0.夢は叶うって本当だったんだ!
主人公視点。愚痴ってるだけ。因みに筆者は愚痴ばかり言う輩は基本的に嫌いです。
今までで一番仲のいい友達との会話は、大体が「死にたいな」。思った事を素直に言える友達だ。そいつの方が俺よりも多く死にたいなと言っていて、俺はその横で生きてたっていい事ないよなって呟いていた。多分俺もそいつもお互い会話してるつもりなんてなかったんだろう。お互いがお互い違う嫌なことだらけの毎日で、悲しみを分かち合って励まし合うなんて事もしていなくて、ただ嫌な事を嫌だと呟きあっているだけの友達だった。そいつが嫌な事があったというと、俺なんかもっと嫌な事があったぞと張り合った。そいつにだけは負けたくなかった。お前より俺の方が悲惨だぞって言う時だけ俺の口はペラペラ回ったし声も少し大きくなった。言い返すとそいつは、「そっかぁ…」と何も言わなくなるので、よし勝ったぞ。と。そう思った。
そんなそいつに負けたのは高二の二学期。始まった初日、夏休み明けの怠い日に教室に行くと、そいつの席はがらんと空いていて、時間が経っても来やしなくて、結局その日は来ず、次の日も、それからもずっと来なくて、行方不明だって話で。
ああ、負けたなって思った。きっとそいつは俺よりもかわいそうで、辛くて、どっかに行ってしまったんだなって。逃げ出せるくらいに、生きていたくなくなったんだろうって。
俺の暮らしで唯一勝てた奴が消えたために、俺はそれから、惨めしかない高校生活を送ることになる。なんでそいつが消えたのか、正直わからない。そいつは頭が良かった筈だし、見た目も悪くなかった筈だし、学校にも居場所があった筈だし、それくらいしか知らない奴だったけど、どうしてだったのか。後は校舎の屋上を死に場所にしようとしていたのが俺と一緒だったって事くらいしか知らない。俺と同じだったのは多分それだけだった。そいつのぼやきなんて大抵憶えていなかったから。
ああでも、これは覚えてる。空を見て、空の向こうに行けたらいいのにって言ってた。俺も並んで、どっか違う世界にでも行けたらいいのになって返した。その時だけそいつは笑ってたような気がする。それも一緒だったな。そいつは、空の向こうの世界ってのに、行けたんだろうか。
「俺も連れて行ってくんねーかなぁ」
異世界。ここじゃない世界。転生とか。俺が俺のまんま俺じゃなくなれる世界。こんなに辛い思いして生きてきたんだぞ。報われたっていいだろ。なんでもできて、かわいい女子といちゃつけて、持て囃されて、なんもしないでも生きていきてぇよ。宿題だってしたくないし親の声も聞きたくないし運動だってしたくないし。進路希望、なんて考えたくもない。高校三年生に無事になってしまった俺に降りかかってきた次の嫌な事。勇者様になって嫌いな奴ぶっ殺して生きていきたいです!って、どうよ。かわいい女子連れて旅に出て、モテモテになりたい。そうやって書いてやった。虚しくなって結局消した。薄くしか書かなかったから綺麗さっぱり消えた。馬鹿じゃないからな。
親が飯だってうるさい声で呼んでくる。キーキーうるさいデブ。どうせ不味い飯食わされるんだ。腹が立つ声に舌打ちして、部屋のドアを開けた。あれ、廊下ってこんなに暗かったっk
暗闇に引きずり込まれた俺は、もしかしてこれは異世界転移って奴なんじゃねぇのって思って、ひたすら頭を回した。行きたい、強くなりたい、かっこよくなりたい、理想の世界、強くてニューゲーム!!!躊躇いなんてなかった!俺は、選ばれたんだ!!!必死に手を伸ばした。夢を掴んだ!勝った!俺は勝った!消えたあいつにも!今まで俺を馬鹿にしてきた奴らにも!!俺は、勝ったんだ!!!
俺の第二の人生が、始まるんだ!!!!
心から同情している。