第25話―4 査問会
加藤局長の言葉に、グーシュは内心で身構えた。
帝都で反対派の大粛清を行おうとしているイツシズ一派に便乗し、都合のいい人物を残してグーシュにとって不都合な人物を消していく。
その上で罪をイツシズ一派に押し付け、グーシュは堂々と帝都に帰還する。
正直言って、ルーリアトの基準で言っても褒められた作戦ではない。
地球人は、こういった不正規な行動を嫌うという話を聞いていた事もあり、グーシュはこの事を責められることを一番警戒していた。
とはいえ、この点に関しては対策を立ててある。
まず、マエガタ議員たちが突いてくるだろう点としては、作戦の非人道性があげられる。
だが、グーシュはこれに対し、異世界派遣軍の行った過去の作戦を引き合いに出すことで対応するつもりだった。
グーシュが読んだ資料だけでも、異世界派遣軍の行った作戦は中々の悪辣っぷりだ。
過去の地球における国際裁判においては、「相手がやったから」は免罪にならないとされたようだが、その点今から行われるのは裁判ではない。
そもそもこの査問会とは、地球人では無いグーシュを異世界派遣軍の規定を基に糾弾しようという、根拠の薄く、実績もほぼ無い野党勢力のガス抜きのようなものだ。
マエガタという男がどういうつもりかは知らないが、グーシュには舌でどうにか解決するだけの自信と、事前準備による対策があった。
それに、この査問会の結果はあくまでも、異世界活動監視委員会という与野党議員双方を含む、この場にはいない面々による組織が決定するのだ。
目の前の野党議員二人がここでグーシュの適性に難ありと判断すると、その委員会に案件が移行し、審議されることになる。
とはいえ、油断は出来ない。
与野党の駆け引きの関係で、現在その委員会の面子は与野党が五分五分なのだ。
しかも与党側には異世界派遣軍の活動に厳しい目を向ける、中道派の人間が混じっているため、状況次第では多数決でグーシュのオブザーバー資格の停止が議決される可能性もあるのだ。
こうなると、やはりこの場で査問会の流れを作戦は適正との流れに持っていく必要がある。
しかし、意外な事にこの後、グーシュが思っていたような事は起きなかった。
確かに加藤局長の説明の後、作戦の非人道性や帝国の政治情勢に関する質問は行われたものの、それらの追求は異常な程甘く、グーシュが軽い牽制で語った言葉でマエガタ議員は引き下がってしまった。
最初は驚きを表に出さないようにしていたグーシュだが、その流れが続き、いよいよ加藤局長の解説とマエガタ議員による追及がひと段落した辺りで、思わず焦りが表情に浮かんでしまった。
(なんだ! この男……作戦内容の追求が狙いではないのか。ええい、抜かった。対策を立てすぎたのが裏目に……いや、どうせ同じか……。だがこいつ、いったい何をする気だ?)
グーシュのそんな胸中を見透かしたかの様に、マエガタ議員はにたりと笑みを浮かべた。
グーシュの心に怖気が走った。
あの男は、もしや……。
グーシュは、ある種確信めいた考えに至った。
しかしそれを確信はしても、相手の出方が分からなかった。
場所が分かったが、方法が分からない。
それがグーシュから、さらに余裕を無くさせた。
(図らずも一木の時と同じように、場の空気作りで一本取られたか。なまじ舌戦で巻き返そうと力みすぎたか……)
自分の失敗を客観視することで落ち着こうと務めるグーシュ。
それを見透かしたように、マエガタ議員の言葉は攻撃を始めない。
「加藤局長、説明ありがとうございます。なるほど確かに、グーシュ殿下のおっしゃる通り。今回の作戦は一見非人道的ですが、過去の派遣軍の作戦に照らし合わせて見れば、違法とまでは言えません」
「……無論だ」
「ですが帝国法に照らし合わせた場合はどうですかな?」
「それは、あなた方がこの場で気にすることではあるまい」
グーシュの言葉に、マエガタ議員は大仰な身振りで反応して見せた。
それが、焦るグーシュの神経を逆なでする。
「いえいえ殿下。条約加入後の帝国国民の支持率に影響する重大な問題ですので……」
単なる質問ではないはずだ。
どこかで、何らかのグーシュの言葉を釣りだして、そこを責めるはずだ。
そう思い、グーシュは慎重に言葉を紡ぐ。
「恥ずかしながら帝国法は、法学という概念が無いような未熟なものだ。未だに憲法も無く、法律と皇帝の命令どちらが優先されるか曖昧な有様だが、それでもよければ答えよう。現状の帝国法では、帝国の国益に反する者の処罰に関しては、皇族の命令があった場合合法的に殺害、拘束することが可能だ。これは統一戦争時の”ボスロ帝綱紀粛正に関する法令”が廃止されていない事からも確かだ。よってわらわが許可すれば、慣例的な観点でも殺害行為は合法だ」
この時ほど、未熟な自国の法に感謝したことは無かった。
もし地球の様な法体系が帝国にあれば、今は誤魔化せても後々酷い追及を受ける事になっただろう。
そもそも、まともな法体系がある国で、合法的に役職についていない第三皇女が異国と組んで自国民を殺害出来るはずが無い。
そして、グーシュはささやかな補足を行った。うまくいけば、後に反撃の足掛かりになるはずだ。
「マエガタ議員。わらわの話を聞かれて、がっかりしたことだろう。だが事実だ。帝国は、近代化を目指してはいるが、地球から見れば赤子同然の野蛮な国だ。だからこそ、わらわはこの国を地球のような国にするべく、心を鬼にして事をなしたいと思っている。この作戦こそ、帝国の膿を出す外科手術に他ならない」
あえてマエガタ議員が反論してきそうな点を残した発言だったが、マエガタ議員は涼しい顔でそれを見逃した。
そして、再び確認するかのような質問をぶつけてくる。
「なるほど、ご立派な事ですね殿下。ちなみにですが、その膿……殺害対象の方々は、どのような点で帝国の国益に反しているのですか?」
「……今回の場合、私服を肥やす人物や、中央集権化して皇帝と貴族の独裁を狙っている者達。いわゆる中央集権派と呼ばれる一派だ」
「ほうほう! そうですか。やはり、ルーリアトにおいても私利私欲や個人の欲求のために権力を利用する者は、国からも処罰されるし、民衆からも支持されない。そのようですね?」
ここに来ての念押しするような発言に、グーシュは警戒する。
だが、不審に思われないようにするための短い思考では、意図が読めなかった。
「その通りだ。だが、その点で言えばわらわも完全な権力者とは言えんな。全ての権力行使が私欲抜きかを問われれば、違うとは言い切れぬ」
言い出した瞬間失敗したと思ったが、グーシュは焦りから生じた言い訳じみた弁明を止められなかった。
しかし、続いてのマエガタ議員の言葉は、そんな後悔を超えた所から襲い掛かってきた。
「いえいえいえいえ! 殿下は確かに民衆のために行動されておりましたでしょう。その事は資料からも明らかです。ですが、あなたの糾弾するべきところはそこではないでしょう。あなたの最も悪しき権力行使にして、最も悪辣な行為への謝罪と言及……それがついぞありませんでしたな!」
勝ち誇ったマエガタ議員の叫びに、グーシュは思わず鎧をがしゃりと鳴らしてしまった。
「何を言って……」
「グーシュ・リャリャ・ポスティ殿下! あなたの犯罪行為を、ここで問わせていただきます! ラト公爵領における、公爵家四男サッパ・ラト氏殺害に関して、ね」
サッパ・ラトの名が出た瞬間、グーシュと背後に立つミルシャの表情に、もはや取り繕いようのない動揺が走った。
なぜ、知っている。
どこまで、知っている。
間違いない。
あの男の狙いは作戦内容では無かったのだ。
(わらわの人間性を貶めるのが狙いだ!)
さらに、ルーリアトにおいてグーシュとミルシャしか知らなかったこの件に関して、目の前の議員が知っているという事はある一つの事実を示していた。
(艦隊に……向こう側と通じている者がいる!?)
グーシュは地球製の甲冑が、鉛のように重くなるのを感じた。
新年あけましておめでとうございます。
随分とお待たせしてしまいました。
仕事やカクヨム版の新規パートに時間を取られて、本編をお待ちの皆さまを随分とお待たせしてしまいました。
以後は以前のペースで投稿しますので、どうか本年も本作をよろしくお願いいたします。
次回更新は十四日の予定となります。
ちょっと本業がエライ事になっておりますが、何とか頑張りたいと思います。
もうすぐ一周年です。何かやってみようか……考えてみます。




