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第8話―1 強制捜査とお見舞い

 宿営地につくと、グーシュとミルシャはすっかり寝入っていた。

 一木は二人を起こさないように自分は最後に降りることにすると、宿営地のSSに命じて二人を用意していた部屋のベットまで担架で運ばせた。


 それを見届けると、一木はおっさんの様に「よっこいしょ」、と言って這いずるように装甲車から降りた。膝の塗装が剥げたのを見て、マナが「後で塗りなおしますね」と一木の膝を撫でた。


「あー、疲れた……まさかあんな細かい台本を用意されるとは思わなかった」


 一木の言う通り、短時間でグーシュが作った演説の原稿は、もはや演劇の台本同然の代物だった。

 サクラが叫ぶ言葉やタイミング、果ては演説終了後に子爵領の人間にどのように接し、どのように行動や言動を誘導するかなど。


 あまりに細かい内容に、一木は昼の会談でさんざんグーシュの事を人の気持ちが理解できない、と言った自分自身を疑ったほどだった。


(まあ、逆なんだな。理解できないが、分かる。だからこそ、細かく演出して、自分自身も演じないと駄目なわけか……)


 そんな事を考えていた一木だが、実のところまだやる事が残っている。

 正直今すぐに、仮想空間で風呂に入った後、眠りたいところだが、こればかりは絶対に外すことが出来ない。


 ミラー大佐の見舞いに行かなくてはならないのだ。

 あの騒動のあと、感情処理工程全般に溜まったストレスデータの軽減を行っているという事なので、そろそろ会話できるはずだ。


「殺大佐。俺はこれからミラー大佐の所に行ってくるつもりだ。一緒に来てくれるか?」


「おうよ。あいつもサシだと顔合わせづらいだろうしな」


「ジーク大佐は宿営地業務全般を頼む。滑走路の工事と、明日のクラレッタ大佐が乗ったカタクラフトの、出迎え準備を優先的にな」


「了解したよ」


「マナはこれから来る、皇太子派の工作員の収容準備を頼む。地下にある収容施設を使って構わない。念の為、橋で捉えた連中とは接触させないように。一緒に来る予定の家族は、来客用の部屋に監視を付けて収容。工作員本人とは逆に、厚遇するように。清潔な服、美味い食事、子供にはお菓子と玩具。その他工作員本人との面会以外は全部叶えてあげるんだ」


「わかりました」


「私は私はー?」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、シャルル大佐が手を上げる。

 一木は苦笑しながら、ある意味一番重要な仕事を任せた。


「シャルル大佐は、工作員捕縛の指揮を執った子爵領の治安担当騎士と衛兵の接待を頼みます」


 それを聞いたシャルル大佐は、嬉しそうに献立を考え始めたが、殺大佐はどこか不満げな表情を浮かべた。


「治安騎士……そいつらをこっち側に引き込むための接待攻勢だろ? 情報参謀部(うち)の管轄じゃないか」


 それを聞いた一木はモノアイを殺大佐の方に向けると、少し考え込んだ。


(確かに諜報課のそういった面子を使えば早いけど……)


 ただし、実際のところ諜報課は完全にオーバーワーク状態であり、猫少佐などは目が回るほど忙しい状態だ。

 一木としては、これ以上の酷使は避けたいところだ。


「いや、諜報課をこれ以上酷使することは出来ません。なるべく他の部署に仕事を割り振っていかないと」


「そりゃもっともだが……」


 そこまで言って、殺大佐は少し照れたように頬を赤らめた。


「だがハニトラ用の女がいるだろ。現地人の篭絡を飯だけでってのはさすがに厳しい。美味い飯、酒、金、珍しい物、そして、あれだ……女。ここら辺総動員でかかった方がいい」


 さすがにこういった案件の専門家の意見だけに、一木としても参考にせざるを得ない。

 現在動員出来る宿営地のアンドロイドのリストを見て、しばし考え込む。


「確か……福利課に、師団長向けの、その……夜の…なんだ」


「福利課のエロ担当?」


 しばし言い淀んだ一木に、ジーク大佐がはっきりと言った。


「せめて夜伽とか接待とか、マッサージとか……オブラートに包もうよ」


 確かに殺大佐の言う通り、福利課にはそういった事を師団長の人間に対して行うアンドロイドがいる。

 そして現在、サーレハ司令と一木以外に艦隊に人間がいない現状、当然ながらこの宿営地にも福利課の人員は配置されていた。

 もっとも一木は利用しないので、もっぱら雑務に従事していたが。


「ああ、そうだ。シャルル大佐はその……福利課のお姉さん方と相談しながら接待の計画を練ってくれ、大至急だ。計画が出来たら殺大佐にデータを送ってチェックしてもらってくれ」


「わっかりましたー!」


 はしゃぐシャルル大佐に、殺大佐が注意した。


「おい、シャルル。あんまり露骨にするなよ、こういうのはさじ加減が大事なんだ。あんまり露骨にすると頑なになる奴もいるからほどほどに……」


 あれやこれやと話し始める二人をしばし眺めていた一木だったが、そろそろ疲労が限界だった。

 それにミラー大佐の事も心配だ。


「二人ともそれくらいにしてくれ。あくまで接待は、今日指揮を執った騎士の方々への感謝の表明ってことにする。その過程で騎士個人個人の好みや弱みを握って、そこを責めるんだ。頼んだぞ。殺大佐、行こう」


 やや強引に会話を終えると、一木は殺大佐を連れて、一路ミラー大佐がいる修理工場へと向かった。


 そして、一木達がそんな会話をしていたちょうどそのころ。

 ルニの街では……。

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