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第22話―7 アイリーン・ハイタ

「第20話―2 歓迎」本文中の政党名を変更いたしました。

 一木が囁くように言うと、ハイタは微笑みを浮かべた。


「今から言うのは、死期がコアユニットを損傷してから、意識を喪失するまでの136秒間の記憶のトレースです。だから、話しかければ答えることも出来る……それは、間違いなく死期の反応です。黙って聞くか、答えて上げるかはヒロ君が決めてください」


「ああ……」


「……さよなら、ヒロ君」


 そう言うとハイタであり、死期でもあった白い少女の姿は掻き消えた。


 代わりにそこに現れたのは、異世界派遣軍の副官の制服を着込んだ一人のアンドロイドだった。

 薄汚れて、胸に背中まで貫通した日本刀に似た刃物が刺さった、シキだ。


 それを見た一木は、ゆっくりとシキの傍らに歩いて行く。

 そして膝をつくと、倒れたシキに静かに顔を寄せた。

 そうすると、虚ろだったシキの目に、光が戻る。


「よかった、あなたが無事で。ヒロ君……ごめんなさい……私、もうあなたと生きていく事が出来ないの。けれども、よかった。あなたが生きていてくれたら、それだけで私の存在に意味があった……」


 一木は、シキの言葉にうなずく事も、話しかけることもしなかった。

 泣き叫び、強く強く抱きしめたい欲求を、必死に抑え込んでいた。


 そうすることが、一番だと思ったからだ。

 あの時と同じように、ただ泣き叫んでいるだけの情けない自分と、喋る事も出来ずに今と同じことを思う事しか出来なかったシキ、その光景を再現することこそが、シキの思いを受け止める一番の方法だと思ったからだ。


「私からの、最後のお願いです……。私がいなくなっても、長くふさぎ込まないで。立ち直ったら、アンドロイドでも……人間でもいい。誰かを愛して、愛されてください。あなたが孤独になる事だけが、私の気がかりです。そう……前潟さんなら、ヒロ君を大切に思ってくれると思います……あの人、きっとヒロ君の事が好きだから……」


「なっ!?」


 思わぬ情報と名前に、一木は思わず声を漏らしてしまった。

 一木の背後にいたマナも動揺する。

 瞬間、シキの視線が一木の方を向いた。

 シキの目から涙が溢れる。


「大丈夫……あなたは自分の事を低く見すぎるけど、あなたはとても魅力的な人です。自信を持ってください。どうか、新しい奥さんとも、幸せに生きてください」


「シキ……シキ! 俺は……俺は、君の事を……君の事を愛しているよ……」


 小さな動揺から出た言葉でも、一度タガが外れると耐えきれなかった。

 一木はあの時と同じように、シキの体を強く抱きしめ、あの時言わなかった言葉をシキに言ってしまった。


 脱力したシキは、だんだんと光の薄くなっていく瞳から涙を流し続ける。

 しかし、その涙……眼球洗浄液も残量が無くなったからか、排水機構が機能しなくなったためか、だんだんと少なくなっていった。


「……嫌だ……嫌だよう。やっぱり嫌、私がヒロ君と一緒にいたいのに……私が一番ヒロ君を幸せに出来たのに……嫌、離れたくない……ああ、ごめんねヒロ君。ワガママを言う私を許し」


 唐突に、シキの言葉は途絶えた。

 一木は力いっぱいにシキの体を抱きしめるが、数秒程してその姿は掻き消えてしまった。

 シキの時間が、ハイタの言った時間が終わったのだ。


「シキ? シキ……ああ……シキ……俺は……君が……」


「弘和くん……」


「一木……」


「司令……」


 一木は、シキが消えてからもしばらくそのままうずくまっていた。

 そんな一木を、参謀達が一人、また一人と抱きしめていく。


 はじめは参謀達の温もりをありがたく感じていた一木だったが、五人目のクラレッタ大佐が抱き着いてきた辺りで重さに音を上げた。

 あまりの重さに、思わず涙も止まる。


「ちょ、ちょっと待て……いくらなんでも……」


 一木の言葉にも関わらず、うずくまる一木に覆いかぶさるように参謀達は抱き着いていく。

 やがて、あまりの出来事に狼狽えるマナ以外の全員が一木に抱き着いていた。

 当然、仮想空間とは言えその中心にいる一木はたまったものではない。

 あまりの重さと息苦しさ。

 女性特有の柔らかかい感触と香りに、悲しみと困惑も吹き飛んだ。


 一木の鳴き声が止まって一分ほどすると、参謀達は一木から離れて行った。


「な、何のつもりだ一体! 人が泣いてる時にふざけてんのか!?」


 一木が怒りをあらわにすると、少し困ったような顔をする参謀達。

 だが、ただ一人怒りをあらわにする参謀がいた。

 ミラー大佐だ。


「何よその言い方! あんたを励まそうとしてやったんでしょうが!」


「だからって全員で組み付く奴がいるか!」


「? はあ? だってみんなでくっついた方が元気出るでしょう?」


 本気で疑問に思っているような言い方のミラー大佐に毒気を抜かれた一木が見回すと、どうやらマナ以外の全員がそう思っているようだった。

 どういうことなのかと疑問に思っていると、親切な事に義体のコンピューターがすっかり忘れていた知識を教えてくれた。


 SSやSLは、人間や同じアンドロイドと肌を触れ合わせる行為を自然に求めるようになっている。

 そのため、SSに自由にする用に命じると、猫や犬の様に集団でくっついている事がある。


 そしてその自分達の習性を、人間も同じだと思っている様なのだ。

 そのため、ある程度信頼を寄せた人間に対しては、集団でハグする行為を行う事がある。


 通称”アンドロイド饅頭”だとか”SS団子”と呼ばれる行為で、将官学校時代に人間の教官から、「部下から信頼されたら、アンドロイド饅頭が貰える」とからかい交じりで言われた事を思いだした。

 すると、先ほどまで心の中に渦巻いていたいろいろな感情が、少しだがスッキリした。


 シキの願いの一端である、一木が孤独になる事態だけは避けられているようだ。

 一木は、状況が分からずに抱き着かなかったマナと、そのマナを責めるジーク大佐とミラー大佐、そしてそれを仲裁している参謀達、ダグラス、クラレッタ、ミラー、(シャー)、シャルル、ジーク、ポリーナ、ミユキ。

 そして、マナ。


 一木にとって、皆かけがえの無い大切な存在だ。


「……ありがとう、みんな」


 はっきりとそう言うと、一木は立ち上がった。

 そして、深呼吸すると心配そうに一木を見るアンドロイド達を見回した。


「もう大丈夫だ。饅頭……じゃなくて、抱きしめてくれてありがとう。元気がでたよ」


「ほら、やっぱりそうじゃない!」


「大尉は人間をわかってないね。集団でハグされて喜ばない人間はいないんだよ」


「ええ……弘和君無理してません?」


 なぜか偉そうにドヤ顔でマナに勝ち誇るミラー大佐とジーク大佐、そして未だに納得いかない様子のマナ。


 どうやら、あの現実で生身の人間にやると危険な風習は、SSやSL特有の物で、人間と単独で接する機会の多いパートナーアンドロイドには無い物のようだ。


「……ただ、さっきみたいに身を低くした人間に一斉に抱き着くのはやめろよ? 下手すれば圧死するぞ……」


 一木が注意をするが、参謀達はあいまいに頷くだけだった。

 一木はやや不安に駆られたが、記憶では業務中の死者の死亡原因に圧死はない筈だった。

 ならば大丈夫だろう。一木は少し無理やり自分を納得させた。


 そして、朗らかな話がひと段落すると、ダグラス大佐が真面目な口調で口を開いた。 

 話は当然、ハイタが話した事についてだ。


「さてと、代将が立ち直った所で今後の事だ」


「正直、未だに混乱しているのが俺の正直なところだ……みんなはどう思った?」


 一木が水を向けると、殺大佐が疲れた表情でため息をついた。


「信じる……しかないだろう。疑ってもしょうがないっていうか、真贋を判断する情報も何もなさすぎる。一億年前から動いている家畜管理コンピューターとその仲間たちがナンバーズの正体です。私たちの主に相応しい文明を作るために何千万年もかけて地球文明を作りました! ……こんな事知らされてどうしろってんだ……」


「というか!」


 両手をあげて天を仰いだ殺大佐に続いて、ミラー大佐が声を荒げた。


「あんた、なんでハイタの申し出を断ったのよ? 適当なこと言ってシキの人格とやらになってもらって、縮退炉だかブラックホール機関だかを貰えばよかったじゃない?」

 

「いやミラー。それは悪手ですわ」


「クラレッタ(にい)……」 


「俺もそう思う」


「一木も? どうしてよ?」


 クラレッタ大佐に言われ、急速にトーンダウンしたミラー大佐に、一木は説明を始める。


「ハイタに言った事も俺の本心だ……あくまでシキはシキであって、代わりの存在はいない」


 一木の言葉を聞いて、ミラー大佐は半眼で一木を睨んだ。


「あんた、マナの前でよくそんな事が言えるわね」


「話の腰を折るなよ……マナの事が一番大切な存在なのは変わらない……それでも、シキとの思い出は俺には不可欠だ。……続けるぞ。そもそもハイタも言っていただろ? あえて俺が選ばないように、ハイタの強い人格で今回の事を話したって。あの時は俺や自分の感傷的なものでそうしたように言っていたが、そもそもなんでそんな事をしたと思う? 縮退炉を俺が手に入れると、不味いからだ」


「……なんで?」


「俺が知るわけないだろう。ただ、シキの人格が混じった彼女がそう思ったんなら、そうなんだろうな。それに、想像はつく。そもそも彼女が目覚めたのは賽野目博士……ナンバー4 ラフの仕業だ。縮退炉なんて代物を見逃して、俺が自由にするような事を見逃すとは思えない。あそこで俺がハイタの言葉に頷けば、確実にナンバーズからの介入がある。だから、あれに関しては放っておけばいいんだ」


「じゃあ、今回の事は苦労した割には無意味ってことっすか?」


「こら。そんなことないでしょ?」


 少しむくれた様子でミユキ大佐が呟くが、ポリーナ大佐が軽く叱りつけるように言った。


「私たちは、自らと人類の出自に関する情報を手に入れました。また、白い少女という正体不明の存在の正体と目的を知り、実質的に脅威を一つ取り除くことが出来ました。さらに、一木さんの機能拡充と言う明らかに得たものもあります」


 ポリーナ大佐の言葉を聞いて、一木はふと思い出した。

 そう、ハイタからは貰ったものばかりではない。

 アンドロイドから好かれるという加護を返しもしたのだ。


「そう言えば、みんなはどうなんだ? 俺への好意が低下したりは……」


「ああ、大丈夫だよ。ハイタも言っていた通り、あれはあくまで初対面での感情の初期値に細工するプログラムに過ぎないよ。僕たちも、艦隊のみんなも。そして僕の気持ちも何も変わらないさ」


 ジークが”僕”という部分に力を込めて力説する。

 一木は少し引きながらも、他のみんなが頷くのを見て、ホッとして軽く頭を下げた。


「ありがとう。気持ちが楽になったよ。さてとだ……」


 一木は再び深呼吸すると、作戦開始時の様に声を張り上げた。


「今日の事は、みんなのおかげだ。おかげで俺は、いろいろなものを吹っ切れた。これからは、迷うことなく目的に向けて進んでいける。この地球連邦を、ナンバーズ達がひれ伏すような立派な文明にする。それが俺たち異世界派遣軍の使命だ!」


 一木の堂々たる態度に、参謀達もホッと息をついた。

 これまでの一木とは違う、前向きな態度に安堵したのだ。


 だが、マナだけが一木の様子にどこか不安を覚えていた。

 確かに、一木は吹っ切れた。

 シキとの過去を振り切り、自分の行動への正当性を、ハイタの話から得ることが出来たからだ。


 しかし、マナにはそれがどこか不安定なものに感じられていた。

 うまく説明できない、危なっかしさを一木から感じるのだ。


(シキさん……私も、絶対に弘和くんの事を守ります。だから、見守っていてくださいね……)


 そうして、マナが決意を硬くする中も、一木の話は続く。


「その第一歩がこのルーリアト帝国をグーシュの手中に収めることだ。彼女を皇帝にして、そして大規模な改革を行って地球連邦に加入させる。そのためにも、まずは三日後の査問会を乗り切るぞ」


「その準備のためにも、一旦現実に戻るか」


「え? もう戻るんですの?」


 ダグラス大佐がそう言うと、珍しくクラレッタ大佐が焦ったような声をあげた。


「どうしたんだクラレッタ大佐? 何かあるのか?」


「だってもどうしたもありません! 私、今日は一木さんの仮想空間でTRPGが出来ると聞いていましたのに……結局酒盛りしかしてませんわ!」


「T、RPG? なんで?」


 一木が疑問に思うと、ポリーナ大佐が小声で教えてくれた。 


「私たちSSはね、製造後の自我を固める初期訓練の時に、TRPGを訓練の一環でやるのよ。最初は自我が弱いからね。自分ではない他者を演じさせる事で、自我を固めて、さらにゲームの役割を通して適性を見るわけ。まあ、今は最初から役職や業務が決まって製造できる新型もいるから、一概にみんながやるわけじゃないけど……」


「私、初期訓練以来、TRPGが大好きなのですわ!」


 ポリーナ大佐の言葉に、クラレッタ大佐が反応した。

 まるで少女……いや、少年の様なはしゃぎようだ。


「けれども、同じアンドロイドではシナリオがワンパターンでつまりませんの。だから人間の方にGMをやっていただきたいのですが、中々やってくださる方が居なくて……」


「そうしたら、一木代将の趣味がTRPGだって言うじゃないか? それでクラレッタ、今日は時間を見つけてプレイしようと張り切ってたんだよ」


 クラレッタ大佐や、アンドロイドの意外な趣味と特性に驚いた一木だったが、一木としても大好きなTRPGをすることは嫌ではない。

 

 それに、仲間とのコミュニケーションツールとしては最上級なのがTRPGだ。

 一木は、不貞腐れるクラレッタ大佐に優しく声を掛けた。


「よし。こんどみんなでやろう、TRPG」


「本当ですの!?」


 別人のような喜びように、一木は苦笑する。

 なぜか、ミラー大佐が青ざめた顔をしているのが気になったが……。


「よーし、約束ですわよ? クトゥルフ大規模キャンペーンでやりたいのがありますの! 全20話の世界一周後にドリームランドを旅する大作ですわ!」


 その言葉を聞いて、一木の表情が曇る。

 そんな一木に、青い顔をしミラー大佐が近寄ってきた。


「知らないからね? クラレッタ(にい)がああなったら休息は無いと思った方がいいわよ?」


 一木は、早速のやらかしに後悔した。

 

(少し調子に乗りすぎたな……こういう時はだいたい碌でもない事が起きるんだ)


 一木が胸中でそう思っていると、ダグラス大佐がその場を締めてくれた。


「クラレッタ、落ち着け。一木代将の事も考えろよ? さあ、楽しい時間はお開きと行こう。現実は今ちょうど朝の七時くらいですか……。戻ったら、一木代将とマナ大尉は午前中はお休みください」  


「しかし……」


 一木は反論しようとするが、ダグラス大佐はそれを制した。


「あなたは、あなたが思っている以上に心にダメージを負っています。シキさんの事、これからの事。きちんと大尉と一緒に飲み込んでください」


 柔らかく、それでいて強い意志の言葉に、少し考え込んだ一木はコクリと頷いた。


「分かった。休ませてもらうよ」


「はい。そして私たちは忙しいぞ。ミラー以外は現実で作業中の自分とすぐに記憶を同期しろ。その後はナンバーズのあたりを付けるため、軍や政府機関の人員の名簿を片っ端からあたれ。情報を考えるに、ナンバーズが化けている人間にはある程度名前に特徴があるはずだ。こんな事で確実に特定できるとは思っていないが、目星は付けられるはずだ」


「「「了解!」」」


「はぁ……私も早くマルチタスク可能に戻りたいわ」


 ミラー大佐ががっくりと肩を落とす。


「……どういう事なんだ?」


 一木が尋ねると、シャルル大佐が説明し始めた。


「要するにですね、ミラーちゃん以外の私たちは、今こうしている間も現実空間で作業中なんですよ。私も、書類仕事しながら、ぬか床とキムチ樽とピクルスの管理しています。ハイタさんの影響で今は通信が出来ませんが、起きてすぐに同期すれば仮想空間での出来事を瞬時に把握できるんですよ」


 納得した一木はミラー大佐の気持ちが分かった。

 この状態でも、ミラー大佐は外務副参謀だ。それなりに業務がある。

 一晩の間作業が止まったとなれば、それは憂鬱になるだろう。


「ミラー大佐、落ち込むなよ。師団の事務方から何人か貸すから……」


「あら、一木代将? あまりミラーを甘やかさないでくださる? そういった事も罰なんですからね」


「クラレッタ(にい)~」


 そんな参謀達のやり取りを聞いて、一木は笑った。

 ここ最近無かった、本心からの笑いだった。


(大丈夫だよシキ。俺は、大丈夫だ……必ず、やり遂げる。そして……)


「よし、駄弁ってないでログアウトするか……いったん元の部屋に戻ろう」


 そうして、くだらない話をしながら、一同は一木の部屋へと戻った。

 そして、長い夜は終わった。




「んん……」


 ポキュッという音を立てて、デフォルメミラー大佐は起き上がった。

 仮想空間の体は見る影も無い。柔らかく、短い手足と大きな頭だ。


「はぁ……憂鬱……って、はあ!!!!」


 瞬間、ミラー大佐は驚愕した。

 あり得ないことだ。

 起きて、艦隊ネットに接続した瞬間、感情が警告を鳴らし、焦りの感情が怒涛の様に押し寄せる。


「そんな馬鹿な! 嘘……エラーじゃない……今日は、()()()()()()()()()()()」  


 あり得ざる事だった。

 仮想空間と現実空間の時間をずらすことは、技術的に可能ではある。


 だが、それは脳に大きなダメージを与える可能性がある上、広く実用化されれば恐ろしい拷問や、逆に麻薬を超える依存性を及ぼす技術になりえるため、強く禁じられていた。


 仮想空間で酔っ払う事などとは比較にならない。

 艦隊参謀と言えども困難な事象の筈だった。


 だが、相手はナンバーズだ。



「迂闊だった……そうだ、一木が言ったじゃない。ハイタを起こしたのがナンバーズなら、絶対にアクションを起こすって……だから、やられた……でもまさか、こんなに早いなんて……」


 ミラー大佐はひたすらに情報を集めていた。

 三日間眠っていた一木の安否が心配だったが、ミラー大佐以外の参謀達が普通に作動していた事もあり、大事は無いようだった。


 同様に、査問会の準備やグーシュ達に関しても、致命的な出来事は起こってはいないようだ。

 情報を収集して、やや落ち着いたミラー大佐は、ポテンとベットに座り込んだ。


 すると、ドタドタと激しい足音が聞こえてくる。

 同時に、無線通信で慌てふためく声が聞こえてきた。

 ミユキ大佐だった。


「ミラー! 起きたっすか!? 今同期したっす!」


「ええ……ナンバーズ……甘く見すぎたわね……こんな事をしてくるとは……けれども、あなた達が準備してくれたから……」


 だが、落ち着いたミラー大佐とは対照的に、同期したミユキ大佐の様子は尚も慌てたままだった。

 そのミユキ大佐の様子に、ミラー大佐は違和感を感じた。


「どうしたの? 査問会で何かが?」


「えーと……査問会の情報をミラーに送信……エラー? なんで? 外務副参謀が常設じゃないから……登録……クラレッタの許諾? サーレハ司令の音声認識……ああ! もう! ミラ―、直接来た方が早いっす!」


 そう叫ぶや否や、ミラー大佐を乱暴に抱きかかえると、ミユキ大佐は査問会が行われるシャフリヤールの中央通信室へと走り出した。


「ちょっと、何なのよ?」


「だから、ナンバーズを甘く見てたっす……まさか、こんな介入をしてくるなんて……正直意図も読めないし、開始直前に同期したから、参謀の誰も気が付けなかったっす……」


「だから……」


「ついたっす!」


 数分ほど全力疾走した結果、二人は中央通信室にたどりついた。

 開きかけの自動ドアに滑り込む様に入室すると、そこには無数のコンソールとそれに座り処理を行うオペレーター達。


 そして、巨大なスクリーンがあり、そのスクリーンには、別室で椅子に座るグーシュと背後に控えるミルシャ。そして二人を取り囲む様に立体映像で映し出される、議員と官僚たちの姿があった。


「もう始まってるじゃない……で、何が大変なのよ?」


「出席者っす!」


 ミラー大佐が言われた通り出席者に目を向け、思わず絶句した。


「嘘でしょ……」


 グーシュの正面に座り一見温和な表情でグーシュ達を見つめるのは、最大野党連邦民主党の大物。反火星主義の野党連合をまとめ上げた剛腕、コリンズ・ケイン上院議員。


 そしてその隣に座るのは、イラつきを隠そうともせずに、用意した資料を読み込んでいる神経質そうな細身の男。

 過激な反ナンバーズ、反アンドロイド主義で知られるリベラル融和党の論客、イチロ―・マエガタ上院議員。


「野党連合の有名どころじゃない……こんな辺境の異世界相手にこんな大物が……」


「違うっす! 官僚の方っす!」


「官僚?」


 ミラー大佐が、ちょうどグーシュ達と議員たちの中間の位置に座っている二人の男に目を向ける。

 

 一人は、三十台ほどの黒いスーツを着込んだ細身の男だ。

 だが、身体は鍛えられており、眼光は鋭い。まるで、剃刀の様に鋭い印象の男だ。


 もう一人は海兵隊の軍服を着込んだ、黒人の偉丈夫だった。

 二メートル近い巨体を、分厚く肥大化した筋肉の鎧が覆う。

 その表情は笑顔に包まれているが、それは決して相対する相手を安心させる類のものではない。

 まさに、肉食獣の威嚇の様な笑みを浮かべていた。


 そして、二人を見たミラー大佐に直感の様な独特の感覚が巡った。

 この機能制限された体でも感じるという事は、他の参謀達ならとっくに気が付いているのだろう。

 意識すると、この場にいない全員が査問会の様子を伺っていた。

 仮想空間でハイタと出会い、ハイタの話と映像を見れば、嫌でも感じ取れる感覚だ。

 間違い無い。

 ミラー大佐がそう確信した瞬間、当の二人が口を開いた。


「それでは、準備もよろしいようですので、異世界活動監視委員会申し立てによる、異世界派遣軍現地採用オブザーバーに対する査問会を開始いたします。なお、本日委員の方々と、オブザーバーの方への資料提供とヒアリングを行います、内務省異世界局局長の加藤()()()です」


 剃刀の様な男が、座ったまま頭を下げる。


「同じく、ヒアリング担当官の海兵隊異世界派遣任務部隊参謀長の()()()()()()()大佐だ。嬢ちゃんたちぃ、緊張するな。ま、楽にしな楽に。な?」


 肉食獣の様な男が、グーシュ達に微笑む。


 二人を見て、思わずミユキ大佐が後ずさった。


「ま、間違いないっす……ナンバーズっすよ!」


「クソ! どうして……どうしてこんな事に……」


 話は、ミラー大佐が寝つき、グーシュとミルシャがピザを平らげた後。

 三日前に遡る……。 

史上最長の長さになってしまった……分割する体力が無かったのでこのまま投稿しましたが、読みにくいというお声があれば分割したうえで、今後はこの長さでの投稿は致しません。

感想や活動報告のコメント欄、Twitter等でお知らせください。


次回からは時間をさかのぼり、グーシュの宇宙見学です。

次回更新は1日の予定ですが、変更の可能性もありますのでご了承ください。

それでは、次回もお楽しみに。


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