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第8話―3 強制捜査とお見舞い

明日の更新はお休みします。


恐らく、完全な不定期更新に移行すると思われますが、ご了承ください。

週に数回程度の頻度になるかと思われます。

 そうして捕まった容疑者達は、家族と一緒にガガーリン装甲車に詰め込まれると、騎士たちと歩兵たちの乗ったものと合わせて七両の車列を組み、宿営地へと向かっていった。


 先頭を行く車両では、騎士と衛兵たち十人が、これからのことを話していた。


「クーロニまで隊長扱いとはな……こりゃ、もしかすると運が向いてきたのかもな」


 そう口火を切ったのはもっとも年かさの騎士だった。

 年は四十過ぎで、妻と五人の子供を抱える男だ。

 ルニ子爵領程の領地ともなれば、土地を持たず給金だけで暮らす騎士や、普段は治安活動に従事し、有事に徴兵された兵士をまとめる役割を持つが、臨時雇いに過ぎない衛兵たちの生活は苦しいものだ。


 勿論、子爵領の軍備全てを担う騎士団長や副騎士団長ともなれば多少の余裕はあるが、たった二つの役職が巡ってくるのは遥か先の話だ。

 例え空きが出たとしても、そのころには団長と副団長の子供が候補者になっている。

 年老いた彼らに役割が巡ってくる事は無く、結局は貧しい仕事を、生きるために子供に譲る事になる。


 つまりは、彼らはある意味安定してはいるものの、貧しい生活をこの先ずっと強いられることが確定した者達だったのだ。

 乱世とは程遠いルーリアト帝国の地方領主に仕える騎士の現実だった。

 これが帝国に直接仕える本軍の軍人や、厳しい選抜を受ける近衛騎士、四天王である四公爵家の騎士ならばまだ違うだろうが、人手不足で盗賊と慣れあうような小領主の騎士など、この程度のものだ。


 だが、彼らはこの日。

 初めて自分の固定された生活に変化が訪れた事に気が付いた。


「運……騎士様、それはどういう事で?」


 会話のきっかけを作った騎士よりもさらに年かさの、衛兵の男がおずおずと聞いた。

 男はベテランの衛兵だったが、別段何かに優れていたわけでは無い。


 ただ、たまたま徴兵された回数が多く、訓練の成績が多少良く、ちょうど衛兵の空きがあった時、仕事を無くして暇だっただけの男だ。

 そうして雇われ、その後の食い扶持のためずるずると二十年近くこの仕事をしていたら、この年になっていたのだ。


 給金と家は与えられるが、独り身でも生活は苦しく、未だに独身のままだ。

 他の五人の衛兵も似たような境遇か、家族がいても共働きで子供まで奉公などで働かなければならない程貧しい身の上である。


 ザシュ・ゴーウが言ったように、門番や事件の捜査にかこつけた賄賂が無ければ、とても生活できない程貧しかった。


 では給金を上げる気が子爵側に無いかと言えばそうではないのだが、そのたびに内勤の文官などから「どうせ賄賂を貰うのだから」と声が上がり、それならばと放置される。

 そして貧しいので、賄賂を貰う。貰わざるを得ない。そういった悪循環にある職種。

 それが地方領主の騎士と衛兵という職種だった。


「敵もいない。盗賊も……少なくとも俺たちが命を張るような相手もいない中、俺たちは正直言って疎まれてた。そりゃそうだ。門で威張るか、ケチな盗人の捜索の時、飯や金をたかるだけなんだからな」


 自虐的な騎士の男の言葉に、皆苦い顔をしながらも誰も反論しなかった。

 それはどうしようもない事実だったからだ。

 自分たちは、いなければならないが、必要のない存在。

 それが内心では気が付いていた、彼ら自身の自己評価だった。


「だが、さっきのグーシュ様の話を聞いただろう? 民の勝利のために! ってわけだ。子爵様もそれに賛同した今の状況、どうしたって俺たちが必要になる。違うか?」


 グーシュが言った民の勝利のための戦い。

 具体的な事は彼らは分からなかったが、戦闘力を持った存在が必要なのは明らかだ。

 そして、どんなにみすぼらしくてもそれを持っているのは、子爵領では彼らにおいていないのだ。


「力っていっても……俺たちに何が出来る? 剣? 槍? 週に一度の訓練日に、出される食事目当ての家族と一緒に、駄弁りながら練習するだけの俺らに、皇太子様の手勢や近衛騎士と戦うなんて、出来ると思ってるのか?」


 もう一人の騎士がそう言うが、最初の騎士はニヤリと笑みを浮かべた。


「剣だの槍だのじゃない。いいか? さっきの捕縛の時見ただろ。子爵様はああ言ったが、結局のところ皇太子さまと戦うのは地球連邦のお嬢様方なんだよ。俺たちはあくまで、グーシュ様が外国の力で戦った事を誤魔化すだけでいいんだ。分かるか?」


 そう言われて、クーロニ以外の全員がピンときた表情を浮かべた。


「つまり、俺たちは今日みたいに……」


「そうだ。嬢ちゃんたちにくっついて行って、言われた通りにしてればいい。そうすれば、名目だけ子爵領の軍勢が戦って、あくまで地球連邦は”手伝い”をしただけってことになる。そういう筋書きだろう」


「え、で、でも……それがどうして運が向いてきた、なんですか?」


 クーロニが言った言葉に、最初の騎士が笑い声をあげた。

 ただし、嘲笑ではない。

 この未熟で世間知らずの少年に、これから起こる素晴らしい事を教える愉悦の笑いだった。


「お前、あの地球連邦の隊長と手なんかつないで来ただろ?」


「そ、それが何ですか? ルキさんは俺の事を元気づけようとして……」


「いやいや、お前の事を咎めてるんじゃねえよ。要はだ、ほとんど何もしてない俺たちを、チヤホヤしてくれる……つまりは接待してくれてるんだ、わかるか?」


 その言葉に、再びクーロニ以外の全員が理解したように頷いた。

 クーロニだけは不満そうに呟いた。


「それは、俺が立派に務めを果たしたから……」


「そう思いたいんならそれでもいいがな。つまりは地球連邦の方々は、俺たち現場の騎士や衛兵を自分達の側に付けたいんだよ。門番の俺たちに、便宜を図ってほしくて賄賂をくれる商人みたいにな」


 年配の衛兵が嬉しそうに笑い声をあげた。


「そりゃあいいな! なるほど、俺たちにしか出来ない仕事のために、相手から貰うもんを貰う。いつもと同じだな!」


 相も変わらずクーロニだけは渋い顔をしていたが、他の騎士たちは笑みを浮かべていた。


「子爵様には世話になったが、今日これからの話し次第では、俺たちが付くべき相手は変わってくるな……ボロ屋と安給料以上のもんが貰えるといいんだが……」


 そんな彼らをよそに、車列は宿営地へと到着した。

 小さな揺れを感じた後、後部扉がゆっくりと開く。

 そこには、彼らを出迎えるように微笑む、制服を着た美しい女たちの姿があった。

 福利課のSS達だ。

 ただし一人だけ、戦闘服を着た指揮官型のSSが混じっていた。ルキだ。


 そして、彼女たちの代表者である、正装したシャルル大佐が口を開いた。


「ようこそ地球連邦軍ルニ宿営地へ。わたくしは、この度みなさまのお世話を任されましたシャルルと申します。以後お見知りおきを」


 そう言って頭を下げるシャルルに、年上の騎士が慌てて頭を下げる。

 急いで降りるように騎士たちに言うが、そんな彼らをシャルルは静かに制すると、一人一人美女が手を差し出して狭い搭乗口からエスコートする徹底ぶりだった。


 デレデレとした情けない顔をした騎士と衛兵たち。

 ちなみに当然ながら、クーロニに手を貸したのはルキだった。


 全員が下車したのを確認すると、シャルルは厳かに口を開いた。


「今日はもう遅いので、報告と話し合いは明日にいたします。これから今日の容疑者捕縛を祝っての宴席をご用意いたしました。どうか、楽しんでいってください」


 そう言って深く頭を下げるシャルルに、騎士たちは満足そうに笑みを浮かべた。


 先ほど年かさの男が言った事が、概ね正しい事が分かったからだ。

 そうして彼らは、美しい福利課のSS達に促されて宿営地の建物へと歩き出した。


 彼らの背後では、憲兵隊の尋問担当官に連行される、容疑者の泣き声が響き渡っていた。


「ご家族の皆さんにいらっしゃってもらったのは、あくまで聴取と安全のためであります。グーシュ様を裏切った人間の身内と分かれば、何があるかわかりません。ですので、みなさんが無実であると判明した段階で、ルニの街に謝罪文を配布したうえで、安全を確保してお返ししますので、どうかご安心を」


 マナの声が、不安そうにする容疑者の家族達に届くが、安心した様子の家族は一人もいなかった。

 マナはそれを見ても表情を変えることなく、宿営地警備隊に命じて家族を来客用の部屋へと案内させた。


 これから彼らには、施設の利用説明担当という名目のSSが一人、常に張り付き、捜査に目途が付くまで拘束されることとなる。

 大半の家族は街の状態を見ながら、補償をした上で送り返されるだろうが、スパイ行為への関与や、容疑者本人への態度次第では、拘束は長期に渡る。


 一木も、異世界派遣軍も。現地人の権利を尊重するつもりではある。

 だが結局のところ、それは条文や内規ですら無い意識的な物に過ぎない。

 理由さえあれば、それらは容易く侵害されるのだ。

いつも閲覧、ブックマーク、評価、誤字脱字報告ありがとうございます。

個別の御礼、特に誤字脱字報告へのものが出来ておらず、申し訳ありません。


いつも未熟な作者のフォローをしていただき、本当にありがとうございます。


できれば感想という形で、声を聞かせていただければ非常に励みになります。

一言でも大丈夫ですので、お気軽にどうぞ。

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