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無人駅

作者: 旬過愁到

一粒のホコリが粉雪に紛れて、悠々と西側から、吹き曝しで錆びの付いた改札ケートを越えて、十段ほどの階段を、ゆっくりと登って、ホームにたどり着き、塗装が剥がれ、雪で白っぽくなった点字ブロックで一度、躓いてから、今しかた生まれたばかりの四月の優しい朝日に撫でられながら、早春とは言い難いひんやりとした南風に運ばれ、細長いホームに沿って、北の端に落ちている片方だけの、雪水で濡れた赤いニットの手袋に、吸い付くように着陸した。


昨夜に見舞われた季節外れの雪で、だいぶこたえたせいか、貨物列車が週二本しか通過しない、国の最北端にあるこの無人駅はつい今、朽ち掛けの枕木から鉄骨しか残されていないホームの屋根まで、全身全霊をかけて奮い立たせんばかりの軋む音とともに、尊敬とも軽蔑とも取れぬ警笛を一つ鳴らしながら、先週のよりもまた車両数が減らされた今週の一本目が、国境へ向かって走り去るのを見届けた。


十年前、隣国との冷戦が始まって一年もたたないうちに機能しなくなった駅には、日に焼け切ったポスターが線路側の壁に貼られたまま、もう無くなった国境町と同じ名前が書かれた樹脂の駅名プレートとともに、月曜日は南から北へ、木曜日は北から南へ、幾重もの審査や検閲を掻い潜った荷物や思いを乗せた、唯一両国ともに許された定期輸送手段である貨物列車がもたらす、週二回の人工的な突風になびかされながら荒野に響き渡る警笛を聞くこと以外、紛らわしようのない寂しさを、今日もただ耐え忍ぶ、来ない持ち主を待つ赤い手袋のように。

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