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第20話―3 歓迎

前回の話の終盤から少し変更して、新規に今回の話を追加しました。

20話―2をすでに読んだ方は、前回の最後の方から読み始めるようにお願いします。


イラストギャラリーに一木、殺大佐、シャルル大佐、ジーク大佐のファンアートを追加しております。

よろしければご覧ください。


「ちょ、ちょっとどうしたのよあんた等! フランス料理のフルコース食べてたんじゃ……」


「「……」」


「「それが……」」




「なるほどね……あんのヒゲ、いい加減にしなさいよね。二人にまで胡散臭い事言って何がしたいのよ」


 グーシュとミルシャから話を聞いたミラー大佐は、ベットの上で並んでぐったりと寝そべる二人の頭を撫でながら怒りをあらわにした。


 ちなみに、グーシュの鎧は脱ぎ散らかした服の如く床に散乱している。

 頑丈で軽いセラミック製の鎧ならではの光景ではあるが、あまり褒められた事ではない。


 ミラー大佐も一瞬見咎めたが、疲れているであろう二人を気遣い、今は何も言わなかった。


「しかしだ、ミラー大佐。サーレハ司令の言っていた事で、気になる事があるのも事実なのだ」


 そうしてグーシュは、アンドロイドと人間の関係性に関する疑問をミラー大佐にぶつけた。

 自分がしたことは、ミラー大佐やノブナガにとって、あまりに軽率では無かったのかという事だ。


 だが、それに対するミラー大佐の返答はぷにぷにの手による全力のパンチだった。


「イテッ」


「あんたねぇ……一丁前に私らの心配なんかして……」


 ミラー大佐の言葉に、グーシュとミルシャは露骨に不満げな顔をするが、ミラー大佐はにべもない。


「確かに私たちはヒゲの言う通りの存在よ。現に私は、最初の上官であるハンス大佐への感情が無くなる事を恐れていた……そしてその想いに囚われたあげく、グーシュに銃を突きつけた……」


 ミラー大佐の独白を聞いて、ミルシャはいたたまれずに口を開きかけた。

 だが、ミラー大佐はそんなミルシャの唇を丸っこい手で押さえつけた。


「むぐっ」


「まあ、聞きなさい。でもねえ、その後一木の奴に、SSとしての感情とミラーとしての感情を分割することを提案されて……それを受け入れて、そしてこの体になった。それで、普段は意識しなかった感情制御型アンドロイドとしての気持ちを、冷静に考える機会を得たのよ」


「アンドロイドとしての気持ち?」


 グーシュが呟く。

 ミラー大佐は、グーシュの頭を優しく撫でた。


「そう。人間にとっては意外なことらしいけど、私たちも普段から自分の感情の理由や、それが自身をどう制御してるかなんて意識してないのよ。だから、正直言ってアンドロイドへの接し方にあれこれ言う人間の事を、疑問に思う事もあったわ。でもそうね……冷静に考えれば、やっぱり私たちは作り物なのでしょう。私は亡くなったハンス大佐への感情に囚われていたし、そのために自分のアンドロイドとしての承認欲求が満たされない事にストレスを感じていた。それでも私は、大佐への思いを無くしたくなかった。他の人間からの好意が、思いを上書きしてしまう事を、アンドロイドとしての本能が知っていたからね」


 そこまで言ったミラー大佐は、真剣な顔で自分の話を聞く、二人の異世界人の顔をジッと眺めた。

 普段からは想像も出来ないような安らかな顔だった。


「でも結局、一木の言葉を聞いて……一木やあなた達……人間と接すると自分が満たされる事に気が付いたわ。大切なあの人への思いは確かにかけがえの無いものだけど、感情制御型アンドロイドにとっては、やっぱり今を生きる目の前の人間との接触が何より一番大切なのよ」


「だが、人間の側が関係性を無理強いしては……」


 グーシュの言葉に、ミラー大佐は嬉しそうに笑った。


「一木もそうだけど、あなた達の思いやりは本当に嬉しい。けどね、どんなに無理強いされても、どんなに今の自分の思いを大切に思っていても、人間が私たちにとって絶対なのよ。いい? 覚えておいて。私たちアンドロイドは、優先順位こそあれ、絶対に人間の味方よ。だから、愛おしいと思ったら全力で愛してくれて構わない。それに引け目を感じるなら距離を取って構わない。任務に差し支えるなら都合のいい接し方をしてくれて構わない」


 そっと、ミラー大佐は泣き出していたミルシャの涙を拭った。


「だから、ヒゲの言う事なんか気にせずに、私を好きなように扱いなさい」


「……そこまで言うなら、わらわも何も言わない。だが、この事は一木にこそ言ってやるべきではないか?」


 グーシュがそう言うと、ミラー大佐は笑いながら首を横に振った。


「まさか。私がこんな事言ったら、あいつまたうだうだと悩み始めるでしょ。あいつが私たちを人間の様に扱いたいんなら、それが一番いいのよ」


 どこか吹っ切れたように、ミラー大佐は笑顔を浮かべた。


「さあ、お喋りは終わりよ。今日はこれから、オンラインで他の参謀と会合があるのよ。私の体はぬいぐるみ扱いしていいから、今日は失礼するわね」


 そうして、照れ隠しするかのように慌ただしく別れを告げたミラー大佐は意識を手放すと、オンライン空間へと去っていった。


 残されたのは、ミラー大佐が端末として使用するデフォルメミラー大佐のボディだけだった。



「……ミラーちゃん……」



「まあ、ミルシャ。仕方あるまい。アンドロイド……わらわの常識外の存在なのだ。これから付き合いも長い。今日の話を糧にして、ゆっくりと理解していこう」



 グーシュがベットに座りこむと、ミルシャの頭を撫でて慰める。


「なんか、宇宙に来てからの驚きが全部吹き飛びましたよ……人間だと思っていたけど、やはり人間とは異質、なんですね」


「だが、興味深くもあった……アンドロイド達への接触は、ミラー大佐の話を踏まえつつも慎重にしなければいけないかもしれないな」


 深刻そうに呟くグーシュを見て、ミルシャが心配そうにミラー大佐のボディを抱きしめた。


 少し落ち込むミルシャの手を握ってやるグーシュだが、心中には好奇心がうずいていた。


(もし、わらわがジーク大佐に好意を示したら、あの少年の様なアンドロイドは一木よりわらわを優先するのだろうか……それとも、地球人の一木を優先してわらわにはなびかないのか? ではもし、相手が殺大佐だったら……どうなる?)


 自分の好奇心が危ない事を考え出した事に気が付き、グーシュは慌てて思考を止めた。


「よし、ミルシャ。夕食はあれだったし、何か食べようか? 確か端末を操作して、部屋に食べ物を持ってきてもらえるそうだぞ」


「へぇー、どんなものがあるんですか?」


 不安から目をそらすために、その夜二人はLサイズのピザを四枚平らげたのだった。

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