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第19話ー2 盟約

 グーシュの様子を見た一木は、なんとなく嫌な予感がして尋ねた。


「また、いかがわしい儀式なのか?」


「な、なにおう! 話姫(わき)の事を言っているのか? ルーリアトの文化をいかがわしいとはなんだ!」


 怒るグーシュの姿を見て、一木はつい笑い声をあげた。

 

「ああ、申し訳なかった。ただ、今以上にヤバい状況になったらどうしようかとね」


「やばい状況?」


 本気で分かっていない様子でグーシュが言ったので、一木は指摘した。


「ルーリアトではどうかわからないが、地球では未婚の、それも十代で全裸の少女と一緒にいるところを見られたら、社会的におしまいなんだよ」


 一木がそう言うと、グーシュはニヤリと笑みを浮かべた。


「そうだったのか。失敗したな。それならこの状況を利用して一木を脅せばよかった。そうすればまわりくどい確認などせずとも、わらわの思い通りに事が進んだのにな」


「そんな事を言うな。どのみち、お互いに得るべきものは得たんだ。さあ、頼むよ」


 一木が促すと、今度こそグーシュは目を瞑って、盟約の言葉を述べた。


「偉大なる人の母ハイタに誓う。我グーシュリャリャポスティは一木弘和の求めに従うことをここに誓う。おお、ハイタの偉大なる息子達、スート、シュー、ラフ、ヒーダ、ミュニス、オルド・ロー。我が誓い、我らが盟約、我らの願いを守護せよ。我いつの日か地球の地を統べんとす。その後地球の地より悪しき者ども一掃せん。我が願いの日々を守護せよ。我と一木の盟約に栄光あれ。ハイタ、スート、シュー、ラフ、ヒーダ、ミュニス、オルド・ロー……」


 ハイタ……シュー。

 一木にはどちらも聞き覚えのある言葉だった。

 まさかルーリアトの神だったとは。

 いよいよ調べなければならないだろう。例の白い少女の手掛かりとなるかもしれない。

 

 一木がそんな決心をしていると、グーシュが一木の手を取り、自分の腹に手のひらを当てさせた。

 やや高めの火照ったような体温と、柔らかいぷにぷにとした感覚に戸惑いを感じる。


(全裸の未成年の少女のお腹に手を当てる……犯罪だ)


 一木の感覚では結局のところいかがわしい行為のわけだが、ここで再び指摘しては真面目にやっているグーシュが今度こそ本当に怒るだろう。

 何も言わずに一木はグーシュにされるがままにしておいた。


「では一木。そなた……いや、お前も自身が信じる神に誓いを立てるのだ」


「神……」


(神……仏様……天照大御神……いや違うな……天皇陛下も違うしご先祖様も違う……キリストやアラーも違う……そもそも誓いを立てるほど信仰してる神がいない……)


 こういった時、日本人は不便だった。

 宗教的な寛容さが利点となる事も多いのだが、異世界においてしばしば問われる神に誓え、と言われる状況において、確固たる信仰が無いというのは非常に信用を無くす行為だった。


 だが、この時一木には非常にちょうどいい対象が思い浮かんだ。


「ならばグーシュ。俺にもそのハイタ様に誓わせてほしい」


 一木の言葉に、さすがのグーシュも驚いたようだ。

 薄い腹筋に力が入ったのが、手のひらのセンサーに感知された。


「一木はこの大陸の信仰を知っているのか?」


「いや、知らないんだが……どうもこの星に関わりだしてから、ハイタ様のご加護としか思えないような事が起きていてね。宗旨替えというわけではないけど、この誓いを立てるならハイタ様が一番だと思った」


 マナとの情事を覗かれたことをご加護と言っていいのかは疑問だが、どのみち一度は命を救われたのだ。気にすることはない。


「ふーむ。一木の信仰にとやかくは言わん。一木がいいのならそれでいいだろう。安心しろ、ハイタは心の広い女神さまだ。あとでハイタ教の事を教えてやろう」


 グーシュとシャルル大佐に聞けば十分な情報が集まるだろう。

 一木がそう思っていると、再びグーシュが言葉を紡ぐ。


「では一木、目を瞑ってわらわの後に続けて言うのだ、いいな?」


「目を瞑れないのだが……」


「なんと!? 便利なようで意外に難儀な体だな。ならばそのままでいい。いくぞ」


 グーシュが息を吸い込む。

 お腹が大きく膨らむのを感じると、先ほどの言葉よりも大きな声で誓いが始まった。


「我、地球連邦の一木は誓う」「我、地球連邦の一木は誓う」


「偉大なるハイタの名において」「偉大なるハイタの名において」


「盟約相手たるグーシュリャリャポスティをルーリアトの主とする」

「盟約相手たるグーシュリャリャポスティをルーリアトの主とする」


「盟約相手たるグーシュリャリャポスティを地球統べる者とする」

「盟約相手たるグーシュリャリャポスティを地球統べる者とする」


「偉大なるハイタよ」「偉大なるハイタよ」


「我が願いの日々を守護せよ」「我が願いの日々を守護せよ」


「我の盟約に栄光あれ」「我の盟約に栄光あれ」


 そこまで言葉を口にした瞬間、唐突に一木の視界は暗闇に包まれた。


「!?」


 一体何が起こったのかと困惑する一木。

 メインカメラが急に故障したのか、それとも脳に異常が起こって意識を失ったり、視神経周りがイカレたのか……。


「グーシュ! どこにいった!」


 慌ててグーシュを呼ぶが、それも反応が無い。

 焦燥から感情が恐怖へと変わり始めたとき、唐突に一木は正面から抱きしめられた。

 誰かがまるで瞬間移動してきたように現れたのだ。


 その相手は、今まで二回目にした白い少女だった。

 白い肌、銀の髪、白銀の瞳、白い服の、どこかシキに似た少女だ。


 『あなたの願いを聞き届けました』


 声が聞こえる。

 あまりの出来事に、一木は声も出ない。


『私の力及ぶ限り、あなたとあなたの盟約を守りましょう』


 そう言うと、白い少女は一木から離れて行く。

 少女が暗闇に溶ける瞬間、一木はかろうじて声を発することが出来た。


「待ってくれ! 君は一体誰なんだ! どうして俺を見ている! 助けてくれる!」


『私の名前はハイタ……アイリーン・ハイタ』


 溶け行く笑顔はやはり、似ていた。


『あなた達がナンバー1と呼ぶ者……』


 その言葉の意味を理解するまもなく、一木の意識はグーシュの目の前へと戻っていた。


 ナンバーズのリーダーと目されていた存在。

 ナンバー1を名乗った白い少女の姿はどこにもなかった。

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