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09話 『ジャニマ盗賊団 前編』



 青ゴーレム……ということは、次の敵は防御型のようだ。血色の岩肌の表面に青結界の鎧をまとっていて、大抵の攻撃は通らない。


 他にも、様々な青結界製の武器を射出する攻撃型や、青結界製の剣と盾を両手に持つバランス型なんかもいる。


 二十四区において一番厄介なのは防御型なので……運が悪い。


 目測で百メートル以上遠くの高台にいた青ゴーレムは、次の瞬間には消滅した。


 後ろを振り返らずとも、青ゴーレムの細かな動きの全てが、手に取るように分かる。


 狙いは俺の右足。中々に玄人好みの選択だ。さっき生まれたばかりだというのに、この経験はどこから得てるんだろうか?


 普通に避けたら間に合わないので、太腿の筋肉に電気を流し強制的に回避する。


 幾らかの筋繊維が焼き切れたが、動きに影響が出るほどではない。


 最低限の魔素を配分して治癒を開始しながら、残りほとんどの魔素は攻撃に回す。


 俺の右手に握られている愛剣には、刃の部分が付いていない。


 魔素を操作すると、周辺に霧状になって漂っていた刃は、根本の部分から元の形を取り戻していく。


 ただ、ちょっとした工夫を一つ。


 完全に元の剣の形に戻すのは、刃の中心部だけ。


 刃の周辺部は、細かな砂くらいの大きさの粒子に戻すに留めておく。


 電気を、剣へと流す。


 すると、剣の粒子は、俺でも認識できないほどの速度で運動を始めた。


 キーンと、黒板を爪で引っ掻いたかのような、不快な音が発生する。


 ……しょうがないとは分かってるが、この音を毎度聞かないといけないのが嫌なんだよな。


 青ゴーレム以外だったら必ず弱い部分があるから、こんなことをしなくても倒せる。


 けど、青ゴーレムを倒す時だけは、この音に耐えないといけない。だからこそ……一番厄介(やっかい)だ。


 振り向きざまに、剣を()ぐ。


 大して、力は入れてない。


 青ゴーレムは、腹の辺りで真っ二つに切断された。


 同時、青ゴーレムは動きを停止する。


 俺としては横一文字に切断したつもりだったのだが、ちょっと角度がズレたらしい。左下方から右上方に線が引かれている。


 まず、ガラスが砕けるようにして、切り傷から一気に青鎧が割れ去った。


 青鎧の下からは、血色の、ゴーレムの本体が露出する。


 青鎧に支えられていたのだろう。支えを失ったゴーレムの上半身は、斜めの切り口に沿って、落下を始める。


 最初はじれったくなるほどにゆっくりと、速度が乗ってしまえばあっという間に、ゴーレムの上半身は同色の荒野に落下した。


 数えきれないほどの、赤い欠片へと分裂した。


 俺が剣を体内にスッカリと格納してから、さらに数秒経って。


 生命力の失われたゴーレムの下半身も荒野に倒れた。


 ……さてと。確か、これで百体目だったはずだ。つまり、今日のノルマは終了。


 頭上を見ると、太陽はど真ん中からちょっとだけ傾いたころだった。


 大体、午後の一刻頃か? ……さっさと帰って本でも読もう。夕方まで眠っているマオさんの代わりに、ちょっとばかり畑仕事をやってもいい。


 荒野を走って、転移用の青球を目指す。


 走っている間は暇なので、思考はフワフワと過去へと流れていった。


 日が暮れる前にノルマを達成できるようになったのは、いつだっただろうか?


 ゴーレムの自然発生を待ってたら(らち)が明かないから、二十四区内を走り回ってゴーレムを探すようになるなんて、ここにやってきた当初は考えてもみなかった。


 思えば、既に季節は秋。中央教会にやって来てから、約一年が過ぎた。


 まあ、荒野も中央教会内も景色は変わらないから、季節感には乏しい。


 でも、確かに暦上は十一月だし、肌を撫でる風も冷たい――


 そんなことを考えていると、俺の頭に突然、思考が差し込まれた。


 『任務。詳細はクルーエル聖官から説明を聞くこと。至急、大聖石の間に来なさい』



 ○○○



 中央教会からジャニマ教会に転移した俺と師匠は、側頭部だけに頭髪の残る、枯れ枝のような老神官に連れられて、応接間に通されていた。


 応接間って言うものはどの建物でも似た感じになるらしく、壁には絵画が掛かっていて、ソファーと机が部屋の中央に置かれている。


 ただ、やっぱりちょっとした違いはあって、部屋の隅に置かれている壺は、あまり馴染みの無い異国情緒漂うものだった。


 赤と青の、細かなシマシマの彩色が壺全体に施されているが……これは趣味が悪いんじゃないだろうか?

 

「失礼します」


 頭を下げながら部屋に入ってきたのは、紫髪をポニーテールにまとめた少女だった。


 両手には、細長く円筒状に巻かれた紙を抱えている。


 年の頃は俺と同じくらいに見える。少女が身に着けているのは……青ローブ。肩には銀三環。神官だ。


 少女はそのまま部屋の中央にまで入ってきて、そこに置かれている机に巻紙を広げた。


 懐から金属製の重しを四つ取り出し、一辺一メートルほどの巨大な地図の四隅に重しを置いている。


 そこまで終えた少女は、頭を下げて部屋から退出しようとした。


「待ちなさい」


 老神官の声に少女は足を止めた。老神官は唇の皺を歪ませながら、師匠に愛想笑いを向けている。


「いい経験になると思いますから、この神官も同席させてよろしいでしょうか?」


「構いませんよ」


「おお、聖官様、ありがとうございます。さぁファティマ、座りなさい」


 老神官が隣のソファーをポンポンと手のひらで叩くと、ファティマ神官はおずおずといった様子で腰を下ろした。それを待って、師匠が口を開く。


「まずは状況の確認を。私に下った指令では、ジャニマから共和国へとの街道上に盗賊団が住み着いたとのことですが……具体的な位置や、盗賊団の規模などは判明しているのでしょうか?」


「はい。すでに調査は終えております。ここ――」


 老神官は地図の一点に節だった指を立てている。


 前世で言ったら中東、イラクかイランの辺りだろうか。今世でそこはジャニマ――帝国傘下国が支配する領域だ。


 老神官のやや擦れた声が応接間に響く。


「ジャニマから東へ約百キル――」


 老神官の指が地図上に引かれた線に沿って滑る。


「街道に沿って共和国側に向かった辺りに、盗賊団の本拠地があります。

 ちょうどこの周辺の街道沿いには、百年ほど前に廃坑となった鉱山跡があり、どうやらそこで寝泊まりしているようです」


 ここまで言って、老神官は隣に座るファティマ神官へと目を向けた。


「ファティマ、盗賊団の規模はどれくらいでしたか?」


「は、はいっ! えっと……確か、二百から二百五十です。

 これは戦闘能力を持つ成人以上の団員の数で、子供や老人を含めたら、さらに倍ほどの数になるかと思います」


 顔をちょっと赤らめながらのファティマ神官の答えに、師匠は小さく「ふむ」と呟いた。


「ではアル殿。細かなことは構いません。ここまでの情報から、大まかな作戦を立ててみてください」


 師匠はよく、こうやって俺に質問をしてくる。考える力を育てるためだろう。


 一年間、繰り返し訓練してきたおかげで、俺の頭は聞かれるまでもなく情報の処理を開始していた。


「……まず、盗賊団の規模が四、五百となると、その場で皆殺しにしてしまうと、魔物発生の温床になってしまう可能性があります。

 ということは……大部分は殺さずに生け捕りにする必要がありますね。生け捕りとなると……あまりノンビリと行動していたら取り逃す可能性が高まります。

 そうなると後々面倒なので、できる限り短時間に全員を拘束することが理想です」


 師匠は俺の答えに頷くと、老神官へと目を向けた。


「というわけで、昏倒した数百人の盗賊を拘束し、炭鉱跡からジャニマに運ぶ必要があります。縄と荷車の手配をお願いしていいですか?」


「承知しました」


 頭を下げた老神官は……顔を上げると、隣に座るファティマ神官の頭に手のひらを置いた。


「これはファティマと言います。つい先日神官に任じられたばかりで、未熟ではありますが、それなりに見所があると思っています。

 差し出がましいお願いだと分かっていますが、聖官様たちに同行させてやってはもらえないでしょうか?」


「……そちらの神官をですか?」


 師匠はチラリとファティマ神官の顔を見た。


「邪魔になるので、それはできません」


 ファティマ神官は恥ずかしそうに頬を染めた。顔を伏せている。


 ……いつものことだけど、師匠は言葉に遠慮がないな。


 けれど、老神官は師匠の言葉にめげなかった。ぎごちない愛想笑いを浮かべながら、身を乗り出している。


「『能力』も役に立つかと――」


「必要ありません。資材の手配のみをお願いします」


「……盗賊団に潜入し、情報を集めたのはファティマです。巡回時間や地理など、もっと詳しい情報は必要ありませんか?」



 ――



 教会から外に出ると、乾燥した風が肌の水分を奪っていった。


 街は茶色い。色彩がほとんどなく、立ち並ぶ建物も道も、全てが同じような土色をしている。


 色を持つのは、ついさっき俺が出てきた教会の白と、空の青、人々が身にまとう服くらいだ。


 道行く人々は独特な服装をしていた。巨大な布を体に巻きつけるようにしている。


 それだけを見ればイスラム教徒の女性に似ているが、受ける印象は全然違う。


 布は黒一色ではなく、それどころか目がチカチカするほどカラフルだ。


 黄色と黒のシマシマとか、赤の地に白い水玉とか……これがジャニマにおけるスタンダードなんだろう。


「東、となるとこっちですかね」


 太陽の方向を確認してから、師匠は大通りを左に歩き出した。俺もそれに続こうとすると、ファティマ神官があわあわとした様子で言った。


「あっ、あのっ、聖官様!!」


 道行く人の幾人かがこちらに目を向けてくる。ファティマ神官は恥ずかしそうに頬を染めながら、大通りの右側を指差した。


「む、向こう側に、教会管理の馬小屋がありますから、先にそっちに行った方がいいかと思って……」


 俺と師匠は顔を見合わせた。


「百キルくらいなら走った方が早いので、馬は――」


 あっ、そうか。俺と師匠だけなら走って二、三刻で着くが、この子も同行するんだった。


 たしか……まだ新任の神官って言ってたし、走れっていうのは無理があるか。


「師匠、この子を連れて行くんだったら、この子用の馬がいりませんか?」


「……私としてはできる限り身軽に行動したいですね。

 目的地が分かっているなら街道に沿って行くよりも直線的に移動した方が楽ですが、馬がいると難しくなってしまいます」


「たしかに……」


 俺と師匠が視線を向けると、ファティマ神官はあわあわと両手を胸元で振った。


「あっ、あのっ、ご迷惑でしたら、私のことは置いていってもらったら……」


「いえ、面倒ですがあなたも連れて行きます。多少の役には立つかもしれませんしね」


 ファティマ神官は微妙な顔をしている。


「そういうことなら――」


 俺は敢えて大きな声を出しながら、ファティマ神官に笑顔を向けた。


「ファティマ神官、馬小屋まで案内していただけますか?」


「え、あ……はい。こちらです」


 ファティマ神官と並んで、大通りを右に向かおうとすると、師匠が不思議そうな声で言った。


「二人とも、どこへ行くのですか?」



 ――



「……そ、それでは、お願いします」


 少女のか細い声が後ろから聞こえた。


 俺が何も言わずに腰を落とすと……おずおずといった様子で、首に細い腕が回された。


 背中に柔らかい二つの感触。


 それが何かをできるだけ意識しないようにしても……俺の背中に体重がかかるに従って、柔らかいものが変形するのを感じてしまう。


 ……続いて、少女の両太腿を持ち上げる。張りのある肌に俺の腕が僅かに食い込んで、程よい重さが腕に生まれる。


 同時、ちょっと照れたような声が聞こえた。


「あっ、あのっ……重たくないですか?」


「全然重くないですよ」


「……そう、ですか」


 俺はファティマ神官をおんぶしたまま、師匠の傍まで向かった。


「走るのに支障は無さそうですか?」


「はい、問題無いです」


 実際は、人ってそこそこ重たい。


 まあ、せいぜい四、五十キルだから大した負荷でもないが、やっぱり普段と感覚は違う。


 それ以上に、両手を後ろに回した状態っていうのはかなり動きづらい。


 しかし、俺の身体には力が満ち溢れていた。


「それでは、行きましょう!」



 ○○○

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