……あなたの顔を見たら、まずは話を聞いて見たくて」


「……場所を変えようか」


 賽野目博士はそう言うと、慣れた手つきでパチリと指を鳴らした。

 途端に、周囲の光景が切り替わる。


 披露宴会場から、見た事の無い一軒家の居間へと一瞬で移動していた。

 ハイタとの対話で似たような事を体験していなければ、さぞ驚いた事だろう。


「ここは……見覚えのない家だ。実家でもないし……」


「ここは、君がこの夢を見続けていれば、シキと一緒に引っ越した筈の家だよ。頭金を君とシキの両親が出して、三十五年ローンで買う予定だった」


「なるほど……」


 一木は呟くと、リビングにあるソファーに座った。

 賽野目博士も、対面に座り、長く息を吐いた。


「さて、聞きたいこととは何かね、一木君?」


 見た目通りの重厚な声に、一瞬一木は圧倒されそうになった。

 だが、すぐに思いなおす。

 この老人ともそれなりに長い付き合いだ。

 普段の軽いノリの口調を止めて、こういう真面目な声で喋るときは、大概本気で反省しているときか、落ち込んでいる時なのだ。


「正直言って聞きたいことが多すぎるんですが……順に聞きましょう。あなたの、目的は何なんですか? なぜ俺をシキのパートナーに選んだんですか?」


 重苦しい雰囲気のまま、賽野目博士は一木をジッと見ていた。

 十秒ほどもそのまま沈黙した後、カイゼル髭を揺らしながら、ゆっくりと口を開いた。


「私の目的は、サーレハからも聞いただろうが、人類、ナンバーズ、アンドロイドの立場を同一なものにして融和を図り、社会をよりレベルの高いものへと変革することだ。そのために、人類への協力は惜しまない。それゆえ、ナンバーズや札付きからは、融和派と呼ばれている」


「確かに、それは聞きました。あなたともう一人からなる融和派。ナンバー2、3からなる強硬派。ナンバー6、7からなる支援派が存在すると……」


「うむ。私は、過去の文明の失敗を分析して、この結論に至った。すなわち、機械と生物が主従や道具と言った関係から脱却し、対等に手を取り合う社会構造こそが、我らの主である高次文明にふさわしい、とね」


 賽野目博士の言葉に、一木はどこか違和感を覚えた。

 しかし、それが何なのかまでは分からなかった。


「高次文明……それはまた随分と大きく出ましたね……」


 ある種の皮肉を込めた言葉だったが、賽野目博士は話している内にのってきたのか、皮肉には気が付かず、少し早口で語り始めた。


「確かに無謀で、大げさに聞こえるだろう。しかし、七つの、地球を遥かに超える文明達が至れなかった、一億年を過ごしたハイタですら見当も付かない存在こそが、我らが求める主なのだ」


 (あるじ)


 ナンバーズを語ると必ず出てくる言葉だ。

 彼らの最終的な目標とされる存在。

 彼らの目標は、地球文明をそれにふさわしい域まで高めることなのだという。

 大粛清で億の命を奪い、今も異世界で血を流させ続けて尚、求め続ける存在。


「結局、あなた達の言う主とは、一体何なんですか? どうすれば、地球はそれになれるんですか?」


 話が逸れている事を承知で、一木は訊ねた。

 しかし、先ほどまでの熱っぽさが嘘のように、賽野目博士はバツが悪そうに口ごもった。


「君にはすまないが、私にも、仲間にも、ハイタにもわからんのだ」


「は?」


 素っ頓狂な声が、口から洩れた。

 それほどまでに、拍子抜けするような返事だった。


「我らが出会った中で最も進んでいた文明であるハイタを生んだ爬虫類知的生命体ですら、巨大単一生命と言う訳の分からないものになり果てた。それ以外の文明も、また滅んだ。我らはずっと、理想の主と言う形の分からないものを、ハイタ以来一億年間追い続けているのだ」


「頭がどうにかなりそうだ……。けれど、あなたはある一定の考えに至った。だからこそ、休眠したハイタを起こそうとして、だから……」


「そうだ。シキ……いや、死期(シキ)を作ったのだ」


 脱線した話がようやく戻った。

 その事を自覚して、一木は泣きたくなるような心を深呼吸して静めた。


「……私が言うのもなんだが、大丈夫かね?」


「続けてください……」


「……ハイタが休眠したのは、二度目の大粛清の直後だった。スルトーマが主導した大粛清は、荒療治だったが確かに効果を上げてはいたのだが……だが、一億年を過ごした彼女の人格には、いささか負担が大きすぎたのだ。一度は了承したものの、実際に死んでいく地球人を見た彼女は、憔悴して……全てを我々に任せ眠りについたのだ。ここまではいいか?」


「はい……」


「それから、我々はそれぞれの目的や考えに沿って、三派に分かれて活動を開始した。スルトーマとシユウ、私とヒダルは人間として地球で活動して、コミュニスとオールド・ロウは異世界で活動した。当初はハイタの計画に沿って、地球人類を主にふさわしい文明に育成するという目的の為に活動していた我々だったが、ハイタ抜きで活動する中で、主を得る過程に変化が生じた」


「変化?」


「そうだ。……他の連中は後にするが、我々融和派は単純な育成から、先ほども言ったアンドロイドと我々自身との融和社会の創設を目指すことになった。まあ、言ってしまえば主に育成するという目的の放棄だ。どちらかと言えば、我々は地球人類と共に歩んでいくことを目指したのだ」


 先ほどから感じていた違和感の正体に、一木はようやく気が付いた。

 結局のところ、賽野目博士とヒダルというナンバーズは、ハイタの目的を放棄したのだ。

 主という曖昧で自分も分からないものから、彼らなりに現実的な目標へとシフトしたのだろう。


「そのために必要だったのが、縮退炉だ。ブラックホール機関。いわば超小型で、ダイソン球と同レベルの出力を持ち、ダイソン球以上の無線送電機能を持った無敵のエネルギー源だ。私とヒダルはこれをどうにかして地球人類に与えたかった」


「……ハイタの話では、ナンバーズはみんなそれをエネルギーにして動いているんでしょう? 意地の悪い質問で悪いですが、ご自分の縮退炉を譲ってくれれば……」


 一木の質問を予想していたのか、賽野目博士はすぐに答えた。


「そういう訳には行かなかった。私とヒダルのどちらかが縮退炉のエネルギーを自身の機能維持意外に用いたり、縮退炉そのものを人類に譲れば、必ずスルトーマ達強硬派が融和派を潰しに入ったからだ」


 ナンバーズ同士の抗争。

 派閥など組んでいたので、もしやとは思っていたが、実際に当の本人からそれを聞くと、衝撃的だった。

 一木は思わず、久しくやることすら出来なかった唾を飲み込む動作をした。

 そこで一木は気が付いた。

 地球人類を育成する方針を強硬派も維持していたのならば、手段が違うとはいえ同じナンバーズを潰そうとまでは思わないだろう。

 という事は……。


「強硬派もまた、考えを変えたのですね?」


 一木の言葉に、賽野目博士は頷いた。


「さらに言うとだ、支援派の二人もだ。多少の差はあれど、あいつら四人の考えは大筋で一致することとなった。過程で言うと、融和派の考えとも一致する点があるのだが……私たちにとっては許容できない計画だった。それゆえ、急ぐ必要があった。何とか私たち融和派が主導権を握ったうえで、ハイタの縮退炉を地球人類に譲る必要があった。そのため、私が主導して計画したのがハイタの持つアンドロイドの記憶データ収集機能を利用した、ハイタの覚醒及び懐柔のための計画……特殊アンドロイド死期を用いた、ハイタ覚醒計画だ」

 

「……それになぜ、俺が選ばれたんですか? 小説や漫画みたいな隠された血筋とか……」


「偶然だ」


「…………」


 賽野目博士の断言が、一木の頭に反響するように響いた。

休日すら忙しいですが、何とか頑張っております。

次回更新は26日の予定です。


次回も、お楽しみに。

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