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第20話ー3 ナンバーズ

「まず前提としてだが、ナンバーズは現在四派閥に分かれている」


 そう言ってサーレハ司令は指を立てながら説明を始めた。


「まず一つはナンバー1、人類名はアイリーン・ハイタ。この人類名というのは、彼らを創った文明により名付けられた名前を、地球人類にも発音できるように意訳したものだそうだ。まあ、実際のところは知らない。この派閥は正確には派閥とは呼べない。このハイタは第二次大粛清後、本当に休眠しているからだ。現状に至るまで活動は認められない」


「サーレハ司令、ですが……私は白い少女を」


 言いかけた一木を、サーレハは制する。


「まあ、待ちたまえ。その話はあとだ」


 具体的に言う前に遮ったあたり、やはりサーレハ司令はあの白い少女について何か知っているようだ。

 そう考えていると、サーレハはもう一本指を立てた。


「二つ目はナンバー2とナンバー3からなる派閥だ。この二人の人類名については分からない。私と協力関係にあるナンバーズは、他のナンバーズに関する情報に関しては秘匿しているからな。この二人は人類に何かするのではなく、自分達が直接的に活動することにより、人類の発展を促す事を活動の方針にしている」


 そこまで言うと、サーレハ司令は目を細めた。


「こういうと聞こえはいいが、実際にはかなり強引な手段を取る事もあるそうだ。いくつかの異世界を異世界派遣軍の接触前に滅ぼしたことすらあるそうだ。いわば強硬派だ」


 さらにサーレハ司令はもう一本指を立てた。


「三つめはナンバー4とナンバー5からなる派閥だ。この二人についても人類名は分からない。この二人は人類とナンバーズ、ひいてはアンドロイドの垣根を可能な限り取り払い、将来的には一つにすることを目論んでいるそうだ」


 アンドロイドと人を一つにする。

 その言葉に一木は強く惹かれた。


「司令、具体的にそれはどういう事なんですか?」


 サーレハ司令はその言葉には、首を横に振った。


「残念ながら詳細については分からない。ただ、高性能なアンドロイドを開発し、可能な限り人間に近づけることが目的ではないかという事だ。それ以外にも人類に対して好意的な行いが目立つことから、融和派と呼ばれている。そして……」


 サーレハ司令は四本目の指を立てた。


「ナンバーズ6とナンバー7からなる派閥だ。彼らの人類名はアイム・コミュニストと、オールド・ロウ。私が支援を受けている派閥でもある」


 その言葉を聞いて、一木はどこかに引っ掛かりを覚えた。

 ただ、その引っ掛かりがどこにあるのかが分からない。


「彼らは、私のような札付きの人間を通して有利な情報や支援を行い、間接的に人類を支える派閥だ。我々は支援派と呼んでいるがね」


「それでは!」


 一木は意を決して尋ねた。


「私が目撃したあの白い少女! 司令がハイタと呼び、そして先ほど自らアイリーン・ハイタ……ナンバー1と名乗ったあの存在は何なんですか!? 司令の話が正しければ……」


「そう、休眠中のナンバー1がこんな所にいるはずがない……むしろだ……君に心当たりはないのか?」


 逆に尋ねられても、一木に思い当りなどあるはずもない。

 いや、一つだけあった。


「……何もない……です。強いて言えば、今まで現れたのは……マナと一緒にいたとき……川底で死にかけたとき……グーシュの前でハイタという、同名の現地の女神に誓いを立てた時ですね。あとは、気のせいかもしれませんが、シキに似ていたんです」


 一木の言葉に、サーレハ司令は目を見開いた。

 

「ギニラスで亡くなった前妻かね? それは確かか?」


「あくまで自分の感覚ですが……というか、サーレハ司令はこの会話の当初から、私が白い少女と先ほど出会ったことを知っているようでしたが、それはなぜですか?」


 サーレハ司令は、ゆったりとした笑みを浮かべて言った。


「単純な話だ。アイリーン・ハイタが出現した情報は、支援派から逐一私に流れていた。この星系で出現したとすれば、以前現れた君絡み以外に考えられん」


 サーレハ司令の言葉に、自然と一木のモノアイも鋭さを増した。


「それは、監視していたという事ですか?」


 一木の言葉に、サーレハ司令は両手を上げて首を振った。


「私の一存ではない、コミュニストとオールド・ロウだ。彼らの意向には逆らえんよ。そして、ナンバーズにかかれば人類の防諜など障子同然だ」


 ナンバーズを持ち出されては、一木にはどうしようもない。

 一木は質問を変えることにした。


「それと……なぜ、グーシュ達が信じている神の名前とナンバーズの名前が同じなんですか?」


「詳細は私にもわからない。が、想像は出来る。数少ない情報から、異世界の成り立ちにはナンバーズが深くかかわっている事が分かっている。おそらくはるか昔、この星系にもナンバーズが降り立ち、現地の人類に深く関わったのだろう。それが神話として残ったのだ」


 サーレハ司令はそこまで言うと、笑みを浮かべた。


「もっとも、現地に残った名前がここまで実際の人類名と合致するのは珍しいがね。他にも七人の神が来訪したという神話体系がある異世界はあるが、ここまでのは珍しいな」


 そう考えると、ルーリアトの七人の神の名称は、ナンバーズを特定する手掛かりになるのかもしれない。


「そういう事ですか……。しかしわかりません。なんでそのアイリーン・ハイタは私の目の前にだけ現れるんですか?」


 サーレハ司令は肩をすくめた。


「先ほども言ったが私にも、そして支援派にもわからないそうだ。ただ、ナンバー1の目覚めの方法については融和派が熱心に調べていたそうだ。一木君……」


 サーレハ司令は一木のモノアイを見据えて尋ねた。


「前妻のシキと、君に深く関わる人物の中で、ナンバーズである可能性がありそうな人物はいるかね?」


 幾人かの顔が一木の脳裏をよぎった。

 だが、そのうちの数人はかけがえのない親友だ。


 自分を常に気にかけ、傲慢な時もあるが、支えてくれた賽野目博士。

 一木さん、と自分を慕ってくれた上田拓。

 いつも自分によじ登り甘えてくる津志田南。

 ディスティニーグランドーオーダーのデータを復元してくれた、オタクトークでいつも盛り上がった王松園。

 常に優しくアドバイスをして、現代の生活に不慣れな一木を支えてくれた前潟美羽。

 どの人間も、一木とシキと親しく、そして二人の生活を支えてくれた人々だ。


 自分と、シキを利用したとすれば……それすらも定かではないが……どういう感情を抱けばいいのかがわからない。


「……わかりません」


「ふむ……そうか。まあ、変に疑ってもよくはない。ナンバーズがその気になればどうすることも出来ないのだしな」


「最後に一つだけ……グーシュとナンバーズにはどのような関係が?」


 先ほどから気にかけていたことだ。

 グーシュとナンバーズに関係があるとすれば、絶対に聞いておかなければならない。


 その質問に答えようとしたサーレハ司令だったが、急に視線を泳がせると言い淀んだ。

 その後、明らかに慌てたように話し始めたのだが……。


「それについては……実はコミュニストから口止めされているのだ」


「は?」


 一木は思わず口……は無いが、心の中で口をポカンと開けた。


「どういうことですか?」


「アイム・コミュニストから伝言だ。グーシュの事を知りたければ、帝都にグーシュと一緒に、堂々と来ること……だそうだ。私に今言えるのは、ここまでだ」


 帝都にグーシュと堂々と……つまり、皇太子派との決着をつけてから来いという事だ。

 やはり、ルーリアトにはナンバーズの手が入っている……。


「わかりました。そういう事でしたら、まずはグーシュの周囲を固めるべく努力します」


「ああ、よろしく頼んだよ。一木代将、君には期待している。何かあったらいつでも相談してくれたまえ」


「はい……では、クラレッタ内務参謀の件、よろしくお願いします」


 そういって一木が敬礼すると、サーレハ司令も答礼して通信は終了した。


 通信を終え、呆然としている一木。

 すると、頭部パーツの応急処置ツールを抱えたマナが部屋に帰ってきた。


「弘和君、今治しますから……きゃ!」


 一木は、近づいてきたマナに縋りつくように膝立ちの状態で抱き付いた。

 

「すまん……少しだけ、こうさせてくれ……」


「……はい」


 頭の後ろに優しく手が回されるのを感じながら、一木の脳裏を後悔と、驚愕と、怒りと、悲しみ……様々な感情がよぎった。


 仕事のため、アンドロイド達のため、自分の復讐のため、様々な決断を下した。

 それは、一木の心に大きな負担をかけた。


 だが、一般人には過酷すぎる事実に打ちのめされかけた一木にも、今だけは。


 安らぎがあった。


「弘和君……そろそろ……」


「ああ」


 そして安らぎは終わり、一木は立ち上がる。

 すべては目の前の妻と、多くのアンドロイド達のため。


 そう自分を奮い立たたせる。


「さあ、グーシュと一緒にパレードとしゃれこもうか」


 元サラリーマンのサイボーグは、ゆっくりと立ち上がった。


「その前に、アンテナ治しましょうね」


 そしてまた、座った。

次回、第三章最終話。

そして第四章からは、多少は派手な展開をお届けできるかも……。


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