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第16話-5 謀略

前回の投稿分に大幅な加筆修正を行っていますので、そちらをご覧になってからこの回をご覧になってください。

 満足げなマナを引き連れてグーシュの部屋に着いた一木が、インターホンを鳴らす。


 しばらくすると、部屋の扉が開いた。

 だが、入り口で一木とマナを出迎えたのはグーシュではなく、デフォルメミラー大佐だった。


「どうしたの? 早く入りなさいよ」


 そういって踵を返すと、デフォルメミラー大佐はポキュポキュと足音を立てて部屋に入っていく。


 十代の少女の部屋に入ることに一瞬の戸惑いを覚えた一木だったが、こんな所でモテないオッサンみたいな事をしていてもしょうがないと思い直し、部屋に入っていった。


「グーシュー! 一木が来たわよ」


 ミラー大佐が声を掛けると、ベットの上で寝そべって携帯端末を弄っていたグーシュがのっそりと身を起こした。


 着ているのは宿営地備え付けの黒いジャージで、ノーメイクにボサボサの髪。

 生身の頃の休日の自分と大差ない姿に、一木はため息のような音声を出した。


「勉強はいいが、少しだらしなくないか? ミルシャは頑張ってるぞ?」


 一木の言葉に、グーシュはジャージの上着をまくり上げてポリポリとお腹を掻いた。

 偏食だった食生活が改善されたせいか、肉が付いたお腹は少したるんでいた。


 そんなことを考えた一木だったが、マナの視線が怖くて慌ててモノアイをグーシュの顔へと向けた。

 

「いやー、すまん。地球の歴史が面白くてな……しかし地球人あれだな。意外と我らと変わらんな」


「まあ、そんなもんだろ。偉そうにこうして異世界まで来てるけど、ナンバーズがいなければ第三次世界大戦で滅びてたかもしれないのが地球人だ。世界を統一したルーリアト人の方がむしろ、凄いと俺は思うよ」


 お世辞抜きの一木の賞賛だったが、グーシュからすると皮肉の様に感じたようだ。

 床にいるミラー大佐の頭を掴んで引っ張り上げると、ギュッと抱きよせてベットに寝そべった。


「うにゃあああああ」


「わらわにお世辞を言いに来たわけではあるまい。どうした? 帝都に動きがあったか」


 だらしない格好と姿勢とは裏腹に、鋭い視線をグーシュは一木に向けた。

 先ほどのミルシャもそうだが、時々グーシュはこういう目をすることがあった。


 同期や、生身の頃の周囲の人々には無かった目。

 本気の殺意や、様々な強い意志が籠った、目。


 知識や、言葉では埋められない。

 地球人と異世界人の絶対的な違いが込められているのが、この目だと一木は思っていた。


「ああ。イツシズとセミック双方が、皇帝にグーシュの葬儀を早期に開催するように申し立てたそうだ。そして、皇帝はそれを受け入れた。二週間後には、国葬が行われる」


 一木の言葉を聞くと、グーシュはニマニマと笑みを浮かべた。


「ふふふ、やはりな。わらわが生きているという情報を流せば、そうすると分かっていた。どうだ一木! わらわの言う通りだったろう」


 グーシュのドヤ顔を見ながら、一木は会議でグーシュが言った事を思い出した。




「イツシズの粛清計画を利用する?!」


 グーシュが語ったのは、一木にとっては驚くべきものだった。

 イツシズがかねてから計画していた、ルーリアト帝国の敵対勢力を粛清する計画を利用して、グーシュ派が一気に権力を握るというものだ。


「そもそも、なんであんたがそんな事を知っている?」


 殺大佐が疑問を口にする。

 その通りで、そもそも敵対者のイツシズ渾身の計画を、碌な手勢もいないグーシュがなぜ知っているのだろうか。


 それに対して、グーシュはこともなげに答えた。


「確証は無いが、間違いない!」


「いやそんな理由で……」


「まあ、まずは説明させろ。いいか、まず。近衛騎士団の権限は絶大だ。その活動域において指揮権を得ている状態では、奴らは法的な枷がほとんど無い状態で活動できる。拘束、殺害、破壊行為何でもござれだ」


 グーシュの説明を聞いて驚いた一木が殺大佐の方をチラリと見ると、殺大佐は微かに頷いた。


「凄いな……しかし、イツシズがそんな権力を持っているなら、もっと派手な行動に出ているんじゃないのか?」


「そこは帝国の法律も考えてある。確かに近衛騎士団の権限は絶大だが、あくまで皇族の活動する場所で、指揮権がある状態の話だ。さっき言ったような事が出来るのは、普段は帝城の、それも皇帝のいる部屋に限られる。他の皇族が行く場所には、大抵その場所の駐留騎士団がいる。その場合指揮権があるとは認められない。つまり、この決まりが働くには、他の治安勢力もいない場所に、皇族が行く必要がある。当然、普段帝城にいる近衛騎士団がわざわざそんな場所に赴く必要もある」


「そんな状況……あるのか?」


 一木の言葉に、グーシュはカラカラと笑った。


「あるわけがない。あくまでこの決まりは、皇帝や有力皇族が他の貴族や属国に強権を発動するときのためのものだ。皇族が近衛を率いて、敵対者しかいない場所に行けば状況は簡単に作れるからな。近衛騎士団が恣意的にこの決まりを運用することはまずない、はずだった」


「だった?」


「二年ほど前に、帝都駐留騎士団の内規が改定になった。内規ならば重臣たちの裁可もいらず、報告だけで済むからな。その時、やけにどうでもいい内規変更が多かったので、よく確認してみたのだ。そうしたら、こんな変更があった。緊急行事の際は、近衛騎士団に指揮権を一本化することになっていたのだ。この緊急行事と言うのは、宰相府の内規では出陣式など、主に有事を想定した行事を指している。ところが、このしばらく後に、宰相府の内規も変更になった。期日を繰り上げた皇帝主催行事も緊急行事として扱う、という風にだ」


「期日を繰り上げた、皇帝主催の行事……?」


「ああ。つまり、緊急行事ならば指揮権は近衛騎士団に一本化され、決まり通り近衛騎士団は絶大な権限を発動できる。そしてだ。伝統的に、皇女などの葬儀。つまり国葬は、帝都をあげて行われるのが慣例だ。つまり、葬儀期間中は近衛騎士団は帝都全域で、どんな無法を働いても咎められない権限を有することになる。ちなみに、帝都駐留騎士団と宰相府の規定を改定した官吏は、イツシズの手の者や、実家が奴と繋がっている者だ」


 グーシュの話を聞いていて、そんな無法が通るのかと愕然とした一木だったが、こういった所がルーリアト帝国という国家の限界なのだろう。


 皇帝を選挙で選ぶ先進性がありながら、条文、内規、慣例等の、新旧はおろか効力すらバラバラの未熟で複雑な法体系を持つ国、それがルーリアト帝国だ。

 そうした由来も効力も文書化の有無すら曖昧な法体系では、こうした抜け道が容易に作り出せるのだろう。


「守旧派の連中もイツシズの事を警戒していた筈だが、あいつら馬鹿だからイツシズがこういう細かい事をしてくる奴らだと分かってないのだろうな。むしろ、イツシズが攻撃してくれば反撃できるくらいの考えなのだろう。まあ、馬鹿だから法的なお墨付きを得た武力の恐ろしさなんぞ、分からないだろうがな」


 したり顔で語るグーシュだが、セミックはどうなのだろうか。

 守旧派とやら程無能ではないはずだ。


 一木がそのことを尋ねると、ミルシャが首を横に振った。


「まず気がついていないでしょう。殿下は簡単に言いましたが、内規改定は毎週のように様々な部署が申請するんです。毎週、何十、何百もある内規改定報告書を、いちいち全部見る暇人なんて、殿下くらいのものです。そもそも、内規改定をくみ上げて合法的に行動を起こすことを考える人なんて、殿下やイツシズくらいです」


 イツシズという男は、かつては閑職として見下されていた文官系の近衛騎士だったそうだ。

 それを、慣例や風習、有名無実化されている古い法令を駆使して、瞬く間に帝都の支配者と呼ばれるまでになり、皇帝の右腕とまで呼ばれる男になった。


 腕っぷしが幅を利かせるルーリアト帝国にあって、ある意味グーシュ同様イツシズという男もまた、異端者なのだ。 


「なるほどな。そこは分かった。だがな、グーシュ。これだけでイツシズが粛清を狙っている証拠になるのか? そもそも、そんな都合よく皇帝主催行事なんて行われるのか?」


「なんだ一木、気が付かないのか? 一つあるだろう。イツシズが恣意的に行わせることが可能な行事が」


「イツシズが……あ!! そうか、……グーシュの……グーシュの葬式か!」


 一木の答えに、グーシュがパチンと指を鳴らした。

遅くなり、本当に申し訳ございません。

色々な事情で、難産となった回でした。

次回更新で16話 謀略は終わります。

前回と違い、すでに次回分は書き上げてますので、明日見直しを行って明後日投稿いたします。

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