第三話 魔王の配下(前編)
お久しぶりの青羽紫苑です。
ようやく次話投稿…あれから大体三ヶ月も経っている…。
「!…よろしいので?」
エルデロは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに表情を戻し問いかけて来た。
前例がないせいか、向こうとしてもあまり期待はしていなかったんだろう。ただまあ、今代の勇者は歴代一の変わり者と言われるこのボクだからな。
「なんだ?断った方がよかったか?」
「いえ、そんなことは。ただ…そんなに簡単に決めてしまってもいいのかと思いまして。貴方にも立場というものがあるでしょう?特に勇者となる方は人界でも高位の貴族だと聞きます。勇者としての立場のほかに、貴族としての立場もあるでしょうから。」
おぉ…的確なところを突いてくるな。ただ、なぁ…。
「正直その辺どうでもいい。小さい頃にウィンガーと契約してから勇者候補という立場が強かったし、公爵家子息ってイメージは弱いだろうからな。」
ため息混じりにそう言えば、エルデロからではなくユドルトから返事が返ってきた。
「そうは言うがなリンシオ。お前勇者以前にアイリス王女の婚約者候補の筆頭だろう。公爵家の嫡男な上、大天使と契約してるし。」
「正直言って人間のことはそんなに詳しくないけど、社交界において君がかなり重要な立場にいることくらい僕にもわかるよ?だからどうでもいいとか言っても関わらなきゃいけないと思うなぁ…。」
ユドルトに続いてそもそも人間じゃないルシファーにまで言われた。くっ…ボクはアイリス王女の婚約者になんてなりたくないって昔から言ってるのに…!
なんでボクの立場ってなると誰も彼も勇者もしくはアイリス王女の婚約者候補って答えるんだよ…!
「あ、そう言えば前に言ったアレだけどな。リンシオ、アレはっきり言って確定じゃないし陛下の考えによるぞ?」
「騙したなこの野郎!!」
「いつもの仕返しだ腹黒勇者。」
勇者になれば立場も格段に上がるからアイリス王女との婚約突っぱねられるとか言ったのお前だろうが!!
チックショー…!今度こそあの頭の中お花畑姫様から逃れられると思ったのに…!
「てかお前ってアイリス王女との婚約関連のことになるといつもの頭の良さが嘘のようになるよな、必死すぎて。」
「あの人だけは本気で無理なんだよ冗談とかじゃなくて!!」
ウィンガーの肩を掴み半泣きで訴える。と
「…あの、人界の姫君というのはそこまで酷い方なんですか?」
…一瞬存在を忘れてたし、また自分の世界に入りかけてた。クルッとエルデロの方を向けば、困惑顔のエルデロとその他。
酷いというか、何というか…。
「えっと…その、アイリス王女は別にそんな嫌われ者なわけではないんだが。ただ、その…なんというか…。」
「熱烈な勇者様信者なんだ。」
「うおーい!人がせっかくオブラートに包んで言おうとしてたのに、お前って奴は!」
世間で言われてることをそのまま言ったらウィンガーに怒鳴られた。いや、今更隠しても無駄だと思うんだけど。
「勇者様信者…?」
「勇者は人界では英雄的な存在だからじゃない?ほら、神様的に信仰されてる感じで。」
エルデロの横でふよふよ浮いてた悪魔が初めて声を発した。ボサボサの黒の癖っ毛で、なぜか右目に包帯を巻いている。一応見えてる左目は黒い瞳だった。
年は…俺たちと同じくらいか。背中に悪魔特有のコウモリのような黒い翼があり、時折羽ばたきながらずっと飛んでいる。
「信仰…なんというか、新手の宗教みたいですね。」
「うん、まあ…否定はしない。旅の途中でもたまにいたしな、勇者様信者。」
「勇者は神の加護を持つ者でもあるしね。信仰されても仕方ないんじゃない?」
肯定するルシファー。ちなみにこいつは死神という種族名ではあるものの、死神は神々の配下に置かれている魂の浄化者であるため、立ち位置的には天使とかに近い。だから名前に神とは付いているものの、神格なわけではない。
「でも勇者の信者ってことは、貴方のことを讃えているとかそういう感じなのでは?勇者なんですしよくあることじゃないんですか?」
「…逆に魔王様なお前にはないのか。」
「魔王というのは魔界の国王のことでもありますから。尊敬の目こそ向けられますが、信仰されたことは流石にないですね。」
「田舎の方だと平和を願って魔王にお祈りしたり、信仰対象として祀ってたりするよ?」
「え?」
悪魔からの爆弾発言にエルデロ驚愕。まあ魔界の平和を実現しようとしてる魔王様し、お祈りとかされてても仕方ないな。
「待ってくださいリュスト!私はそんな話聞いてませんよ?!」
「うん、言ってない。」
リュストと呼ばれた悪魔はにっこりとした笑顔で言った。
「言ってない、じゃありません!そういうことはもっと早く言ってください!知っていたら色々と対処したのに…。」
「昔からだし仕方ないって。場所によってはしきたりとして根強く存在してるところもあるし。」
頭を抱える魔王エルデロ。ふよふよ飛んでたリュストの足を掴んで引きずり下ろし、昔ながらの鉄拳制裁、拳骨をかます執事シュラ。痛みに頭を抑えて悶える悪魔リュスト。
その流れは、さながら洗練されたコント。
…なんか面白いな魔王陣営。
一方こちらは、ツボだったのか腹を抱えて爆笑しているルシファー。呆れ顔で向こうのやり取りを見ているウィンガー。なんか知らんがナルシストポーズを取ってるユドルト。
…こっちも似たような感じだった。
正座させられたリュストが仁王立ちのシュラに説教されているのを見ていると、後ろの大きな扉が勢いよく開く音がした。
そこに立っていたのは、いかにも騎士と言った見た目の青年。その騎士服の見た目からして、おそらく魔王側の最高騎士に当たる黒騎士だろう。
「失礼します、エルデロ様。魔界騎士団の方からご報告したいこと、が…?」
固まる青年。なぜか一緒に固まるユドルト。
一瞬首を傾げて顔を見合わせる俺とエルデロだったが、二人の様子を見て気づいた。
…もっと早く気づくべきだった。
人界の白騎士と、魔界の黒騎士。見つめ合う二人の騎士。
天敵同士が出会った瞬間である。
三話となり、エルデロ側の面々が登場し始めました。次回は今回の最後に登場した黒騎士くんの紹介を含め、魔王側の幹部メンバーが登場です。
〈登場済み魔王陣営〉
魔王エルデロ
執事シュラ
大悪魔リュスト
黒騎士(名前は次回)