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第17話-2 宇宙へ

 グーシュ達が搭乗したカタクラフトは、その後も高度を上げつつ、ついに宇宙空間へと到達した。

 その周囲には四機の軌道戦闘機メビウスがぴったりと護衛に付き、短剣のような美しい流線形の機影を輝かせていた。


 そうしていると、やがて編隊の前方に前面が段ボールの様に開いた、箱型の艦影が見えてきた。

 その艦影は惑星ワーヒドの高度四百キロを秒速八キロで移動する、軌道空母ジブリールだ。


 グーシュは知る由もないが、開いた四つの板状のパーツは電磁カタパルト兼着艦用のデッキになっており、それぞれα、β、γ、δと呼称されていた。

 ジブリールは、自らの艦載機である編隊をレーダーと光学映像で確認すると、着艦管制のため通信を入れた。


『こちらジブリールコントロール。カタクラフトVIPは、ジブリールαへ着艦せよ。護衛のウィンダム03は高度を維持しつつ、防空哨戒へと戻れ。以後はアズラエルの防空システムに接続せよ』


『こちらウィンダム03-1、了解した。カタクラフトVIP、当防空小隊は護衛任務から防空哨戒任務へと戻る。麗しき皇女殿下と美しい騎士殿のエスコートが出来た事を光栄に思う』


 通信機越しに聞こえてきた、若い男の声に思わずグーシュとミルシャは手を握りながら黄色い歓声を上げた。


「殿下、美しい騎士殿……だなんて。僕照れるな」


「麗しい……ふむ、こそばゆいが、悪くないな」


「あんのキザ野郎ども……。戦闘機のSAの言う事なんて真に受けたら痛い目見るわよ」


『そうですよ、殿下。戦闘機なんかより、私のようなカタクラフトのSAの方がよっぽど真面目でいいSAです』


「あんたも黙りなさい、アウン」


「ハッ。大佐殿……」


 グーシュに抱っこされたミラー大佐が威嚇するように天井を睨みつけると、カタクラフトのSAアウンは怯えたように通信をカットした。


 そんなミラー大佐を、グーシュとミルシャは優しく撫でてやる。


「なんだ、ミラー大佐? わらわ達を心配してくれたのか?」


「ミラーちゃん……」


 一瞬うっとりとした表情を浮かべたミラー大佐は、慌てたように短い手で二人の手を跳ねのけると、顔を真っ赤にして声を荒げた。


「か、勘違いするんじゃないわよ! あんたたち現地要人に変な虫を付けるような事をしたら、私と第049艦隊の不名誉になるでしょ! まったく……もう……」


 すっかりへそを曲げたミラー大佐を撫でながら、グーシュは先ほどから疑問に思っていた事を聞いた。


「すまんかった、許してくれミラー大佐。……あ、そういえば、あそこのモニターに映っている、ふたの開いた紙箱みたいな物がシャフリヤールなのか?」


 グーシュが座席の正面にある空中投影式モニターに映し出された、機体正面のカメラ映像を示す。

 すると、ミラー大佐は仕方なくと言った様子で口を開いた。


「もう、仕方ないわね。この際だから教えておくわ。あれは軌道空母ジブリール。攻略対象の惑星の軌道上、つまりはこれくらいの高高度に居座って、今乗ってるカタクラフトやさっき周りを飛んでたメビウスを飛ばしたり、艦内で整備するための航宙艦よ。全長は八百メートル。搭載数は約百五十機で、艦内にはルニ宿営地並みの地上部隊の指揮設備もあるわ」


 ミラー大佐の説明に、グーシュは目をキラキラと輝かせた。

 その一方で、ミルシャは笑みを浮かべながらも、顔を窓の外へと向けた。

 どうにもこういった事に興味の薄い娘だ。


「おお! 凄いな……さっき通信で言っていた、アズラエルと言うのは? メビウス戦闘機はそれの傘下に入るような事を言っていたが?」


「アズラエルは、この惑星のちょうど裏側の軌道にいる同クラスの航宙艦よ。人工衛星っていう、小型の地上やこの惑星の周辺宙域を監視するための機械を搭載して、それらを管理するための艦よ。アズラエルが人工衛星、ジブリールが航空機を搭載して運用。そしてそれらの管理は、二隻が共同で防空システムを構築して行うわ。大体軌道上の事は軌道コントロール艦が。地上の航空機運用に関する事は軌道空母が行うのが一般的ね。まあ、細かい事は二隻のSAに一任しているから、結構臨機応変にやってるみたいだけど」


 ミルシャにとっては呪文のような説明を、グーシュは流行の歌でも聞くようにうっとりとした表情で聞いていた。

 

 そんなミルシャにとっての退屈な時間が十分ほど経過したあたりで、カタクラフトはジブリールの巨大な着艦用デッキへの着艦態勢に入った。


 窓から見える巨大な艦影と、広大な着艦デッキにグーシュとミルシャは目を見張った。


『殿下、本機は軌道空母ジブリール、αデッキへと着艦いたします。それに伴い、ジブリールの航行システムへの悪影響を抑えるため、人工重力をカット致しますので、ご注意ください』


 SAのアウンの放送で重力について触れられた二人だが、何の事か分からずにきょとんとした表情を浮かべていた。


「なあ、ミラー大佐。重力は分かるが、人工重力とはなんだ? それを切るとどうなるのだ?」


「な、何か起こるんですか?」


「アーセツメイスルノワスレテタワー」


 ミラー大佐が白々しく棒読みで呟き、グーシュがそれを聞き咎めた。


「ミラー大佐、詳しく教えろ! そもそもだ。今回の宇宙の旅は急すぎだ! ほとんど説明もない上に、一木達は見送りにも来なかったではないか!」


 グーシュの言う通り、査問会の事を告げた一木は、あの後碌に詳細を伝えることもなく、一言「仕事がある」と言ったきりだった。

 夜になって今日の見送り式の事を伝えた後は、宿営地からの出発の際も顔も見せなかったのだ。


「……私の口からは言えないわ。ただ、あんたらのために働いている。その事だけは覚えておいて」


 ミラー大佐の口調から何かを感じ取ったグーシュが、そのことを問いただそうとしたその時だった。

 

「きゃああああ!」


 突然ミルシャが悲鳴を上げた。

 グーシュが何事かと思い、ミルシャの方を向くと、グーシュにもその理由が分かった。


「わ、わ、わ! お、落ちてる! わらわ達落ちてる!」


 突然の浮遊感と、内臓が浮き上がるような落下感に、思わずグーシュも狼狽える。

 ミラー大佐だけが、そんな二人を見てカラカラと笑い声をあげた。


「現地人に無重力の洗礼を浴びせるこの瞬間は、いつ見てもたまんないわね」


「な、なにー! ミラー大佐貴様!」


「ぼ、僕たちが慌てる様子を見るために……!?」


「わーはっはっはっは! 一木は無重力とか人工重力とか、きちんと説明しろって口うるさかったけどね! だーれがいつも揉みしだかれてる復讐の機会を逃すもんですか!」


 そう言ってミラー大佐は、素早くグーシュの腕を抜け出すと、二人のシートベルトを外した。


「「う、うわあああああああ!」」


 ふわりと座席から浮き上がった二人の悲鳴が機内に響き渡った。


『…………あー、本機は只今、ジブリールへと着艦……あの、大佐? 殿下? 騎士殿? 聞いてますか? おーい……』


 着艦したカタクラフトは、着艦デッキ上の機体輸送パネルに移動すると、滑らかな動きで艦内格納庫へと運ばれていった。

今日は昼更新です。

よろしくお願いします。

次回更新は明日の予定です。

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