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第14話 血に濡れる帝都

 ルーリアト帝国帝都。


 皇族同様、世界に唯一の都市として名の無いこの街は、数日前から毎夜惨劇の舞台となっていた。


 夜ごとに襲撃を受ける近衛騎士団とお付き騎士の関係者や当事者達。


 夜には悲鳴と怒号、剣戟と銃声が響き渡る。


 朝には事切れた男と女の無残な骸が転がり、節くれだった男の手足、絶望や無念さを携えた女の生首が道々に落ちている光景が広がる地獄絵図。


 それが今の帝都だった。



 そしてこの夜もまた……。



 近衛騎士団第二歩兵隊隊長カカロは、帝都駐留騎士団との会合を終え、帰宅の途に就いた。


 今の情勢的に夜間の外出を伴う会合など行きたくは無かったのだが、皇帝の決済待ちながらも近く行われるであろうグーシュリャリャポスティの葬儀に関する打ち合わせとあって、休むわけにはいかなかったのだ。


 そのため、イツシズの許可を得て近衛騎士団から騎士を六人という、通常二人の護衛定数を大幅に超過した護衛が付いていた。


「全く、困ったものだな」


 そんな状況下だからだろうか。

 緊張感の無いゆったりとした声色で、カカロは護衛騎士に話しかけた。

 カカロと同年代、三十末ほどの騎士が、やや固い様子で返答した。


「ええ、お付き騎士の女ども……皇太子殿下をたぶらかして我らに歯向かうなど……」


 護衛騎士としては当り障りのない返事をしたつもりだったが、その返答を聞いたカカロは吹き出した。

 何か失言をしたのかと、護衛騎士は慌てた様子で言い訳を考えるが、カカロはそんな護衛騎士を制した。


「いや、違うのだ。お付き共じゃない。イツシズ様の事だよ」


 その言葉に別の若い護衛騎士が、驚いたようにカカロに尋ねた。


「え、なぜイツシズ様が?」


 するとカカロは、鬱憤を晴らすように生き生きと話し始めた。


「それはな、今回の争いごとのそもそもの原因だよ。イツシズ様が空気を読んでくださればこんな大事にはならなかったのだ」


 突如始まったイツシズ批判に護衛騎士たちは面食らったが、護衛騎士たちも興味があったのか、六人全員が聞き入った。


「イツシズ様はセミックの奴が最初に攻撃したかの様に言うがな、あの女は別段イツシズ様や近衛騎士団と全面的に戦うつもりは無かったのだ……大広間での一件も単なる決別のための、いわゆる宣言に過ぎん。コレクの件だって、皇太子殿下に手を出すなと言う警告だったのだ」


 カカロの話は、護衛騎士たちにとっては理解しがたい物だった。

 公衆の面前で恥をかかせ、近衛騎士を一人殺しておいて争うつもりがないなど無茶な話だ。


「納得できないか? それは、この帝都にいるのが近衛とお付きだけだと思っているからだ。官吏共や貴族連中中心の守旧派がまだいるのだぞ? つまりセミックの思惑としては、グーシュ亡き後のイツシズ様の攻撃を防ぐための余防措置をしたかったのだ。実際にセミックが何もしなければ、例のコレクがセミックの役割を奪うために、皇太子殿下の世話係に就任するはずだったしな」


 カカロの話を聞いて、護衛騎士たちはある種納得していた。

 確かに、状況を見ればお付き騎士達が一方的に、近衛騎士団に争いを仕掛けたような構図に見えるが、コレクという女騎士の役割を考えれば、なるほどイツシズの攻撃を未然に防ぐための余防措置だった。


 そういう見方も出来なくはない。


「しかし、それならばなぜイツシズ様は全面的に争う姿勢を? セミックの思惑に乗って、裏で探り合いをしてればよかったのに……」


 若い護衛騎士がそう言うと、カカロは小さく舌打ちをした。


「そこがイツシズ様の困った所だよ」


「……それは?」


 護衛騎士の言葉は、困惑と緊張感を伴っていた。


「イツシズ様はな…」


 だが、彼らがその言葉の続きを聞くことは出来なかった。


 前方を歩いていた護衛騎士たちに対し、突然銃撃が行われたのだ。


 破裂音は四つ。


 腕前は確かのようで、三人の護衛騎士達は銃弾によって倒れ伏す。

 命中率の低い薬式鉄弓で大したものだと、カカロが感心するまもなく、後方の路地裏から現れた人影が、弩で矢を発射してきた。

 後方の護衛騎士達に矢が次々に命中する。

 

 一人が後頭部に矢を受けて即死。

 二人も腕や足に矢を受けて戦闘は困難な状態だ。


「あー、畜生……」


 カカロが心底嫌そうに呟く。

 そんな彼の視界に、前方の民家にある扉が蹴破られ、中から三人の女が剣を持って走り寄ってくるのが見えた。


 腕前にはそこそこ自身があるカカロだったが、三対一となればどこまでやれるものか。


「美女に添い寝されて死ぬのが夢だったが……いけるかね?」


 自嘲気味に呟き、カカロは素早く抜刀して、三人の女たちに斬りかかった。 

 


 翌朝。

 夜の剣戟と銃撃におびえていた周辺の住人たちは、通りに倒れる七人の近衛騎士の死体を見つけた。


 そのうちの一人、一番年かさで身分の高そうな騎士は、なぜか愛おしそうに冷たくなった女の右腕を抱いていた。


 その表情は、なぜか少しだけ満足げだったという。

次回更新は29日ないし30日の予定です。

不確定で申し訳ありません。


よろしければ感想、ご意見、ご質問などどうぞ。

読者の方の反応が一番の楽しみです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 女の右腕を抱いていた。 ↑ 人数から考えると腕だけのようだけど少人数で闇討ちするからにはかなりの使い手で鍛えられた腕、剣だこなどかなり普通の女性と異なるんじゃないかと思うが女性のものだ…
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