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第20話―1 歓迎

『こちらシャフリヤールコントロール。重巡洋艦オダ・ノブナガ、エンゲージ。メイン格納庫への着艦制御をシャフリヤールに譲渡せよ』


 ノブナガに対して、シャフリヤールから制御を明け渡すように命令が下る。


 ジブリールに対して見事な姿勢制御で突っ込んで見せたノブナガだが、筒状かつ重巡洋艦より直径の大きい発艦スペースのあった軌道空母と違い、はるかに巨大とは言えシャフリヤールの格納庫入り口は狭い。


 万が一の事を考えれば、コントロールを明け渡すのは当然の処置だ。


 とはいえ、やんちゃぶりを曝したノブナガだ。

 命令が下った後も少し逡巡していたが、グーシュとミユキ大佐の方をチラリと見ると、「了解」と小さめに呟き、制御権を明け渡した。


 その後はスムーズだった。


 400mの巨艦は滑るように格納庫へと吸い込まれていった。


 格納庫の入り口は巨大だったが、重巡洋艦と比べればギリギリだ。

 グーシュが映像を見る限りは、余裕はほんの数メートル程。

 

 だが、自艦ではない重巡洋艦をシャフリヤールは見事に操ると、格納庫へと格納させた。


『オダ・ノブナガ格納完了。格納庫ハッチ閉鎖、同時にノブナガ及びハッチ部分の力場解除』


 シャフリヤールの通信と同時にハッチが閉じられると、同時にノブナガの周囲と解放されたハッチの部分に展開されていた力場が消失した。


 シャフリヤールの気圧管理が見事なためか、僅かな空気の移動も見られない。


「ふぅむ……力場とは便利だな。宇宙には空気が無いにも関わらず、こんなに大きな扉を開いても艦内の空気が漏れんとはな……」


 グーシュも感心したように声を漏らす。

 ミルシャの方は真空というものを今一つ理解しきれていないようで、首を傾げている。


「つまりねミルシャ。この艦の中の空気が漏れないように、力場っていう見えない蓋をしてたわけ。それで、ノブナガが侵入すると同時に、ノブナガの周囲に力場を纏わせつつ、入り口部分にまた力場を纏わせてたの。そして、扉が閉まったと同時にその見えない蓋を消したというわけよ。……わかってる?」


「も、もちろんですよ。つまりは目に見えない蓋が凄いってことですよね?」


 見かねたミラー大佐がミルシャに説明してやるが、どうにもその目に理解の色は見えない。

 

「お前にはもう少し科学というものを教えてやらんとな……」


「うぅ……まさか殿下の説話好きがここまで活用される事態になろうとは……」


 ミルシャの泣き言はさておき、艦の固定が終わり、ノブナガがグーシュ達に声を掛ける。


「さあ、グーシュ姉ミルシャ姉! ワシが先導するから降りよう!」


 一同は意気揚々と歩くノブナガに先導され、グーシュ、グーシュの肩の上にミラー大佐、ミルシャ、ミユキ大佐の順に歩いて行く。


 ミルシャは緊張し、一方のグーシュは高揚したように頬を赤らめていた。

 そうして歩き始めて数分。


 一同は分厚い隔壁の前にたどり着いていた。


「グーシュ姉。艦隊一同が出迎えの式典を開いてくれるから、敬礼しながらワシについて来てくれ」


「わかった。ミルシャ、大丈夫か?」


 グーシュが後ろを振り返ると、ミルシャが少し硬い表情のまま頷いた。

 それを見たグーシュが、肩の上のミラー大佐をポイっとミルシャの方へ投げてやる。


「うにゃああ!」


「ブファ!」


 ミラー大佐のカワイイ叫び声に、ミユキ大佐が思わず噴き出した。

 受け止めたミルシャの肩越しにミユキ大佐を睨み付けるミラー大佐と、ミラー大佐を抱きしめて少し表情の和らいだミルシャを見て、グーシュは微笑んだ。


「ミラー大佐を貸してやる。ミルシャ、落ち着け。帝国騎士の凛々しさを地球連邦の司令官に見せてやれ」


「準備いいか? 開けるぞ」


 ノブナガの言葉と共に、重い隔壁とハッチが開いていく。


 そしてグーシュ達の目の前に広がったのは、広大な空間と、そこに整然と並ぶ美女たち。

 

 女性たちの大半は、事務作業に従事するSL達で、そのため銃は持たずに敬礼をしている。

 

 しかし、そのSL達の背後には、全長八メートルを誇る巨兵。

 強襲猟兵達が二十機程立ち並び、90mmライフルを構えその凄まじい威圧感を持ってグーシュ達を見降ろしていた。

 

 さらに、正面には出迎える様に立ち並ぶ幹部と思しき一団と、その背後に並ぶ楽器を持った集団がいた。


 楽器を持った集団は、グーシュの姿を確認すると荘厳な音楽で出迎えた。

 凄まじい音圧と、巨大な巨人たちの威圧感が勢いよくグーシュ達に叩きつけられる。


 それらに、グーシュは一瞬気圧された。


 しかし一瞬の後、圧を押しのけると、薄く笑みを浮かべみぞおちに拳を当て、ゆっくりと歩き出した。


(鉄の巨人に、生演奏何するものぞ。わらわを出迎えるこの者達が、わらわの価値を示しているのだ)


 グーシュの堂々とした歩みを見て、ミルシャもやや遅れながらも歩き出した。

 グーシュ同様に拳をみぞおちに当て、しっかりと立ち並ぶ強襲猟兵とSL達を見据える。

 

 威圧感に負けずに歩き出したグーシュとミルシャがやがて気が付いたのは、格納庫の寂しさだった。


 帝都の中央通りを遥かに超える巨艦。

 そのメイン格納庫はまさに街一つに匹敵する空間が広がっていたが、落ち着いてよくよく見てみると、そこには奇妙な程、物が無かった。


 今は中央に重巡洋艦オダ・ノブナガがあり、さらにグーシュ達を出迎える集団と強襲猟兵が居るので気になりずらいが、そうでなければ随分とガランとした空間だっただろう。


 そうして歩いて行くと、やがて両脇に並ぶ集団が終わった。

 そしてノブナガが立ち止まり、キビキビとした動きでグーシュとミルシャの方を向く。


 見た事のないような真面目な顔でノブナガが敬礼をすると、そのまま脇に一歩逸れる。


 そうすると、グーシュ達を出迎えるべく整列していた一団が目に入ってきた。


 みると、参謀型のSS達のようだ。この艦隊の中枢だろう。

 その中の正面にいる、年の頃四十ほど。

 褐色の肌に髭を蓄えた男が、ゆっくりとグーシュに向かって敬礼をした。


「グーシュ様、騎士ミルシャ殿、よくおいでくださりました。わたしが、第049機動艦隊司令、アブドゥラ・ビン・サーレハ大将です。以後、お見知りおきを」


 一目見て、グーシュはサーレハに対して警戒感を抱いた。

 

 具体的な理由は無い。

 だが、隙のない態度と物腰が、一木の様な人の好さを一切感じさせなかった。

 グーシュを見る目も、一見心からの歓迎を示しているが、その裏にある感情を一切見通させなかった。


 一木のモノアイとは大違いだ。


(手ごわい相手だな……)


 グーシュは心中で独り言ちた。

 だが、この感情を相手に与えてはならない。


「グーシュリャリャポスティである。素晴らしい出迎えに感謝する、サーレハ司令」


「お付き騎士ミルシャです。主の言葉にて、感謝に代えさせていただきます」


 ミルシャも上手い事挨拶を返した事に、グーシュはひとまず安堵した。


 しかし、よく考えてみるとミラー大佐を抱きかかえたままサーレハ司令にあいさつしたことに気が付く。


 少し後悔しながら相手の方を見ると、相も変わらず笑みを浮かべるサーレハ司令の背後で、黒眼鏡をかけた女が苦笑いしていた。

 一木に聞いていた、ダグラス首席参謀だろうと、グーシュは見当をつけた。


「あまりかしこまらないでください。このシャフリヤールを、ご自宅の様に思ってくだされば幸いです。なあ、シャフリヤール?」


 サーレハ司令が水を向けたのは、隣にいた金髪碧眼の美男子だった。

 ルーリアトでは珍しい、真っ白な美しい肌をしており、武勇が評価の基準になるルーリアトで言うと優男の様な雰囲気を感じさせた。


「ええ、その通りですグーシュ様。申し遅れました。本艦のSA、シャフリヤールです。お二方の快適な滞在をサポートするべく、全力を尽くさせていただきます」


 そうして優雅に頭を下げると、サラサラの金髪が上質な布の様に舞った。


 白い肌、優男、上質な布のような髪。

 グーシュは、宇宙に来て最大級の警戒をシャフリヤールに抱いた。


(この男……ミルシャの好みだ!)


 この感情を隠そうともせず、シャフリヤールを睨むグーシュに困惑しつつ、サーレハ司令は黒眼鏡の女を呼んだ。


「さ、さあグーシュ様。まずは歓迎の証に異世界派遣軍の軍歌をお聞きください。こういった場では、必ず歌われるものです。ダグラス大佐。」


「はっ。異世界派遣軍! ぐんかぁー! 斉唱!」


 黒眼鏡の女の号令と共に、その場に荘厳な音楽が流れ始める。 


 やがて、その場にいた異世界派遣軍の全員が歌い始める。


 銀色道行(ぎんいろみちゆ)

 地球(ちきゅう)(ふね)()

 自由(じゆう)(ひかり)

 異界(いかい)(たみ)(すく)うために

 圧政(あっせい)()()らを

 笑顔(えがお)にするため

 ()刃折(やいばお)るために

 銃火(じゅうか)()(つづ)ける

  圧政(あっせい)()()らを

 笑顔(えがお)にするため

 ()刃折(やいばお)るために

 銃火(じゅうか)()(つづ)ける


 地球(ちきゅう)光闇(ひかりやみ)をも()らす

 闇無(やみな)宇宙(そら)(ひかり)がつなげる

 地球(ちきゅう)光闇(ひかりやみ)をも()らす

 闇無(やみな)宇宙(そら)(ひかり)がつなげる


 見事な歌唱だった。

 しかし、わざわざ通訳機を作動させたまま歌ったのは頂けなかった。


(意味が分からなければ、素直に感動できたものを……随分と傲慢な歌ではないか……やはり一木が異質なのだな)


 歌い終えると同時に、グーシュは甲冑を打ち鳴らすように拍手を送る。

 すぐ後にミルシャも続いた。


「皆さん、サーレハ司令。見事な歌唱と演奏でした。感謝します」


 そう言って、グーシュは感情を押し隠したままサーレハ司令に手を差し出した。


「そう言って頂けると、皆も喜びます」


 そう言って、サーレハ司令は感情を感じさせない笑みのまま、グーシュの手を握った。


「さあ、格納庫で立ち話もなんです。応接室へご案内しましょう」


 サーレハ司令は移動用の小型車を指し示した。 

体調不良で、もうだめかと思いましたが、何とかなりました。

次回、胡散臭いオッサンと百合皇女の対談。

更新予定は十五日を予定しております。


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