第3話
小高い丘を登って行く。
足取りは軽い。
石造りの壁で囲まれた街が見えてきた。
「着いたぞタツオ。あれがオレらの今後の拠点となる街、カランドだ」
小高い丘より眼下に広がる街の風景。まあまあデカい…のか?他を知らないから何とも言えないとこだが。
ヨーロッパ的な感じ?あまり海外に興味がなかったから気にした事すらなかったけど、雰囲気はある感じだ。
街の規模的には、各駅停車が止まる町って感じかねぇ。
何駅かしたら山手線に着くような感じか。
「エリオ、なかなか良さそうな雰囲気だな、あまり田舎すぎてもいないし、適度に人もいそうだから、俺もそこまで目立たなさそうだし」
なんだか普通に友達感覚でエリオと話せている。
エリオの懐の深さ?っていうのか、自然体な感じがそう感じさせているのかも知れないけど。
「だろ?オレも流れてきたのは2カ月ほど前くらいだが、結構気に入っていてな。飯もなかなかイケるんだよコレが」
飯が美味い…、素晴らしいじゃないか。
一応、学生時代には飲食の端くれとしてやってた俺にしてみたら、どんな味を出してくれるんだ?的なワクワク感もある。
「ますます素晴らしいね。それで、着いたら飯屋直行って感じか?」
そう俺はエリオに尋ねた。
丁度、なかなかしっかりとした石造りの門構えまで来たところだった。
「オウ、今日はまず出会いを祝って飯としようか。とりあえず細かい事は飯を食べながらでも話す。」
ふむふむ
「で、昼くらいかな、明日はギルドに登録し、四元教会へ行く。ここでタツオの魔法適正と資質を観る、という感じだな」
来た!魔法!!使えるんすか俺が?
「ま、あまり難しく考えなくていいぞタツオ。今日はこの世界の雰囲気に馴染め。これから楽しくやる為にもな」
そうやって軽く笑ったエリオ。
しかし、本当にいい奴だな。こんな奴これまで周りに誰も居なかったよ。
捨てる神あれば、拾う神有り、か。
俺たちはそのままエリオ行きつけの酒場へ行った。
こじんまりとした、なかなか落ち着いた店内だ。
店員さんも愛想が良い。
「さすがに今の時間は空いてるな。タツオ、とりあえず壁際に座って乾杯と洒落込もうか。料理は…、まあ適当に持ってきて貰おう」
そうだな、何となく壁際のがいいよな。実際余所者だし、店内を見渡せるポジションは取っておきたいとこだ。
「了解だ。もう、喉が渇いて渇いて」
それを見たエリオは店員さんに駆け付け二杯のとりあえずビールを注文し、席に着いた。
間髪入れずに運ばれてきたビール、素晴らしいサービス精神だ。
そこにはダルそうな返事もなければ、とりあえずビールを何故かしばらく待たされる大手チェーン店のような不快さもない。
「じゃ、タツオ!とりあえず乾杯!」
「乾杯〜!」
木製のジョッキが心地良い音を奏でる。
まるで二人の出会いに優しく寄り添うかのようだ。
あー、世界がひっくり返る程に美味い。
普段飲んでいたビールとどう違うかはわからないが、色々な経験やら何やら全てが、この一口で全て昇華したかのようだ。
そうこうしてるうちに、おつまみから運ばれてくる。
粗塩を振った茹でたての枝豆に、燻製した肉、これはピクルス的な漬け物だろうか?どれも美味しそうだ。
エリオは俺の様子を微笑みを浮かべながら眺めている。
「口にあったみたいだな、良かったよ」
「エリオ、何というか、生き返った感があるよ」
エリオは大笑いし、
「タツオ、今日は朝まで行くぞ」
悪戯っ子っぽく俺に言った。
「望むところよ」
よーしよしよしと満面の笑みのエリオ。
俺も始まりからこんな楽しそうと感じる飲み会は記憶にない。
今日は朝までエリオと飲み明かそう。
色々な話をしたい、聞きたい。
夜の帳が落ちるカランドの街、その片隅にある酒場で、異世界から来た俺と、この世界の住人のエリオが、新しい縁を灯す。
夜はまだ始まったばかりだ。
俺たちはまるで数年来の友人だったかのように、杯を交わし、会話を楽しむ。
ずっと続けばいい、そう思った。