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第21話―2 告白

「乙女の裸を見て悲鳴を上げるなんて失礼な」


 風呂場でのドタバタから数分後。

 げんなりとした一木とぷりぷりと怒ったクラレッタ大佐が戻ってきた。

 入浴と言う酔い覚ましのアクションは一応果たしたのか、一木は素面に戻っていたが、別の精神的な衝撃をうけたせいか、幾分かぐったりとしていた。


「乙女……乙女? いや、男性型……あれ、ボディだけならいいのか? いやそれにしても、あんなデカいのなんて洋物のAVでしか見たことないよ俺……」


 ブツブツと呟き続ける一木を、酔いのさめたマナがよしよしと撫でやる。

 そんな一木に、どこか同情したような視線を向けるのは、ミラー大佐だ。


「クラレッタ(にー)はねぇ……白兵戦闘特化の試作アンドロイドだから」


「……それとこの姿にどんな関係が?」


「わかりませんの?」


 疑問を呈する一木に、両手を広げて自分の体を誇示するようにクラレッタ大佐が言った。


「男性型ボディの強靭な人工筋肉とメタルアクチュエータ。長いスカートで足さばきを隠し、胸の詰め物で防御力をアップ。さらに女性の見た目なら相手の油断をも狙える。貴族風の見た目なら、なおさらですわ。つまり、こと格闘戦においては、この姿こそが至高なのです」


 言い切ると同時に、凄まじいドヤ顔を決めるクラレッタ大佐に、一木はあからさまに引いた表情を浮かべた。


「ま、まあ……そこらへんは本人や設計者の趣味だよ……な。いや、だからってデカすぎだろ」


「随分こだわりますわね……それを言ったら一木代将? 殿方だって胸が大きい美形の女性型アンドロイドを好むでしょう? 女性将官向けに男性型アンドロイドが美形で大きくてもよろしいのではなくて?」


「うーん……一理あるな……」


「はいはーい。そろそろクラレッタの趣味とイチモツの話は止めような?」


 そうして、しばらく不毛な会話を繰り広げていた一木とクラレッタ大佐だが、それを止めたのはダグラス大佐だった。

 彼女は、一木達の会話に飽きて各々のんびりしていた参謀達を見回すと、おもむろに立ち上がった。


「よーし。全員注目! 実のところ、今日一木代将の仮想空間に不正アクセスしてまで集まってもらったのには、ある理由がある」


「やっぱり不正……」


 一木の呟きに、参謀一同がサッと視線を逸らした。

 一木は、アバターの表情をジト目に切り替えて、一人一人睨みつける。


「まあ、一木代将。そこは、少しの間置いておいてくれ。それに、あなたにとっても悪い話ではない……かもしれない」


「結局、なんなんですか?」


 一木がやや疲れた口調で言うと、ダグラス大佐は少し躊躇ったあと、話し始めた。


「まず最初に謝らせてもらいたいのだが……私……正確に言うと私と殺、クラレッタの三人は、一木代将に関して調査していた。はっきり言うと、内偵していたんだ」


 ダグラス大佐の話した内容に、一木は一瞬呆然とした。

 思わず、名をあげられた殺大佐とクラレッタ大佐の顔をまじまじと見てしまう。

 クラレッタ大佐は平然としていたが、殺大佐はどこかバツが悪そうだ。


「調査って……俺が何かしましたか?」


 自然と声が険しい物になる。

 ふと見ると、マナの表情も険しくなっている。

 周囲の参謀達を威嚇するように見回していた。


「あなたが何かしたわけでは無い。ただ、君は気が付いていないだろうが、君には少し特殊な体質があった。それで、私たちは不審に思い調べ始めた……参謀全員に知らせなかったのは、秘密裏に調査出来るのがこの三人だったからだ……すまなかった」


 最後の言葉に関しては、思わず一木も同意してしまった。

 ミラー大佐、ジーク大佐、ポリーナ大佐、ミユキ大佐、シャルル大佐が、極秘調査に向いた性格とはとてもでは無いが思えなかった。


 それは当人たちも同じなのか、どことなく不満げな表情を浮かべつつも、彼女たちも何も言わなかった。


「特殊な体質って……俺に一体何が?」


「アンドロイドに好かれやすい」


「はい?」


「あなたは、アンドロイドに好かれやすい特殊体質だ。自覚はないかな?」


 一木は困惑した。

 確かに、この艦隊で多くのアンドロイド達に好かれていいるとは思っているが、それは感情制御型アンドロイドと人間が接する上では当然の事ではないのかだろうか。

 少なくとも、疑問に思った事は無かった。


「そんなものありません。何を根拠にそんな……」


「まあ、アンドロイドが単独では気が付かない程の感情値の差だけどね。だけど、首席参謀として艦隊参謀全員と情報及び感情共有している私には分かった。あたな相手だと、初対面のアンドロイドでも、積極的なスキンシップを取った後と、ほぼ同値の好感情を抱くようになっている。これは異常な事だ。パートナーアンドロイドではない私たちが、地球人類の、同じ艦隊の将官に持つ以上の感情を、ただの一個人に持つなどありえない。その後も殺やクラレッタからの情報提供で、師団や艦隊の全てのアンドロイドが同様の状態である事が分かった」


 一木はこの話を聞いて、衝撃を受けていた。

 今までも、自分がここまで好かれるなど、あり得ないという考えが心のどこかにあったからだ。


 口にはしなかったが、シキに対してもある種そうだった。

 あんなにモテなかった自分が、こんなにチヤホヤされるなんて、といった自虐的な感情がどこかにあった。


 そう考えると、思考がどんどん自虐的に加速していく。

 自分が、アンドロイド達に親身に接するのも、そんな思いを否定したかったからなのかもしれない。

 自分が好かれている理由は、プログラムでは無くて、アンドロイド達の感情であってほしかったのだ。

 結局自分自身は、利己的な人間に……。


「……あんた、またしょうも無いことを考えてるでしょう?」


 そんな、一木の自虐的な感情を停止させたのはミラー大佐の言葉だった。

 彼女は一木の肩を強くつかみ、真っ直ぐな力強い視線で一木を睨みつけた。


「偉そうに私に説教したあんたが、くだらないことで落ち込んでどうするのよ……それに、ダグラスが言ったでしょう? あくまで感情の初期値が普通より高いだけよ。むしろ人間なら、顔の良しあしだけで最初の印象が天地程違うんだから、こんな事でネガティブにならないでよ」


 力強く、一木に語ったミラー大佐の言葉に、一木は思わず泣きそうになる自分を感じた。

 同時に、他人に偉そうに語っていた自分自身の心の弱さに、強烈な反省を覚えた。


「ごめん……ミラー大佐。ありがとう」


 そういって一木がミラー大佐の目を見返すと、ミラー大佐はニヤリと笑みを浮かべた。

 だが、すぐに周囲の参謀達のニヤついた顔(二つほど渋い顔)に気が付くと、いつもの仏頂面に戻ってしまう。


「まあ、ミラー大佐の言う通りだ。私たちを含めて、艦隊のアンドロイド達全員、この不可思議な感情値の異常を抜きにあなたに好意を抱いている。それだけは真実だ。むしろ、あなたが嫌な人間ならこうはいっていない。そこは安心してくれ」


「取り乱しました、すいません。けれども、結局原因は何なんですか?」


 気を取り直した一木が問いただすが、それに対してダグラス大佐は再びバツの悪そうな表情を浮かべた。


「実のところ、この現象の原因は分からなかった。だが、その過程で再びあなたに関する奇妙な現象と、情報を掴んだ」


「現象と情報?」


「白い少女についてだ。君も知っているだろう? さすがに全ての情報は見れなかったが、あなたの見聞きした情報のログに記録があるのを確認している」


 このダグラス大佐の言葉は、二重に衝撃だった。

 一つは白い少女の事を知っている事だったが、もう一つは一木の記憶関連のデータをダグラス大佐が調べていた事だ。


 一木の様なサイボーグの軍人は、見聞きしたことに関するデータを艦隊のデータベースにある程度保存することが義務付けられている。

 無論、それらには個人情報も含まれるため、通常はおいそれと見聞き出来るものでは無いからだ。


「……はっきり言うとだ、艦隊首席参謀は、傘下に特務1課……監査課を持っている。監査対象には艦隊の全部署及び、師団長も含まれている。サイボーグの記憶データも、手続きを踏めば閲覧が可能だ」


「……まあ、仕方ありませんね。ここは軍だ。組織として求められる事ならば、容認します」


 とても納得していない表情で一木は頷いた。


「確かに事実です。俺は、この部屋で一回、グーシュの救助中に一回、そしてグーシュとの会談中に一回。合計三回その白い少女と遭遇しています」


 一木が肯定し、ダグラス大佐は頷くが、急に飛び出した白い少女という言葉に、情報を共有していた殺大佐とクラレッタ大佐以外は唖然としていた。


「ですが、残念ですがこの事に関する情報は明かせません。サーレハ司令に許可を……」


 だが、一木の言葉はダグラス大佐に遮られた。


「その、サーレハ司令に言われたんだよ。どうにもサーレハ司令に疑わしい事象が多くてね。正面から問いただしたんだ。そうしたら、直接一木代将に聞けってね」


「そんな……馬鹿な。だって、この情報は……」


 一木としては当然の様に信じられなかった。

 事は、アンドロイド達の始祖とも言うべきナンバーズのリーダー。

 ナンバー1、アイリーン・ハイタが関係する問題だ。

 

 だが、そんな一木の思いを見透かしたようにダグラス大佐続ける。


「サーレハ司令には、『一木代将には、私が話すことを許可したと言えば大丈夫だ。君達は彼の味方になってやってくれ』と言われている。私たちが、正面切って人間に嘘をつくことは、上層部からの命令以外では絶対にない。……話して、くれないか? あの白い少女の正体は、なんなんだ? サーレハ司令がナンバーズ信奉者、通称”札付き”であることは分かっている。あれがナンバーズ絡みの未知の技術ならば……」


「絡み、ではありません。あれは、ナンバーズその物です」


 一木が、ポツリと発した言葉に、部屋が凍り付いた。

 ダグラス大佐も例外では無く、驚愕している。


「……あれはアイリーン・ハイタと名乗る、ナンバー1と呼称されていた存在です。サーレハ司令によると、休眠状態だったのが急に目覚め、なぜか俺に付いて回っているそうです。それどころか、妙な力で自分に加勢してくれる始末で……グーシュ救助の際、急にスラスターが使えるようになったのも、それが原因です……」


「嘘よ! ナンバーズは全員サンフランシスコの議会ホールに……」


 ミラー大佐が掠れた声で叫ぶが、一木は続けた。


「……それはダミーらしい……実際には、ナンバーズはナンバー1以外は休眠すらせずに、人類を装って活動し続けているらしい……」


 静まり返った部屋に、しばし沈黙が訪れる。

 その痛いような沈黙を破ったのは、ダグラス大佐がサングラスを外したかちゃりという音だった。


「……なるほど……どんな話が飛び出すかと思えば……ナンバーズとはね」


「だ、ダグ(ねえ)」 


 ミラー大佐が怯えたようにダグラス大佐の袖を掴むが、ダグラス大佐はそちらを見ずに、虫の様なオレンジ色の複眼を、一木の方に向けた。


「その目……だからサングラスを……」


「まあ、情報収集型試作機の名残さ。さあ、代将。どうも、私たちはとんでも無いことに首を突っ込んでしまったみたいだ。サーレハにはあなたの味方になってくれ、と言われたが……まずは、順序だって全て話してもらいますよ」


 やや圧倒されながらも、一木は白い少女との出会いから始まる話を、語り始めた。

いよいよ話は核心へ!

次回更新は30日の予定です。


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