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第19話―1 観艦式

「グーシュ姉、起きろ!」


 重巡オダ・ノブナガに用意された客室のベットの上。

 

 甲冑を脱ぎ、ラフな格好で寝ていたグーシュは、ノブナガの大声で目を覚ました。


「うぅ~ん……なんだぁ……まだ、眠い……」


「僕もです……昨日は夜伽が無かったから、たまにはぐっすりと……」


「……そうだな、ミルシャも眠そうだ。もう少し寝かせてくれ……」


 隣で寝ているミルシャも眠そうだ。

 昨日はルーリアトを出発してからの疲れが出たのか、珍しくミルシャを抱かなかった。


 ミルシャが五時間以上連続で寝るのは、かなり久しぶりの筈だ。

 ここは罪滅ぼしも兼ねつつ、ミルシャの安眠を盾に惰眠を貪ろう。


 そう思い、グーシュはノブナガの呼びかけに無視を決め込んだ。

 

 だが……。


「「「「「「グーシュ姉! ミルシャ姉! 起きろ――――――!」」」」」」


 グーシュとミルシャは、突然全方位から響き渡ったノブナガの大声によって、否応なく起床を余儀なくされた。


 グーシュにしがみつくように寝ていたミルシャと一緒に、グーシュは勢いよく飛び起きた。


「何事だ!」


「あわわわわ……」


 そうして飛び起きたグーシュとミルシャは、あたりを見回してさらに驚愕した。


 グーシュ達が寝ていた寝台を囲む様に、五人のノブナガが立っていたからだ。


「た、端末とかいうやつか……」


「まさか、一晩中僕たちを囲んでたんですか?」


 グーシュ達が尋ねると、五人のノブナガはニコニコと満面の笑みを浮かべて頷いた。


「グーシュ姉とミルシャ姉のお世話をするために、作業用端末を五人待機させておいた。寝顔も可愛かったぞ、グーシュ姉ミルシャ姉♪」


「「…………」」


 とてつもない懐き方である。

 確かに見た目が好みで、その上孤児院に来たばかりの幼児の様な目をしていたノブナガを可哀そうに思い、ミルシャも巻き込んで一緒に可愛がったのはグーシュだ。


 ノブナガだけの呼び方が欲しいと言ったので、名前に(ねえ)を付けることも許可してやった。


 とはいえさすがに予想を超えていた。

 一晩中五人の端末に囲まれるとは思っていなかった。


 アンドロイドとの接し方に慣れた人間がいれば、人付き合いに飢えた個体には少々危ない接し方だというアドバイスが出来たかもしれないが、残念ながら現在この星系にそんな人間は一人しかいなかった。


 もっとも、アンドロイド達から”胡散臭いヒゲ”と呼ばれるその人物が、グーシュにアドバイスなどするかと言うと、非常に疑わしいのだが……。


「うむ……ノブナガ。ありがとう。ああ、わかった。今行くから、甲冑を着るのを手伝ってくれ……」


「うぅ……さよなら安眠……」


 ノブナガの懐き方に一抹の不安を覚えたグーシュだったが、子供の様に(実際に、精神的には子供に近いのだが)はしゃぐノブナガに何も言うことが出来ず、結局言われる通りに起きる事にした。


 そうして起きたグーシュは、ノブナガに促され身支度も早々に甲冑を着こみ、いっぱしの皇女らしい身だしなみを整える。


「しかし、殿下。この甲冑は本当に着やすいですね。ねじ止めも無いし、身に着ける順番を間違えると、そもそも取り付け出来ないようになってます。前のは最後の部品の取り付けが出来ないで、全部外したりすることがざらでしたからね」


 ミルシャとノブナガの端末たちに甲冑を着せてもらっていると、ミルシャが感慨深げに呟いた。

 川底に沈んだ甲冑は、見栄え重視の儀礼用の物だった事もあり、大変な手間がかかる代物だった。


 毎日油を付けた布で磨かなければ錆が浮いたし、激しく動いた後は職人が歪みを修正しないと、着脱に支障が出た。


 専用の管理担当が数人付いて、着付け専門の甲冑官という専門家が皇族には必ず付いていたほどだ。


 対してこのセラミック製の甲冑は軽く、錆びず、身に着けやすく、動きやすい優れものだった。


 拳銃弾なら余裕を持って防ぎ、胸部の一番分厚く傾斜した部分ならば、小銃弾をも防げると説明された事から、ある程度の実用性をも兼ね備えている。


 結局、起こされてから身支度が整うまで、一時間ほどで完了した。


 優れた甲冑の事もあるが、沸かさずに湯が出る設備や、地球製の肌によくなじむ、素晴らしい化粧品の力でもある。


 強大な軍事力に目を奪われがちだが、グーシュとしてはこういった細かな生活上の利便性こそが、地球の技術力を物語っていると考えていた。


 いずれルーリアトに地球の技術がもたらされた時、庶民が最も触れるのは連射できる銃でも、空飛ぶ軍艦でもない。


 湯が出る蛇口や、女を彩る素晴らしい化粧品、便利な電気製品達だ。

 一度それらに触れさせることが出来れば、いかなる反対派とて、庶民の心を地球から離すことが出来ないはず。


 人は、利を拒絶することはあっても、便利さを拒絶することは出来ないのだから。

 

 そうして考え込んでいたグーシュは、五人のノブナガに抱き着かれた衝撃で意識を現実へと戻した。


「さあさあ、グーシュ姉! 艦橋に行こう。グーシュ姉たちを歓迎するために観艦式をやるから。艦隊の他の艦を紹介するぞ!」


「かんかんしき?」


「ミルシャ、観艦式……つまりはノブナガ達の様な船が見栄えよく隊列を組んで行進することだ」


「はぁ~……殿下は、そのような事までご存じなのですか……宿営地でずっと、宙に浮いた半透明の板を見て学ばれたのですか?」


 感心するミルシャに説明しながら、グーシュの方はこの愛おしい脳筋娘に少し不安を覚えた。

 もう少し、好奇心というものを持ってほしいものだ。


「板とか言うな。情報端末だ、ミルシャ。お前も少しはだな……」


「喧嘩はダメだ! 仲良く。仲良く」


 少し棘のある言い方をしたのがまずかったのか、ノブナガ達がグーシュとミルシャにまとわりついて諫めた。


 動画で見た犬と言う動物を思い出すその挙動に、小さな怒りをかき消されたグーシュは、ミルシャと視線を合わせて、思わず笑いだした。


 笑顔になった二人を見て満足げなノブナガに手を引かれ、一路グーシュ達は艦橋へと向かった。

 手をぐいぐいと引かれ、人工重力の効いた通路を足早に歩く。


 そうして数分で艦橋にたどり着くと、そこにはすでにミラー大佐とミユキ大佐が待っていた。


「ノブナガ遅いっす! もう先鋒集団が見えてきてるっす!」


 来て早々ノブナガを叱るミユキ大佐だが、そこはグーシュが割って入った。


「すまんなミユキ大佐。わらわが寝坊したのだ」


「ああ……いや、申し訳ないっす」


 すぐにうなだれるミユキ大佐。

 どうも、ノブナガの扱いで苦労しているようだ。


 そんな事を考えていると、ぽきゅっという音を立てて、ミラー大佐がグーシュの頭の上にジャンプして着地した。


「ミユキ、落ち込むのは後にしなさい。ほらほら、グーシュとミルシャは艦橋の前の方に立って、敬礼してなさい。すぐに艦隊の先鋒集団がくるわ。みんなあんた達を歓迎するために、忙しい中集まってくれてるんだから」


「うむ、分かった。ミルシャ、行くぞ」


「はい、殿下」


 ミラー大佐に促され、グーシュとミルシャは艦橋の前の方へと移動する。

 

 余談だが、この艦橋は艦の中心部にあり、フィクションの宇宙戦艦の様な出っ張った部位にあるわけでは無い。

 

 当然、映し出される外部の様子は全て映像であり、いちいち前に移動する必要はないのだが、そこはそれ。それ相応の場所で観閲するべき慣例や雰囲気と言うものがある。


 そして二人が移動し終えた直後、前方左斜め方向に、小さな点の列が見え始めた。


「あれか? よくわからんな」


「グーシュ姉。いま、画像に補正をかける」


 瞬間、点にしか見えなかった物体が、美しい艦列で航行する暗緑色の航宙艦に変わった。

 後方の噴射炎も鮮やかに、徐々に近づいてくる様子がよく見て取れた。


「それではグーシュ様。僭越ながら私。ミユキ艦務参謀が我が艦隊の紹介をさせて頂きます」


 妙な語尾を付けずに、厳かな声でミユキ大佐が言った。

追加補足。

地球連邦軍の航宙艦には、一見すると艦橋に見える部位がありますが、それは艦橋では無く、対空火器とレーダー、光学装置の塊です。

設計者の趣味で、見栄えとある種の囮も兼ねてそう言ったレイアウトになっているという設定です。


次回更新が仕事の予定が不透明なため、未定です。

なので、近い内に航宙艦の解説を更新しつつ、予定を告知したいと思います。


バタついておりますが、今後ともよろしくお願いいたします。

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