単調勇者
「ファイアフレイム!」
私が召喚した勇者はずっとその技を使っている。
しかも、レベルが1の時からずっとだ。
その技は彼を召喚した際に私が与えたものだ。確かに強くはあるがそれは序盤の冒険を楽にする程度のもので、中盤以降は新たに覚えた技の方がよっぽど強い。
にも関わらず彼はその技を使い続けていた。
「ファイアフレイム! ファイアフレイム!」
敵が誰であろうがお構いなし、弱点属性も考えないから敵が火の魔物であってもひたすらに使い続ける。お陰でその戦いは悲惨な泥仕合と化す。
それもあってかそれほど難易度の高くないこの世界で予想以上の時間を食っていた。
「食らえ、我が究極の奥義。ファイアフレイム!」
序盤用のスキルという事で私の方も油断していた。そのネーミングも適当でファイア(火)にフレイム(炎)という単語を足しただけの、よく考えると何の技なのか分からないような代物だ。
そんなものをいつまでも使い続けられると思っていなかったから少しばかり恥ずかしい。いや、恥を通り越してそろそろ腹立たしい。
「なぁ勇者さん。もっと強い技を覚えただろ? それ使おうよ」
「ファイアフレイム!」
そうだ、その単細胞に言ってやってくれ。
「ねー、あんたそれしか言えないの?」
「ファイアフレイム!」
回復は常に薬草を使うしレベルを上げるのは最初の城の周辺だ。
同じ事をひたすら繰り返す。私が選んだ勇者はそういう奴だった。
「ファイアフレイム!」
これではさすがに埒が飽かない。これはもう私自身が乗り込んで勇者にガツンと言ってやらねばならないだろう。
そこで私はコッソリと天界を降り、人の姿を借りて勇者の元へと急いだのだ──。
見つけるのは簡単だった、勇者はいつも通り炎のモンスター相手に手こずっていたのだ。
「ファイアフレイム! ファイアフレイム!」
相変わらずの単細胞っぷりだ。
「勇者さん、いい加減に別の技も使ってくれ」
「そうよそうよー」
よし、ここで私が強く言えばさすがの勇者も考えを改めるだろう。
「嫌だ! だってこの技は神様から貰ったもの、絶対に敗れるはずがないんだ!」
「……ほう」
呆れる仲間を前に勇者は懸命に技を奮って行く。
「ファイアフレイム! この技は破れはしない。絶対に、絶対にだ!」
「……」
別に勇者の熱意に押されたとか、一途な気持ちが嬉しかったとか、そういうのではない。
だが、この勇者をもう少しだけ見守っていようと思った。
ファイアフレイム。
うん、悪い響きではない。