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第17話-3 宇宙へ

 格納庫へとカタクラフトが格納されると、ジブリールの正面部分にゆっくりと力場で蓋がされた。


 この軌道空母の艦載機運用に、通常人間が関与することはないため、格納庫部分は真空状態のまま運用されるのだが、数少ないこういった事態においては、力場によって与圧されるのだった。


 グーシュ達が年相応の少女のように騒ぎながら無重力への理解と、ミラー大佐へのささやかな復讐を終えたころには、広大な格納庫には空気が満ちていた。

 

 カタクラフト内の機外安全ランプの色が緑になったことを確認したミラー大佐が、モチモチのお腹とほっぺたを揉まれながらそのことを伝えると、ようやくグーシュとミルシャは三人で団子になってカタクラフトの機内を浮遊することを止めた。


「まったく……いい加減にしなさいよね。ほら、無重力の移動の仕方を教えてあげるから。まずは、椅子の背もたれの部分を掴んで、床の部分に立ちなさい」


 天井付近を漂っていたグーシュとミルシャに、デフォルメミラー大佐がぶっきらぼうな言い方で指導する。


 二人は、おっかなびっくりといった様子で天井を手で軽く押して、床の方へと移動すると、椅子の背もたれを掴み、苦労して足を床へと付けた。


「よしよし、それでいいわ。アウン! ハッチオープン」

 

 ミラー大佐が大声で叫ぶと、機体のハッチがゆっくりと開いていく。

 完全に開いたことを確認すると、ミラー大佐がゆっくりと二人の前にやってきた。


「というか、ミラー大佐。さっきからこの無重力下で、随分と器用に移動してるが、どうやって移動しているのだ?」


「そうですよ、ミラーちゃん、まるで空中を滑っているみたいに……」


 二人が不思議そうに指摘すると、ミラー大佐はどや顔でくるりと鮮やかにその場で一回転した。


「今の私の体にはね、無重力下でスムーズに稼働できるように、空気を噴射して姿勢制御する小型スラスターが付いてるのよ」 


 ミラー大佐の言葉に、グーシュとミルシャがミラー大佐の体をよく見ると、背中や足の裏、手の先部分に針で刺したような小さな穴が開いており、そこから空気が力強く噴射されていた。


「こんな機能が……」


「ふふん♪ さあ、私につかまりなさい」


 ぬいぐるみのようなデフォルメミラー大佐の短い腕に二人がつかまると、ミラー大佐はゆっくりと前進した。

 そして、カタクラフトのハッチを潜ったグーシュ達に見えたのは、広大な格納庫に所狭しと並んだ無数の艦載機と、その艦載機の整備を担う大量のSS達だった。


 ジブリールの格納庫は無重力状態を維持されているだけあり、天井や床と言った概念が無い構造をしている。

 そのため、グーシュとミルシャから見て天井や壁にあたる場所にも格納スペースや整備スペースが設けられ、今も任務に対応するため、忙しなく機体と整備要員が働いていた。


 そんな光景に圧倒されるグーシュとミルシャを出迎えたのは、すらりとした身長の割に、随分とほっそりとした、血色の悪い女性だった。

 異世界派遣軍の制服に、足首まであるスカート。

 一般的なベレー帽ではなく、制帽を被り、ピンクがかった長い銀髪という、派手な装いだった。

 その存在にいち早く気が付いたグーシュが、まだキョロキョロと格納庫を見渡すミルシャを軽く小突く。


 二人はミラー大佐に手伝われながら、苦労して床に立つ。


 それを見た女性が、見本の様に美しい敬礼をすると、グーシュとミルシャもみぞおちに拳を当てるルーリアト式の敬礼を返した。


「グーシュ様、ミルシャ様。軌道空母ジブリールに良くおいでくださりました。私は本艦のSA、ジブリールと申します」


「出迎え感謝する。グーシュリャリャポスティである。快適な旅路であった」


「お付き騎士のミルシャです。ありがとうございました」


 浮き上がる体にびくつきながら二人が挨拶をすると、ジブリールはニコリと微笑んだ。

 その笑みを向けられた二人が、思わず顔を赤らめる。


「い、いやあ、しかし意外だったな。ミラー大佐。確かSAと言うのは、人間以外の乗り物など制御するアンドロイドでは無かったのか? ジブリール嬢はどう見てもSSに見えるが?」


 見惚れたのを誤魔化すように質問したグーシュに、少しイラついたような様子のミラー大佐が口を開いた。

 

「ああ? ああ、艦船のSAには艦内管理用のボディが付くのよ。艦載機の整備員は別だけど、艦内作業用のアンドロイドは全部ジブリールと同じ見た目。もちろん、中身も全部こいつよ。ていうか!」


 解説もそこそこに、ミラー大佐は怒声を上げた。

 あまりの声に、グーシュとミルシャが思わずビクリと体を震わせ、その振動でふわりと浮き上がった。


「ミユキの奴はどこにいるのよ! 予定では二人が乗る艦艇と一緒にここで出迎える筈でしょ!」


「……私に言われましても……ミユキ艦務参謀からは、トラブルがあり遅れると連絡がありましたよ」


「あんの野郎……」


「み、ミラー大佐! いいからつかまらせてくれ! 飛んで行ってしまう!」


「み、ミラーちゃん、あわわわわ」


 怒り心頭と言った様子のミラー大佐に、グーシュとミルシャが必死に掴まる。

 先ほど驚いた拍子にジブリールの格納庫上部に飛んでいきそうになったのだから無理もない。


「ああ、悪かったわね……はぁ、ごめんね。ミユキっていう私の同僚が遅れてるみたいなの。少しジブリールで待っててもらう事になるわ。ねえ、ジブリール。応接室用意してちょうだい」


「一応用意してましたが……あ、来ましたよ。ミラー大佐」


「え、何が?」


 唐突なジブリールの言葉に、ミラー大佐が訝しげに聞き返す。

 そんなミラー大佐に、ジブリールがミラー大佐の背後。つまり力場を張っている格納庫の入り口の方を指さす。


 それにつられてグーシュとミルシャもそちらの方向を見る。

 すると、遥か彼方。月の方角から、小さな黒点が近づいてくるのが見えた。


「なんだ……あれ?」


「殿下……なんか段々大きくなってませんか?」


 不安げな二人に、ミラー大佐が空気を噴射して寄り添う。

 ミラー大佐は参謀権限で艦隊の情報網に接続、謎の黒点についての情報を収集する。

 と、突然ミラー大佐の表情が驚愕に歪んだ。


「重巡洋艦オダ・ノブナガ……え、ちょ! ジブリール! あいつこのままじゃ……」


「ええ、ここに突っ込んで来ますね」


「「えっ」」


 ジブリールの無感情な言葉に、グーシュとミルシャが思わず聞き返した瞬間、格納庫に全長400mの巨艦が突撃してきた。

更新が遅れて申し訳ありません。

熱さと残業で死にかけておりました。


次回更新は1日の予定です。

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