第17話―3 来訪後の惨劇
続いて本日分の更新です。
いつもすいません。
「なるほどな……対立相手がいたのか。一木は正直だな、この情報はわらわに知られたくなかっただろう」
一木の予想通りではあったが、グーシュはアンドロイドへの不信感も敵対勢力がいることへの困惑も表さなかった。
演技なのか、素なのか……この少女は努めて相手への許容の態度を崩そうとしない。
しかしこうなると疑問が尽きない。
なぜグーシュは皇太子一派とあそこまで対立していたのだろうか。
この性格ならば、表立ってあそこまで対立するだろうか。
むしろ逆に言えば、この性格のグーシュはなぜ、兄とその派閥構成員にだけ報告のような不寛容かつ対立するような態度を取ったのだろうか。
とはいえここは、グーシュの疑問に答える場だ。
一木は思考を切り替えた。
「最初に言った通り、この場でわたしは嘘をつきません。グーシュがそこまで覚悟を示してくれたのですから、私も報いなければ……」
一木がそう言うと、グーシュは急に視線をフラフラと彷徨わせた。
一木がいぶかしむと、言いにくそうにポツリと呟いた。
「その……そこまで言ってくれた一木には悪いのだが、上着だけでも着ていいか? この部屋少し寒くてな……」
一木は気の利かない自分を罵倒すると、慌ててグーシュに服を着るように促した。
寒暖と言う概念を失って久しいだけあり、一木は冷房の効いたこの部屋で全裸でいることの意味に気が回らなかった。
すぐに部屋の冷房を切り、暖房を入れる。
そのうえでさらに、自身の消費電力を無駄な機能をいくつかオンにすることで上昇させる。
機体の表面温度が上がったことを確認すると、一木はグーシュに隣に座るように促した。
「風邪をひかれては大変です。私の隣なら少しは温かいと思います、こちらへどうぞ」
立ち上がり、おずおずと一木の隣に座ったグーシュは、一木の体の意外な温度の高さに驚いたようだ。
「熱いくらいだな! 冷たい甲冑とは大違いだ。しかもあれは夏は暑くて、冬は寒いからいかん……」
「この体は動作や機能で熱が出ますからね。温かいでしょう」
「うむ、そうだな。あ~、あったまる」
そう言ってグーシュが一木にぴったりとくっつく。
瞬間、二人には奇しくも同じ考えがよぎった。
(あれ?)
(ん?)
((全然ドキドキしないな))
話し合いの冒頭こそ緊張の中のやり取りや、急に裸になった恥ずかしさがあったものの、落ち着いてくると双方ともに落ち着いたせいかそう言った感情が湧いてこなかった。
(この子)(この者)
((恋愛対象ではないな))
「……あ、ああ、それで話の続きですが……」
「う、うむ……」
なんとなく話の腰を折られた後も、会話は続いていく。
「この出来事の後起きたのが、カルナークへの侵攻でした。つまり、カルナーク戦とはナンバーズとアンドロイドへの不満を逸らすという意味合いもあったという事です。事実カルナークによるエデン星系への脅威が喧伝されてからです。ナンバーズの休眠と地球連邦政府への統治の委任が正式に発表されたのは」
一木は当時の宣伝をグーシュに見せながら続けた。
画像は当時のロペス地球連邦大統領の政治集会のポスターだ。
『五十年後。君の孫に、ヤーラシュとあいさつさせるのか? ハローとあいさつさせるのか? 今がその分岐点だ!』
と大きく書かれている。
「結果このことはうまくいったと言えます。ナンバーズが休眠したことと、アンドロイドが多大な犠牲を払いながらも、人類の命令に従ってカルナークで戦い続けたことで、ようやく人類はアンドロイドと共に歩む事を選択できたんですから」
事実、あの凄惨な戦いで人格を破損するまで戦うアンドロイド達の姿が無ければ、今の地球社会は無かっただろう。
このことから、カルナークでの苦戦すら意図的な策略とみる向きすらあるのだ。
「これが、地球連邦の闇、か。火人連とはまだ表立って対立しているのか?」
「対立というよりも、戦っている最中ですよ」
一木は思わずモノアイが軋むほど、口調に怒りを込めてしまった。
グーシュには関係ないことだが、抑えられるものではない。
「何か、あったのか?」
「……火星とは現在に至るまで緩やかな対立が続いていますが、それは表向きの事です」
一木は意図的にグーシュの方を向かず正面だけを見ていた。
思い返すだけで今は無い腸が煮えくり返るようだ。
「火人連は地球に対し、一部の過激派がやったという理由付けでテロ……政治的な意図をもっての破壊工作を幾たびも仕掛けていましたが、二か月ほど前……新しい攻撃を仕掛けました」
あまりの怒りに、脳が興奮状態にあると警告が発せられるが、収まらない。
「ギニラスという異世界で活動中だった部隊が、火星軍特殊部隊の攻撃を受けました。部隊は多数のSSを失ったものの、サイボーグだった指揮官の手により敵部隊の指揮官を殺害。撤退に追い込みました。まあ、火星政府は脱走兵による犯行だとして関与を認めていませんがね」
「異世界に火星の者は来られるのか?」
グーシュの疑問はもっともだ。
グーシュとしては、空間湾曲ゲートとは連邦によって厳重に管理されてるものだと思っていた。
よもやそのような連中が抜けてこられるのだとすれば、ルーリアトにも影響が及ぶ大問題だ。
「エデン星系を経由してでは来られません……なので何か別の手段を奴らは見つけたという事です。現に彼らは”七惑星連合”という組織名を名乗っていました。もはや単なる火星人のテロでは済まない……」
しかしそれよりも、グーシュは一木の言い方に違和感を覚えた。
一木の言い方がずいぶんと実感的だったからだ。
「ああ、そうか……その敵を殺害した指揮官とは……」
「そうです……当時実習でギニラスに赴いていた私がその指揮官です」
一木は悲し気に、モノアイをグーシュの方へと向けながら言った。
「私は……その時妻のシキを失ったんです」
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