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悪どい勇者と優しい魔王  作者: 青羽 紫音
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第一話 魔族の青年

結構早く出せました。

今回は前回の続きです。


穏やかな表情でこちらを見ている青年。グレーのシャツに黒のズボン、さらに黒を基調としたシンプルな上着を着ていて、見てわかることは魔族であるということくらいだ。不思議なことに相手から敵意は感じられず、むしろ友好的そうな印象すら受けた。


「人界より参られた勇者一行とお見受けします。ようこそ、魔王城へ。私はこの城の者です。名前は・・・そうですね、エルと呼んでください。」


青年、もといエルは社交界のようなきちんとしたお辞儀をした。丁寧な口調と優しげな笑みからもこちらに対する敵対心などは感じられない。


「ボクが勇者だとわかっているのに、警戒も何もしないのか?」


「無駄な争いは控えたいんですよ。それについてはあなた方も同じなのでは?」


確かに敵意を向けていない相手と戦うというのは避けたい。なによりこいつは人界人であるボクたちにも友好的そうだ。…ボクが密かに思う平和的世界には、彼のような人物が必要だし。

だが彼からすればどうなのだろうか。ボクたちはこの城の主人である魔王を倒しに来たというのに。

ボクがそれを問うより先にウィンガーが口を開いた。


「お前は魔族だろ?魔王を倒そうとしている奴らを見逃していいのか?」


そう問うと、何がおかしいのかエルはクスクスと笑った。


「そうですね。確かにあなた方からすれば私が言っているのはおかしいことでしょう。ですが、これこそがあなた方が魔王と呼ぶ者の意思なのです。魔王が望むのは、あなた方人界人との対話ですから。」


「対話…?」


魔王が、ボクたちと話をしたいと思っていると言うのか?なんのために?魔王は人界を脅かす存在のはずだろう。何を話す必要があるんだ?


「意味がわからない、という顔ですね。それも仕方ないことです。お互いに歴史などで伝わる互いの印象というのは酷いものでしょうから。」


「互いの印象?」


そう聞き返せば、エルは少し考えてからボクの方に向き直った。


「例えば、あなたのような勇者という存在です。人界では英雄とされる勇者は、我々魔族の中では国の破滅をもたらす者とされています。」


「「「破滅?!」」」


驚きのあまりウィンガーとユドルトと言葉が被った。神に愛されし光の使い。それがボクたちの知る勇者だ。しかし魔界では破滅をもたらす者と言われているのか・・・。

まあ、魔界の王様倒してるわけだしな。魔族なんかからしたらたまったもんじゃないだろう。そう考えると、そんな呼び方されても仕方ないと思える。


「ちなみに魔王は、単純にこの魔界を統べる王のことを示しますが・・・人界ではどのように?」


「えっ。」


純粋な好奇心なのか、エルは赤い瞳をパチパチと瞬かせて聞いてくる。…これ、言っちゃって大丈夫か?今考えるとなかなか酷い呼び方されてるけど。


「あっ、気遣いは結構ですよ。なんとなく予想はしているので。」


言葉に詰まるボクたちにエルがそう付け加えてくれた。なんかこいつ、本当にいいやつだな。全く敵とは思えない。

三人はまだ迷っていたが、気遣いはしなくていいと言われたし歴史書などに書かれていることを伝える。


「ボクたちからすると、魔王は人界の最大の脅威だな。」


「ちょっ?!」


「そうですか…。」


ウィンガーに躊躇しろよ、と頭を叩かれたがエルは軽く苦笑したくらいであまり気にしていないようだった。


「やはり魔界と人界ではイメージが真逆ですね。まあ、お互い自分の暮らす世界を守っているという考えですし、こうなっても致し方ありませんね。」


それなりに酷いこと言われているのに、何故あいつはあんなに気にすることなくいられるんだ。しかも観点が完全に第三者目線なんだが。こいつ魔族だよな?そうだよな?どっちにも属さない種族とかじゃないよな?


「っと、長話はこれくらいにしましょうか。あなた方が望むのであれば王座の間に案内しますけど…どうしますか?」


えっ、案内してもらえるの?それはかなり有り難い。正直上へ上がる階段が何処にあるのかすら全くわからなかったし、案内してもらえるならお言葉に甘えてしまおうか。

そう考えているとウィンガーの肘鉄がみぞおちにクリーンヒットした。


「い、いきなりなにするんだよ…。」


「リンシオ、まさかとは思うが案内してもらおうなんて考えてないよな?」


「そりゃあ考えてるけど…。」


「お前はバカか?!もしこれが罠だったらどうするつもりなんだよ?!」


「でもこいつ悪いやつじゃなさそうだし、大丈夫じゃないか?」


「何処から来るんだその自信は…。」


呆れた表情で溜め息を吐くウィンガー。初めてあった時姉貴をボクの母と勘違いしたやつにバカとは言われたくないんだが。


「その…ケンカはやめましょう?仲間内での争いなんて関係に亀裂が入って悲しいことになるだけですし。」


ついて行く、ついて行かないで揉めるボクとウィンガーの口論に控えめな声が仲裁に入った。隣を見れば何故か酷く沈んだ表情になったエルがボクとウィンガーの間に割って入るようにケンカを止めようとしていた。

後半の部分がやけにリアルな内容だったのは気のせいだろうか。そういう体験談でもあるのか?


「えっと…なんか、すいません。」


エルの表情を見て申し訳なくなったらしいウィンガーが気遣いをかけた。先程まで終始ニコニコとしていた相手があんな暗い顔をしているのだ、流石に心配になる。


「いえ、気にしないでください。ただその…私は兄とケンカ別れしたもので。だから、ケンカというのはちょっと放っておかないといいますか…。」


なるほど、身内とケンカ別れしたのか。だからボクとウィンガーがそんなことにならないよう心配してくれたと。

・・・なんか、こんなに色々気遣ってくれる人って久しぶりな気がする。旅に出る前は家の者とかに色々言われてたけど、勇者だから旅の途中で会うやつは強く言えないし、公爵子息だから意見されることも少なくし。


「…いいやつだな、こいつ。」


「やっぱりそう思うよな。」


ウィンガーまで同意。うん、エルって本当にいいやつ。敵対種族じゃなかったら仲間にならないか誘ってるのにな…。


「それでどうします?王座の間まで案内しましょうか?」


チラリとほかの三人の方を見れば各々頷いてくれた。勇者リンシオ一行、王座の間へのご案内決定。


「…じゃあ、お言葉に甘えて。」


ボクの言葉をしっかり聞くと、エルはボクたちのもともとの進行方向を向き、こっちですとボクたちを手招きした。





それから歩くこと数分。突然道が開けたと思うと舞踏会の会場のような広い空間に出た。黒を基調とした装飾はこの広い城にもよく合っていて実に見事だ。エルは広間の床に描かれた数十個の魔法陣のようなもののうち、中心部に描かれた一番大きなものの上に立ちクルリとこちらを向いた。


「ここは広間のようにも見えますが、実はほかの階に行くためのテレポーターの部屋なんです。」


なるほど。城が大きいから階段ではなくテレポーターで移動するのか。これ考えたやつ頭いいな。王城に設置したら便利そう。

ちなみにこのテレポーターの正式名称はテレポート用魔法陣で、文字通り別の場所にテレポートするための魔法陣だ。二つの同じ模様の魔法陣同士を片方に魔力を注ぐことで繋ぐことが出来、それを利用して全く別の場所に移動出来る。

何処でも使えるテレポートという瞬間移動魔法もあるが、これはかなりの上級魔法なので一般向きではない(ちなみにボクやボクの仲間は使える)。


「この中心部の魔法陣が王座の間に繋がるものです。一応この城には階段もあるんですがあまり使われてはいません。」


「やっぱり階段もあるのか。」


「使用人などが稀に使っているくらいですけどね。」


再び手招きしてくるエルに従いボクたち四人も魔法陣の上に立つと、エルが魔法陣に手を向けて魔力を放った。

光につつまれ一瞬目を瞑る。光が収まって再び目を開けると、そこはいかにもと言った感じの場所だった。部屋自体は細長い造りになっており、奥には魔王が座るのであろう黒と赤を基調とした玉座が見える。

しかしそこで不思議なことが一つ。等の魔王がいないのだ。玉座の横に魔王の部下らしき魔族と悪魔などが立ってはいるが、その玉座に座っているはずの肝心の魔王が見当たらない。

どういうことだとエルに問おうとして隣を見ると、エルはこちらを見てニコリと微笑み玉座の方へ歩いて行く。玉座の前まで来ると、横に立っていた黒髪と薄黄色の瞳にモノクルをして執事服を着た魔族が黒のローブを差し出した。

シンプルな装いの上から銀糸で刺繍の施された黒のローブを着たエルは、魔族と悪魔を従えこちらを向く。


「では、改めて。はじめまして、今代の勇者ご一行。私が第10代目の魔王、エルデロ・マルクリアです。」


エル…もといエルデロは、先程までと同じ優しげな微笑みでそう挨拶をした。


完全に趣味で書いてるので投稿ペースはかなり遅いと思います。

気長に待っていただければ幸いです。

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