↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染が俺の妄想だったはずがない  作者: 環 理生(くるくる)
五章 籠鳥雪日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/251

17話 『雪の日に 五』



「アルっ! 会いたかったわ!」


 深紅の鎧は朧(おぼろ)になって、見る間に同じ色の髪の毛に置き換わる。


 揺れる髪の毛に目を奪われていると、柔らかな感触が俺を包み込んだ。


 ギュッと強く……けれど、力加減という物をようやく覚えたようだった。


 痛くはない。


 普通の女の子が、普通に力一杯抱き着いてるくらいの力だった。


 俺の胸元にグリグリと頭を擦り付けていた少女は、パッと顔を上げた。


 ものすごく嬉しそうに、ニッコリと笑顔を向けてくる。


「サラ――」


 名前を呼びながら、深紅の髪の毛を右手で摘まんだ。


「髪、伸びたな」


 最後に会った時、マエノルキアから帰ってきた直後よりも、サラの髪の毛は伸びていた。髪の毛の先端が、ちょうど肩口をくすぐっている。


 それ以外は……まあ、一年やそこらでは、大きく顔が変わっていたりはしないけど……髪の長さが違うだけで、女の子っぽく見える。


「うんっ、伸ばしたの!」


「へぇー、そうなのか」


「どう? カッコいい?」


 コテンと、サラは首を傾げた。


 ……カッコいい? 格好良い……の、かな?


 まあ、似合ってはいるが。


「ああ、格好良いぞー」


 適当に返しながら、ワシャワシャとサラの頭を撫でる。


 サラの嬉しそうな顔を視界の端に捉えながら、俺は群衆に目を向けていた。


 未だ、混乱の只中に有る。


 所々に赤色――血の色が見える。


 怪我人や、あるいはそれ以上の人も、少なくない数出ているようだ。


 自然に混乱が収まるのを待っていたら、どれくらいの被害が出るか見当も付かない。


 群衆を、碧色の霧で包み込む。


 濃度は最小で良い。ただ……できるだけ広い範囲に、薄く、大きく広げる。


 ――放電。


 バタリと、走り回っていた人の、半分以上が地面に倒れた。これでだいぶ人口密度が下がる。応じて、混乱の熱気も弱くなったのを感じた。


「これ……」


 目の前から、短く聞こえた。


 頭を撫でるのを止めると、サラは周囲に目を向けた。


「……どうしたの?」


「ああ、さっきまであそこに、真っ黒な箱があっただろ?」


 リボンの少女が倒れている辺りを指差す。


「そうなの?」


「さっきまで、サラが入ってた箱だけど……」


 困惑しながら言うと、サラは不満そうな表情を浮かべた。


「ワタシがいたのは、箱の中じゃなくて、ヘンな場所だったわ!」


「変な場――」


「まあ、いいわ! それで、黒い箱がどうしたの?」


 サラが言っていた『変な場所』っていうのも気になるが……。


「黒い箱があったわけだけど……それが突然砕けたもんだから、みんな慌てちゃってな」


 俺が言うと、サラは無言になって、もう一度周囲に目を向けた。


「ワタシが、その黒い箱? っていうのから出てきたのよね?」


「ああ、そうだけど……」


「それで、黒い箱がこわれて……いま、こうなってるの?」


「うん、まあ……そうだな」


 もう一度サラは押し黙ってから、数秒後に口を開いた。


「じゃあ……これって、ワタシのせい?」


 サラは俺に顔を向けることなく、ニコリともしていない真面目な表情を浮かべていた。


 サラの視線の先には、血塗れの女性が一人倒れていた。


 身体中に足跡が付いていて、茶色と赤色の斑(まだら)に染まっている。後頭部が変な形に凹んでいて、その部分の髪の毛がテラテラと滑っていた。


「……いや、サラのせいじゃないと思うけど。というか、そもそもあの黒い箱を作ったのって、サラなのか?」


「んーん、分かんない。でも、ワタシは何もしてないから……たぶん、あの白いのがやったんだと思う」


 言いながら、サラはリボンの少女を指差した。


「だとしたら、なおさらサラは何も悪くないだろ? そもそもが誰のせいでもないし……強いて言うなら、原因を作ったあの子が悪いと思うけど……」


 思ったことを素直に言うと、かなり長い間隔の後に、サラは「そう」と短く返した。


 俺に背を向けて……さっき、サラが見ていた女性の死体へと歩いていく。


 すぐ傍まで辿り着いたサラは膝を曲げて、女性の乱れている髪の毛を、手櫛(てぐし)で直し始めた。


 サラの手のひらが深紅に染まっていく。けれど、そんなことには構わず、優しい手付きで女性の髪を撫でつけていた。


 手を何度か動かしてから、サラはゆっくりと立ち上がった。


 振り返って、俺の方を見てくる。


「アル、これからどうすればいいの?」


「……どうすれば、って。そもそも、サラは何でセイレーン領に来たんだ?」


「セイレーン領って、ここのこと?」


 俺は無言で頷いた。


「セージョさまに言われたから。あばれてる人たちがいるから、近くに行くなら、ついでに大人しくさせてきてほしいって」


「近く?」


 サラはうんっ、と頷いた。


「ホントはアルに会いに行きたかったんだけど、任務中だからジャマしちゃダメって、イプシロンに言われたの。

 だから、代わりにアルのパパに会ってみようかなって思って、エンリ村に行きたいって言ったの。

 そしたら、すぐ近くにあばれてる人たちがいるからって」


 ……要は、セイレーン領の乱を鎮圧しに来たわけだな。


「そういうことなら」


 周囲の様子を確認する。


 かなりの数の人が俺の電気によって気絶していて、地面に倒れている。


 中には、怪我人や死んでるっぽい人も幾らか含まれているが……まあ、許容範囲内だろう。


 普通に乱を鎮圧したなら、もっと死人が出ただろうし……これくらいなら、魔物発生の温床になる事は無いだろうしな。


「じゃあ、この場にいる人たちから、武器になりそうな物を集めててくれ。剣だけじゃなくて、鋤(すき)とか鍬(くわ)とか、とにかく人を傷つけられる物。

 で、縄とかで縛る必要は無いけど、この場にいる全員を、一ヶ所に集めさせる事はできるか?」


「みんな?」


「ああ、そうだな。全員だ。誰が反乱を起こした側で、誰がそれに抵抗した側か、分からないから。とにかく、サラは深く考えずに、全員から武器を奪って、全員を大人しくさせといてくれ」


「分かったわ!」


 元気のいいサラの返事を聞いた所で……すぐ近くの地面に貫入している男に目を向ける。


 他にも、もう少し離れた場所に倒れている男と、遠くに転がっている男を見る。


 どいつも、パッと見は普通の村人だ。服装は装飾なんてない簡素な物。


 ……だけど、さっきの動きは完全に常人ではなかった。


 それに、よく見ると、顔立ちが見慣れている物と違う。前世ほどはっきりした違いではないけど……微妙に平べったくて、東洋の印象を受ける。


「それと、サラ……さっき俺に襲い掛かってきた奴ら、見覚えあるか?」


 サラは首を傾げて、近くの地面に埋まっている男に目を向けた。


「んーん、知らない。アルの知ってる人?」


「いや、俺も知らない。少なくとも、マトモな奴らじゃないから、こいつらだけは逃がさないように、よく様子を見ててくれないか?」


「うんっ、分かった!」


「じゃ、頼んだ」


 それだけ言い残して、俺はその場から離れようとした。


 数歩進んだところで、後ろから左の手首を掴まれる。


「アルはどこ行くの?」


「……ちょっと、用事があってな。急いでるから」


 言っても、サラが俺の手を握る力は弱まらない。


 しょうがないので振り返って、サラの深紅の瞳を覗き込む。


 同時、サラは俺をジッと見つめ返しながら、口を開いた。


「それは、あぶないこと?」


「……いや、危なくはないけど」


 また、「ワタシも行くわ!」ってパターンかと思っていると、サラは案外と素直に手を離した。


「なら、いいわ! ワタシは、ここでアルに言われたことをやっておくから」


 言って、さっさと俺から離れてしまった。


 早速、俺の後方に倒れている父上の手から、剣を奪い取っている。


 何となくモニョッとしつつ……俺は、再び歩き出した。


 目指すは、領主の館。


 ミーシャさんがいるはずの場所だ。



 ――



 館は、広場からそれほど離れていなかった。


 セイレーン領に来るまでに恐れていた、館が炎上している、なんて光景を目にすることもなく、そこには……通常営業の領主の館が立っていた。


 門扉はキッチリと閉ざされているが、緊迫した空気は無い。


 警備の兵士が二人、扉の両脇に立っているだけだ。


 この様子だけを見れば、この街で反乱なんて起こっているようには見えない。ただ……館を取り囲む壁、その内側のどこかから、真っ赤な狼煙(のろし)が上がっている。


 困惑しながら、門扉を警備する兵士に話しかけると……簡単に中に入れてもらうことができた。領主の元まで案内してくれるという兵士の後ろを付いていきながら、辺りの様子を確認する。


 控えめな庭の中央では、狼煙を焚いていた。そこから、真っ赤な煙が立ち昇っている。火を管理する老兵士が、一人佇(たたず)んでいる。


 短い庭を抜けると、すぐに館に辿り着いた。


 城というよりも、デッカイ邸宅といった趣だ。王都の貴族街に立ち並んでいるのと、同じくらいの大きさの館。館の入り口にも警備の兵士が立っていて、そいつらが扉を開けてくれた。


 館の中は暗かった。


 どうやら、多少暗くても昼間は灯りを付けないらしい。等間隔に灯筒(とうつつ)は並んでいるが、光を灯してはいなかった。


 空は分厚い雲に覆われていて、日光はほとんど差していない。屋外でもちょっと暗いのに、館の中はなおさらだった。


 どこか空気も淀んでいるようで、陰鬱な気分になってくる。


 兵士に付いて階段に上がり、五階。


 外から見た感じだと、館の最上階。その一番奥の部屋、扉の前に俺と兵士は辿り着いた。


 兵士は扉をノックした。


「ペンネ様、聖官様がいらっしゃいました」


 少し間を置いて、「入って下さい」と返ってきた。


 その声を聞いた兵士は俺の目を見て、どうぞ、と扉を示してきた。


 ドアノブを握って、内開きの扉を押す。


 部屋の中に入る際には、一応の礼儀として頭を軽く下げる。顔を上げると……室内には三人の姿があった。


 部屋の奥、机の正面には男。目が細い。狐のような顔には、薄っすらと笑顔が張り付いている。


 おそらく、これが領主だろう。ペンネ・セイレーン子爵。年齢は分かりづらいが、二十代だと思う。男の両脇には、二人の女性が座っている。


 右隣りには、おっとりとした顔の女性。


 左隣りには、ツリ目の女性。


 そこまで観察した所で、子爵が立ち上がった。少し遅れて、両隣の女性も立ち上がる。


 子爵は前方に手を伸ばして、顔面の笑顔をより深めながら言った。


「聖官様、よくぞいらっしゃいました。とりあえず、そちらの椅子へ。どうぞお座り下さい」


 子爵が手で示した先には、一脚の椅子が置いてあった。


 子爵とは、ちょうど対面するような位置。


 粗末な物ではない。見るに、宝石なんかも嵌(は)め込んであって、そこそこ値は張りそうだ。少なくとも、子爵が今座っている椅子よりは高価な物だろう。


 そんな椅子が、一脚だけポツンと置いてあった。


 そこはかとない違和感を覚えつつ、俺はひとまず椅子に腰を下ろした。


 それを待って、子爵とその両脇の女性も、自分の椅子に座る。


 早速、本題を切り出す。さっさと陛下の元に戻らないといけないのだ。のんびりしている暇は無い。


「セイレーン領で反乱が起こったと聞き、来たのですが。今どんな状態なのか、説明していただいてもよいですか?」


「聖官様、そう慌てないでください。時間は、たっぷりあるのですから――」


 キラリと、何かが光った。


「ミーシャを殺されたくなければ、私の言うことを聞いて下さいますか?」


 子爵は、ミーシャさんの首元に、小さなナイフを突き付けていた。



 ○○○

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。