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第13話-1 帝都の二大派閥 

久々のルーリアト側視点。

次回更新は26日の予定です。

また、前話の一部を修正しましたので、ぜひ読みなおしてからこの話をお読みください。

「糞が! セミック……ルイガに取り入ったお付きの分際で、イツシズ様に逆らうとは!」


「剣を振り回すことと、皇族に股を開くしか能の無いやつらが!」


 激昂する部下達を、イツシズは冷めた目で眺めていた。

 いや、正確に言うと、こういった時冷静になるために、わざわざ騒がしく激昂しやすいこの連中を近くに置いていたのだが。


 実のところは、イツシズ自身が目の前の愚かな男以上に激昂していた。

 だが、セミックにではない。

 グーシュという大敵を葬ったと油断していた自分自身にだ。


(お付き騎士……あそこまで結束の固い連中だったとはな)


 イツシズの言う通り、セミックとお付き騎士たちの結束は大したものだった。


 グーシュを橋から突き落としたところまでは良かった。

 実行役との連絡途絶という予想外の出来事こそあったが、元々危険な火薬を用いた任務だ。


 ガイス大橋が丸ごと崩落するほどの威力の中、計画ではグーシュの生死を確認するため橋の下の川岸にいた実行役が、命を落とすこと自体は想定の範囲内だった。


 そのためさほど気にせずにいたのだが、よもや一昨日の皇帝によるグーシュ行方知れずの通達の場で、皇太子の護衛に過ぎないと高をくくっていたセミックにしてやられるとは、完全な予想外だったのだ。


 むしろ、数日たって落ち着いたころに、セミックの力を削ぐために、新しい皇太子の世話役を送り込む手はずを整えていた。

 こちらから先手を取るつもりでいたのだ。


 そんな自分の考えの甘さにも、イツシズは怒りを抑えきれない。

 だからこそ、愚か者が激昂する様を見て、かろうじで自信を抑え込む。


「諸君、気持ちは分かるがな、お嬢さん方にあまり下品な事を言うではないぞ。軽く見える」


 自身が、経験豊かな騎士としての演技を継続できている事に内心安堵しながら、イツシズは口を開いた。


 すると、目の前にいた部下たちは目に見えて静かになった。

 どうも、役割を理解していたのはイツシズだけでは無かったようだ。

 思ったよりも優秀な部下に、イツシズは内心満足した。


「して、イツシズ様。どのような手を?」


「奴らがお付き騎士達のつながりを用いた組織だとするならば、ワシの表立っての力は使えん。ましてや今、ワシに対する重臣の見方は厳しい……ここはからめ手だな」


 イツシズがそう言い、手を軽く叩く。

 すると、部屋の扉が開き、一人の皮鎧を身に着けた女騎士が入室してきた。


「失礼いたします。コレクと申します」


 拳をみぞおちにあてる敬礼をする女騎士。

 背が高く、胸が大きく、目つきの厳しい。

 セミックに雰囲気のよく似た女だった。


「イツシズ様、この者は?」


「本来ならもう少ししてから送り込む予定だった、新しい皇太子の世話係だ。グーシュ亡き後、お付き騎士の役割を近衛騎士団が奪うべく準備していたが、ここは予定を早める」


 イツシズの説明に部屋の男達が値踏みするようにコレクを眺める。

 そして、イツシズの意図を全員が理解した。


 なるほど、女騎士として強さを纏ったセミックとは違い、似た雰囲気ながら濃密な女としての空気を纏う。それがコレクという女だった。


「武芸も学びましたが、殿方を落とす方法を深く学びました。聞けば皇太子殿下は深く落ち込まれているとのこと。私が、慰めさせていただきます」


 色気漂うコレクの言葉に、男達から唾を飲み込む音が聞こえた。

 だが一方で、それに対して疑義をはさむ者もいた。


「ですが、セミックが受け入れるでしょうか? このタイミングで近衛から追加人員など……」


「受け入れる」


 イツシズは強く言いきった。

 腕組みをするその姿は、威信に溢れていた。


「奴は皆に示しただろう? 自らが皇太子を律せず、醜態をさらした様をな」


 イツシズの言う通り、先ごろの皇太子の醜態は、確かにイツシズへの疑念を帝都に知らしめるものとなったが、同時にセミックが皇太子を支えきれないことを示していた。


「この状況下で、人員の追加を拒めば、それこそ好機だ。醜聞を広め、影響力を落とす、そして集結中の実行部隊を使って、その肉削ぎ落してくれるわ」


 お付き騎士の力とは、すなわち人脈が成せる力だ。

 イツシズは、比喩通りセミックの人脈と協力者を、肉を削ぐように武力で潰していくつもりだった。

 

 このコレクはその尖兵だ。

 受け入れれば皇太子の恩寵を奪い。

 拒めばこれを理由に評判を落とし、動きを縛るきっかけとする。


「頼むぞ、コレク」


「はっ。お任せを。皇太子殿下のご趣味はお聞きしております。なあに、一晩で私無しでは居られぬ………」


 妖艶な笑みを浮かべるコレクの額に、小さな穴が開いた。

 続いて、ターンという乾いた音が響き渡る。

 遠距離からの、鉄弓による銃撃だという事に、イツシズだけが気が付き、立ちすくむ部下たちをよそに素早く床に伏せた。


 その一拍後、コレクの体が力を失い、あおむけに倒れ伏した。

 もう誰の心を魅了することの無い、豊かな胸がたゆんと揺れる。


「ひゃああああああああああああ」


「ど、どこからだ!」


「助けてくれえええ!」


「イツシズ様伏せて……」


 みっともなく狼狽する部下たちをしり目に、素早く窓際に這いずったイツシズは、窓布を下ろした。


「黙らんか! この馬鹿者どもが!!!」


 ようやく声を抑えた部下たちを見据え、怒りを隠すことを止めたイツシズが叫ぶ。


「衛兵を呼べ! それと帝都周辺にいる手勢を全員招集しろ! 腕利きを近衛の内外から集めるようにも手配だ!」


 青筋を立てて、自身とセミックへの怒りを爆発させる。

 無能な部下どもめ。

 もはや、演技などいらぬ。

 もはや、策などいらぬ。


 イツシズは、正面からセミック一派を潰すことを決めた。


「あの皇族に股を開くしか能の無い阿婆擦れ共を、ぶち殺せ!」

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