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第21話―3 告白

「……と、いう訳です」


 一木が一通り話し終えると、参謀達の表情は若干青ざめていた。

 それも無理は無い。

 ナンバーズとは、アンドロイド達にとっては人類以上の存在に他ならない。


 休眠しており、本来なら絶対に関わりにならない筈の、絶対的上位者が突然自分達の近くで活動していたと聞いては、とてもではないが落ちついてはいられないだろう。


 一木が心配そうに参謀達を見回していると、一人だけ平然としていたマナがじっと部屋の入り口を凝視していた。


 また、ナンバー1。

 アイリーン・ハイタが来ていないか不安になったのだろう。


 そんな空気を破ったのはダグラス大佐だった。

 パンッ! という大きな音で手を打ち鳴らし、重く暗い空気を弾き飛ばした。

 そして、黙り込んだ参謀達を見回した。


「なあにを落ち込んでる、可愛い妹達! 藪をつついて何が出ようとも、打ち払えばいいの!」


 きっぱりと宣言したダグラス大佐だが、それに異を唱えた参謀が居た。


 いつの間にかポリーナ大佐の膝の上に座っていたミラー大佐だ。


「そんなこと言ってもダグ姉! 人類社会に潜んでいたナンバーズ達に、私たちが何をしようって言うのよ。そもそも、一木の口から真相が聞けたのよ? これ以上何をしようっていうの? ヒゲを糾弾するの? 話が事実なら、派遣軍に逆らっているわけではないし……」


 普段の態度が嘘の様に気弱な発言だったが、さすがに咎めるような発言は無かった。

 自分達の造物主が絡んだ案件に対して、異を唱えるような気にはならなかったのだろう。


 だが、対するダグラス大佐の言葉ははっきりとしていた。


「ミラ―、これ以上何をするのか、だと? 決まっているだろう。私たちの艦隊の師団長にちょっかいを出して、妙な感情値になるように細工をした奴がいるんだぞ? しかも、そいつらの仲間は艦隊司令と組んで妙な企みをしてると来たもんだ。艦隊参謀なら、やる事は一つだ。なあ、クラレッタ?」


 ダグラス大佐からの問いに、クラレッタ大佐が胸を張って応えた。


「ええ。地球人類への勝手な干渉行為を見逃しては、感情制御型アンドロイドの名折れですわ。ミラー、あなた……いつからナンバーズとかいう土偶モドキの手下になったの?」


「うぅ……」


 うつむいて呻くミラー大佐。

 その様子を見て、一木はいたたまれなくなった。


「クラレッタ大佐! そのくらいにしてくれ。ミラー大佐の言う事も間違いではないだろう。俺の事なんかどうでもいい。ナンバーズなんかに君たちが関わる必要はない筈だ」


 一木がそう言ってミラー大佐を庇うと、クラレッタ大佐は満面の笑みを浮かべ、一木の方をゆっくりと見据えた。


 それは、言うなれば威嚇のための笑顔。

 かつて、ミラー大佐のボディを現実空間で再起不能にした、圧倒的な暴の力。

 それを体現した、本来人間に対して、絶対にアンドロイドが向けるはずの無い、殺意に満ちた表情だった。


 一木の、もう存在しない心臓が縮み上がり、アバターの皮膚に鳥肌が立った。

 瞬間、なぜか殺大佐が急にソワソワとしだした。


「……殺? どうしたの? まだやるの?」


 その様子を見たミラー大佐が小声で何やら呟く。

 だが、殺大佐はそれには答えない。

 対してなぜか、ジーク大佐がミラー大佐を肘で小突いた。


「?」


 一連の妙なやり取りに疑問を挟む間もなく、一木とクラレッタ大佐の間にマナが入り込み、憤怒の表情でクラレッタ大佐を強く睨みつけた。


 この状況に一木は、どうにか場を取り持とうと必死に頭を巡らしたが、妙案は思いつかなかった。

 はたして、自分の仮想空間内とはいえ、人間が参謀型SSに叶うだろうか?


 必死に考えるが、あり得ないと分かっていても、自分の頭がクラレッタ大佐の拳でスイカの様に砕け散る場面しか浮かばなかった。


 そうして、一木がカラカラの口の名から唾液を絞り出し、飲み込もうとしたその時、突如として殺大佐が叫んだ。


「ベランダだ!」


 その声に一木が驚く間もなく、ジーク大佐とミユキ大佐が素早く手元に実体化したMKV5拳銃を窓に向けて乱射した。

 50口径弾の凄まじい破壊力が、仮想とは思えないリアリティを持って破壊の限りを尽くした。


 だが、動きはそれで終わりではない。

 ベランダの窓ガラスが割れると同時に、薙刀の様な刃物と、日本刀を実体化したシャルル大佐とミユキ大佐がベランダへと突入した。


 その光景にあっけに取られていた一木だが、数秒かけてやっと正気に戻ると、立ち上がって声を上げた。


「な、何をしてるんだ!?」


 だが、一木のその問いには誰も答えてくれない。

 ただ、ベランダからシャルル大佐とミユキ大佐の「逃げられましたー」「っす」と言う声が聞こえただけだった。


「まま、一木代将。ちょっと待ってくれ。今説明するからな。殺どうだ? 枝は付けられたか?」


 ダグラス大佐がようやく一木に対して気遣いを見せるが、未だに状況は分からないままだ。

 そして、ダグラス大佐の問いに、殺大佐は頷いた。


「よーし。ジーク、糸はどうだ?」


「ばっちりさ。予想通り、師団ネットに繋がってたよ」


「よし……さて、すまなかったね一木代将」


 複眼をキラキラと輝かせて、ダグラス大佐が一木にスッと手を差し出してきた。

 一木は、呆然とその手を見つめることしか出来ない。

 だが、それまでのやり取りから、少しだけ状況の予想が付いた。


「……もしかして……さっきのやり取りは演技……か? 白い少女……アイリーン・ハイタを誘い出すための?」


「迫真の演技だったろ? さあ、一木代将。ちょっと、散歩に行かないかい?」


 ダグラス大佐がそう言うと同時に、いつの間にか入り口のあたりに立っていたポリーナ大佐が、静かに玄関ドアに手をかけ、そして本来開かない筈のそのドアを、静かに開け放った。


「なっ!?」


 その扉の向こうには、ごく普通のアパートの通路と、そこから見える街の風景が広がっていた。

 だが、その街並みには、一木は全く見覚えが無かった。


「この街は?」


「第四四師団のSSが休眠中に待機する仮想空間……通称師団ネット空間さ。艦隊で待機しているときは、全員この街で暮らしたり訓練してるんだ。一木代将も普通知らないだろ。通常の人間だと、知ってても意味が無いから、教えないんだ。サイボーグなら教えておけばよかったな」


 ダグラス大佐の説明を聞きながら、一木はゆっくりと部屋の外に歩み出た。

 目つき鋭く周囲を警戒する、マナと手を繋ぎながら。

 しっかりと恋人繋ぎなのを見て、ジーク大佐が小さく舌打ちをしたが、一木はそれどころでは無く気が付かなかった。


「……そっちこそ、説明してくれるんだろうな?」


 一木の言葉に、ダグラス大佐は右手の手のひらを顔の前に立てて、小さく頭を下げた。


「メンゴメンゴ。実のところ、白い少女の正体は分からなくとも、現れる前提条件は想像が付いていたんだ。一木代将、あなたの精神に動きが見られた時だ。少なくとも、私たちの観測下ではそうだった」


 一木はそう言われ、思い返す。

 マナとの最初の情事の後。

 川で水没しかかった時。

 グーシュとの会談後に、知らなかったとは言えハイタに誓いを立てた時。


 そう言われればそうとも言えるが、言い切れる程だろうか?


「疑問に思っている顔だな。しかし、私たちの観測下と言っただろう。実は私たちは、白い少女の出現時に、艦隊とこの星系の観測可能な領域に何か変化がないか調べていたんだ。その結果、あなたの感情の高ぶりと同時に、師団ネットから、あなたの仮想空間を経由してのアクセスが認められたんだ。つまり、姿を見せずとも……もしくは姿を見せることが出来なくとも、白い少女は常に君を見張り、特に精神に波があった場合は、直接的な干渉可能な状態にまで活性化していたんだよ」


「ま、じ……なのか。ナンバーズが、ただのおっさんの心を読んで……ま、うあ……ああああ……」


 未知の存在に心が読まれていて、四六時中監視されていたなどショック以外の何ものでもない。

 ましてや、一木は自分の俗っぽさには、自慢では無いが自信があった。


 誰それの胸元や太腿、下着を見た時、心が動いた。

 懐かしくて読んだコミック……エロを含むを休憩中に読んで、感情や情欲が動いたりもした。

 美味しい料理データや、シャルル大佐の寄生虫のかば焼きを食った時も心が動いた。


 それらすべてがあの白い少女に見られていたなど、羞恥心が暴れ狂い、思わずのたうち回りながら殺してくれと叫びたくなる。


 だが、そんな一木の心中を誰も察してはくれず、参謀達はぞろぞろと部屋を出てきた。


「そこで、この小芝居の事を思いついた。ミラーが日和って、クラレッタが怒る。これほど自然で、そして一木代将が口を出さざるを得ないシチュエーションも無いからな。その後は、クラレッタが軽く威嚇すれば、人間は絶対に恐怖するだろうからね」


「そこを俺がネットワーク上を見張って、ナンバー1の到来を察知。銃撃と突撃で隙を作ったすきに、奴さんのデータに枝……いわば目印を作った」


 殺大佐は自慢げに語った。

 さすがに情報参謀なだけはある。


「そして僕が、その枝にヒモを括りつけたという訳さ。これで目印に経路案内付きで、ナンバー1に会いに行けるよ」


 殺大佐の次は、ジーク大佐が自慢げに言った。

 一木は、心が死にそうだったが、それでも参謀達にかすれたような声で「よくやってくれた……」と声を掛けた。


 ここで一木は、ジーク大佐が言った言葉の意味に気が付いた。


「ん? 今、会いに行くって言ったか?」


 一木の言葉に、ダグラス大佐が不思議そうに聞き返した。


「? 当然だろう。何のためにこんな事をしたと思ってるんだ。今から私たちは、ナンバー1。人類名アイリーン・ハイタに会いに行って、一木代将に何をしたのか。何が目的なのか問いただしに行くんだ」


 事も無げに言うダグラス大佐に、一木は思わず反論しようとした。

 だが、逆に言えば、行かない理由はあるだろうか。


 もとより、一木の事を助けてくれた存在なのは確かなのだ。

 取って食われるわけでは無いだろうし、今後の事もある。


 なぜ一木に取りつき、一木の事を気にかけるのか。

 知るためには、会って聞くのが確かに手っ取り早い。


「分かった……だが、みんないいのか? 危険かもしれないんだぞ?」


 一木が聞くと、その場にいたアンドロイド全員がきょとんとした表情を浮かべた。


「弘和くんだけを、そんな妙な女に会わせるわけにはいきません。妻である私も行くのは当然です」


 マナがはっきりと言い、一木の手をギュッと握りなおした。


「艦隊参謀が師団長を見捨てるわけにはいかんでしょう。それに、さっき言ったよ。みんな、あんたの事が意外と好きなんだよ」


 ダグラス大佐が、優しい声色で言った。


「僕は、意外性なく、しっかりと君が好きだよ」


 そのすぐ後に、ジークがはっきりとした低めの声で言い切った。

 一木は苦笑いしつつ、参謀達。

 そしてパートナーの顔を見回した。


「すまない、愚問だった。さあ、行こうか。ナンバーズの所へ」


 一木の号令で、一同はぞろぞろと街へと繰り出した。

次回、ついにナンバー1との邂逅。

第22話 アイリーン・ハイタ 11月2日公開予定 お楽しみに。

※なお、予告内容は告知なく変更になる可能性があります。ご了承ください。


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[気になる点] 後書き部分 >次回、ついにナンバー1との邂逅。 なんと言うか、細かい文句付けっぽいですが、 邂逅というのは「偶然の出会い」という意味あいですので、このように意図的に居所を探ってそこ…
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