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第19話ー3 盟約

「どうした一木! いきなり黙り込んで驚いたぞ」


 現実に戻った一木がグーシュに確認すると、一木があの暗闇にいた時間は数秒程だという。

 夢か白昼夢なのかといぶかしむが、それにしてはリアリティがあった。


 しかも、内容が内容だ。

 もしも、あの白い少女がナンバーズならば、おいそれとマナや参謀達に相談も出来ない。

 大粛清の時の話が本当ならば、ナンバーズはアンドロイドに対して絶対的な権限を持つからだ。


 そうなると、白い少女の事を相談、いや、問いただせるのはサーレハ司令しかいない。

 そもそもハイタという名前を聞いたのはルーリアト到着前の司令室なのだ。


(ようやくスタート地点に来たと思ったら……とんでもない事が起きてしまった……)


 もし本当にナンバーズが一木の目的に協力してくれるのなら心強い事この上ないが、疑問が尽きない。


 そもそも一木は、サンフランシスコで休眠中のナンバーズを見た事すらないのだ。

 病院での説明や当時のニュース映像くらいしか知らない。

 それなのにわざわざ、こんな所に出向いて一木を助ける理由など思いつかない。


(くそ……問題が片付いたと思ったら次々と……)


 心の中で一通り毒づくと、心配そうにしているグーシュの方を向いた。

 まずは、この盟約をしっかりと機能させ、そのうえでグーシュに例の提案をしなくてはならない。


「申し訳なかったグーシュ。もう大丈夫だ」


 実際のところ全く大丈夫と言うにはほど遠い精神状態だった。


「そうか? それならいいのだが」


「それでグーシュ。これで、盟約は結ばれたわけだ」


「うむ」


「これで俺はグーシュを皇太子、そして将来的には皇帝にするために支援する」


「そしてわらわは、その支援を以て全力でルーリアトの連邦加入を目指す。そして地球から火星勢力を一掃するために全力を尽くす」


 口に出してお互いのするべきことを確認した一木は、いよいよ例の提案を行った。


「そのうえでグーシュ。事を効率的に進めるために、提案したいことがある」


「なんだ? なにかすごい武器でもくれるのか?」


 嬉しくてたまらないといった風にグーシュが言った。

 果たして、この贈り物は喜んでもらえるだろうか。


「ある意味でその通りだ。グーシュ、君にはオブザーバーとして俺の司令部に入ってもらいたい」


「な、なんだと!」


 グーシュが声を荒げる、が。

 すぐにきょとんとした表情で呟いた。


「……おぶざーばーってなんだ?」


「オブザーバーとは、議決する権利はないが会議などに参加できる人間。つまりは傍聴者のことだ」


 ここまで来たからには、徹底的にグーシュを懐に入れてしまう。

 参謀達との会議においても参加させ、迅速なルーリアトの連邦加入を目指す。


「傍聴者と言っても、実際にはグーシュに意見を求めて、作戦に意見を反映させることになる」


「なるほど、腕がなるな」


 うまく事が運べば、連邦加入条約の締結まで年単位掛からずにこぎつけることも夢ではない。

 そうなれば、通常ならば制圧に参加した部隊はお役御免となるところだが、引き続き駐留部隊としてとどまる事も不可能ではない。


 どのみち人手不足の組織だ。

 レアケースであることと、文化風習への理解の深さを主張すればなんとかなるだろう。


 ただし、そこまでの事となるとサーレハ司令への根回しが必要になってくるが……。


(白い少女やらナンバーズやら……胡散臭いことが多くて気乗りしないが……まさか上司を無視するわけにはいかないしな……)


「さて、グーシュ」


「うむ」


「服を着ようか。いい加減ミルシャさんとマナが待ちくたびれてるだろうし、グーシュのためにパレードの用意もしてある」


 パレードの事を教えるとグーシュは目に見えてはしゃぎ出した。

 マスケット銃を撃ちに行った話などをしていたので、軍事に関することにも興味があるのかもしれない。


 そうして、ようやく服を着だしたグーシュだったが、ここにきてとんでもない事が起きた。


「一木……すまんがこれどうやってつけるのだ?」

 

 そう言ってグーシュが苦戦しているのはブラジャーのホックだった。

 一応少ないが経験はあった一木は、グーシュの背後に回りつけてやろうとしたのだが……。


「あ!? なんてこった……壊れた」


「な、なにやってる!」


「仕方ないだろ! この体でこんなことしたことないんだからな」


 もっぱらそういう事をする時は仮想空間だったので、この状態で下着を着せるなど初めてだった。

 力加減の難しいこの体でそんなことをすればどうなるのか、火を見るよりも明らかだった。

 結局思い至らずに壊してしまったのだが。


 結局、その後ネクタイの結びもうまくいかず(一木は当然のようにうまく結べなかった)服を着たグーシュの姿は控えめに言って寝起き。

 悪く言えば事後に慌てて服を着た姿そのものだ。


「一木ぃぃぃぃ……これどう考えても誤解されないか?」


 一木も同意見だった。しかもマナはこういう時結構焼きもちを焼くのだ……。


「グーシュ……腹を括ろう。なあに、ミルシャさんもマナもきちんと説明すればわかってくれるさ」


 そう言って二人は、扉を開けた。




 その少し前。

 憲兵二人が固める扉の前。

 ミルシャとマナ、シャルル大佐と殺大佐が一木とグーシュの会談の終了を今か今かと待ちわびていた。


 皆無言だが、その原因はマナとミルシャにあった。

 二人ともピリピリとした空気をまとい、会談が始まってからずっと互いに視線を正面から合わせて逸らそうとしない。

 まるで目をそらした方が負けと言わんばかりだ。


『シャーちゃん、ミラーちゃんは大丈夫?』


 そんな空気などどこ吹く風と言った風に、シャルル大佐が殺大佐に無線通信で話しかけた。

 不安げに扉を見ていた殺大佐も、気晴らしになると思ったのかソワソワとしながらも応じた。


『今は記憶領域の整理とストレスの圧縮処置をしてるよ。そうだな……考えてみればあの時と今日の状況は似ていたからな……あいつをもっと気に掛けてやればよかった』


『シャーちゃんは優しいね……けど大丈夫だよ。ミラーちゃんは私たちの妹だから……すぐに立ち直るよ』


『しかしそうだとしても……一木やサーレハ司令がなんて言うか……降格や除隊にでもなったら……』


 殺大佐がそこまで通信を送った時、扉の向こうから声が聞こえた。

 一木の声だ。


「すまない、待たせたな。会談は終了した」


 その声にこたえて、二人の憲兵がキビキビとした動きで扉を開け放った。

 待ちわびていたミルシャとマナが、扉の前に互いに押し合うように移動する。


「グーシュ様!」「弘和君!」


 そんなミルシャとマナの前にいたのは、会談後と言うにはあまりに妙な格好をした二人だった。


 一木は全体的な変化こそ少ない物の、なぜか頭部のアンテナやセンサーパーツが根こそぎ引きちぎったように無くなっていた。


 グーシュの方はもっと露骨で、会談前までぴしりと折り目のついていた制服にはしわが付き、ネクタイは長さが歪で歪んでいる。

 その上なぜか手にはブラジャーが握られていた。


 そのあまりな姿を見て、殺大佐は思わず感想を口にしてしまった。


「……事後か?」


 その呟きを聞いたミルシャとマナが叫んだのは同時だった。


「「浮気ですか!?」」


「やっぱりこうなるのか……」


 げんなりした様子のグーシュ。

 一方で一木は……。


「なんだ……マナとミルシャさん……すっかり仲良しじゃないか」


 ずれた反応をしていた。

 結局、このいざこざは、パレードに来ない一木達に業を煮やしたジーク大佐が止めに入るまで十分ほど続くのだった。

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