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第4話―1 初めての射撃

 一木は右端にいたSSの持っている銃から説明を始めた。


「まずはMSH44カービン銃。MS44という銃を連射できるように改良したもので、銃身を肉厚にして、重量を増したことで命中精度を高めたものです。グーシュ、銃を撃ったことがあると言っていましたね?」


 一木の問いに、グーシュは自慢げに答えた。


「うむ。一日に百発以上撃った者は騎士団でもそうはいないぞ。弾薬管理官は泣いておったがな」


 この大陸の平和な状況では無理もない。

 貴重な訓練用の弾薬をそんなに使われては、さぞやりくりに苦労しただろう。


 もっともこの時のグーシュの経験が、イツシズの火薬横領や、一木達異世界派遣軍の企みを見抜く原動力になったことを考えると、一概に無駄ではなかったわけだ。


「……まあ、それは置いておいて……。その時、銃はどうなった?」


「銃……鉄弓はそうだな、だんだん当たらなくなってな。それは火薬の熱で銃が熱を持ったから……ああ! なるほど。鉄の筒を分厚くすることで熱に強くなる、つまりは撃ち続けても命中精度が保たれるわけだ」


 相も変わらず高い理解力に驚いていると、隣にいるミルシャが首を傾げた。


「殿下、なぜ鉄弓が熱くなると命中しずらくなるのですか?」 


「それは熱で鉄の筒が膨張して歪みが出るからだ……ミルシャ、いつだか熱で物体が膨張するという話をしてやっただろうが、覚えておらんか?」


 グーシュがジト目で問い詰めるが、明らかにミルシャは覚えていないようだった。

 どうもミルシャには、グーシュのような好奇心が、あまり備わっていないようだ。

 もっとも近代化以前の人間に、科学的な話題に興味を持てと言うのが無理があるのだが。


 よくもまあ、こんなに趣味嗜好に差があるのに仲がいいものだ、と一木は感心した。


「そんなの覚えているわけないじゃないですか……訓練と……その、夜のアレの後にいろいろお話をされても眠くて……」


 随分と百合百合した話が聞こえたが、一木は聞こえないふりをした。

 こういう時この体は完璧なポーカーフェイスが出来ていい。


『弘和君……モノアイがぐるぐるしてますよ……』


 前言撤回……。

 マナが冷たい口調で通信を入れてくれた。

 どこまでいっても自分は顔に出てしまう質のようだ。


「まったく……仕方のないやつめ。あとでお仕置きな」


 グーシュの過激な言葉をスルーすると、一木はさらに解説を続けた。


「次に紹介するのは、G21PDW。片手で扱うことに特化した銃で、地球のカタールと言う刀剣に似た形状をしている事から、通称カタールガンと呼ばれる銃です」


 SSが手にしているのは、H字型の握りと親指でボタンを押すタイプのトリガーを持ち、拳の先に薄い箱型の本体が来るような形状をした銃だった。


 大きさはコンパクトで、全長は40cm程。

 カタールガンという通称だが、実際にはジャマダハルと言う剣の形状に似ている。

 これはジャマダハルという剣が、カタールと言う別の剣の名前で広まってしまったため起こった齟齬なのだが、この銃は採用後、間違った名前の方で通称が広まってしまったのだ。


 アンドロイドが白兵戦で用いることに特化した銃で、銃剣をつけることで実際のジャマダハルに近い使い方も出来る。

 さらに通常のサブマシンガンや、PDWと呼ばれるアサルトライフルとサブマシンガンの中間の銃が、基本的に両手で構えるのに対して、この銃は片手で用いることが推奨されている。


 当然、普通の人間には困難極まる使用方法だ。

 照準を付けるためのアイアンサイトが標準装備されておらず、基本的にSSに内蔵されたFCSとのリンクを前提に設計されている。

 そのため人間が用いる際は、ハンドガードと照準器を本体にオプションとして取り付ける必要がある。

 このようにクセの強い銃だが、貫通力に優れた5.5mmケースレス弾を使用する命中精度、連射性能、信頼性全てに優れた銃であり、オプション装備の取り付け箇所も多いため、陸軍の後方部門での採用実績もある。

 もっとも、ハンドガードと照準器、銃床を取り付けた本銃をカタールガンと呼べるのかは非常に疑問だが。


「これは突撃兵という、さっきのパレードで足首まであるコートを着た兵士が主に使う銃です」


「ああ、あの暑そうな兵士たちか。あの服にはどういう意味があるのだ?」


グーシュの問いに、一木はG21PDWを持ったSSに命じる事で答えた。


「光学迷彩起動」


「了解、起動します」


 そうSSが応じると同時に、そのSSはコートのフードを被ると、さらにファスナーを閉めて目元以外を完全にコートで覆った。

 そして次の瞬間。


「うわ!」


「き、消えた!」


 グーシュとミルシャが驚きの声を上げた。


 無理もない。

 二人の目の前で、熱光学迷彩を起動した突撃兵は透明になり、僅かな陽炎の様な揺らぎを残して姿を消してしまったのだ。


 もっとも、構造上目元や足首が僅かに見えているが、そうそう気が付けるものではない。

 

「これは熱光学迷彩といって、見ての通り透明になり、さらに体の熱も隠す特殊装備です。突撃兵はこれを起動した状態で、敵陣に突っ込んで撹乱や制圧を行います。そのために近距離で使いやすい銃として、さっきのカタールガンが使われる、というわけです」


 一木の説明を聞いていたミルシャが、降参といった様子で両手を上げた。

 この仕草は地球と共通らしい。


「一木殿。先ほどの言葉は撤回しましょう。どうあがいても騎士団ではあなた達には勝てない……」


 一線を越えてしまったのか、ミルシャの目には恐怖ではなく諦めがあった。

 素直な感想に一木は感心した。


 異世界の騎士や軍人がみんなこうであれば、異世界の死人は随分と減っただろう。

 だが、中々そうはいかない。


 異世界には、空中に浮かぶ航宙艦や機甲師団を目にしてもなお、剣や槍を持った騎士に勝ち目があるという人間で溢れている。


 大概そう言った人間の声には力があり、そして血が流れるのだ。


 だからこそ、このルーリアトではグーシュとその支持者を集めて、力を持ってもらう必要がある。

 こうして、小さな事から地球の力を知ってもらうことが流れる血を減らすことに繋がるのだ。


「そう思ってもらえれば、流れる血を減らせます……さて、では最後の銃を紹介しましょう」


 そうして一木は最後のSSの銃を紹介する。


「これはM65拳銃。見ての通り、カタールガンより小型の、片手で保持可能な銃、拳銃です」


 一際小さな銃を見て、グーシュの目が光った。


「これが撃ちたい」


 随分とはっきりした言い方だった。

 視線には、先ほどまでの好奇心とは少し違う意思が感じられる。

 何かが琴線に触れたのだろうか。

 それとも。


(また何か思いついたか?)


「殿下、僕は先ほどの長いじゅう? がいいと思うんですが……」


 ミルシャの言葉にも、グーシュの意思は変わらない。


「いや、この拳銃がいいのだ。これならわらわでも持ち運べる。ルーリアト人ではすぐに武器だと分からない。そう言った点で利点が多い。撃ち方を覚えるならこれだ」


 グーシュの言葉を聞いて、一木は驚いた。

 この皇女様は、最初から興味ではなく自分が用いるつもりで銃を品定めしていたのだ。


 一木としては試し打ちだけのつもりだったが、そういう事ならそれでもいい。

 これからやってもらう事の代わりに所持を認めればちょうどいいだろう。

 そうすれば話もスムーズにいく。


「私はグーシュに銃をあげるとは言っていませんが?」


 そう一木が告げると、グーシュはニヤリといたずらっ子の様な笑みを浮かべた。


「そんな吝嗇(けち)な事を言うな。わらわにも護身の術は必要だろう? ミルシャがいると言っても万が一があるし、わらわは剣が苦手だ。なあ、一木?」


 グーシュの言葉に、一木は少し迷った素振りをすると、条件にある事を告げた。


「いいでしょう、グーシュ。その代わり、この後ルニの街で演説をしてもらいたい」


 一木の言葉に、グーシュの頬が何かを察したようにピクリと動いた。


「なるほどな。別に銃の所持の代わりになどしなくても、それくらい聞いてやったのに。内容はもちろん……」


「まあ、察しの通り……」


 一木とグーシュは顔を寄せ合うと、ごにょごにょと演説内容について話した。

 グーシュは納得したように頷くと、あっさりと了承した。


 その様子にミルシャが驚愕して、何かを言おうとするが、グーシュは我関せずだ。


「よし、約束だからな。そこのえすえす! その拳銃を見せてくれ」


 意気揚々と射撃しに行くグーシュ。

 それを見送るミルシャは、鋭い視線で一木を睨みつけた。


「どういうつもりだ一木殿! あなた達は一体、グーシュ殿下に何をさせるつもりなのだ!」


 怒るミルシャに一木は告げた。


「言った通り。グーシュにはこの後、ルニの街で演説をしてもらいます。内容は……」


 一木は、睨むミルシャの目をモノアイで真っすぐに見据えた。


「地球連邦と協力して皇太子を討つ事を宣言してもらう。それだけです」


 決定的にミルシャの表情が怒りに染まった。

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