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第19話―2 観艦式

「ノブナガ、BGMを」


「了解」


 ノブナガが応じると、艦橋に壮大な音楽が流れ始めた。


 ミルシャがいきなりの大音量にビクリと体を震わせると、ノブナガが楽しそうにミルシャに寄り添って「大丈夫だ。ミルシャ姉はドヴォルザークは好きか?」と呟いたが、当然ミルシャは意味が分からず、ポカンとするばかりだった。


 グーシュは、宿営地で見たアニメで知ったこの曲が好きだった。

 

 曲そのものもだが、何より「新世界より」という曲名がいい。

 未知を知る事を何より好むグーシュにとって、これ以上ないときめきを感じさせる曲名だった。

 

「グーシュ様。只今本艦に接近している艦隊が、軽巡洋艦ソンボルを旗艦とする第1088水雷戦隊です」


 グーシュがミユキ大佐の声に合わせてノブナガの斜め前方を見やると、ノブナガより一回り小さい艦を先頭に、その半分ほどの大きさの八隻の艦艇が一列になって向かってきていた。


 やがてその艦隊がノブナガとすれ違うと、グーシュ達の目の前にその艦隊のSA達の立体映像が映し出された。


 先頭のソンボルのSAは十代中頃から十代後半程の少女で、後方の艦艇のSAはなぜか隻数より少ない、二人の二十代前半から中頃程の女性だった。


 彼女たちは敬礼をしつつ、自らの艦名を名乗った。


「第1088雷撃戦隊旗艦の軽巡洋艦ソンボルです」


「1088雷撃戦隊所属、ドラゴンフライ駆逐隊です」


「同じく、ウィーズル駆逐隊」


 彼女たちに対し、グーシュとミルシャもルーリアト式の答礼を行う。


「美しい艦列、見事だった。ソンボル、ドラゴンフライ、ウィーズル。ありがとう」


 グーシュの言葉にニコリと笑みを浮かべ、ノブナガの脇を通り過ぎると同時に、彼女たちの立体映像は消えていった。


「ミユキ大佐、先ほどの艦隊の他の六人のSAは顔を出さんのか?」


 グーシュが疑問を口にすると、ミユキ大佐はやはり変な語尾を付けずに答えた。


「ソンボルは軽巡洋艦という艦で、ノブナガ同様一隻につき一人のSAが管理していますが、駆逐艦と護衛艦という艦は一人のSAにつき四隻の艦を担当します。今の1088戦隊の場合、それぞれドラゴンフライ01から04。ウィーズル駆逐隊01から04と呼称します。これは、駆逐艦という艦が集団行動を第一とする艦種だからです」


「なるほど。ああ、だからか。大きい艦のソンボルよりも、小さな駆逐艦の二人の方が大人びた見た目なのは……」


「そうです、グーシュ様。まあ、SAの見た目など慣例的なものですが、処理能力の必要性が大きい艦程、SAの端末の見た目も大人びたものにするのが、異世界派遣軍の文化です。まあ、例外もありますが……」


 そう言って、チラリとノブナガの方を見るミユキ大佐。

 グーシュも、納得しつつノブナガの方をついつい見てしまうが、当のノブナガだけがその視線の意味に気が付いていなかった。


「さあ、続いての艦隊です」


 ミユキ大佐が告げると、次の艦隊が接近してきていた。


 次にやってきたのは先程と同規模の艦隊で、軽巡洋艦一隻と護衛艦八隻で構成された艦隊だった。


 同じようにSAの立体映像に挨拶をしつつ、グーシュはミユキ大佐の解説を聞いていく。


 軽巡洋艦は艦隊の何でも屋であり、主に大型艦の護衛や駆逐艦と護衛艦のまとめ役として旗艦を務める汎用艦だという。


 その任務は空間任務にとどまらず、軌道上から地上を砲撃する軌道砲撃を行う主力でもあり、さらに大気圏内に降りての地上支援や輸送、工作なども行うという。


 ルニ子爵領での宿営地建設や、道路整備においても活躍し、組み立てた鉄橋をぶら下げて輸送したりといった活躍もしたという。


 駆逐艦というのはレーザー砲と呼ばれる、強力な光を対象に照射して目標を撃破する武器と、魚雷と呼ばれる大型の誘導兵器を主兵装とする空間戦闘の主力艦だそうだ。


 実戦では艦隊の先鋒として敵に突撃し、魚雷を用いた肉薄攻撃を仕掛けるのだという。


 対して護衛艦は、小口径の実弾を用いる武器を多く積み込み、敵の攻撃から艦隊を守る直掩戦闘の専門艦だという事だ。


 その任務は地上にも及び、空中から地上部隊の支援を行うために軽巡洋艦同様大気圏内にも降りて活動する。


「その、護衛艦というのは……」


 そこまで解説した所で、不意にミルシャが質問を口にした。


「どのくらいの大きさなのですか? こうして見ただけではよくわからなくて……」


 ミルシャがこういった場で質問など珍しいとグーシュは思ったが、地上支援を主に担うと聞いて気になったのだろう。


 ともすれば、騎士として護衛艦の下で戦う事もあるだけに、気になったのだろう。


「そうですね。全長は約130m……ルーリアト風に言うと80ダイス程ですね」


「は、80ダイス!?」


 思わず想像したのだろう。

 少し上ずった声でミルシャは数字を繰り返した。


 空中から、80ダイスの艦が艦の下方にある二門の150mm砲で砲撃してくるのだ。

 剣や薬式鉄弓でどうにかなる相手ではない。


 ミルシャの沈黙をどうとらえたのか。

 その様子を見たミユキ大佐は、笑顔を浮かべた。


「ご興味があるのでしたら、後程実弾射撃をお見せしましょうか? 我が艦隊の威力が良く分かっていただけるかと」


「か、考えておきます……」


 そんな一幕と、ミルシャの落ち込みをよそに観艦式は続いていく。


 ノブナガと同じ重巡洋艦が軽巡洋艦以上の巨体を優雅に操り、まるで宇宙で演舞するかのように軽やかに舞ったかと思えば、全長1.5km。

 

 ルーリアト風に言えば1ミローに及ぶ全長を誇る、戦列艦と呼ばれる大型艦の堂々たる威容に目を奪われた。


 重巡洋艦と言うのは地球の歴史上の軍人や指導者の名を冠された、艦隊の花形たる最強の艦種だそうだ。


 SA達も最強であり、英雄の名を冠された自身に誇りを持っており、立体映像に映し出されたその姿は堂々たるものだった。


「しかし、なぜ重巡洋艦には男が多いのだ?」


「実在の人物の名を関するわけですからね。SAの性別にも物言いが付くことが多くて。そうしたら今度はフェミニ……別の理由で何かしら文句を言っている者達もいまして。結果、重巡洋艦のSAの性別に関しては面倒な過程を経て決められる事に……」


「むぅ……地球も何やら面倒な文化があるものだな……」


 グーシュの言葉に、ミユキ大佐は乾いた笑いを洩らした。


「まあ、お気になさらずに。重巡洋艦以外には、非戦闘艦である輸送艦や旗艦にも、男性型のSAがいます。そういった艦のSAには、地球や他の場所で働いていたアンドロイドが再就職してくる場合もあるのです」


「ふぅん……」


 気の無い返事をしつつ、グーシュ達は十代前半程の見た目の、戦列艦の少女型SAを見送る。


 戦列艦は、全長の割に細長い船体をした艦で、武装は少数の対空火器を除くと一つしかない。


 それが船体の中央に装備された、艦の全長とほぼ同じ長さのレールガンと呼ばれる、電気を用いて砲弾を射出する装備だ。


 戦列艦は直径45cm、砲身長1.2kmに及ぶこの巨大な砲を運用するため専門の艦で、機動性は劣悪ながらも艦隊で最も長い射程と破壊力を持つ火力艦だそうだ。


 ただ複雑な機動をこなしたり、様々な場所へ赴く必要性の無い艦のためSAの必要処理能力的には低めの艦らしく、そのSAの見た目は幼かった。


 マヤ、漢、ブルボン、カマクラ、ムラービト、そして最後の戦列艦リューリクを見送ったグーシュ達は、次の艦に対面するべく前の方を向いた。


「あれ、殿下。なんか随分と近くないですか?」


 すると、ミルシャが疑問を口にした。


 ミルシャの言う通り、次の艦はやけにノブナガから近くにいるように見えた。


 先ほどまでは衝突などを防ぎ、さらにグーシュ達と艦達の挨拶と、解説の時間を取るまでにある程度の間を開けていた。 


 ところが次の艦は、やたらと距離が近く、その上豆粒の様に小さな艦を随伴艦として連れていた。


「ミユキ大佐。次の艦は随分と近いな。危なくないのか?」


「それに、あの小さな艦は何でしょうか? 護衛艦よりも小さな艦もあるのですか?」


 グーシュとミルシャが揃って疑問を口にすると、なぜかミユキ大佐とミラー大佐がニンマリと笑みを浮かべた。


「いいえグーシュ様。決して危険はございません。いいえミルシャ様。護衛艦より小型の艦はございません。グーシュ様、ミルシャ様、長らくお疲れさまでした」


 そう言って、ミユキ大佐は大仰な身振りで映し出されていた艦を指し示した。


「あちらに見えますのが、全長4km。ルーリアト風に言うと2ミロー半を誇ります、我が艦隊の旗艦”シャフリヤール”です。ちなみに、あの豆粒の様に小さい艦は、旗艦直掩艦の軽巡洋艦になります」


「な!?」


「に、2ミロー半! 帝都の中央通りより長い!?」


 二人が驚いている間にも、みるみるうちにその長い三角形の艦影は大きくなっていく。


 全長4kmと言うのは伊達では無く、城どころかまるで帝都並みの街が動いているかのようだ。

 

 先ほどは巨大に見えた全長320mの軽巡洋艦が豆粒の様に見える。

 グーシュとミルシャは、理解していたつもりの地球連邦の力に、今本当に触れたような気がして、半ば放心状態だった。


「ノブナガ、このまま下部のメイン格納庫に着艦して。グーシュ様、シャフリヤールとの挨拶はそちらで行います。併せて歓迎式典を行いますので、楽しみにしていてください」


「ほら、二人ともシャキッとしなさい」


 グーシュの肩に、少し心配した様子のミラー大佐がよじ登ってきた。

 圧倒されていた二人は、ミラー大佐の立てたぽきゅっという音で現実へと戻ってきた。


 はっとしたグーシュがメインスクリーンを見ると、そこにはシャフリヤールの中央部にある格納庫が段々と近づいてくる様子が映っていた。


 巨大なシャフリヤールが太陽の光を遮り、グーシュとミルシャを影が覆った。

※解説

水雷戦隊と言うのは通称で、本来ならば航雷こうらい戦隊と呼ぶのが正しいのですが、語呂がいいので海軍由来の水雷戦隊と呼ばれます。

対艦ミサイルを魚雷と呼ぶことと合わせて、上層部に懐古趣味があるようです。



という訳で観艦式会でした。

宇宙艦隊の設定はかねてより書きたかったので、ようやくと言う思いです。

本文にて語り切れなかった部分は、後程解説にて語りたいと思います。


次回更新は仕事の都合で12日となる予定です。

間が空くので、どこかで上記の通り解説などを更新したいと思います。

そちらの告知は活動報告やTwitterで行うので、よろしくお願いします。

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