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第22話―1 アイリーン・ハイタ 

 ダグラス大佐を先頭に、一木とマナを参謀達が取り囲む様にして、師団ネットという名の街を模した仮想空間を歩く。


 街並みは現代の地球の一般的な積層都市を表現したものだった。

 積層都市とは簡単に言うと、数キロ四方の区画を何層にも積み重ねた超高層都市の事だ。

 アルミラックの、物を置く場所が住宅街や都市になっている形状をイメージすると分かりやすい。


 各階層の真上、上の階層の下側は空の画像を映し出す巨大なスクリーンになっており、真上からの人工光と、側面からミラーで取り入れられた自然光で明かりを取り入れている。


 通常各区画の高さは低い物で数十メートル、高い物で数百メートルとなっており、都市の規模にもよるが、地下数百メートルから高度一千メートル近い高さまでの積層都市が一般的だ。


 初期の物は高層区画の強風対策に苦労したらしいが、近年は力場関連の技術導入により、より高い区画でも安定した環境を再現できるようになった。


 現在の地球では人口を郊外から、かつての人口密集地に建築された巨大積層都市に集中させる政策が取られている。これにより人口が皆無になった郊外は自然保護区となり、SLによって管理されるようになっている。


 一木が住んでいた日本自治国関東地方でも、かつての都心以外は緑深い森林地帯と昔話さながらの里山になっており、管理用SL達が森林や田んぼの管理などをするのどかな光景が広がっている。


 そして、この師団ネットの街並みはまさしく典型的な積層都市の都市部そのものだった。

 広さは五キロ四方ほど。

 四隅には巨大なメインシャフトがあり、空には本物と寸分たがわない映像の夜空。

 遠くには森林と田んぼが広がり、その中に立ち並ぶ他の積層都市が立ち並ぶ。

 それが二十世紀生まれの一木には、堪らないSF的光景を形作っていた。


「……懐かしいな……目覚めて最初に暮らし始めたのも、こんな街だった」


 一木がポツリと呟くと、ダグラス大佐がちらりと一木の方を見た。

 何か言いたいことがあるのかと、一木はダグラス大佐の方をジッと見るが、なぜか大佐はしばらく悩んだように黙ってしまう。


「……あの、何か?」


 耐えきれずに思わず聞き返すと、ダグラス大佐は意を決したように口を開いた。


「……それは、シキっていうパートナーとか?」


 今度は、聞かれた一木の方が黙ってしまった。

 そして、横目でマナの方を見てから、一木は口を開いた。


「そう、です。その頃はまだパートナーでは無かった……俺はリハビリ中で、満足に体を動かすことも出来ない上、積層都市を歩き回るような現代知識も無かった。それで、介護のために俺に付き添ってくれたのが、シキです。ちょうど同じような規模の都心の積層都市で、身元引受人の賽野目博士が用意してくれたマンションで暮らしてました……あの、それが何か?」


 懐かしさのあまり一通り話してから、一木はなぜこの事を聞くのにダグラス大佐が言い淀んだのか疑問に思った。


 だが、ダグラス大佐が今度の問いに答えるには、先ほど以上のためらいがあった。


「………………正直、一木代将のシキ……さんへの思いを考えると、この事を言うのは躊躇われたが、そうも言っていられないから聞かせてもらう。あなたは、”シキ”という名前を、どのような字で書くか知っているか?」


 一木は、ダグラス大佐の言っている意味が一瞬分からなかった。

 てっきり、目覚めたばかりの頃何回も受けさせられた知能テストでもやっているのかと疑い、質問の意図を間違えているのかと迷い、たっぷり十秒ほど沈黙してから答えた。


「えーと、日本語だとカタカナで書いていましたし、シキ本人もそうしていた……ように思います。英語とかならローマ字で”SHIKI”ですかね? あの、本当にどういう意味なんですか?」


「私は、一木代将の生い立ちに何か手掛かりは無いかと、いろいろと調べていたんだが……その過程でサガラ社のデータベースにもアクセスしてみた」


 ダグラス大佐の言った内容に、一木は面食らった。

 当然だ。

 サガラ社はSSの製造にも携わる機密性の高い企業だ。

 そのデータベースともなれば、艦隊参謀がおいそれとアクセスできるような場所ではない。


「いくらSSの感情が組織防衛に特化していると言っても、そこまでやりますか?」


「そうだな。普通の参謀型ならしないだろうな」


 一木が少し咎めるような口調で問うが、一言呟いた後は、ダグラス大佐初め参謀達は黙ったままだ。

 一木は少しバツが悪くなり、一旦その事への追及を止めた。


「まあ、その事はいいですよ。それで、何があったんですか? そのデータベースに」


「これだ。新型看護型SS技術実証試験用SL ”死期(シキ)”。サガラ社の機密指定データだ」


 ダグラス大佐はそう言ってデータを一木に送信する。

 その内容は、一木にとって衝撃的なものだった。


 自分の大切な存在が、こんなにも不吉な漢字で表現する名前だったという事に、衝撃を受ける。


「何なんだ……何なんだこれは!?」


 思わず叫ぶ一木。

 マナとつないだ手に力が入る。

 大声に、周囲の参謀達が心配そうに一木を見る。


「それは私が聞きたいところだが……その反応を見るに代将は何も知らないようだね……となると、あやしいのは製造元の賽野目羅符(さいのめ らふ)……ルーリアトの伝承に出てくる、七柱の神々と同じ名を持つ男……」


 取り乱していた一木は、ダグラス大佐の言葉で頭と胃の底が冷えるような感覚を覚えた。

 賽野目博士が怪しいというのは、兼ねてから思っていた事ではあった。


 それでも、どこかその事実から逃避したい気持ちがあり、目をそらしていたのだ。


 だが、不吉極まりないシキの名前の真実を知ってしまえば、もはや背けようが無かった。

 思わず手で目元を覆う一木。

 アバターの目元から、ボロボロと涙があふれてくる。


「いち……」


「ダグラス! あそこだ!」


 そんな一木を心配するようにマナが声を掛けようとするが、それより一瞬早くジーク大佐が声をあげた。


「一木代将……泣くのは後にしよう。全ての真相を、当事者から聞いてからでも、泣くのは十分だろう?」


「……ナンバー1の居場所が?」


 目元を拭い、一木が尋ねる。

 すると、ジーク大佐がとあるマンションを指さした。

 潤んだ目で一木がそちらを見る。

 

「なっ!? そんな……嘘だろ……」


 思わず、驚愕に声が震える。

 あり得ないと、思わず目をこする。

 しかし、それは実際に仮想の街に間違いなく存在していた。


「ダグラス、あのマンションは本来ならデータに存在しないはずだ……間違いないな」


 殺大佐が一木の疑念を確定的に肯定する。

 そう、あのマンションは……。


「シキと暮らしてたマンションだ……間違いない」


 唖然とした一木の言葉を聞いた参謀達に緊張が走る。

 幾人かは、手に手に武器を構える。


「随分とまあ……舐めた演出だな。さあ妹達……造物主様にご挨拶と行こうか」


 ダグラス大佐の勇ましい言葉が、一木の耳をすり抜けていった。

 恐怖と、疑念と、否定したくてもしきれない期待が、一木の心に満ちていた。

地球の都市事情でした。しかし一木のメンタルはもうボロボロ。

そして次回ついにナンバー1と対面!

更新は8日の予定です。お楽しみに。


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