第27話-2 それぞれの目的
そんなケイン議員の様子を見て、加藤局長とスルト大佐は肩をすくめた。
「そうは言うが、彼らを見出したのはあなただ」
「そうそう。党勢回復の切り札! って言って、今みたいに鼻息荒かったのを覚えてるぜ?」
二人の言葉に、ケイン議員は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
二人の言う事は事実だからだ。
実のところ、リベラル融和党という党は名に反して、政策にリベラルな要素がほとんど無いのである。
彼らの党にあるのは、純粋な反アンドロイド政策のみ。
彼らと民主党をケイン議員が結び付けた当時、四人組の政治が安定するにしたがって民主党は追い込まれていた。
その流れを変えるべく、ケイン議員が注目したのがアンドロイドへの反感を抱いているが、政策的には保守的だったり、反リベラルであるため、与党支持にも野党支持にも流れることの無い無党派層や、反アンドロイド派と呼ばれる層だった。
ケイン議員は、反アンドロイド以外には主張の無いリベラル融和党と、過激な行動で主張の発信力の強い人類救済党と手を組んだのだ。
この目論見は成功し、野党はそれまで中間勢力として浮いていた人々の支持を得る事に成功した。
だが……。
「あまり年寄りを苛めるものではない。……だが、その通りだ。私は確かに彼らを通して中間派を取り込むことに成功したが、過激化しやすい単純な主張を繰り返す彼らとの協力関係は、我々から現実路線という、政権奪還に最も必要な要素を奪ったのだ。だからこそ、党幹部に考える頭があるうちに、奴らとは手を切る必要があった」
「はいはい。まあ、俺らはいいけどよ。あんたが良ければな」
ケイン議員に対して、スルト大佐が煽るように言った。
「……私も、情報をくれた事には感謝している。しかし分からないな……」
ケイン議員は独り言ちた。
「何がだ?」
「私がマエガタの失脚を狙っているのを知った君たちが、それを行うにふさわしい場所と言って提供してくれたのが、今日の査問会だが……解せんな。あの異世界人の皇女が、なぜあのようにマエガタを追い詰められると知っていた?」
ケイン議員が問うと、二人は含み笑いを漏らした。
そして、加藤局長が静かに人差し指を立てて唇に当てた。
「それは、さすがに企業秘密です。ですがこれだけは言えます。今回の査問会では、あなただけではない。私たちもきちんと目的を果たすことが出来たのですよ……その点はご安心を」
加藤局長の似合わない動作に、嫌そうな表情を浮かべながら、ケイン議員は静かに部屋の扉の方へ歩みだした。
加藤局長達に何を言っても仕方ない事を知っていたのだ。
「それならば、私も何も言うまい。ただ、くれぐれも地球人に恥じるような行いはしてくれるな」
ケイン議員はそう言うと、振り向きもせずに部屋を出て行った。
それを見送った二人は、無言で拳をぶつけ合った。
「うまくいったな……」
加藤局長が静かに呟いた。
「ああ、うまくいった。コミュニスはいい仕事をしてくれた。あれなら、いずれ任せられるだろう」
スルト大佐が楽しそうに言った。
「地球人はいささか賢くなりすぎたからな。あの皇女の才能も、地球生まれでは活かせない。素行不良やらセクハラで潰されてしまう……人権意識や潔癖も考え物だ」
「その点異世界で育成すれば、そういう地球人の下らねええり好みから才能の持ち主を守れるってわけだ。ハハッ! あの理解力! あのカリスマ! まさに天性のアジテーターだ」
二人は尚も楽しそうに語り合う。
彼らにとって、グーシュはお眼鏡に適ったようだ。
実に楽しそうに、先ほどまでのグーシュについて論じる。
そんな中、ふとスルト大佐が思い出したように加藤局長に訊ねた。
「そういやよう……なんでお前、殿下に素っ気なかったんだ? 楽しみにしてた割に随分と淡泊な態度だったじゃねえか?」
その問いに対する加藤局長の反応は、無言だった。
しかし、スルト大佐に見えないように顔を背ける態度が、彼にとってグーシュが深い思い入れの対象であったことを感じさせた。
「おい! シユウ!」
その態度が少しイラついたスルト大佐は、少し声を荒げた。
すると、加藤局長は小さく呟いた。
「似ていたんだよ……」
「あ?」
「似ていたんだ。川に落ちたあの子に……」
消え入りそうな声だった。
「川って言うと、ルーリアトでお前が助けた娘っ子か」
加藤局長は軽く頷いた。
「祖先に似た、いい娘だ。思わず本人かと思ってしまった。だから、もし話しかけでもしたら、抱き締めてしまいそうで怖かったのだ」
その問いを聞いたスルト大佐は、今度こそ大爆笑した。
「お前の……人間の女好きは本物だな。しかしよ、その大切な女との思い出の場所を……いいのかよ?」
「構わんよ。どのみち、彼女本人では無いのだしな。第一、すでに餌に食いついた後で言っても始まるまい……それともお前が阻止するか?」
加藤局長の言葉に、スルト大佐は少し考え込んだ。
その様子に加藤局長は少しだけ、焦ったようにスルト大佐を諫め始めた。
※
査問会場を出たケイン議員は、堂々たる態度で廊下を進むと、議会の正面玄関から外に出た。
そしてそこで待ち受けていた議員専用車両に乗り込むと、議員事務所へと車両を進めさせた。
豪勢な車両で、車内にはゆったりとしたリビングの様にくつろげる空間が広がっていた。
向かい合うように設置された座席は、高級ソファーのような素晴らしい逸品だ。
だが、この車両の最も豪勢な点はそこではない。
なんと、アンドロイドやSAでは無く、人間が運転しているのだ。
労働がアンドロイドによって行われる現代においては、この上ない贅沢な仕様だ。
そんな豪勢な車には、先客がいた。
査問会前にマエガタ議員に罵倒されていた新人議員達だ。
二人は、椅子に座ったまま、真向いのケイン議員を見つめていた。
そして、車が発進してケイン議員が頷くと同時に、口を開いた。
「先生、お疲れ様でした」
「ああ、お疲れ様。どうだったね、首尾は?」
ケイン議員が問うと、二人は少し高揚したような様子で成果を口にした。
「成功です。情報公開されたデータから辿ることで、ワーヒド星系の異世界ルーリアト帝国の情報を掴むことに成功しました」
「間違いありません。七惑星同盟本部の予測通り、駐留兵力は機動艦隊一個に地上に歩兵師団一個だけです。……いけます」
二人の報告を聞いて、ケイン議員はゆっくりと天を仰いだ。
「よし、よくやった。これで本部艦隊による攻撃開始の目途が立ったな。お前たちは至急、情報路の
三番を用いて火星と同盟本部に情報を知らせろ」
「了解しました」
「ハッ、はい!」
新人二人の返事を聞いて、ケイン議員は満足げに頷いた。
「申し訳ないが殿下……あなたの故郷の犠牲によって……地球を救わせてもらいますよ」
ケイン議員の小さな謝罪は、豪奢な車内に静かに消えていった。
遅くなり申し訳ございません。
ちょっといろいろと立て込んでいてこのような形になりました。
これにて査問会は終了。
次回更新は19日の予定です。
どうかよろしくお願いします。




