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第1話 閲兵

 マナに応急処置……取れたアンテナをビニールテープで巻く、をしてもらった一木は、急いでグーシュ達が待っている宿営地本部前に向かった。


 そこでは殺大佐とシャルル大佐、そして服装を整えたグーシュとミルシャがパイプ椅子に座って待っていた。

 そして少し離れたところには、今回の閲兵式とパレードの準備をしていたジーク大佐が、煌びやかな勲章と参謀モールを付けた正装姿で立っていた。

 一木が敬礼しながら近づくと、グーシュとミルシャが立ち上がり出迎えた。

 

 正直、本来なら一木が出迎えるべき場面だ。

 マナにあの後もついつい甘えていたのがまずかった。


(どうにも、ジークとマナと一緒に朝を迎えたあたりから……タガが外れているな)


 シキがいなくなってから、ある程度張り詰めた、自制した感覚を持っていたが、やはりというかマナの事をシキの代わりと認めてから緩んでいるようだ。

 ただでさえ、グーシュと分不相応な盟約など結んでしまったのだ。

 一木は気を付けなければならないと、気を引き締めた。


 もともと、のんびりとしていた頭脳をフル回転させながら、一木は出迎えたグーシュに謝罪した。


「すまないグーシュ、アンテナを応急処置していたら遅くなった」


 そんな一木にも、グーシュは気にした様子を見せない。

 ちらりとミルシャを見ると、一木の態度やグーシュの対応にピクピクとこめかみが動いていた。

 

 この気安い態度は、21世紀の日本人的感覚を持つ一木には分からないが、皇族としては異例の物なのだ。

 つまりはそれだけ、皇族が寛容さを示すという事が、帝国の人間にとっては驚愕すべき行動だったのだろう。


 結局は先ほどの会談は、一木の生まれが良かったという、幸運に助けられたにすぎない。


(要は、たまたまゴム人間だったから雷人間に勝てた。その程度の事に過ぎない。グーシュを本当にやり込めたと思い込んだら、痛い目を見るな)


 そうして、マナに甘え過ぎた件と合わせて気持ちを切り替える一木だった。


「気にすることはない。わらわのためにそうなったようなものだからな」


 グーシュの言葉を聞いて、今度は隣にいるマナの表情が曇ったのを見て、一木はげんなりとすると同時に、女性に嫉妬されるなら生身の頃が良かったと、何度目になるかわからない思いを抱いた。


 そんなことをしながら、一木はグーシュの隣に来た。

 すると、見計らったジーク大佐が無線で合図を出した。

 この合図をきっかけに、今回閲兵式の担当に選ばれた第二連隊の行進が始まるのだ。


 すると、大音量で行進曲が流れ出した。

 異世界派遣軍の行進曲は紆余曲折の末、地球で使われている各国軍の行進曲を師団毎に決めることになっていた。

 ちなみに、忙しかった一木は第四四師団の行進曲を知らなかった。

 グーシュに説明するためにも把握しておく必要がある。そう思い急ぎ検索していると、その必要もないほど有名な曲が流れて来た。


「おお、見事な演奏だな。なんという曲だ?」


 グーシュの問いに、一木は懐かしさを感じながら答えた。

 よく、CMなどで流れていたのを覚えていた。


「ジェッディン・デデンという、地球にあるトルコと言う国の行進曲です。民族楽器を用いた独特の音色が特徴的です」


 一木が説明すると、グーシュは楽し気に聞き入っていた。

 そうしていると、程なくして数百メートル先の格納庫から第二連隊が軍楽隊を先頭に姿を現した。

 それを見るグーシュは、ミルシャを促して立ち上がった。


 グーシュの目には好奇心からくる煌めきが、ミルシャの視線には未知の物への怯えが感じられた。


 無理もない。

 一糸乱れぬ行進をしながら、ややテンポの速いジェッディン・デデンの演奏を行う派手な軍服を着込んだ軍楽隊。

 その後ろを進むのは、ガガーリン装甲車の指揮型と、その上面ハッチから上半身を出して敬礼する第二連隊連隊長のカゴ中佐だ。

 隣のハッチには地球連邦旗を構える参謀が立っていた。


 装甲化した大きな車両が動いている姿を見ると、さすがに中世から近世レベルの文明の人間は驚くのが当たり前だ。

 どう考えてもグーシュの行動が異質と言えた。


 しかしこの程度で驚いてもらっては困る。

 一木は、現代人が異世界人に対して感じる文明的優位感に、やや罪悪感を覚えながらグーシュに解説を行う。


「先頭の軍楽隊に続くのは、第二連隊の指揮官が搭乗するガガーリン指揮車です。続くのが、機械化歩兵連隊の主力である第1強化機兵大隊の面々です」


 一同が座る目の前を、身長3メートルの鉄の巨人が通り過ぎた。

 見栄えのために、主要装備の15mm小銃ではなく、巨大な槍の様にも見える40mmライフルを構えた姿は、見慣れたはずの一木でも迫力を感じたほどで、ましてやグーシュとミルシャならば言うまでもない。


 立場や普段の言動そっちのけで「すごい、すごい」とはしゃぐグーシュはまだいいものの、ミルシャはグーシュに抱き付いたまま凍り付いていた。


 それでも、キョロキョロと忙しなく動く視線は、周辺への警戒を解いていないだけ大したものだ。

 巨人たちの行進に続いては、歩兵たちの出番だ。


 ARK55アサルトライフルを肩に掛けて、完璧にシンクロした動きで足を高く上げて行進する歩兵部隊。

 銃の先端には刃渡り四十センチの銃剣が輝いていた。


「ふーむ。なあ一木」


 すると、不意にグーシュが尋ねて来た。


「どうしました?」


「なぜ、ここの兵たちは肩と太ももの肌を露出しているのだ?」


 予想通りの、そして待っていた質問に、ついに来るべき時が来たと一木は気合を入れた。


 そう、異世界派遣軍のアンドロイド達が美少女ばかりの事情を話さねばならない。 

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